うーむ。
前の車が、自転車の横を通った際、右足を伸ばし、けるような動きをしていた。
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安全運転義務違反
自転車乗りが右足を横に出して蹴るような動きをしている点については安全運転義務違反になりうる。
ちなみにですが、「車を蹴っても怪我するのは自転車だから、他人に危害を及ぼさないし安全運転義務違反にならないだろ!」という人もいます。
蹴るような動きに驚いて緊急回避行動を取らざるを得ないことから危害を及ぼすおそれがあるので、理論的には関係ありません。
実際、桶川のひょっこりさんは故意の安全運転義務違反と、妨害運転の安全運転義務違反で有罪。
ところで以前何かで見たのですが、確か弁護士さんの解説だったと思う。
ノロノロ運転が安全運転義務違反になりうるみたいに書いてあって。
車の場合は追い付かれた車両の義務がありますが、自転車にはない。
ノロノロ運転で安全運転義務違反?と疑問に思いつつも、調べてみると確かにノロノロ運転を安全運転義務違反として有罪にした判例があります。
判決文の全部はありませんが、イメージとしてはこう。
徐行進行した青車両が安全運転義務違反に問われています。
Aにも徐行義務違反のあることは明らかなところであるが、被告人にも左右道路の安全を確認しなかった過失により、右方道路を進行してくる車両に衝突する危険が存在していたのに、左右道路の見通しのきく交さ点直前において停止しないで同交さ点に進入し、交さ点に進入してからも停止、又は加速しないで右方から進行してくる車両の前面をのろのろと徐行して、安全運転の義務に違反した行為のあったことは否定し得ない。
東京高裁 昭和41年9月26日
見通しが悪い交差点なので双方に徐行義務がありますが、右方からかなりの速度で進行した車両を交差点進入時に確認してもなおのろのろ進行したことを安全運転義務違反としています。
なお、左右道路のほうが幅員は広く交通量も多いとありますが、信号はありません。
他にノロノロ運転を安全運転義務違反とした判例があるのかは知りません。
この判例については細部が不明なので何とも言いがたいところですが、同一進行方向での話ではない点に注意。
まあ、この判例の解釈が今も有効なのかについてはまあまあ疑問があります。
安全運転義務違反って、後述しますが成立要件がかなり厳しく、実際のところ昭和40年代~60年代の判例をみると有罪判決を出しまくりの時期もあれば、やたら慎重になった時期もあるし。
いまだに簡裁判例(いわき簡裁)が重視されてるのも安全運転義務違反くらいかもしれません。
ところで安全運転義務は具体的義務規定でまかないきれないところを補充する意味で設けられたものであるが、その規定の仕方はきわめて抽象的で明確を欠き(特に同法第70条後段についてその感が強い)、それ故に拡大して解釈されるおそれも大きい。(道路交通法立法の際に衆参両院の各地方行政委員会は安全運転の一般原則に関する規準の設定を付帯決議をして要望している。)従つてその解釈にあたつては罪刑法定主義の趣旨に則り、厳格に解釈すべきであり、拡大して解釈、適用することを厳に慎しまなければならない。右のような趣旨から、同法第70条後段により可罰的とされるのは、道路、交通、当該車両等の具体的状況のもとで、一般的にみて事故に結びつく蓋然性の強い危険な速度方法による運転行為に限られるものと考える。(具体的に物件事故が起きたからといつて常に安全運転義務違反があるといえないことはいうまでもない。)
昭和42年1月15日 いわき簡裁
後に最高裁判事になった岩田氏の論文の影響を強く反映した判例だと言われますが、肝心の岩田論文は読んだことがありません笑。
判例タイムズにあるらしいけど。
民事の判例では安全運転義務違反は乱発します。
話を戻します。
実際のところ、冒頭の記事においては自転車には左側端通行義務がありますが、罰則はない。
自転車には追い付かれた車両の義務もないので、おかしな位置を通行する自転車には罰則による規制ができないことになります。
