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車が道路外→車道に進入する際の、歩道に対する注意義務。時速40キロ弱で歩道通行する自転車を予見せよ。

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車が道路外の施設から歩道を横切って車道に進入する際は、歩行者を妨げてはならない義務があります。

 

自転車は一応、歩道を通行することが可能です。
ただし自転車が歩道を通行する際には原則として徐行義務があります(63条の4第2項)。
しかも歩道の車道寄りを徐行。
目安は6~8キロですが、守っている人は残念ながら少数派。

 

歩道の見通しが悪い場所において、自転車が歩道を時速約40キロで進行してきた場合、どのような注意義務が車両の運転者に課されているのか?という判例があります。

歩道を時速約40キロで進行する自転車

判例は広島高裁、令和3年9月16日。
過失運転傷害被告事件です。

 

一審は広島地裁。
長くなるので大雑把にまとめます。

 

・被告人はガソリンスタンドから歩道を横切って車道に進出しようとした
・その際、歩道手前で一時停止をしないで時速約5kmで歩道に進出した
・ドライバーからみて、歩道左側は見通しが悪かった
自転車が歩道を時速約40キロで走行してきたため、車と自転車は衝突した
・一審は歩道を横切る際の一時停止義務(17条2項)を元にした注意義務違反を認め有罪とした。

 

被告人は,本件ガソリンスタンドから本件歩道を横断して本件車道に進出して西方向へと進行(左折)しようと考え,本件歩道手前で一時停止をすることなく,被告人車両を本件ガソリンスタンド敷地内から本件歩道に進出させたところ,本件歩道上を西方から東方,すなわち被告人から見て左方から右方に向けて進行して来たA自転車に,被告人車両を衝突させた。

(中略)

本件歩道の幅員は3.5mで,普通自転車の通行が可能とされ,西方から東方に向けて勾配1.0%の若干の下り坂となっている。

(中略)

本件ガソリンスタンド敷地の西端には,本件ガソリンスタンドと本件歩道との境界線に至るまでの間,高さ2.5mの壁があり,本件ガソリンスタンド敷地内から被告人車両の進路に沿って本件歩道に進出する場合,左方には,上記壁のほか,店舗の看板等もあることから,左方の歩道の見通しは不良であった

なお、一審の認定では自転車の速度は約33.9キロとしてますが、控訴審では約39.6キロに訂正されています。

 

一審は17条2項や25条の2第1項の一時停止義務等を元にした注意義務を果たせば回避可能だとして有罪にしてますが、一時停止義務を果たしたとしても回避不可能だったとして控訴した事案です。

 

一審の認定は以下の通り。

弁護人は,見通しの悪い本件歩道手前で一時停止しても,左方の歩道上の安全を確認できるわけではないから,被告人に本件歩道手前で一時停止する義務はないと主張する。
しかし,見通しの悪い状況であるからこそ,事故の危険性があり,一時停止が必要となるのである。安全確認が十分にできず,正常な交通を妨害するおそれがあるならば,路外施設の出入りのための進行をしてはならないというのが道路交通法25条の2第1項の趣旨である。確かに本件歩道手前では,運転者からは左方の歩道上の視認範囲は限られるが,全く見えないというわけではないし,右方の安全確認は十分に行うことができる。一時停止することで,左方の安全確認も右方の安全確認も時間をかけて十分に行うことができる。また,本件歩道手前で自車を一時停止させることで,本件歩道を通行する歩行者や自転車の運転者に自車の存在を知らせることもできる。本件歩道手前で一時停止をし,本件歩道の安全確認をすることは,本件歩道を往来する歩行者や自転車等との衝突を避けるために,まず最初に行うべき措置というべきである(なお,この後も,見通しの良い位置に至るまで,微発進と一時停止を繰り返して安全確認義務を尽くすことが求められると解されるが,最初の義務を尽くしていれ
ばA自転車との衝突を避けることができたと認められる。)。

一審はこのような判示をしていますが、広島高裁は以下の理由から「是認できない」として原判決を破棄しています(ただし、新たに注意義務を設定し有罪にしてます)。

原判決は,その説示に照らし,本位的訴因の内容を⑴で当裁判所が理解したのと同様の趣旨で捉えた上でこれを是認し,そのとおりの犯罪事実を認定したものといえる。しかしながら,以下の理由からこの判断は是認することができない。

 

