読者様からこのようなご意見をいただきました。
管理人さんが興味あるかはわかりませんが、知恵袋で38条2項に関係するこのような議論が起きています。
道交法第38条2項の話題で、「その前方」を「自車から見て前方であり、停止車両の向きは関係無い」と言う人がいます。そういう人って、... - Yahoo!知恵袋道交法第38条2項の話題で、「その前方」を「自車から見て前方であり、停止車両の向きは関係無い」と言う人がいます。そういう人って、添付図のBさんの立場になったらAさんの背後に回るんでしょうか? 彼らは当たり前のようにAさんの正面に立つでしょう...この中の質問主と「happee」という人のやり取りをみていて質問です。
happee氏がいうには、国会にて「前車の陰になっていた歩行者の発見が遅れ、横断歩道で交通事故を起こす例が少なくない」とあり、前車の向きに言及してない上に同一進行方向でも対向車でも死角によるリスクがあるのだから対向車を含まないと解釈するのはムリということのようです。
「38条2項の目的と背景を混同している」「いや混同しているのはお前だ」と不毛な議論に陥ってますけど、管理人さんがこれらをどのようにみるか知りたいです。
以前書いたか書いてないか思い出せないけど、確か1年くらい前ですかね。
「38条2項に対向車を含む」と主張し、知恵袋に質問を立てたからお前も参戦してこいやと挑発してきた方がいまして。
いくつか質問(もちろんうちのコメント欄にて)してみたら、とにかくはぐらかす。
馬鹿馬鹿しいので「質問に答えず話をはぐらかすだけなので以後出禁」としたら、次から次へと同じ主張をする「違うハンドルネームの方」が登場してきたんですね。
全部同じIPアドレスなんですが笑。
そんな話を思い出してしまった。
知恵袋に私が回答することはありませんが、happeeという人が主張する件はこれですね。
第55回国会 参議院 地方行政委員会 第24号 昭和42年7月18日
○原田立君 今度は車を運転する者のほうの側で一応いろいろ考えるわけですけれども、いまお聞きしているのは、具体的な問題になるとどういうことになるのですか。ちょっとこれは愚問かと思いますけれども、横断歩道の直前で、しかも、歩行者もなくて、故障のために停止している車両があると、当然、常識上三十メートル以内であってものけていってもいいんじゃないか、こう思うんですがね。実際問題どうなりますか。
○政府委員(鈴木光一君) 今度新たにこの規定を設けましたのは、横断歩道の直前で停止している車の陰に隠れて歩行者が見えないということがありまして、そのために事故が起こるというケースが非常に多うございましたので、横断歩道の直前でとまっている車があった場合には、一時停止して、歩行者の有無を確認するという意味で一時停止しなさいということになっておるのでございまして、したがいまして、かりに横断歩道の直前で故障している場合でも、やはりとまることを期待しております。
○原田立君 そうなると、そこいら辺が、たとえば後続車がずっと続いているような場合ですね、たいへん混乱するんじゃないですか、交通関係で。
○説明員(片岡誠君) 故障車の場合は、私そうケースが多いとも思いませんし、いま局長が申しましたように、故障車でありましても、やはり横断歩道を歩行者が渡っているかどうか、故障車の陰になって、ちょうど死角になりましてわからない。危険性においては全く同じではないだろうか。したがいまして、故障車であろうと、横断歩道の手前に車がとまっておった場合には、とりあえず一時とまって、歩行者が横断しているかどうかを確認していくというやり方が合理性があるんではなかろうか。先生おっしゃいましたように、故障車が非常にたくさん横断歩道の手前にある場合には、若干円滑を阻害する問題もあろうかと思いますが、実態として故障車が横断歩道の手前にとまっているということはそう多くないのではなかろうか、そのように思っております。
これは立法趣旨とか背景の話ではなく、一事例に関する質問ですよ。
立法趣旨と経緯は、国会質疑以前の資料にある。
○道路交通法の一部を改正する法律案要綱(案)について(警察庁)
現行法において既に、歩行者が横断歩道により道路の左側部分を横断し、または横断しようとしているときは、車両等は、その横断歩道の直前で一時停止し、かつ、その通行を妨げないようにしなければならないことになっており(第71条第3号)、また横断歩道の手前の30m以内の部分における追越しが禁止されていて(第30条第3号)、横断歩道における歩行者の保護はそれでじゅうぶん確保されていると考えられていた。しかし、交通事故の実態をみると、横断歩道の直前に他の車両が停止している場合に歩行者に気づかず、停止車両の側方を通過して横断歩道上で事故を起こす車両や、横断歩道の手前で前車の側方を通過してその前方に出たため歩行者の発見が遅れ横断歩道上で事故を起こす車両が少なくない。