まあ、自転車の並走を認めればもれなく「追い付かれた車両の義務」もついてきますが。
なお、イエローのセンターラインは「はみ出し追い越し禁止」(17条5項4号)なので、後続車がはみ出して追い越しするのは違反…と言いたいところですが、理由はよくわかりませんが対向車に注意しながら「自転車を」はみ出して追い越しすることは取り締まり対象にはなっていません。
教習所でもそのように教えているようですし。
あと、先行自転車が約50センチ幅で左右に動揺しながら進行していた際に、追い越しする車両は警音器を鳴らす義務があるとしている判例があります(東京高裁 昭和55年6月12日)。
何ら不安定性がないなら鳴らすのは違反ですが。
他にノロノロ運転を安全運転義務違反とした判例があるのかは知りません。
冒頭の件も「蹴るような動作」を除けば、単にノロノロ運転だから安全運転義務違反とするのは無理がありすぎる気がします。
事故に結び付く蓋然性が高い運転方法かと聞かれると、果てしなく疑問。
単に迷惑なのと、事故に結び付く蓋然性が高いかどうかは別問題ですし。
安全運転義務違反は難しい
安全運転義務違反はあまりにも抽象的なので厳格に解釈するものとされていますが、明確な基準もないし難しいところ。
物損のみでは「周囲に歩行者等がいなければ」基本的には違反としては成立しません。
上でもチラっと書きましたが、安全運転義務違反を否定した判例(厳格に解釈しようとした判例)は昭和60年代にいくつかあります。
例えば、安全運転義務違反を否定した判例にこういうのがあります。
本件公訴事実中安全運転義務違反の点は、
「被告人は、普通乗用自動車を運転し、熊本市竜田町弓削九州縦貫自動車道下り線169・5キロポスト付近の二車線道路右側追越し車線を植木インター方面から熊本インター方面に向かい疾走中、当時降雨が激しく前方の見通しが必ずしも十分でなく路面も滑走しやすい状態で、かつ、左側走行車線を時速約100キロメートルで走行中の先行車に急接近したのであるから、先行車の進路変更等の措置に対応できるよう適宜速度を調節して走行すべきであるのに、同速度で進行しても先行車の動静に対応できるものと軽信し、適宜速度を調節せず漫然高速度で進行したため、先行車が前方約59・8メートルの地点で走行車線から自車進路上に車線変更したのに対応しようとして左転把の措置を講じて自車を左側路外に逸走させた上路側帯に転覆させて、もつて他人に危害を及ぼすような速度と方法で運転したものである。」
というのである。
しかしながら、右公訴事実中罪となるべき事実として示された被告人の行為は、「適宜速度を調節せず高速度で進行したこと」であるが、
(一) 道路交通法70条以外の同法各条に定められている運転者の義務違反の罪が成立する場合には、その行為が同時に右70条違反の罪の構成要件に該当しても、同条違反の罪は成立しない(最高二小決昭和46・5・13、刑集25・3・556以下)のであるから、制限速度を超える速度で進行したこと自体は、同法にいわゆる速度違反の罪が成立する(ちなみに、本件公訴事実につき、予備的にせよ、故意又は過失による速度違反の訴因、罰条の追加変更の請求をしないことは、検察官の明言するところである。)ことは格別、これと法条競合の関係に立つ同法70条違反の罪を成立させない。
(二) 右公訴事実に示された具体的状況のもとで、被告人に適宜速度を調節すべき義務があるかどうかを検討するに、右公訴事実は、「(イ)当時降雨が激しく前方の見通しが必ずしも十分でなく路面も滑走しやすい状態で、かつ、(ロ)左側走行車線を時速約一〇〇キロメートルで走行中の先行車に急接近したこと」を前提事実とし、「(従つて)先行車の進路変更等の措置に対応できるよう適宜速度を調節して走行すべき」義務があるとするものである。しかし、右(イ)の事実自体からは、被告人において他人に危害を及ぼさないような速度と方法で運転すべき同法70条の具体的な安全運転義務が発生するものではない。
