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酒田市の「横断歩道追い抜き事故」は、執行猶予がつかず実刑判決に。

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何度か取り上げた酒田市で起きた「横断歩道追い抜き事故」。
警察は危険運転致傷で書類送検したものの、被疑者が被害者の存在を認識していたことの立証が困難として過失運転致傷で起訴されてましたが、山形地裁酒田支部は拘禁刑3年6ヶ月の実刑判決とした。

「被害者に生じた結果は死亡にも匹敵」と裁判官 女子中学生がはねられ意識不明となった酒田市亀ヶ崎の事故 "停車していた車を追い越し" はねた62歳男に実刑判決(山形) | TBS NEWS DIG
8月28日、山形県酒田市で痛ましい交通事故が起きました。中学3年生の女子生徒が、横断歩道を渡っている途中に車にはねられ意識不明の重体に。女子生徒は事故当時、下校中でした。そして、事故から3か月が経過…

被害者が死亡に至ってない事案、かつ無免許や酒気帯び運転などがない事案としては執行猶予がつかないのは珍しい。
反省を示してないわけでもないし、実質的には危険運転相当の悪質性と評価したのだと言えるかと。

 

そもそもこの事案は、道路交通法でいうと38条2項のケース。
38条2項が新設されたときの警察庁の解説はこちら。

しかしながら、横断歩道において事故にあう歩行者は、跡を絶たず、これらの交通事故の中には、車両が横断歩道附近で停止中または進行中の前車の側方を通過してその前方に出たため、前車の陰になっていた歩行者の発見が遅れて起こしたものが少なからず見受けられた。今回の改正は、このような交通事故を防止し、横断歩道における歩行者の保護を一そう徹底しようとしたものである。

まず、第38条第2項は、「車両等は、交通整理の行なわれていない横断歩道の直前で停止している車両等がある場合において、当該停止している車両等の側方を通過してその前方に出ようとするときは、当該横断歩道の直前で一時停止しなければならない」こととしている。

もともと横断歩道の手前の側端から前に5m以内の部分においては、法令の規定もしくは警察官の命令により、または危険を防止するために一時停止する場合のほかは停止および駐車が禁止されている(第44条第3号)のであるから、交通整理の行われていない横断歩道の直前で車両等が停止しているのは、通常の場合は、第38条第1項の規定により歩行者の通行を妨げないようにするため一時停止しているものと考えてしかるべきである。したがって、このような場合には、後方から来る車両等は、たとえ歩行者が見えなくとも注意して進行するのが当然であると考えられるにかかわらず、現実には、歩行者を横断させるため横断歩道の直前で停止している車両等の側方を通過してその前方に出たため、その歩行者に衝突するという交通事故を起こす車両が少なくなかったのである。
そこで、今回の改正では、第38条第2項の規定を設けて、交通整理の行われていない横断歩道の直前で停止している車両等の側方を通過してその前方に出ようとする車両等は、横断歩道を通行し、または通行しようとしている歩行者の存在を認識していない場合であっても、必ずその横断歩道の直前で一時停止しなければならないこととし、歩行者の有無を確認させることにしたのである。車両等が最初から歩行者の存在を認識している場合には、今回の改正によるこの規定をまつまでもなく、第38条第1項の規定により一時停止しなければならないことになる。
「一時停止」するというのは、文字通り一時・停止することであって、前車が停止している間停止しなければならないというのではない。この一時停止は、歩行者の有無を確認するためのものであるから、この一時停止した後は、第38条第1項の規定により歩行者の通行を妨げないようにしなければならないことになる。また、一時停止した結果、歩行者の通行を妨げるおそれがないときは、そのまま進行してよいことになる。

警察学論集、「道路交通法の一部を改正する法律」、浅野信二郎(警察庁交通企画課)、立花書房、1967年12月

駐停車禁止区域に停止している車両なんだから、横断歩行者優先中だとわかるはずなのに、追い抜きする事故が多発したことから新設した規定。
警察は当初危険運転致傷で書類送検しましたが、

