先日書いたこちら。
散歩中の犬のリード(引き綱)に絡まって転倒した自転車に腕を引っ張られてけがをしたとして、飼い主の女性が、自転車を運転していた男性に約6900万円の損害賠償を求めていた訴訟は1日までに、大阪高裁で和解が成立した。一審の神戸地裁は自転車側に約1570万円の支払いを命じたが、高裁は過失を重く捉え、自転車の男性が解決金2500万円を支払うことで合意した。
(中略)
一審判決は原告、被告の双方に過失を認めたものの、「慎重な運転が求められる場所だった」と自転車側の安全配慮義務違反を大きく捉え、過失割合を原告3、被告7としていた。原告代理人によると、高裁は割合を2対8とする和解案を提示し、双方が受諾した。
一審判決によると、事故は2015年4月、宝塚市の武庫川河川敷遊歩道で発生。犬を連れた女性の近くを男性のロードバイクが通過した際、リードとロードバイクのチェーンが絡まって男性が転倒した。リードを持っていた女性も右腕を引っ張られて、まひが残った。
【独自】犬のリードに絡まり転倒事故、飼い主と自転車の過失割合は2対8 自転車の男性2500万円支払いで和解(神戸新聞NEXT) - Yahoo!ニュース散歩中の犬のリード(引き綱)に絡まって転倒した自転車に腕を引っ張られてけがをしたとして、飼い主の女性が、自転車を運転していた男性に約6900万円の損害賠償を求めていた訴訟は1日までに、大阪高裁で和
「ロードバイクが爆走していたから過失割合が大きい」とか「歩道なのに徐行していなかった自転車がそもそも違反」みたいな意見も散見されますが、一審(神戸地裁 令和5年7月21日)が認定した内容はこちら。
本件遊歩道は、公園敷地内の、歩車道の区分がなく、自転車・歩行者の通行区分もない見通しが良好な道路で、交通規制もない。本件遊歩道の路面は平坦なアスファルト舗装で、本件当時は乾燥していた。本件遊歩道は、本件現場の先で、左にカーブしており、カーブ部分の南側には、扇状の階段(以下「本件階段」という。)がある。
遊歩道は道路交通法上、歩道ではなく「歩道と車道の区分がない道路(2条1項1号)」なので徐行義務はなく、歩行者の横を通過する際には安全側方間隔又は徐行(18条2項)。
第十八条
2 車両は、前項の規定により歩道と車道の区別のない道路を通行する場合その他の場合において、歩行者の側方を通過するときは、これとの間に安全な間隔を保ち、又は徐行しなければならない。
なお、自転車の速度はこのように認定されています。
被告は、ロードバイクである被告車を運転して、本件遊歩道のやや左側を、西から東に向かって、時速約20キロで走行していた。被告は、別紙図面3の①地点で、進行方向の(ア)地点に原告が佇立していること、被告からみて原告の左側の草むらに人(B)と同人が連れた犬がいることを認識したが、この時、原告がリードを把持して本件犬を連れていることは認識していなかった。被告は原告の右側のスペースが広く空いているように見えたため、原告の右側を通過しようと考え、また、進行先で遊歩道が左にカーブしていることから、被告車のペダルを漕ぐのをやめて速度を落として進行し、原告の右側を走行しようとした。被告が、②地点を通過しようとした時、原告が把持していた本件リードと、被告車のチェーン部分等が接触して絡まり、被告車はその場において停止する力を受けた一方、被告の身体は、慣性によって被告車から離れて、前方に進んで芝生の上に倒れ込み、被告車も倒れた。他方、原告は、右腕が引っ張られる形で転倒した。
これらが事故の態様です。
時速20キロから減速体制に入っている自転車を「爆走」と呼ぶのは違和感がありますが、そもそもの争点は何でしょうか?
Contents
そもそもの争点とは?