また、右(ロ)の事実によつて、被告人に右のような義務が発生するかというに、先行車は、みだりにその進路を変更してはならず(同法26条の2第1項)、かつ、進路を変更した場合にその変更した後の進路と同一の進路を後方から進行してくる車両等の速度又は方向を急に変更させることとなるおそれがあるときは、進路を変更してはならない(同法26条の2第2項)のであるばかりか、同一方向に進行しながら進路を変えるときは、手、方向指示器又は燈火により合図をし、かつ、これらの行為が終わるまで当該合図を継続しなければならない(同法53条1項。なお、その合図を行なう時期等については同条2項、同法施行令21条参照。)のであるから、先行車において既に進路変更の合図をしていた等の特別の事情が公訴事実に明示されていない本件においては、右(ロ)の事実によつても、被告人において先行車の進路変更を予見し、その措置に対応できるような運転方法をとる義務が生ずるものでもない。
そうしてみると、本件公訴事実に示された事実関係のもとにおいては、道路交通法118条1項2号、22条、又は118条2項の速度違反の罪が成立することは格別、同法70条違反の罪は成立しないものといわなければならない。
熊本地裁 昭和61年11月17日
三点に分けて考えるとこうなる。
①時速100キロで進行
→速度超過の犯罪と法条競合する以上、速度超過の犯罪のみが成立する。
②「当時降雨が激しく前方の見通しが必ずしも十分でなく路面も滑走しやすい状態」で時速100キロ
→これが必ずしも「他人に危害を及ぼす」ことには繋がらないので安全運転義務違反にはならない。
③「左側走行車線を時速約一〇〇キロメートルで走行中の先行車に急接近したこと」
→先行車が進路変更する際には合図履行義務があるし、おかしな進路変更をする先行車がいることを予見して対処する義務はない。
ということで安全運転義務違反は不成立としています。
他の判例も挙げておきますが、安全運転義務違反の成立っていろいろややこしい。
クソ長いので読まないほうをオススメします笑。
大阪高裁の判例ですが、「前掲最高裁の各判例以来、判例・学説上つとに指摘されているところであるのに、実務の運用が一向に改善されないのは、遺憾なことである」と苦言を呈していたりする。
まずは事故の態様と一審判決の内容。
「前記日時ころ、前記車両(すなわち、普通乗用自動車)を運転し、前同所を南から北に向かい、進行するにあたり、考えごとをして前方の安全を確かめないまま時速約50キロメートルの速度で進行したため、進路前方で停止していたA(当時35歳)運転の普通乗用自動車に追突し、もつて他人に危害を及ぼさないような速度と方法で運転しなかつた」旨、また、同第11の事実として、「前記日時ころ、前記車両(すなわち、普通乗用自動車)を運転し、前同所を南から北に向かい進行するにあたり、考えごとをして前方の安全を確かめないまま時速約70キロメートルの速度で進行したため、進路前方で減速進行中のB(当時31歳)運転の普通乗用自動車、その前方で停止中のC(当時41歳)運転の普通貨物自動車、同D(当時23歳)運転の普通貨物自動車に順次玉突き式に追突し、もつて他人に危害を及ぼさないような速度と方法で運転しなかつた」旨、いずれも、各公訴事実(の記載に副う事実を認定し、右両事実に対する罰条としては、「道路交通法119条1項9号、70条」を掲げている(以上の事実は、原判決書により、明らかである。)。
これも安全運転義務違反は不成立。
ところで、道路交通法70条、119条1項9号(2項)所定の安全運転義務違反罪は、同法の他の各条に定められている運転者の個別的義務を補充する趣旨で設けられたものであるが、解釈の仕方のいかんによつては、その処罰の範囲が不当に広がりすぎる危険があることにかんがみると、同罪の構成要件に該当する行為は、車両等の危険な運転行為のうち、当該の道路、交通及び車両等の具体的状況に照らし、一般的にみて事故に結びつく蓋然性の高い危険な速度・方法によるもののみに限られると解するのが相当である。従つて、また、同罪に関する有罪判決中の「罪となるべき事実」の摘示にあたつては、当該の具体的運転行為が、右に述べた意味において事故に結びつく蓋然性の高い危険な速度・方法によるものであることを示す具体的事実関係を明らかにするとともに、これを故意犯として処罰するときは、かかる危険な運転をすること自体につき被告人の認識・認容がある事実を、また過失犯として処罰するときは、これが被告人の過失によつて行われた事実を、いずれも判文上明示することが要求されていると考えるべきである。