(1)もともと横断歩道の手前の側端から前に5m以内の部分は駐停車禁止の場所であって、このような場合は、歩行者の通行を妨げないように一時停止しているものと考えてしかるべきである。
したがって、今回の改正では、横断歩道の直前で停止している車両等の側方を通過してその前方に出ようとする車両等は、歩行者の有無を確認するため、その横断歩道の直前で一時停止しなければならないこととしようとしている。
警察学論集、「道路交通法の一部を改正する法律案要綱(案)について(警察庁)」、立花書房、1967年5月
改正案成立後の警察庁の解説はこちら。
○道路交通法の一部を改正する法律(警察庁交通企画課、浅野信二郎)
しかしながら、横断歩道において事故にあう歩行者は、跡を絶たず、これらの交通事故の中には、車両が横断歩道附近で停止中または進行中の前車の側方を通過してその前方に出たため、前車の陰になっていた歩行者の発見が遅れて起こしたものが少なからず見受けられた。今回の改正は、このような交通事故を防止し、横断歩道における歩行者の保護を一そう徹底しようとしたものである。
まず、第38条第2項は、「車両等は、交通整理の行なわれていない横断歩道の直前で停止している車両等がある場合において、当該停止している車両等の側方を通過してその前方に出ようとするときは、当該横断歩道の直前で一時停止しなければならない」こととしている。
もともと横断歩道の手前の側端から前に5m以内の部分においては、法令の規定もしくは警察官の命令により、または危険を防止するために一時停止する場合のほかは停止および駐車が禁止されている(第44条第3号)のであるから、交通整理の行われていない横断歩道の直前で車両等が停止しているのは、通常の場合は、第38条第1項の規定により歩行者の通行を妨げないようにするため一時停止しているものと考えてしかるべきである。したがって、このような場合には、後方から来る車両等は、たとえ歩行者が見えなくとも注意して進行するのが当然であると考えられるにかかわらず、現実には、歩行者を横断させるため横断歩道の直前で停止している車両等の側方を通過してその前方に出たため、その歩行者に衝突するという交通事故を起こす車両が少なくなかったのである。
そこで、今回の改正では、第38条第2項の規定を設けて、交通整理の行われていない横断歩道の直前で停止している車両等の側方を通過してその前方に出ようとする車両等は、横断歩道を通行し、または通行しようとしている歩行者の存在を認識していない場合であっても、必ずその横断歩道の直前で一時停止しなければならないこととし、歩行者の有無を確認させることにしたのである。車両等が最初から歩行者の存在を認識している場合には、今回の改正によるこの規定をまつまでもなく、第38条第1項の規定により一時停止しなければならないことになる。
「一時停止」するというのは、文字通り一時・停止することであって、前車が停止している間停止しなければならないというのではない。この一時停止は、歩行者の有無を確認するためのものであるから、この一時停止した後は、第38条第1項の規定により歩行者の通行を妨げないようにしなければならないことになる。また、一時停止した結果、歩行者の通行を妨げるおそれがないときは、そのまま進行してよいことになる。
警察学論集、浅野信二郎(警察庁交通企画課)、立花書房、1967年12月
で。
対向車云々を語る人が決定的に欠けているのは、情報量なのよ。
まず国会審議前に警察庁が発表した立法趣旨と経緯がこれ。
もともと横断歩道の手前の側端から前に5m以内の部分においては、法令の規定もしくは警察官の命令により、または危険を防止するために一時停止する場合のほかは停止および駐車が禁止されている(第44条第3号)のであるから、交通整理の行われていない横断歩道の直前で車両等が停止しているのは、通常の場合は、第38条第1項の規定により歩行者の通行を妨げないようにするため一時停止しているものと考えてしかるべきである。
44条3号で駐停車禁止エリアだから、そこに止まっている車両は「横断歩行者優先中」という前提になっている。
ここに疑問を持つかどうかで話が変わるのよね。

