直進バイクと路外から右折合流しようとしたクルマの衝突事故のようですが、クルマが横転とはかなりの衝撃だったんですかね?
10日午前、福岡県田川市で、駐車場から出ようとした軽乗用車と国道を走ってきた大型バイクが衝突する事故がありました。
男女3人が病院に運ばれ、このうち、軽乗用車を運転していた女性が意識不明の重体となっています。
10日午前9時半ごろ、田川市川宮で、コンビニエンスストアの駐車場から出ようとした軽乗用車の右側面に国道を走ってきた大型バイクが衝突しました。
軽乗用車は事故の衝撃で横転したということです。
この事故で、軽乗用車を運転していた50代と見られる女性が意識不明の重体に、軽乗用車の助手席に乗っていた20代くらいの女性と、大型バイクを運転していた30~40代位の男性も病院に運ばれ、治療を受けています。
駐車場から出ようとした軽乗用車と大型バイクが衝突 軽乗用車は横転 男女3人が病院に搬送 1人意識不明 | TBS NEWS DIG (1ページ)10日午前、福岡県田川市で、駐車場から出ようとした軽乗用車と国道を走ってきた大型バイクが衝突する事故がありました。男女3人が病院に運ばれ、このうち、軽乗用車を運転していた女性が意識不明の重体となって… (1ページ)
この事故を刑事、行政の視点から検討してみます。
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刑事、行政の視点
まず整理しますが、こんなイメージか。

おそらくバイクは速度超過していたから4輪車を横転させたと思われますが、速度についての報道はありません。
仮に速度超過していたという前提にしてみます。
怪我人は、赤車両の運転者(意識不明)、赤車両の同乗者、青バイクの運転者。
容疑としてはこうなりますよね。
・赤車両の運転者
→運転行為によりバイクの運転者と自車の同乗者を負傷させた過失運転致傷の容疑
・青バイク運転者
→運転行為により赤車両の運転者と同乗者を負傷させた過失運転致傷の容疑
両者が加害者でもあり被害者でもあるので、両者それぞれについて刑事処分と行政処分が検討されます。
問題になるのは、仮に青バイクに速度超過があるとして、

赤車両が右折合流しようとした時点の両者の距離。
制限速度を遵守していたとしても既に青バイク側に回避可能性がなければ、つまり急制動しても止まれない距離感で赤車両が右折合流したなら、