かかる観点に基づき本件について考えてみるのに、原判決が「罪となるべき事実」として摘示するところの要点は、1 被告人が、考えごとをして前方の安全を確かめないまま時速約50キロメートル(第8事実)又は約70キロメートル(第11事実)で進行したこと、及び、2 被告人が、進路前方で停止していた先行車に自車を追突させたことの二点に尽きるところ、右認定事実のみによつては、原判決が、安全運転義務違反罪の構成要件に該当する行為としていかなる事実を考えているのか、従つてまた、右行為を被告人が故意で行つたのか過失により実現したとする趣旨なのかが、必ずしも明らかではないといわなければならない。もつとも、さきに摘示した原判示事実中「……したため、……追突し」の記載からすれば、原判決は、2により構成要件該当行為を、1によりそれが故意により実現された趣旨を表現したものと解されないではないが、「考えごとをして前方の安全を確かめないまま……進行した」という判示から、先行車との衝突を故意により惹起したとの趣旨を読み取ることは困難であるし、そもそも、単に自車を先行車に追突させたという摘示だけでは、それが一般的にみて事故に結びつく蓋然性が高い危険な運転行為であることを表わすのに十分でない。この点の非難を回避しようとすれば、原判決は、被告人が「前方の安全を確かめないまま時速約50キロメートル又は約70キロメートルの速度で進行した」こと自体を、安全運転義務違反罪の構成要件に該当する行為として摘示したもので、前記2の点は情状に関する記載にすぎないと解するほかはないが、当時の道路・交通状況、前方注視を欠いて進行した距離・時間等を一切捨象し、右の行為のみによつて、これを一般的にみて事故に結びつく蓋然性の高い危険な速度・方法による運転であると認めることはできないし(例えば、交通閑散な道路を時速約50キロメートルで進行中、運転者が一瞬前方注視を欠いたからといつて、直ちに安全運転義務違反罪の構成要件に該当する行為が行われたと解することが不当であることには、異論はあるまいと思われる。)、「考えごとをして……」という判示に、被告人が前方を注視しないで前記速度により進行すること自体について認識・認容を有するとの意味を持たせるのは、通常の用語例に照らして無理である。
以上のとおり、原判示第8及び第11の各事実に関する原判決の認定は、安全運転義務違反罪の故意犯の「罪となるべき事実」として要求される必要最少限度の記載を具備していないといわなければならないから、原判決には、右の意味において理由不備の違法があるというべきところ、原判決は、右各事実を原判示のその余の事実と併合罪の関係に立つものとして一個の刑を科しているから、原判決は全部破棄を免れない。
大阪高裁 昭和61年7月2日
判決理由です。
(一部無罪の理由)
原判示第8及び第11の各事実と同旨であり、また、検察官が当審において追加した予備的訴因にかかる公訴事実は、被告人は、右第三記載の日時ころ、同記載の車両を運転し、前同所を「南から北に向かい進行するにあたり、進路遠方には信号のため停止中の車両があり、かつ、前方を同一方向に進行中の先行車両も認めていたのであるから、運転中は絶えず前方を注視し、かつ速度を適宜減速するなどして他人に危害を及ぼさない速度と方法で進行すべき注意義務を怠たり、自車が路面の凹凸を通過して上下に揺れたことに気を奪われ前方を注視しないまま速度を時速約70キロメートルの速度で進行したため、進路前方で減速進行中のB(当時31歳)運転の普通乗用自動車他二台の自動車に順次玉突き式に追突し、もつて過失により他人に危害を及ぼさないような速度と方法で運転しなかつた」ものである、というのである。そこで、以下、右各公訴事実の存否につき検討する。