「対向車線の横断歩道の手前(B)」に停止車両があるときに、この停止車両が横断歩行者優先のために一時停止している可能性は皆無です。
しかし昭和42年警察庁の話だと、横断歩道手前に停止車両があるときは駐停車禁止場所なんだから横断歩行者優先中という前提に立っている。
この違和感を突き詰めるか、違和感に気づかないかはわりと大きい。
なぜ「横断歩道手前」=「駐停車禁止場所(44条3号)」=「停止車両は横断歩行者優先中」という話になっているのか?
そもそも44条3号は38条2項新設の昭和42年当時と、今は違いがある。
| 昭和39~46年 | 昭和46年以降 |
| 横断歩道の手前の側端から前に五メートル以内の部分 | 横断歩道の前後の側端からそれぞれ前後に五メートル以内の部分 |
そう、38条2項を新設した時の44条3号は、今と違うからなんですね。
昭和46年改正前の44条3号の解釈はこちら。
「横断歩道の手前の側端から前に五メートル以内の部分」とは、進行方向に向かい、横断歩道の手前の側端からさらに手前に五メートル延長した道路の左側部分の長方形または平行四辺形の部分のことである。
注解道路交通法、宮崎清文、立花書房、1966
具体的に示すとこうなる。

しかもこのイラストを下→上に進行する青車両については、左側のオレンジ枠のみが44条3号で駐停車禁止場所として指定されていたことになる。
左側オレンジ枠の右側については、駐停車方法として「左側端に沿って」と規定されているのだから(旧47条、48条、現47条)、昭和39年に44条3号を新設するまでもなく横断歩道付近に関係なく逆向き駐停車できない。
既に禁止された場所に重ねて駐停車禁止規定を作るまでもないのだから、宮崎氏(警察庁交通企画課)が旧44条3号の解釈を「道路左側部分の」と解説するのは合理性がある。
さて。
警察学論集42年5月の法律案要綱、つまり立法に至った理由と経緯によると、44条3号で駐停車禁止なのだから、横断歩道手前に止まっている車両は横断歩行者優先中か、違法駐停車車両かのどちらかだという前提に立っている。