"女子生徒がいることを認識していた証明が難しい" なぜ "危険運転での起訴" を見送った? 酒田市の女性中学生がはねられ意識不明になった事故 はねた男を過失運転傷害の罪で起訴(山形) | 山形のニュース│TUYテレビユー山形
山形県酒田市で横断歩道を渡っていた中学3年生の女子生徒をはねたとして逮捕された男がおととい過失運転傷害の罪で起訴されました。山形地方検察庁はより罪の重い危険運転傷害の罪ではなく過失運転傷害の罪で起訴…

検察は危険運転致傷での起訴を断念して過失運転致傷で起訴しましたが、「男が女子生徒がいることを認識していたと証明することが難しいとの考えを示し」たことからもわかるように、危険運転致傷の中でも「通行妨害目的態様」を適用しようとしていたことになる(なぜなら被害者の存在の認識を要するとしたら、通行妨害目的態様以外に当てはまるものがない)。

 

危険運転致傷での起訴は断念したものの、悪質性が高い事案として山形地裁酒田支部は執行猶予を付さなかった様子。

 

ちなみにこの事故はいまだ被害者の意識は回復しておらず、全治不明という状態。
それに対し3年6月では短いのではないかという意見もあるでしょうが、現行法の枠組みと被害からみる量刑相場を考えると、裁判所は悪質性が高い事案として処理したことになる。

 

ところで、この事案に「通行妨害目的危険運転致傷罪」が適用できるかですが、通行妨害目的については未必的な認識で足りる(大阪高裁判決参照)にしても、その「対象(被害者)」の存在を認識していたかについては確定的認識が必要だと裁判所が捉えている様子(大分地裁判決参照)。

酒田市の事故は「危険運転致傷」ではなく「過失運転致傷」で起訴。
酒田市の「横断歩道手前の停止車両を追い抜きして」起こした事故。二週間経過していまだ被害者は意識不明らしいけど、検察官は危険運転致傷罪での起訴をせず、過失運転致傷罪で起訴したらしい。この件については、危険運転致傷罪の「通行妨害目的態様」(4号...

要するに「対象がもしかしたらいるかもしれない(対象の未必的認識)」+「通行妨害になるかもしれない(通行妨害意思の未必的認識)」だと、過失犯と故意犯の区別が困難になる。
ただまあ、こういう事故もYouTuberのオモチャにされてしまうのが悲しいところで、「危険運転で書類送検したのは警察のやってますアピールに過ぎないんです!当てはまるものはない!」なんて語る人すらいましたが、

 

単に勉強不足なだけなのよ…
ある点をクリアすれば危険運転致傷罪が成立しうるけど、裁判所はそれに近い悪質性を認めたというところか。

 

まあ、私もこの事案までは大阪高裁判決と大分地裁判決は「判断が割れた」と思ってましたが、よくよく考えるとビミョーに論点が違うのよね。

検察官は、本件道路は、対向右折車両が来ることが当然に想定される道路であること、時速約194.1kmという速度による走行は、当然に対向右折車両と衝突するか、衝突を免れるとすれば同車両に急な回避行動をとらせるほかない行為であること、そもそも被告人車両にとっては対向右折車両に気付くこと自体が困難であること、被告人がこれらの事情を認識していたことから、被告人には、対向右折車両等が存在した場合、同車両等の通行の妨害を来すのが確実であるとの認識があったといえ、このような認識がある場合にも「人又は車の通行を妨害する目的」があると認められる旨主張する。
しかし、検察官の主張は、通行妨害目的の対象車両の認識は未必的であってもよいことを前提としているが、同目的の要件は、客観面で通行を妨害する危険性が存在していることを前提とした上で、主観面で、そのような危険性の認識・認容を超えて、相手方の自由かつ安全な通行を妨げることを積極的に意図している場合に、法2条4号の罪の成立を限定する面にその意義があるから、それとの関係上、飽くまで妨害することの認識ではなく対象車両の認識であるとはいえ果たして未必的であってもよいのか疑問が残る