すでに述べたように、安全運転義務違反罪は、当該の道路・交通及び車両等の具体的状況に照らし、一般的にみて事故に結びつく蓋然性の高い危険な速度・方法による運転を故意又は過失によつて行つた場合に適用されるべきものであるから、同罪の成否を決するにあたつては、当該の具体的運転行為が右に述べた意味において危険性の高いものであるか否かを検討し、これが肯定された場合には、かかる運転をすること自体につき、運転者の認識・認容又は注意義務違反が存するかどうかを、さらに考究しなければならない。これらのことは、再三にわたる最高裁判所の判例(第二小法廷昭和46年5月13日決定・刑集25巻3号556頁、第一小法廷同年10月14日判決・刑集25巻6号817頁、第一小法廷同48年4月19日判決・刑集27巻3号399頁)の趣旨に照らして明らかなところと思われる。そこで、右の考え方に基づいて、本件について検討するのに、まず、原判示第八の事実に関し証拠上肯認しうる事実関係は、①被告人は、原判示自動車を運転して、片側三車線の原判示道路を時速約50キロメートルの速度で北進していたこと、②被告人の進路前方には、同方向に進行する車両があり、さらにその前方には、信号機により交通整理の行われている大きな交差点(天神橋八丁目交差点)があつて、何台かの車両が信号待ちしていたこと、③被告人は、同交差点の数十メートル以上手前の地点で考えごとをはじめ、ぼんやりした状態で約50メートル進行したが、その直後、同交差点手前で信号待ちのため停止した先行車が、前車二台に続いて停止しているのを発見し、急制動の措置をとつたものの間に合わず、前車に自車を追突させたこと等に尽きる。そして、右のような道路・交通状況のもとにおいて、被告人が、前方注視を欠いたまま、時速約50キロメートルの速度で約50メートル進行した行為は、一般的にみて事故に結びつく蓋然性の高い危険な速度・方法によるものと認められるから、本件においては、安全運転義務違反罪の構成要件に該当する行為の存在を肯認しうるけれども(なお、本件起訴状公訴事実及び原判決の「罪となるべき事実」は、いずれも、被告人が自車を前車と衝突させた事実を摘記し、あたかもこれが同罪の構成要件該当行為であるかのような体裁をとつているが、前車との衝突の事実は、同罪の成否について本質的な意味を有するものではない。このことは、前掲最高裁の各判例以来、判例・学説上つとに指摘されているところであるのに、実務の運用が一向に改善されないのは、遺憾なことである。)、被告人に、かかる運転行為に対する認識があつたとは認められず、せいぜい過失の存在を肯認しうるに止まる。検察官は、あるいは、考えごとをしながら運転をするという認識がある以上、被告人に前方不注視のまま運転を継続することの認識・認容があると認めうるという見解に立つかとも思われるが、考えごとをするということと前方の注視を欠くということとは、(その間に密接な関連があることはこれを否定し難いにしても、)必ずしも同義ではなく、前者は後者の原因たる事実にすぎないし、本件における考えごとも、被告人が意識的にしたというのではなく、無意識のうちにこれに陥つた疑いも十分あるのであつて、いずれにしても、被告人が、前方注視を欠いた状態で相当距離自車を走行させることを認識・認容していたと認めるのは無理である。従つて、右事実につき、安全運転義務違反罪の故意犯を主張する公訴事実第二については、その証明がないことに帰着する。
(なお、当裁判所としては、被告人が公訴事実を全面的に認め、控訴趣意においてもこの点に関する何らの指摘のない本件訴訟の審理経過にかんがみ、当審において、検察官に対し訴因につき検討の機会を与えたが、検察官は、原判示第11事実につき予備的訴因を追加しただけで、同第8事実については、何らの訴因を追加しなかつたものである。)