当時の44条3号は「道路左側部分の」と解釈されていたことを前提にしているのが見えるのよね。
そして国会質疑にしても、それを前提にした答弁だと捉えるしかなくて、一年後の国会答弁でもこうなのよ。
第58回国会 参議院 法務委員会 第20号 昭和43年5月23日
歩行者保護の観点から、三十八条の二項に、その前の条文と一緒につけ加わったわけでありますが、交通整理の行なわれておらない横断歩道におきまして、横断歩行者が渡ろうとして車が横断歩道の直前にとまっておるときには、うしろから行った車もとまりなさいという規定と一緒に、そういう横断歩行者の保護を確保する意味において、その手前三十メートルでは追い抜かないようにということで、こういう類型の事故が非常に多いという観点からこの条文ができたわけであります。その条項に触れたわけでございます。
「横断歩道の直前」(昭和46年改正前の38条2項)と「横断歩道の手前の側端から前に5メートル」(昭和46年改正前の44条3号)は実質的に同じ表現な上に、38条2項でいう「横断歩道の直前」とは44条3号を理由に5メートル程度と解釈すること、さらに38条2項の立法趣旨として44条3号が挙げられている点をみても、両者が示す範囲は同じ。
つまり立法時には対向車なんて全く検討されてないことがわかるし、happeeという人が主張する国会答弁にしても、最初から対向車を含まない前提で答弁しているわけ。
要するに、警察学論集の記述について違和感を持たないと、ここまで調べようともしないでしょ?
そして昭和46年改正で44条3号は「前後5メートル」に、38条2項は「横断歩道上の停止車両」も含める改正をした。
それぞれの改正理由はこちら。
○44条改正理由
横断歩道の先方5メートル以内の部分を停車および駐車を禁止する場所とした(第44条第3号等の改正)
現行規定においては、横断歩道の手前の側端から5メートル以内の部分が停車および駐車を禁止する場所とされているが、横断歩道の先方5メートル以内の部分に車両が駐停車している場合であっても、対向の車両の運転者が、その横断歩道により道路を横断している歩行者の発見が困難になり、歩行者に危険を生じさせるおそれがあるので、今回の改正により、横断歩道の手前だけでなく先方についても、横断歩道の側端から5メートル以内の部分を停車および駐車を禁止する場所としたのである。
道路交通法の一部を改正する法律(警察庁交通企画課)、月刊交通、道路交通法研究会、東京法令出版、昭和46年8月
○38条2項改正理由
第1項後段は、横断歩道等の直前(停止線があるときはその直前)で一時停止すべきことを義務付けているが、この一時停止は主として安全確認のためのものであって、通行を妨害しないようにするためには、さらに前進して停止することも認められると解される。特に幅員の広い横断歩道ではこのような実態が見られる。そこで、本項においては、前車が停止している位置としては「横断歩道等又はその手前の直前」としているのである。
本項は、横断歩道等の停止車両は、第1項後段の規定を遵守するためのものが一般的であることを前提にしているが、「停止している車両等」がこれに限られるものではないのは当然のことである。
本項の一時停止の義務は、前車の「前方に出る前に」行わなければならないが、おおむね前車の車体の前端付近で行うべきものである。平野竜一ら、「注解特別刑法 第1巻 (交通編 1) 第2版」、青林書院、1992.6
例えばこのような横断歩道で歩行者優先のために一時停止していたとして(昭和46年改正以前には停止線が規定されてないことに注意)、

横断歩行者が通り過ぎて発進したところ、死角から横断歩行者が出てきたとする。

この場合、横断歩行者優先の義務はあるので一時停止しないと衝突してしまいますが、停止位置が横断歩道上になることもありうる。

旧38条2項だと「横断歩道の直前で停止している車両等がある場合」なので、このように横断歩道上で停止した車両の側方を通過して前に出るときは対象外になってしまい、それが不合理だから改正したわけ。
これらをみても、対向車を含まない前提なのは明らかなのよね。
以前他にも多数の根拠を挙げてますが、

思うのは、happeeという人のような主張をする人は、情報量が不足したまま切り抜き論法に走るからこうなる。
この手の議論をするときは、まずひたすら資料を集めることが大事なんだけど、資料をひたすら集めて情報量を高めてからhappeeという人の主張を読むと、この人が主張している国会答弁は「道路左側」という大前提における答弁なんだなとわかるわけよ。
情報量が不足している人には絶対にわからないでしょうが。
複数の信頼できる情報同士を組み合わせて考えることが必要なんだけど、根拠がない話をしたがる人の特徴は、一つの情報に固執し、そこに妄想を加えて正当化したがる点。

この国会答弁にしても、「道路左側部分」という前提で読んでも何ら違和感はないし、当時の法律が「道路左側」だったことを前提に立法したのは警察学論集から明らかなのよね。
要するに、情報量を高めて整合性を取ろうとする人と、情報をシャットアウトして一つの記述に固執する人の差だと思った。
2011年頃からクロスバイクやロードバイクにはまった男子です。今乗っているのはLOOK765。
ひょんなことから訴訟を経験し(本人訴訟)、法律の勉強をする中で道路交通法にやたら詳しくなりました。なので自転車と関係がない道路交通法の解説もしています。なるべく判例や解説書などの見解を取り上げるようにしてます。
現在はちょっと体調不良につき、自転車はお休み中。本当は輪行が好きなのですが。ロードバイクのみならずツーリングバイクにも興味あり。







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