ではこちらの件。

下記について、A(の遺族)にはAが契約していた保険会社から人身傷害保険金が支払われるか?
Aは、三重県桑名郡内の通称伊勢湾岸自動車道下り43.2キロポスト先路上(以下、「本件事故現場」という。)に至るまでの間、A運転の車両(以下、「A車両」という。)を訴外C運転の車両(以下、「C車両」という。)が後ろからあおり、A車両がそれをかわして、前後が入れ替わったりしながら走行していた。Cは、運転席側の窓を開けてAに対して罵声を浴びせるなどしていた。A車両がC車両の前で減速したため、C車両も減速した。本件事故現場の第1走行車線上にA車両が停車したため、C車両もその後方に停車した。Aが下車し、C車両の方に来た後、CはAの後を追いA車両の方へ行った。両名は、A車両の運転席の右側付近で、それぞれ路上に立ち、向かい合い胸を付き合わせるようにして口論となった。そこに、訴外B運転の事業用大型貨物自動車(以下、「本件貨物自動車」という。)が進行して来て、停車中のC車両に追突し、その衝撃でC車両がA車両に衝突するとともに、CおよびAに衝突し、両名は路上に転倒した。Aは、後続の自動車にも轢過されて、全身挫滅により死亡した(以下、「本件事故」という。)。そこで、Aの法定相続人である妻X1(原告・控訴人)、子X2~X4(原告・控訴人)が死亡保険金の支払いをY1、Y2に求めた。
なお、本件事故現場は、ほぼ東西に通じる高速道路で、本線が車道幅員11.0メートルの片側三車線道路で、その左側に幅員2.4メートルの路肩がある。道路は、アスファルト舗装され、直線で平坦、乾燥しており、視界を妨げる障害物等はなく、中央分離帯により上下線が区別されている。また、本件事故の発生日時は平成23年4月16日の午前1時05分ころであるが、道路(本線)左側分離帯に外灯1基、加速車線左側コンクリート壁に外灯が3基設置され、現場道路付近は明るい状態である。
まずは一審の判断から。
停車位置が高速道路上であることを考慮すると、A及びCは、追突事故を誘発し、事故による衝撃を直接身体にうけることとなるおそれの高い危険極まりない場所に停車したといえる。そして、A車両が停車後、Aの後方にC車両も停車しており、AがC車両に歩み寄ったことが認められ、Aが危険を回避する為に停車したとはいえず、この危険極まりない停車位置に車両を停車させるきっかけは、Aが停車したことによるものといわざるを得ない。口論は、A車両の運転席のドア前で向かい合い行われたもので、かかる位置に車両を停車し車両の運転席のドア側で口論することが、いかに危険であるかは当然に認識できたはずであり、他に正当な事由がない以上、Aに重大な過失があるといえる。
この点、確かに、もともとはCがAの車両をあおったことが端緒であり、停車後もC車両は、ハザードランプをつけていなかった点に過失が認められ、本件貨物自動車の運転者Bにも前方不注意という過失が認められる。しかし、かかる事項の有無にかかわらず本件事故現場にAは停車しないことができたのであり、もともと、免責約款にいう「重大な過失」は、保険当事者に要求される信義則、保険制度における公序良俗の維持を考慮して判断されるものであり、刑事罰や損害賠償の可否とは目的を異にするから、Aの責任を軽減する事由とはならない。東京地裁 平成25年3月13日
Aは自らの意思で高速道路上に停車した上、停車しなければならないような事情もない。
そうすると「かかる位置に車両を停車し車両の運転席のドア側で口論することが、いかに危険であるかは当然に認識できたはずであり、他に正当な事由がない以上、Aに重大な過失がある」となる。
そしてそもそも、Aを煽ったCや、前方不注意により追突したBにも過失はあるが、保険約款上の「重大な過失」とは被保険者に重大な過失があるかないかの話であって、他人に過失があることはAの責任を減じることにはならない。
Aは、原則として停車又は駐車が禁止された高速自動車国道において(道路交通法75条の8第1項)、自動車の故障等のやむを得ない場合ではないにもかかわらず、走行車線上に停車した上に、車外に出て道路上に佇立した状態で口論に及んでいたものである。そして、通常人にとって高速自動車国道の走行車線上に停車して、車外に出ることが事故を誘発する危険性を高めることになることは、当然に認識可能な事柄であり、Aにそのような認識が欠如していたと認めることはできないから、Aは、本件事故の結果の予見が可能であり、かつ、容易であったということができる。さらには、Aは、A車両を走行車線上に停車せず、また、車外に出ないことが不可能な事情があったと認めることはできないから、本件事故の結果の回避が可能であり、かつ、容易であったということができる。
したがって、Aには、重大な過失があると認められ、Y1らとの間の本件免責条項①及び同②により、Y1らは保険金の支払義務が負わないことになるというべきである。東京高裁 平成25年9月9日
結局、Aに保険約款上の「重大な過失」がある以上、AにはA契約の保険会社からは人身傷害保険金が支払われないことになる。
さて。
人身傷害保険金の支払いについて「被保険者の重大な過失」を認め重過失免責とした事例をいくつか紹介してますが、

酒気帯び運転の「同乗者」について、運転者が酒気帯びだと知りながら同乗したことを重過失免責とした判例(札幌地裁 令和3年1月27日)や、飲酒の上に交差点内で横臥していたことを重過失免責とした判例(東京地裁 平成30年1月17日)がある。
これらに共通するのは、「故意に近い状態」や「わずかな注意で事故を回避できた状態」なのでして。
冒頭の事例については、もし「Cに停車させられた」ような状態であれば話は変わる。
そして勘違いしちゃいけないのは、あくまでもAが契約していた保険会社から人身傷害保険金が支払われないだけで、前方不注意から追突したBからは支払われる(ただし過失相殺される)。
運転レベル向上委員会の人は「こんな事案でも人身傷害保険車外型に入っていたら支払われます」とし、なぜか裁判基準で支払われることにしてますが、
現実には支払われない事案が普通にある。
これらは保険会社が支払いを拒絶したから提訴したわけで、現実には「保険会社が支払いを拒絶」し訴訟提起に至らなかった事案もあるでしょう。
人身傷害保険がいざというときに役立つことは何ら否定しない。
しかしだからといって、デマを流していい理由にはならないのよね。
いくつか「重過失免責」の事例を挙げてきましたが、もう1ついうと一部の自転車保険には、被保険者自身のケガの保障に「信号無視免責条項」がある。
要は信号無視して事故に遭った場合には保険金を支払わないとする規定ですが、意味合いとしては重過失免責と同じ。
結局、被保険者が重過失と考えられる場合には人身傷害保険金が支払われないと言えますが、
保険における重過失って、防ぐことは容易な状態なのよね。
保険に頼るような事態を避けることが大事なのでして。
2011年頃からクロスバイクやロードバイクにはまった男子です。今乗っているのはLOOK765。
ひょんなことから訴訟を経験し(本人訴訟)、法律の勉強をする中で道路交通法にやたら詳しくなりました。なので自転車と関係がない道路交通法の解説もしています。なるべく判例や解説書などの見解を取り上げるようにしてます。
現在はちょっと体調不良につき、自転車はお休み中。本当は輪行が好きなのですが。ロードバイクのみならずツーリングバイクにも興味あり。


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