次に、原判示第11事実に関し証拠上肯認しうる事実関係は、①被告人は、原判示自動車を運転して、原判示道路(被告人車の進行していた北行車線は二車線、対向の南行車線は三車線)を、制限速度(時速40キロメートル)を超える時速約70キロメートルの速度で北進していたこと、②被告人は、後記衝突地点の約140メートル手前の地点で、車線を変更してバイパスへ左折するため、ゆつくり左転把したが、その時前方約60メートルの地点に先行車がいたこと、③被告人は、その後左折を思い止まり、約60メートル進行した地点で右転把したところ、間もなく、車輪が路面に設置されたゴム製の杭に乗り上ず、車体が震動したため、これに気を奪われ、前方注視を欠く状態に陥つたが、そのままの速度で約30メートル進行したこと、④その間、前方の信号機のある交差点手前に差しかかつた先行車は、その手前で停止中の他の車両に続いて停止するため減速徐行中であつたこと、⑤しかし、被告人は、前記③の理由により、減速徐行中の同車に約7メートルに迫つてはじめて気付き、急制動したが及ばず、同車に自車を追突させるとともに、その前方で停車中の車両二台と、順次玉突き事故を惹起したことに尽きる。(なお、被告人の司法警察員調書には、同日付実況見分調書添付の現場見取図③地点で、速度を時速60キロメートルから同70キロメートルに加速した旨の記載があるが、被告人は、当審公判廷において右加速の事実を否認し、先行車に当つたときその位の速度だつたのではないかと供述しており、被告人が、ゴム製の杭による車体の震動を感じた直後にわざわざ加速したというのは、やや不自然であるから、③地点における加速の事実は、これを認定しない。また、被告人は、捜査段階以来、前方注視に欠けるに至つた理由として、路面に設置されたゴム製の杭に乗り上げ衝撃を感じたことを具体的に供述しているところ、右「ゴム製の杭」がいかなるもので、道路のいかなる部分にどのような状況で設置されていたのかを明らかにする証拠は提出されていない。被告人は、当審において、自車が右杭に乗り上げてガタガタしたのは、右見取図の「②から③の間のセンター車線」上である旨供述しているが、それ以上の具体的供述は得られていないので、被告人がゴム製の杭による震動に気を奪われてから前方注視に欠ける状態で進行した距離は、前記捜査段階の供述《前掲現場見取図の③地点から④地点までの距離約26・6メートル》よりやや多目の約30メートルと認定するに止めた。)
しかして、本件におけるように、前方約60メートルに先行車がいる道路上を、制限速度(時速40キロメートル)を大幅に超過する時速約70キロメートルの速度で、前方の注視不十分のまま約30メートル走行するという行為は、一般的にみて事故と結びつく蓋然性の高い危険な速度・方法によるものといえないことはないと思われる。しかしながら、被告人が、前方注視を欠くに至つたのは、路上に設置されたゴム製の杭に車体が乗り上げた震動に気を奪われたためであり、被告人に、前方注視を欠いたまま相当距離進行することについての認識・認容があつたとはいえないから、本件につき、安全運転義務違反罪の故意犯が成立しないことは、明らかである。そこで、次に、当審において予備的に追加された過失犯の訴因について検討するのに、被告人が右のような車体の震動に気を奪われたことも、被告人の落度とはいえないことはないから、本件につき安全運転義務違反罪の過失犯の成立を認める見解も、もとよりありえないわけではないであろう。たしかに、先行車に追従中の車両の運転者が、右のような理由から一瞬前方注視を欠いたすきに先行車が停止して追突し、人身事故を惹起したような場合に、右運転者に業務上過失致死傷罪の成立することを否定する者はいない。しかし、業務上過失致死傷罪が、現実に生じた人の死傷という重大な結果に原因を与えた注意義務違反の刑責を問うものであるのに対し、過失による安全運転義務違反罪は、事故に至る前段階の危険な運転行為自体に対する過失責任を問うものであるから、同じく過失といつても、各構成要件の予定する注意義務違反の程度には、おのずからちがいがあると解されるのであつて、より具体的にいえば、人の死傷という結果に原因を与えた注意義務違反は、ささいなものでも過失と評価されうるが、その前段階の行為の可罰性を基礎づける過失からは、通常の運転者心理からみてある程度やむをえないような軽微・瞬間的なものは除かれるということになろう。もし、そうではなく、いやしくも業務上過失致死傷罪における過失と評価されうる程度の注意義務違反がある限り、その前段階の安全運転義務違反行為についても必ず過失があると考えなければならないとすると、同罪の構成要件該当行為を前記のように限定的に解釈してみても、その処罰の範囲が、なおかつ広きに失し相当でないと思われる。
