PVアクセスランキング にほんブログ村 当サイトはAmazonアソシエイト等各種アフィリエイトプログラムに参加しています。
スポンサーリンク

信号がない交差点の、優先道路と信頼の原則。

blog
スポンサーリンク

今回は若干説明しにくい判例になりますが、複雑な交差点と信頼の原則についての刑事事件(業務上過失致死)になります。

スポンサーリンク

優先道路と信頼の原則

まず、事故現場の交差点から。

2つの交差点があることがわかるでしょうか?

 

①信号交差点→横断歩道で囲まれた「ト型」のT字路

②信号がない交差点→北側横断歩道のわずかに北にあり、西側に凸のT字路(中央線があるので優先道路あり)

 

備考としては「黒」の部分は防音壁で交差点②の見通しは悪い。
交差点②の左方道路には一時停止規制があります。

 

では事故概要。

被告人は○✕ころ大型貨物自動車(以下、「被告人車」ともいう。)を運転して、南北道路の西側第一通行帯を時速約40キロメートルで北進し、隣接交差点の手前(南方)約60mの地点で同交差点の対面する信号機が青色の燈火を表示していたのを現認したが、その後は右信号がなお青色の燈火を表示し続けているものと軽信して、信号を見ないで進行し、隣接交差点を通過し本件交差点内を進行したとき、たまたま左方道路から本件交差点内に進入して右折しようとしていた福元運転の原動機付自転車(以下、「被害車」ともいう。)に気づかぬまま、同車前部付近に自車左側面部(同車の先端から約2.95m後方付近)を衝突させて同人を路上に転倒させ、その結果同人を頭蓋骨複雑骨折によりその場に即死させたこと、なお、隣接交差点の南北道路に対面する信号機の周期は青色76秒、黄色3秒、赤色33秒であり、被告人車が隣接交差点の北端からその南方30mの地点に達する以前に、右信号機は黄色の燈火を表示し、該北端を通過した時点では赤色の燈火を、前記歩行者用信号機は青色の燈火を、それぞれ表示していた

原付が交差点②に進入して右折しようとしたところ、被告人車が衝突した事件です。
交差点②は信号がなく、優先道路は被告人車。

 

優先道路を進行する車両には見通しが悪い交差点でも徐行義務がないわけで、どのように考えるのでしょうか。

(徐行すべき場所)
第四十二条 車両等は、道路標識等により徐行すべきことが指定されている道路の部分を通行する場合及び次に掲げるその他の場合においては、徐行しなければならない
一 左右の見とおしがきかない交差点に入ろうとし、又は交差点内で左右の見とおしがきかない部分を通行しようとするとき(当該交差点において交通整理が行なわれている場合及び優先道路を通行している場合を除く。)。

道路交通法上は明らかに被告人車に優先権があり、過失運転致死傷の注意義務を考える上でも、「特別な事情がない限り」は非優先車両が優先権を守る前提で行動してよいはず。

本件交差点は隣接交差点とは一応別個独立の交差点と解され、交通整理の行なわれていなかった本件交差点において、南北道路は左方道路に対し優先道路であるので、その限りでは左方道路を通行する車両は、優先道路を通行する車両の進行妨害をしてはならないのである(道路交通法36条2項)。したがって、本件において特段の事情が認められない限り、原判決の説示するように、優先道路を通行する被告人としては、左方道路から本件交差点に進入する車両が右の進行妨害避止義務を遵守するのを信頼して被告人車を運転すればたり、この義務を怠って本件交差点に進入右折しようとする車両のありうることまで予想すべき注意義務はないものといえよう。
しかしながら、本件の場合右にいわゆる特段の事情の存否こそ検討を要するところである。

先ず、前記3の事実関係によれば、本件交差点と隣接交差点は位置的に極めて近接し、機能的には交通信号に媒介されて、実際的には統一的な交通規制であるかの如き関係状況が事実上醸成されていたこと、かかる実情とくに、左方道路から本件交差点に進入し右折する車両の運転者は、隣接交差点の北側付近横断歩道の東端に設けられた歩行者用信号機に依存し、これが青色の燈火を表示するときは、隣接交差点の南北道路に対面する信号機は赤色の燈火を表示するところから、南北道路を北進する車両は右信号に従い隣接交差点の南側で停止し、本件交差点に進入してくることはないものと信じ、右方道路から隣接交差点に進入し右折する車両の有無だけを確認して、本件交差点に進入し右折する実状にあったことが認められ、更に、右3末尾の事実関係によれば、被告人は本件交差点における車両交通の実情、とりわけ左方道路からの右折車両が前示の如き進入状況にあることも知り得たものと認められるので、自車の対面する信号が赤色であることを認知すれば、左方道路から本件交差点に進入し右折する車両と衝突事故を惹き起こすおそれのあることを予見することもできたはずであるから、本件交差点への進入を思い止まり、おそらく対面信号に従い直ちに停車する措置を講じて衝突事故の発生を未然に防止したであろうと推認される。

しかるに、前記4の事実関係によれば、被告人車が隣接交差点の北端からその南方30mの地点を進行していたときには既に同交差点に設置された南北道路を進行する車両の対面する信号機が黄色の燈火を表示し、同交差点の北端付近の横断歩道に達するころには右信号機が赤色の燈火を、同交差点と本件交差点の間の横断歩道の両端に設けられた歩行者用信号機は青色の燈火をそれぞれ表示するに至っていたことが認められる。
しかして、右は被告人が対面する信号機の表示する信号を注視していなかったため、同信号機が黄色燈火を表示していたことも、その後赤色燈火を表示していたことも看過したことに因るものであり、かかる状態で被告人が漫然従前の速度で進行したことにより、本件事故を惹き起こすに至ったものである。
ところで、本件交差点は以上のような関係状況にあるため、隣接交差点の南北道路に対面する信号機が赤色燈火(歩行者用信号機は青色燈火)を表示する限り、左方道路から同交差点に進入し右折する車両に南北道路の車両に対する進行妨害避止義務は全く期待できない実情にあり、かつ被告人においてもかかる実情にあり、かつ被告人においてもかかる実情にあることを知り得たことが窺われる本件において、被告人において被害車のような左方道路からの右折車両が被告人車の進路に進入しないものと信じるのが相当であるとは到底認められず、しかも、被告人の側においては、赤信号無視という交通の安全確保のための最も基本的な交通法規違反があり、それがなければ本件事故は生じなかったことも明らかである。したがって、右の諸事情は原判決のいうような信頼の原則を是認することができない特段の事情にあたるものというべきであると同時に、被告人に対し後記の如き注意義務違反を肯定すべきところであって、被告人はその業務上の過失責任を免れないものといわなければならない。

 

福岡高裁 昭和51年8月27日

結局、交差点①と②は事実上一体的に動いているような実情を踏まえれば、交差点①の信号が赤である以上は左方道路から進入してくる車両は、特に「横断歩道の歩行者用信号」が青になれば進入してくることが予見可能。

最初から信号を遵守していれば事故は起きてませんが、交差点②について優先道路だからと信頼の原則を適用できないとしています。

 

優先道路と優先権

過失運転致死傷罪は過失について争うので道路交通法の優先権と必ずしも連動するわけでもなく、不注意と事故発生に因果関係があれば成立しますが、こういう交差点ってまあまああります。
信号交差点からわずかに外れた位置に小道が交差しているみたいな交差点は。

 

結局のところ、大元になる信号交差点の信号機に注意していればそれで基本的には防げる事故なので、黄色灯火で止まれるのに突破とかすると、思わぬところから車両が進入してきて事故になります。

 


コメント

タイトルとURLをコピーしました