ア 被告人車両の進路に沿って本件ガソリンスタンド敷地内から本件歩道に進出しようとする場合,左方の見通しが不良であったことは原判決も説示するところである。4のとおり,本件においては,高さ2.5mの壁が本件ガソリンスタンド敷地の西端に南北方向に設けられ,本件ガソリンスタンド敷地と本件歩道との境界線上まで及んでいるのみならず,その北端付近には看板等も設置されている。加えて,被告人車両においては,車両先端からルームミラーまでの距離が約120cm,同じく運転席の背もたれまでの距離がおおよそ160cmであるから,本件歩道手前の地点に被告人車両を停止させた状態では,運転者である被告人は,本件歩道と本件ガソリンスタンドの境界線から1m以上手前(南側)の地点にいることになる。記録によれば,同地点からは,上記壁等遮へい物の存在により,本件歩道上の左方の状況については,視認することが困難な状況にあったものと認められる。
そうすると,被告人が仮に本件歩道手前の地点で一時停止をしても,左方から来るA自転車について視認することは困難であるから,本件歩道手前の地点で一時停止をして左右等の安全確認を行ったとしても,左方から来るA自転車を発見,視認して衝突回避措置を執ることはできなかったことになる。
したがって,本位的訴因において本件過失の根拠となる注意義務として行うべきとされた本件歩道手前の地点での一時停止及び左右等の安全確認措置は,本件事故の回避を可能ならしめる有効な措置とはいえず,本位的訴因における上記注意義務及びその違反は,被告人に過失責任を問うことのできないものであったといわざるを得ない。
原判決は,このような過失責任を問うことのできない注意義務を設定した本位的訴因をそのまま是認した点において,その事実認定は,論理則,経験則等に違反した不合理なものといわざるを得ない。

イ また,原判決は,本位的訴因における過失行為と本件結果との因果関係を肯定し,本件結果を本位的訴因における注意義務違反,つまり,本件歩道手前の地点における一時停止及び安全確認の各義務違反に帰責しているが,この判断についても是認することはできない。
すなわち,本件においては,上記のとおり,被告人には,本位的訴因に係る本件歩道手前の地点での一時停止義務及び安全確認義務を課すことはできず,本位的訴因における被告人の行為に,本件結果を帰責することは許されない。
また,仮に,被告人が,本位的訴因における本件歩道手前の地点での一時停止及び左右等の安全確認の各措置を執ったとしても,A自転車が左方から進行して来ることに気付くことができず,ひいては,本件結果を回避することができる有効な措置を執ることができなかったものと認められ,原判決は,当該各措置を履行したとしても,予見することも有効な回避措置を執ることもできないまま発生した結果を被告人に帰責するものであって是認することができない。
この点,原判決は,被告人が本件歩道手前の地点で一時停止をしていれば,被告人車両が本件衝突地点に到達する前にA自転車が同地点を通過し終えていることになるため,本件事故は発生しなかったことを指摘し,これを主たる根拠として,本件歩道手前の地点における一時停止及び安全確認義務違反と本件結果との因果関係を肯定している
しかしながら,上記のような理屈によって,本件において,被告人が本件歩道手前の地点に到達した時点で一時停止をしていたら,その分だけ本件衝突地点への到達が遅れ,本件結果を回避することができたとはいえるとしても,それゆえに,被告人に対し,本件歩道手前の地点での一時停止義務を課し,同義務違反と本件結果との間の因果関係を肯定することは許されない。
すなわち,本位的訴因にいう本件歩道手前の地点での一時停止義務は,飽くまで,本件歩道に進出するに当たって,本件歩道を通行する自転車等の有無及びその安全を確認するために課されるものであり,本件歩道上を左方から進行して来る自転車等との本件衝突地点における衝突を避けるために本件衝突地点への到達を遅らせることを目的として課されるものではない。後者の目的のために本件歩道手前の地点での一時停止義務を課すのであれば,本件歩道上を左方から進行して来る自転車等がいつ本件衝突地点に到達するか予見可能である必要があるが,本件において,本件歩道手前の地点からは本件歩道上の左方の見通しが不良であるため,そのような予見は不可能であるから,後者の目的のために本件歩道手前の地点での一時停止義務を課すことはできないというべきである。また,原判決がいう理屈で本件歩道手前の地点での一時停止義務違反と本件結果との因果関係を肯定することは,結局のところ,一時停止により本件衝突地点への到達が遅れることによって時間差が生じ,偶然に結果を回避できた可能性を根拠として被告人に本件結果を帰責することになり,ひいては,A自転車が本件衝突地点に到達した時点がいつであったかという偶然の事情によって結論が左右されることになって,妥当性を欠く。