大分地裁 令和6年11月28日

ア 本件罪の立法経過等に鑑みると,本件罪が「走行中の自動車の直前に進入し,その他通行中の人又は車に著しく接近し,かつ,重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転し」たこと(以下「危険接近行為」という。)に加えて,主観的要素として,通行妨害目的を必要としたのは,従前,業務上過失致死傷罪等で処断されていた行為のうち,極めて危険かつ悪質で,過失犯の枠組みで処罰することが相当でないものについて,故意犯と構成することによって,その法定刑を大幅に引き上げる一方,後方からあおられるなどして自らに対する危険が生じ,これを避けるために,危険接近行為に及んだ場合など,悪質とまでいい難いものについては,本件罪の成立を認めないとすることにより,処罰範囲の適正化を図ったものと解される。
そうすると,本件罪にいう通行妨害目的の解釈は,上記のような立法趣旨に沿うものである必要があると考えられるところ,人又は車の自由かつ安全な通行を妨げることを積極的に意図して行う危険接近行為が極めて危険かつ悪質な運転行為であることはいうまでもないが,危険回避のためやむを得ないような状況等もないのに,人又は車の自由かつ安全な通行を妨げる可能性があることを認識しながら,あえて危険接近行為を行うのもまた,同様に危険かつ悪質な運転行為といって妨げないと考えられる。したがって,そのような場合もまた,通行妨害目的をもって危険接近行為をしたに当たると解するのが合目的的である。
ところで,本件罪は目的犯とされているから,通行妨害目的の解釈も,目的犯における目的の解釈として合理的なものである必要があるところ,目的犯における目的の概念は多様であり,各種薬物犯罪における「営利の目的」のように積極的動因を必要とすると解されているものもあれば,爆発物取締罰則1条の「治安ヲ妨ゲ又ハ人ノ身体財産ヲ害セントスル目的」のように未必的認識で足りると解されているものもあり,さらに,背任罪における図利加害目的のように,本人の利益を図る目的がなかったことを裏から示すものという解釈が有力なものもある。これを本件罪についてみると,本件罪において通行妨害目的が必要とされたのは,外形的には同様の危険かつ悪質な行為でありながら,危険回避等のためやむなくされたものを除外するためなのであるから,目的犯の構造としては,背任罪における図利加害目的の場合に類似するところが多いように思われる。そうすると,本件罪にいう通行妨害目的は,目的犯の目的の解釈という観点からも,人又は車の自由かつ安全な通行を妨げることを積極的に意図することのほか,危険回避のためやむを得ないような状況等もないのに,人又は車の自由かつ安全な通行を妨げる可能性があることを認識しながら,あえて危険接近行為を行う場合も含むと解することに,十分な理由があるものと考えられる。
以上のとおり,本件罪にいう通行妨害目的は,人又は車の自由かつ安全な通行を妨げることを積極的に意図して行う場合のほか,危険回避のためやむを得ないような状況等もないのに,人又は車の自由かつ安全な通行を妨げる可能性があることを認識しながら,あえて危険接近行為を行う場合をも含むと解するのが,立法趣旨に沿うものであり,かつ,目的犯の目的の解釈としても,理由のあるものと考えられるから,結局,本件罪の通行妨害目的は,人又は車の自由かつ安全な通行を妨げることを積極的に意図して行う場合のほか,危険回避のためやむを得ないような状況等もないのに,人又は車の自由かつ安全な通行を妨げる可能性があることを認識しながら,あえて危険接近行為を行う場合も含むと解するのが相当である。
イ 原判決は,本件罪にいう通行妨害目的は,運転の主たる目的が人や車の自由かつ安全な通行の妨害を積極的に意図することになくとも,自分の運転によって上記のような通行の妨害を来すことが確実であることを認識して当該運転行為に及んだ場合にも肯定されると解するとして,東京高等裁判所平成25年2月22日判決・高刑集66巻1号3頁を援用しているから,同判決同様,そのような認識で当該行為に及んだ場合,自己の運転行為の危険性に関する認識は通行の妨害を主たる目的とした場合と異なることがないことを,上記のような解釈を採る理由としているものと解されるが,認識の程度が同じであればなぜ目的があるといえるのか不明であるし,なにより,そのような解釈を採ると,自分の運転行為によって通行の妨害を来すことが確実であることを認識していれば,後方からあおられるなどして自らに対する危険が生じこれを避けるためやむなく危険接近行為に及んだ場合であっても本件罪が成立することになり,立法趣旨に沿わないものと考えられる。