青バイクに速度超過があったとしても、速度超過罪(道路交通法違反)が成立しても「他人の怪我と速度超過には因果関係がない」ことになる。
そうすると過失運転致傷は不起訴もしくは無罪。
ところが、制限速度を遵守していれば青バイクの急制動で事故を回避可能だったなら、速度超過と他人の怪我は因果関係がある。
その場合は過失運転致傷が成立します。
次に赤車両の視点。
赤車両は右折合流するに際し、車道を通行する車両を確認して安全確保してから右折合流する義務がある(道路交通法25条の2第1項)。
青バイクが著しい高速度で予見不可能だったなら別ですが、右方不注視により青バイクと同乗者を負傷させたとして過失運転致傷が成立しますが、自動車運転処罰法5条但し書きにより、軽症事案なら不起訴が多い。
両者それぞれに刑事処分が検討されるのであって、必ずしもどっちかが有罪、どっちかが無罪ではないのよ。
ここを勘違いする人が多い。
両者有罪になった事例として、千葉地裁 平成14年3月28日判決があります。
この事故は赤信号で交差点に突入した救急車と、青信号で突入した貨物車が衝突した事故。
両者ともに業務上過失致死傷罪に問われた判例です。
| 救急車 | 貨物車 | |
| 信号 | 赤 | 青 |
| 交差点進入速度 | 20~23キロ | 77~92キロ(指定最高速度40キロ) |
| その他 | サイレン&赤色灯 | 飲酒運転 |
| 判決 | 罰金50万 | 懲役2年 |
3 緊急自動車は緊急用務を遂行する場合は,信号機の表示に従わずに進行することができるが,その場合は他の交通に注意して徐行しなければならない。一般車両は緊急車両を優先させる義務があるとはいえ,緊急車両が信号表示に従わないで進行する際の運転には特に慎重を期すべき注意義務が課されているというべきである。被告人Aは,本件交差点に信号表示に従わないで進入するに当たり上記のように左右の交差道路を確認し,右方道路には車両はなく,左方道路には救急車を優先させるため停止していた車両を確認したが,再度右方道路を確認することなく本件交差点に進入したのである。被告人Aは当時は深夜で交通が閑散とし,右方道路は被告人Aから見て下りの坂道で一度は確認したとはいえ,見通しが良いとはいえないこともあるから,停止線を超えて交差点に進入するときに再度右方を確認をして徐行して進行すべきであった。そうすれば被告人Bの運転車両を避けられた可能性があったといえ,この点において,被告人Aの過失は軽微なものとはいえず,同人の負っていた救急隊員としての責務に照らし,また,発生した結果が重大なものであることから,同人の責任は軽視しがたいものがある。
4 被告人Bにおいては,飲酒の上,深夜の交通閑散に気を許し,制限速度のほぼ2倍の高速度で進行していたものであり,その運転自体が危険なものである。本件交差点では青色の信号表示に従っていたとはいえ,被告人Bの本件交差点までの道路は上り坂で同人から見て左方道路はやや見通しが悪い状況であったから,運転者としては交差点においては前方左右を注視し,起こりうる事態に対応できるように運転すべき注意義務があった。しかし,同人は判示のように漫然と高速度で進行したばかりか,上記のとおり衝突直前に至るまでサイレンを吹鳴し警光灯を点灯させていた救急車に気づかなかったというのであるから,その注意義務違反の程度は誠に重大というほかない。本件においては,酒気帯び運転が厳しく非難されるべきことはもちろんであるが,被告人Bが制限速度を遵守し,前方左右を注視して運転していれば,本件交差点付近で夜間に警光灯を点灯しサイレンを吹鳴していた救急車に容易に気づくことができ,それを優先させるべき運転者の義務を果たし得た,すなわち事故を容易に回避できたのであって,被告人Bの本件運転は極めて危険,悪質なものでその過失は大きい。それにより生じた結果を考えれば,同人の責任は極めて重大であるといわなければならない。千葉地裁 平成14年3月28日(刑事)
刑の軽重はあるにせよ、それぞれについて過失と死傷に因果関係があるか検討される。
「どっちが悪いか論」に傾倒すると間違いやすいのよね。
誰が怪我して、怪我させたのは誰なんだという話。
ところで行政処分についても同様にそれぞれの視点から検討されます。
まず、付加点数の「専ら当該違反行為をした者の不注意」(施行令別表第2の3)についてはこのような解釈。
「交通事故が専ら当該違反行為をした者の不注意によって発生したものである場合」の解釈
施行令別表第2の3の表における「交通事故が専ら当該違反行為をした者の不注意によって発生したものである場合」とは,当該違反行為をした者の不注意以外に交通事故の原因となるべき事由がないとき,又は他に交通事故の原因となるべき事由がある場合において,その原因が当該交通事故の未然防止及び被害の拡大に影響を与える程度のものでないときをいうものと解するのが相当である。
東京地裁 平成27年9月29日
これを踏まえて。
①青バイクに速度超過があり、青バイクが制限速度遵守していても回避不可能だった場合。
・青バイクの行政処分→速度超過(付加点数はつかない可能性が高い)
・赤車両の行政処分→安全運転義務違反+「専ら不注意」の付加点数
②青バイクに速度超過があり、青バイクが制限速度遵守していれば回避可能だった場合。
・青バイクの行政処分→速度超過+「専ら以外」の付加点数
・赤車両の行政処分→安全運転義務違反+「専ら以外不注意」の付加点数
それぞれの視点で行政処分が決まるのであって、この場合は双方ともに運転行為により他人を怪我させたのだから、それぞれについて行政処分が検討される。
けど「どっちが悪いか論」に傾倒すると、悪い方だけが行政処分の対象かのような勘違いに陥る。
どっちが悪いか論は無意味
どっちが悪いか論って要は民事でいうところの「過失相殺」の概念ですが、刑事や行政には過失相殺がない。
過失(不注意)と他人の怪我に因果関係があれば過失運転致傷は成立し、行政処分も同様。
どっちが悪いか?なんていっても刑事、行政ともに問われるだけなのよね。
刑罰の軽重はあるにせよ。
2011年頃からクロスバイクやロードバイクにはまった男子です。今乗っているのはLOOK765。
ひょんなことから訴訟を経験し(本人訴訟)、法律の勉強をする中で道路交通法にやたら詳しくなりました。なので自転車と関係がない道路交通法の解説もしています。なるべく判例や解説書などの見解を取り上げるようにしてます。
現在はちょっと体調不良につき、自転車はお休み中。本当は輪行が好きなのですが。ロードバイクのみならずツーリングバイクにも興味あり。



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