そこで、以上の前提に立つて、本件につき考えてみると、車体が路上の異物に触れて震動した場合に、運転者が一瞬これに気を奪われて前方注視がおろそかな状態に陥ることは、日常往往にして起こりうることであり、運転者の心理として、ある程度やむをえないという面があると同時に、これによつて被告人が前方注視を欠いて進行した時間は、当時の被告人車の速度と進行距離に関する前記の認定を前提とすると、わずかに約1・5秒間であつて、右のような理由によりかかる短時間前方注視を欠いた点を捉えて、被告人に安全運転義務違反罪の過失犯が成立すると考えるのは、相当でないというべきである。もつとも、当時、時速約70キロメートルという高速で進行中の被告人としては、車体の震動に気を奪われて前方注視が困難になつたのであれば、直ちに速度を調節して安全な速度で進行すべき注意義務があるというべきであり、検察官が予備的に追加した訴因中で「速度を適宜減速する」義務を主張しているのは、右の観点から首肯しうる。しかしながら、本件事実関係のもとにおいては、被告人が車体の震動に気を奪われたのち、速やかに減速措置を講じたとしても、その間の反応時間、空走時間などを考慮すれば、問題の30メートルの大半は、全く又はほとんど減速されないままの状態で通過してしまうと考えられるので、被告人の減速措置義務違反の過失を肯定してみても、右過失は、「前方注視を欠いた状態における時速約70キロメートルによる約30メートルの走行」という本件安全運転義務違反罪の構成要件該当行為との間に因果関係を有しないというべきである。このように考えると、原判示第11事実に関しては、故意による安全運転義務違反罪はもちろん、過失によるそれも、その成立を認めることが困難であるといわなければならない。
右のような結論に対しては、制限速度を大幅に超える高速による旨運転を放任するのかという批判がありうるかと思われる。しかし、同じく前方注視義務違反といつても種々の態様のものがありうるのであつて、当裁判所といえども、さしたる理由もなく、ある程度の時間継続して行われた前方不注視運転(原判示第8事実におけるそれなどが、適例である。)の可罰性まで否定するものではないし、軽微・瞬間的な前方不注視義務違反の場合でも、これにより人身事故が惹起されたときは、その結果に対する過失責任を問いうることは当然であるから、右の批判はあたらない。そして、よく考えてみると、原判示第11事実における運転行為の危険性は、じつは、主として制限速度を大幅に超える高速運転の点にあるのであつて、かかる行為は、むしろ速度違反罪により処罰するのが本来の筋であり、それとは別に、右の運転中に行われたささいな前方注視義務違反を捉えて、過失による安全運転義務違反罪の成立を肯定するときは、元来、他の各条所定の運転者の個別的義務を補充するという目的で設けられた安全運転義務違反罪の立法の趣旨にも背反する結果を招来してしまうことにもなろう。
大阪高裁 昭和61年7月2日
安全運転義務違反を真剣に考えると、冒頭の「蹴るような動作」はともかくとして、単にノロノロ運転したことを安全運転義務違反とは見なせないと思われますが。
けど、違反にならないから好き勝手やるという意見については違うと思う。
2011年頃からクロスバイクやロードバイクにはまった男子です。今乗っているのはLOOK765。
ひょんなことから訴訟を経験し(本人訴訟)、法律の勉強をする中で道路交通法にやたら詳しくなりました。なので自転車と関係がない道路交通法の解説もしています。なるべく判例や解説書などの見解を取り上げるようにしてます。
現在はちょっと体調不良につき、自転車はお休み中。本当は輪行が好きなのですが。ロードバイクのみならずツーリングバイクにも興味あり。
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