また,原判決がいう「確実であることを認識して」とは,結局のところ,確定的認識をいうものと解されるが,確定的認識と未必的認識は,認識という点では同一であり,ただその程度に違いがあるにとどまるに過ぎない上,その判定は,確定的認識について信用できる自白がある場合や,犯行の性質からこれを肯定できる場合はともかく,当時の状況等から認識自体を推認しなければならない場合には,甚だ微妙なものにならざるを得ないから,そのような認識の程度の違いによって犯罪の成否を区別することが相当とも思われない。
検察官は,目的犯における「目的」の意義は多様であり,外国国章損壊(刑法92条)等のように,その目的が,構成要件的行為自体,または,その付随現象から,おのずと実現されるため,客観的構成要件該当事実を認識していれば,同時に,目的を有しているとも見られる犯罪類型にあっては,未必的認識で目的が充足されるとすると,故意とは別に目的を要求した意味がなくなり,そのため,このような場合の目的としては,目的の実現に対する未必的認識では足りず,目的が実現することを確実なものと認識することが必要であると解すべきであるとした上で,通行妨害目的は,まさにこのような場合であるから,相手方の自由かつ安全な通行を妨げることが確実であることを認識することが必要であり,このような認識がありながら,あえて危険接近行為に及ぶような場合には積極的な意図がある場合と同視し得るとして,通行妨害目的についての原判決の解釈に誤りはないというが,認識があることを前提としながら,その認識の程度によって犯罪の成否を区別するのが相当でないことは前記のとおりである。なお,検察官のように,「通行妨害目的」を肯定するためには通行妨害について確定的認識が必要と言い切ってしまうと,嫌がらせ目的で危険接近行為をしたが,通行妨害についての認識は未必的であったという場合,本件罪は成立しないことになりそうであるが,それが妥当であるかも疑問である。
一方,弁護人は,本件罪の立法過程では,行為者の主観的事情として,人の死傷に対する認識認容を求めないものとしたために,処罰範囲の拡大が懸念され,暴行や傷害等に準じた重い刑罰に見合った「極めて危険かつ悪質なもの」に処罰範囲を限定し,かつ,その範囲を明確にするために目的犯とされ,この点について,立法担当者が,「妨害する目的で著しく接近し」とは,「相手方が自車との衝突を避けるために急な回避措置を余儀なくされる」ことを「積極的に意図して自車を相手方の直近に移動させること」をいう旨明らかにしているから,本件罪では,客観的行為態様に加えて,主観をも考慮に入れて行為の危険性を判断しなければならないのであり,通行妨害目的が認められるためには,確実な認識が必要であるとともに,積極的意図も必要である旨主張する。
しかし,人又は車の自由かつ安全な通行を妨げることを積極的に意図して行う危険接近行為が極めて危険かつ悪質な運転行為であることはいうまでもないが,危険回避のためやむを得ないような状況等もないのに,人又は車の自由かつ安全な通行を妨げる可能性があることを認識しながら,あえて危険接近行為を行うのもまた,同様に極めて危険かつ悪質な運転行為といって妨げないと考えられることは,前記のとおりである。
ウ 以上の次第で,本件罪の通行妨害目的には,人又は車の自由かつ安全な通行を妨げることを積極的に意図する場合のほか,危険回避のためやむを得ないような状況等もないのに,人又は車の自由かつ安全な通行を妨げる可能性があることを認識しながら,あえて危険接近行為を行う場合も含むと解するのが相当である。

 

大阪高裁  平成28年12月13日

ところで、大阪高裁判決以降、通行妨害目的危険運転致死傷罪で起訴した事案がいくつかありますが、酒田市の事件については「被害者が横断していたことを認識」していたなら通行妨害目的危険運転致傷罪は成立しうる。
しかしその立証が困難だったことから過失運転致傷罪で起訴に至った。

 

けど、過失運転致傷罪でも行為の悪質性をみて執行猶予を付さないことがあるわけで。

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