チェーンの洗浄について質問を頂きました。
シルテック加工されたチェーンにパーツクリーナーとかディグリーザーを使うと、シルテックのコーティングが剥がれるという話を聞いたことがあるのですが、知人はみんなディグリーザーでチェーンを洗っていると言っています。
実際のところ、パーツクリーナーやディグリーザーはチェーンに悪影響なのでしょうか?
回答いたします。
そもそもシルテック加工とは
SIL-TEC加工というのは、シマノのサイトではこのように説明されています。
シマノが提供する超低摩擦表面処理です
シンプルで優れたコーティング加工のシルテックは、フッ素加工によってシステム性能を向上させる先進的な表面処理方法です。シルテック加工された製品は、あらゆる環境下においてもより滑らかな動作が長期間持続します。
通常の(亜鉛ニッケル)メッキチェーンに比べて、
スライド回転摩擦 | -60% |
走行中のノイズ | -2.7dB |
泥はけ性能 | +30% |
耐摩耗性 | +20% |
このように、シルテック加工を施すことでチェーンの性能が上がるとされています。
で、シルテック加工というのは、もっと身近なもので説明すると、いわゆるテフロン加工の一種です。
フライパンでもテフロン加工されたものが多いですが、フライパンにテフロン加工する理由としては、酸やアルカリなどに強く、摩擦係数が少ないからです。
要は食品や調味料などで侵食することもなく、焦げ付きにくいというのがフライパンにテフロン加工される理由です。
なのでシルテック加工されたチェーンというのも、基本的には薬品類に強く、パーツクリーナーやディグリーザー自体によって剥がれるということはほぼあり得ないと思っていいでしょう。
でも中性洗剤推奨の理由
シマノでは、チェーンの説明書でこのように記載しています。
https://si.shimano.com/pdfs/um/UM-0AH0A-005-00.pdf
メンテナンスの頻度は、ライディングの状況により異なります。チェーンを適切なチェーンクリーナーで定期的に洗浄してください。
錆び落としのアルカリ性、あるいは酸性の洗浄液は決して使用しないでください。これらを使用するとチェーンが破損し、重傷を負うおそれがあります。
ギアは定期的に中性洗剤で洗浄し注油してください。また、チェーンの中性洗剤での洗浄及び注油も、チェーンの寿命を延ばすのに効果があり
ます。
シマノの推奨は、中性洗剤で洗えということと、酸やアルカリの洗浄液はチェーンを破損する恐れがあるから使うなと書いてある訳です。
この表現により、酸やアルカリだとシルテック加工が剥がれるらしいよ?という根拠のない噂が広まった結果、【酸やアルカリを使うと、シルテック加工が剥がれてしまう】という話を信じている人が多い気がします。
しかしながら、これは実は正しくありません。
シルテック加工はテフロンなので、耐薬剤性はかなり高く、酸やアルカリ程度でコーティングが剥がれるわけではありません。
この話については、本職の自転車屋さんがシマノから聞いた話としてまとめているのが最も正確だと思うのですが、要は強力なクリーナーを使うと、チェーン内部にあるグリスまで脱脂してしまい、注油も不十分でギシギシなってしまった結果、プレートやローラーが削れてしまい破損するリスクがあるという話です。
そもそも、コーティングが剥がれたからといって、それが即破損に繋がるものでもありません。
せいぜい、抵抗が増す程度の話でしょう。
シマノは、
錆び落としのアルカリ性、あるいは酸性の洗浄液は決して使用しないでください。これらを使用するとチェーンが破損し、重傷を負うおそれがあります。
と書いているわけですが、シルテックが剥がれて危険、という話ではなくて、強力なクリーナーで内部のグリスを溶かして、内部まできちんと注油できていないのに乗るから壊れるという話なんですね。
なぜか、【シルテックは酸やアルカリで剥がれるから】と真顔で言ってくる人がいますが、そんなわけはありません。
内部まで注油できていない例は多いそうです
これも伝聞形で聞いた話なのですが、まずはパーツクリーナーの成分を洗い流さないで注油するから、チェーン内部でオイルが分解されて意味を成していない事例はそこそこ多いそうです。
また、表面から注油しても、内部まで浸透するには時間がかかります。
内部まで浸透してないのに乗っている人もそこそこ多いそうです。
