なかなか不思議なんですが、これを「横断歩道の逆走(右側通行)」と捉える人が絶えないこと。
こういう挙動する自転車よく見るけど、アウト? pic.twitter.com/VQk2vTugBo
— 宇摩志麻はㇶwiㇶㇶerを利用しています (@Umashima87) February 17, 2025
以前から指摘してますが、横断という行為に右も左もないのよ。
仮にこれを「右側通行」と捉えたならば、歩行者は歩道と車道の区別がない場合は「右側通行義務」なので、話が噛み合わなくなるでしょと。
※横断歩道は歩道ではないのはいうまでもなく。
ちょっと考えて欲しいのですが、例えばこれ。
②に関して左右道路との関係でみると、右側通行とみなすか?
これは「道路外への右折横断」であり、道路の方向に沿った進行ではないので右側通行にはならないわけよ。
問 指定方向外進行禁止交差点における「A車」の横断転回行為①、②、③は違反になるか?
答 指定方向外進行禁止違反にはならない。
指定方向外進行禁止の規制の道路標識は、交差点において一定方向の道路に進行することを禁止するもので、ガソリンスタンドや駐車場等の道路外の施設に出入するための横断や転回を禁止するものとは意味が異なる。
したがって交差点もしくはその付近で、あたかも指定方向外に進行するような形態で進行しても、路外の施設に入る行為や、転回行為は指定方向外に進行したことにはならない。
交通上の危険を防止するため、このような進行車両を禁止するためには、車両横断禁止又は転回禁止の規制をしなければならない。関東管区警察学校教官室 編、「実務に直結した新交通違反措置要領」、立花書房、1987年9月
そもそも「横断」を定義してみましょう。
「横断」とは、道路の反対側の側端または道路上の特定の地点に到達することを目的として、道路の進行方向に対し、直角またはこれに近い角度をもって、その道路の全部または一部を横切ることをいい、必ずしも道路の反対側の側端に到達することを必要としない。
木宮高彦, 岩井重一、詳解道路交通法、1977、有斐閣ブックス
要は交差点付近で「横断」が起きるから逆走なんじゃないか?という疑問がありますが、例えばこれ。
指定方向外進行禁止(右折禁止)の標識があるときに、自転車が一時停止標識に従い一時停止し、横断歩道を使い右側の歩道を進行した。
これが何の違反にもならないのは、横断歩道を使ったのはあくまでも「横断」なのであって、逆走にはならない。
そして左側通行の原則は歩道には適用しないと17条4項に書いてあるし、指定方向外進行禁止についても警察の質疑回答に書いてある理由から問題ない。
たぶん「横断歩道の逆走(右側通行)」と主張する人は、横断という行為を定義しきれてないのかなと。
そして自転車が横断歩道を使って「横断」する以上、25条の2による規制が掛かるのも当然なのよね。
第二十五条の二 車両は、歩行者又は他の車両等の正常な交通を妨害するおそれがあるときは、道路外の施設若しくは場所に出入するための左折若しくは右折をし、横断し、転回し、又は後退してはならない。
「横断歩道を使う自転車には25条の2は適用されない」という珍説を語る人もいるけど、横断ではないと解釈したら今度は「この自転車は逆走」だという声を否定できなくなる。
全部つながってくるから、辻褄が合わない珍説はきちんと否定しないとダメ。
結構誤解が多いけど、道路交通法が制定された昭和35年から一度も「車両が横断歩道を使うこと」は禁止されたことがない。

