以前、グレーチングの問題について判例を紹介したことがありますが、
全額道路管理者が負担する場合もあれば、裁判で「自転車乗りに全責任がある」とした判例もあります。
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道路管理者の責任
基本的な概念としては、個別判断。
ところで、国家賠償法二条一項にいう営造物の設置又は管理に瑕疵があつたとみられるかどうかは、当該営造物の構造、用法、場所的環境及び利用状況等諸般の事情を総合考慮して具体的個別的に判断すべきものであるところ、前記事実関係に照らすと、本件防護柵は、本件道路を通行する人や車が誤つて転落するのを防止するために被上告人によつて設置されたものであり、その材質、高さその他その構造に徴し、通行時における転落防止の目的からみればその安全性に欠けるところがないものというべく、上告人の転落事故は、同人が当時危険性の判断能力に乏しい六歳の幼児であつたとしても、本件道路及び防護柵の設置管理者である被上告人において通常予測することのできない行動に起因するものであつたということができる。
したがつて、右営造物につき本来それが具有すべき安全性に欠けるところがあつたとはいえず、上告人のしたような通常の用法に即しない行動の結果生じた事故につき、被上告人はその設置管理者としての責任を負うべき理由はないものというべきである。
最高裁判所第三小法廷 昭和53年7月4日
その上で、こんな判例があります。
判例は自転車ではなくクルマの事例。
第一車線と第二車線の間にある区分線上に、アスファルト舗装が剥がれて生じた窪みがありました。
窪みの大きさは約50センチ×約25センチ、約30センチ×約30センチ、深さ約3センチの二ヶ所。
走行中のクルマが窪みに陥落したことにより、ホイールとサスペンションが損傷したと訴えた事例です。
一審(神戸地裁平成25年3月28日)は、窪みが軽微とは言えず道路に管理上の瑕疵があったとして原告の請求を一部認容。
しかし二審(大阪高裁平成25年9月27日)は原判決を取り消しし、原告の請求を全部棄却しています。
二審はその理由を5つ挙げていますが、概略を。
②窪みの位置は軽車両が通行するような車道の左側端でなく、第一車線と第二車線の区間線に沿った位置で、車両が通行する際に区間線や本件窪みにタイヤが乗る頻度は高くない
③窪みは追い越しが禁止されている交差点の横断歩道手前にあることから、追い越しのために窪みを踏んで
走行する車両が存在するとは考えにくい
④扁平率が低いタイヤで衝撃がホイールに直接伝わる状況で、制限速度50キロを越えて時速約80キロで走行したこと
⑤本件窪みによる交通事故事例がないこと
以上の理由から一部認容した一審判決を取り消しし、原告の請求を棄却しています。
なお、最高裁は上告棄却&不受理。
この手の裁判って、道路交通法を守っていれば起きなかったトラブルについては請求棄却する傾向があるのかなと思いますが、必ずしもそういう判断ではないのでやはり「個別判断」です。
こういうのって変な話、金銭的な面のみで言うなら行政側は支払ったほうが安かったりします。
というのも、行政側にも弁護士がつくわけですが、自治体にもよるでしょうけど審級ごとに勝っても負けても○○万円みたいな契約になっていることが多いみたい。
私の裁判でも、行政側の代理人弁護士は審級ごとに勝っても負けても100万ちょっとみたいな契約らしく、一審~最高裁まで頑張った行政側弁護士は300万以上の報酬を手にしてます。
ズタボロに負けたのに。
上判例の原告請求額からみても争わずに支払うほうが安いと思われますが、前例を作りたくない行政側はカネを払ってでも争いますし。
基本的な考え方
一審は認めても二審がひっくり返す事例もありますが、
・そもそもなぜその位置を通行する必要があったのか
・道路交通法通りに通行すればその位置を通行する必要がない
・過去に類似事故が起きていない
こういう場合は基本的に不利です。
道路の瑕疵があったとしても、簡単に避けることが可能だったのに避けていないみたいなのはマイナス材料(当たり前)。
その点、逆さグレーチングみたいなのは遠くから見てもわかりませんし、明確に管理責任を問われます。
2011年頃からクロスバイクやロードバイクにはまった男子です。今乗っているのはLOOK765。
ひょんなことから訴訟を経験し(本人訴訟)、法律の勉強をする中で道路交通法にやたら詳しくなりました。なので自転車と関係がない道路交通法の解説もしています。なるべく判例や解説書などの見解を取り上げるようにしてます。
現在はちょっと体調不良につき、自転車はお休み中。本当は輪行が好きなのですが。ロードバイクのみならずツーリングバイクにも興味あり。
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