要はこういうことがチェーン破損に繋がる恐れがあるので、それならチェーン内部まで強力に脱脂してしまうものは禁止扱いにしたほうが、メーカーの安全管理になるというだけの話なんですね。
適切に内部まで注油できているなら、そこまで大きな問題ではないそうです。
オイルの注油は、チェーンの表面から行いますが、注油したらそのまま一晩くらい放置したほうがいいです。
それくらい放置すると、毛細管現象で内部までオイルが行き渡ります。
注油してすぐにクランクを回しまくれば内部まで注油できる、という考えもあるのですが、これだと中まで行き渡らないケースもあるそうです。
イノテック105という、特殊なオイルがありますが、
これを正しく使うには、完全に脱脂して、このオイルに漬け込むようにして施工します。
完全に脱脂しないと意味がないものなので、何度もシェイクして濁りがなくなるまで行い、しかも煮沸して完全脱脂します。
あまりの面倒さにこのオイル自体が世間では浸透していませんが、慣れるとこれ以外はイヤだと思えるほどいいオイルだそうです。
このイノテック105は、漬け込みでチェーン全体に皮膜を形成するんですね。
これくらいやらないと、メーカーが求めるチェーン内部までの注油は出来ていないことが多いらしいです。
ただ、一般的なオイルでここまで漬け込んでやるのは、オイル自体の無駄やベタベタ感を嫌ってやらないですよね。
シマノの新品チェーンって、グリスみたいなのがベタベタ付いてます。
あれを最初に落としてから使うか、そのまま使うかという議論がありますが、あれはそのまま使うのが正解だそうです。
というのも、新品チェーンについているオイル(?)はどう見ても粘度が高いオイルです。
ベタベタ感が半端ではありません。
アレの目的ですが、まずは防錆ですね。
袋に入った新品チェーンが、お客さんに売るときに錆びていたら意味がありませんので。
で、もう1つ目的があって、チェーンの寿命を伸ばすためだそうです。
これについてですが、チェーンは金属の加工製品です。
念入りに製造していますが、それでも細かいバリみたいなのが出来てしまうことがあり、粘度が高いオイルを付けておくことによって、そのバリみたいなのでチェーンの寿命を短くしないようにという意味らしいです。
なので一度脱脂してオイルをつけると、初期バリでわずかな磨耗が発生し、チェーンの寿命が短くなることがあるらしく、さらに言うと、上でも書いたように内部まできちんと注油できていない人も多いわけで、それが原因でチェーンの寿命を短くする恐れがあるため、最初はそのまま使ってほしいというのがシマノの意向です。
私の場合ですがどうしているかというと、新品チェーンはそのまま使います。
汚れてきたら、ディグリーザーで洗浄してしまいますが、水でディグリーザー成分をきちんと落として乾かして、オイル付けたら一晩放置します。
一晩放置して、一度表面は拭いて、もう一回オイルつけて一晩放置して、拭いてという形にしています。
(ただし、チェーンオイルを垂らす量は一滴ずつです)
いろいろ試した結果、こうするくらいがちょうどいいかなと思っているので、ここ最近はこんな感じです。
チェーンオイルの付け方って、こだわりがある人も多いです。
方法論が問題なのではなく、最終的な結果として内部まで浸透しているかどうかが問題なので、やり方は好きにすればいいと思いますが、酸やアルカリでシルテックのコーティングが剥がれるということは嘘です。
そこが問題ではなくて、その後に内部まできちんと注油できていない人も多いから、メーカー側は安全対策で中性洗剤にしろと言っているだけなので、内部まで浸透させることができるならやり方は何でもいいと思います。
シマノの新品チェーンについているベタベタは、恐らくは漬け込みみたいな手法で施工されているんだと思いますが、中まできちんと注油しようとするとそういうやり方がベストなのかもしれません。
ただし、汚れるのも早くなりそうですが。
2011年頃からクロスバイクやロードバイクにはまった男子です。今乗っているのはLOOK765。
ひょんなことから訴訟を経験し(本人訴訟)、法律の勉強をする中で道路交通法にやたら詳しくなりました。なので自転車と関係がない道路交通法の解説もしています。なるべく判例や解説書などの見解を取り上げるようにしてます。
現在はちょっと体調不良につき、自転車はお休み中。本当は輪行が好きなのですが。ロードバイクのみならずツーリングバイクにも興味あり。
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