過失運転致死傷は過失(注意義務違反)と死傷に因果関係を求めていますが、過失とは予見可能なことを回避しなかったことを意味します。
一審の注意義務違反の認定について、「その注意義務(一時停止)を果たしても事故を回避出来ないから、犯罪が成立しない」としています。

 

けど、これで無罪にしたわけではありません。
新たに注意義務違反を検討して有罪にしてます。

【罪となるべき事実】

本件ガソリンスタンド敷地内からその北方に接する本件歩道を通過して本件車道へ向け進出するに当たり,本件ガソリンスタンドの出入口左方には壁や看板等が設置されていて左方の見通しが悪く,本件歩道を進行する自転車等の有無及びその安全を確認するのが困難であったから,本件歩道手前で一時停止した上,小刻みに停止・発進を繰り返すなどして,本件歩道を通行する自転車等の有無及びその安全を確認して進行すべき自動車運転上の注意義務があるのにこれを怠り,本件歩道手前で一時停止せず,本件歩道を通行する自転車等の有無及びその安全確認不十分のまま漫然時速約4.2kmで進行した過失により,折から本件歩道を左から右へ向け進行して来たA(当時41歳)運転のA自転車に気付かず,A自転車右側に自車右前部を衝突させてAを路上に転倒させ,よって,Aに入院加療150日間を要する脊髄損傷等の傷害を負わせたものである。

 

広島高裁 令和3年9月16日

「本件歩道手前で一時停止した上,小刻みに停止・発進を繰り返すなどして,本件歩道を通行する自転車等の有無及びその安全を確認して進行すべき自動車運転上の注意義務」を怠り傷害を負わせた罪という認定です。

 

見通しが悪いのに、漠然と前に進むことは許されないという話。
一時停止→わずかに前進→一時停止&確認を繰り返せというわけです。

 

小刻みに停止・発進を繰り返すなどして左右等,特に本件歩道上の左方の安全を確認しながらⓅ地点まで進行し,Ⓟ地点で左右等の安全を確認した上で進行すべき注意義務を負っていたものと認められる。
上記注意義務の履行は,本件歩道には自転車が通行すべき部分の指定(道路交通法63条の4第2項)もなく,また,本件歩道手前の地点では,左方から進行して来る自転車等が被告人車両の進出経路上のどの地点にいつ出現するか予見することが困難であることも踏まえると,より強く要請されていたものといえる。

普通自転車通行指定部分が歩道上にない→自転車が歩道の中でどの位置を通行しているか予見が困難だから、より強く注意義務があったとしてます。
これ、普通自転車通行指定部分がないときは自転車には「歩道の車道寄り通行義務」がありますが、事実上誰も守っていない現実もある。
車の運転者は、実態からみて自転車が法規を守っていないことを念頭に注意する義務があるとも言える。

 

ただまあ、若干違和感を感じる部分もあります。
歩道で時速39.6キロ出す自転車を予見するような注意義務が本当にあるのでしょうか?

イ 被告人には,時速約39.6kmという高速度で左方から進行して来る自転車がいるとは予見できないとの弁護人の主張について見ると,時速39.6kmという速度は,自転車の速度としてかなりの高速度であることは否定できないものの,本件歩道がA自転車の進行経路に照らすと直線的な形状である上,1.0%と僅かではあるものの左方から右方に向けて下り坂になっていることなどの事情をも考慮すれば,およそ想定し難いほど特異な高速度とはいえない。このことは,道路交通法上,自転車には原則として歩道上での徐行義務が課されている(同法63条の4第2項)ことを踏まえても左右されない。
そうすると,被告人に時速約39.6kmで進行して来る自転車の存在を予見できなかったとはいえず,結局,弁護人の主張はその前提を欠くものであって採用できない。