平成20年施行令改正で「普通自転車のみ横断歩道通行が解禁された」みたいな話をする人もいるけど、昭和53年国会答弁をみればクソデマなのが理解できる。
第84回国会 衆議院 地方行政委員会運輸委員会交通安全対策特別委員会連合審査会 第1号 昭和53年4月26日
○水平委員 それから、自転車の横断帯の新設によって、自転車は一応乗ったまま横断できますね。ところが、歩行者の横断道では必ず下車をして、自転車を引いて渡らなければならぬという配慮が必要だと思うのですが、この道交法の中にはそうした法的根拠といいますか、法的に明確にされていないですね。そこらあたり、なぜ明確にそういうことをうたわれなかったかということについてお答え願いたいと思います。
○杉原政府委員 従来必ずしも徹底をしないきらいがございましたが、基本的には横断歩道で歩行者の妨害になるときには、押して歩行者と同じ立場で歩いてもらうということでございます。今度も、歩道の自転車の通行を法律上認めることにしたわけでございますが、この場合も、歩行者の通行を妨害するときには一時停止をしろ、基本的に徐行を義務づけております。いつでも、どういう状態のもとでもとまれるスピードで走ってくれという形にしておるわけであります。基本的にそういう考え方で対処してまいりたいというふうに思っております。
○水平委員 自転車の通行が認められるようになった歩道の上においては、いまおっしゃったような一時停止だとか、徐行の配慮、これはいいのです。私の言うのは、歩行者の横断帯も自転車が渡ることができるでしょう、そうした場合に、一時停止も徐行の配慮も必要でありますが、横断帯という歩行者の保護、安全を図る意味からも、自転車も同時にそれはおりて引いていくべきではないか、そういうことが法的になぜ明確に確認をされておかなかったか、こういうことなんです。
○杉原政府委員 一応、いま歩行者がおってそれの通行の妨害になるときには、おりて押して歩いてもらうということになっておりますが、徹底を欠くきらいがございますので、これは教則その他できちっと指導するようにいたしたいと思います。
要は横断歩行者の妨害になるときは「横断禁止」(25条の2第1項)になり、降りて押して歩けば歩行者化するのだから、25条の2第1項の規制対象から外れる。
しかし当時の警察庁は、交通の方法に関する教則で「自転車は降りて押して渡りましょう」とアピールしまくっていたので、いつの間にか「降りて押して渡らないと違反」みたいな風潮になった。
その名残は、施行令を改正した際のパブコメにもあるのよ。
「道路交通法施行令の一部を改正する政令案」に対する意見の募集について|e-Govパブリック・コメントパブリックコメントの「「道路交通法施行令の一部を改正する政令案」に対する意見の募集について」に関する意見募集の実施についての詳細です。
イ 横断歩道を進行する普通自転車が従うべき信号灯火を定めることについて
この項目に対しては、
○ 自転車に乗ったまま横断歩道を通行することはできないはずであり、また、自転車で横断歩道を通行することは大変危険。
といった御意見がありました。今回の改正は、道路交通法の一部を改正する法律(平成19年法律第90号。以下「改正法」といいます。)により、例外的に歩道を通行することができる普通自転車の範囲を明確化したことに伴い、自転車横断帯が設置されていない交差点において、これらの普通自転車が横断歩道を進行して道路を横断することが見込まれることを踏まえ、横断歩道を通行する普通自転車が従うべき信号を車両用でなく歩行者用灯器とするものです。
道路交通法においては、普通自転車が横断歩道を通行することを禁止する規定はありませんが、横断歩道は歩行者の横断のための場所であることから、交通の方法に関する教則(昭和53年国家公安委員会告示第3号)において、横断歩道の通行について、歩行者の通行を妨げてはならない旨を周知し、歩行者の安全確保を図ることとしています。
なぜかいまだに「平成20年施行令改正で自転車は横断歩道通行が解禁された」みたいに語る人も絶えないけど、それも間違い。
元々禁止してなくて、警察庁は25条の2第1項に抵触しなけりゃ乗ったままで問題なしとしている。
そしてもっとややこしいのは、道路交通法上は「横断」だけど民事の概念だと違うのよね笑。
そこまできちんと理解して解説できる人は滅多にいないし、むしろ民事判例と道路交通法を混同させて発狂することになる。

理解している人なんてほとんどいない気がしますが…
で。
条文解釈しだすと水掛け論にしかならないことが多いけど、この解釈のヒントになるのは国会議事録やパブコメなど公式資料にあるし、それこそ警察の質疑回答集なども参考になる。
なぜ「自転車に乗ったまま横断歩道を渡ると違反」という概念が世間に浸透したかについても、交通の方法に関する教則の改正史を見ていくと理解できますが、

これをきちんと調べてから語る人なんてほとんどいないから、クソデマが横行するわけよ。

2011年頃からクロスバイクやロードバイクにはまった男子です。今乗っているのはLOOK765。
ひょんなことから訴訟を経験し(本人訴訟)、法律の勉強をする中で道路交通法にやたら詳しくなりました。なので自転車と関係がない道路交通法の解説もしています。なるべく判例や解説書などの見解を取り上げるようにしてます。
現在はちょっと体調不良につき、自転車はお休み中。本当は輪行が好きなのですが。ロードバイクのみならずツーリングバイクにも興味あり。
コメント