ウ また,弁護人の上記主張は,時速約39.6kmという高速度で自転車が左方から進行して来るというのは異常な事態であり,このような異常な行動による危険を避けるために被告人に一時停止の義務まで課すのは不当に過剰なものであるとの趣旨にも解される。
しかしながら,本件歩道上の左方の見通し状況及び本件歩道の交通状況に照らせば,本件注意義務は,至極当然に課されるべきものである。所論を検討しても,A自転車の速度がおよそ想定し難いほど特異な高速度とはいえないことは上記のとおりである上,そのような速度の自転車に被告人車両が衝突した場合には重大な人身被害を生じさせる可能性が高いことを考慮すると,このような事態を回避するため,被告人に対し,本件注意義務を課すことが不当に過剰なものとは解されない。

エ 以上によれば,弁護人の主張は採用できない。

ロードバイク乗りとしても、時速約40キロは速いほうですし歩道で出すような速度とは思えないですが、広島高裁の認定は「およそ想定し難いほど特異な高速度とはいえない」。
しかも自転車に徐行義務があるとしてもという注釈つき。

 

「ウ」で書いてある「本件注意義務は,至極当然に課されるべきものである」については、見通しが悪い歩道を横切る際には必要なことなので、漠然と歩道を横切ることが許されないことについては同意します。
要は高速度通行する自転車の是非とは「別」に、見通しが悪い以上は漠然と進行しちゃダメ。
見通しが悪いなら一時停止だけではまだ足りず、一時停止→わずかに前進→一時停止→確認→わずかに前進→一時停止と最大限注意義務を果たすべき。

何を言いたいかというと

とりあえず、言いたいことを羅列します。

 

①車のドライバーには、かなり高度な注意義務があり、見通しが悪いならそれに応じた運転方法が求められる
②自転車が歩道で約40キロ出すのは異常事態
③過失運転致死傷の立証、ちょっと大変過ぎないか?

①については、免許取った後に慣れから疎かになりがちな部分なので、相当な注意義務があることを再確認したほうがよいかと。

 

問題は②でして、自転車乗りの立場からしても全く容認できない速度で歩道通行していたわけで。
民事だと過失割合がどうなるのか気になりますが、歩道は歩行者のための場所と規定されているわけで、この速度で歩行者を守れるわけもない。

 

③ですが、過失運転致死傷って9割弱が不起訴です。
どういう基準で起訴不起訴を決めているのかは謎ですが、他の判例を見ていても有罪に持ち込むにはそれなりにハードルが高いのも事実。
道路交通法違反が成立するから過失運転致死傷も有罪というわけではないし。
(例、東京地裁 平成15年12月15日)

 

具体的な注意義務違反を認定し、注意義務違反と死傷の因果関係を立証するわけです。
犯罪の認定には慎重さが求められるとは言え、立証するのに壮大なエネルギーが必要になる→不起訴連発になってませんかね?

 

時速40キロで歩道通行する自転車を予見する義務が本当にあるのかは疑問ですが、そもそも、十分な確認をせずに歩道を横切った事実には変わらない。

 

一審の認定の中に以下の判示があります。

見通しの悪い状況であるからこそ,事故の危険性があり,一時停止が必要となるのである。安全確認が十分にできず,正常な交通を妨害するおそれがあるならば,路外施設の出入りのための進行をしてはならないというのが道路交通法25条の2第1項の趣旨である

「おそれ」があるなら進行しちゃダメという規定なのですが、これは自転車でも同じことであって、歩道に限らず見通しが悪いなら相応の速度や方法で警戒するのが大切。

 

けど、歩道を爆走する自転車についても、そろそろなんとかしないとマズイのでは。
この判例は裁判所ホームページにもありますが、気になる方は全文をどうぞ。
判例を見ることは、ついつい疎かになりがちな注意義務を再確認する機会になるかと。
他人のミスは自分に活かさないとね。

(通行区分)
第十七条 車両は、歩道又は路側帯(以下この条において「歩道等」という。)と車道の区別のある道路においては、車道を通行しなければならない。ただし、道路外の施設又は場所に出入するためやむを得ない場合において歩道等を横断するとき、又は第四十七条第三項若しくは第四十八条の規定により歩道等で停車し、若しくは駐車するため必要な限度において歩道等を通行するときは、この限りでない。
2 前項ただし書の場合において車両は、歩道等に入る直前で一時停止し、かつ、歩行者の通行を妨げないようにしなければならない

 

 




コメント

  1. へっぽこ より:

    ウサインボルトの時速がMAX44.6kmだそうです。
    なので歩行者の通行を妨げる可能性がある速度と言えます。
    自転車側の重過失はありますがそれはそれであって、注意しなくてもいいとは言えないと思います。

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