争点は主に二点。
①過失割合として、被告(ロードバイク)の主張は「原告の過失は5割を下らない」。
②被告が契約していた保険会社が、原告の後遺症について認定した内容と、心因的素因減額の有無。
報道にありますが約6900万の支払いを求めて提訴し、一審はロードバイク側の過失を70%と認定し約1570万の支払い判決。
二審はロードバイク側の過失を80%と認定し、2500万の支払いで和解。
過失割合も確かに争点なんですが、話からするとロードバイク側が契約していた保険会社が認定した後遺障害の等級に原告が不満があったから提訴したものと考えられます。
一審は原告の損害について約3400万と認定した上で、心因的素因減額として30%減額し、そこから30:70の過失相殺をしたため約1570万。
約3400万×70%×70%-既払分というイメージです。
二審はおそらくですが、一審が認定した「心因的素因減額として30%減額」を認めず、さらに過失割合を20:80に変更したから2500万なんだろうと思われますが、二審の内容はわかりません。
先日書いたように、警察官が行った再現はこちら。
警察官は、本件リードの存在を認識しない前提で、3度にわたり、通常の状態で前方を注視しながら自転車を走行させる実験を実施したが、本件リードを張った状態及び緩ませた状態のいずれにおいても、本件リードを発見することは困難であった。一方、警察官が、本件リードの存在に注意しながら時速約20キロで自転車を走行させた時には、本件リードを約9m手前で視認可能であった。
過失割合に関係する部分の判示はこちら。
被告は、被告車を運転して本件遊歩道を走行するにあたり、本件現場付近には歩行者が存在したのであるから、周囲の状況を確認して安全に走行すべき義務があるにもかかわらず、これを怠った過失がある。他方、原告にも、他の自転車等の交通当事者が通行することが合理的に想定される本件現場付近で本件犬の散歩をするにあたり、本件リードを適切に操作し、本件犬との距離を適切に保つなどして、人や自転車等の他の交通当事者の通行を妨害しないようにすべき注意義務があったにもかかわらず、これを怠った過失がある。そして、本件事故が公園内であって、散歩や遊戯によって歩行者が不規則・予想外な行動をとる可能性が相応にあるような場所であり、自転車で通行する被告に対して比較的慎重に運転すべきことが要求される場所での事故であることからすると、本件リードの視認可能性が極めて低く、原告の本件リードの操作等が適切とは言い難い面があったとの事情等を考慮したとしても、本件事故における原告の過失相殺率は、30%とするのが相当である。
実態としてはサイクリングロードみたいな場所でもあったようですが、遊歩道で「散歩や遊戯によって歩行者が不規則・予想外な行動をとる可能性が相応にあるような場所」であることからすれば、自転車はもっと慎重に運転すべきだったとしリードの視認可能性が低くことを踏まえてもロードバイクの過失は70%と判示。
報道からすると大阪高裁はさらにロードバイク側の注意義務違反を重くみたようですが、おそらく争点のメインは後遺障害の認定と心因的素因による減額を認めるかどうかだったのではないかと思われます。
実際のところ
犬は舗装部分から外れた草地にいて、リードは巻き取り式なので犬とリードの視認可能性が低い状況ですが、民事って被害者救済なので歩行者対自転車の事故であれば自転車の注意義務違反が強く反映されます。
要はここ。
散歩や遊戯によって歩行者が不規則・予想外な行動をとる可能性が相応にあるような場所であり、自転車で通行する被告に対して比較的慎重に運転すべきことが要求される場所での事故
時速20キロからペダリングを止めて減速体制に入っていても、歩行者の横を通過する際には「注意義務違反」として評価されます。
一審判決文を見る限り、ロードバイク側は保険に入っていたので支払いするのは保険会社と考えられますが、メインの争点は後遺障害の認定と心因的素因による減額なんだと思う。
約6900万の請求に対し、一審は約3400万と認定した上で心因的減額30%、過失相殺30%としてます。
これらの事故態様からすると、サイクリングロードみたいな狭い場所で歩行者の横を通過する際には安全側方間隔と徐行(道路交通法18条2項)を厳守することが大事だし、自転車保険に入っておくことはマストとしか言えない。
そして以前書いた内容にしても、
サイクリングロードで歩行者が突然進路変更して衝突したとしても、歩行者過失はせいぜい10~20%。
「回避不可能だろ!」と思っても、裁判所が認定する注意義務は「回避行動以前の注意義務」を問題にする。
例えば白山通りの自転車レーンにしても、
歩行者が直前横断したら自転車側からすると回避不可能に陥りますが、民事の過失割合を考える上では「それ以前の注意義務」を問題にする。
ここの自転車レーンが「安全」という人ってリスクをわかってないんだろうなと思ってしまいますが(実際に歩行者の直前横断を回避するために骨折した事例あり)、予見可能な以上は徐行に近い速度でしか通行できないわけだし…
サイクリングロードを走る人は歩行者の横は徐行がマスト、自転車保険ももちろんマストですね。
ぶっちゃけた話、視認困難な巻き取り式リードも勘弁して欲しいですが。
2011年頃からクロスバイクやロードバイクにはまった男子です。今乗っているのはLOOK765。
ひょんなことから訴訟を経験し(本人訴訟)、法律の勉強をする中で道路交通法にやたら詳しくなりました。なので自転車と関係がない道路交通法の解説もしています。なるべく判例や解説書などの見解を取り上げるようにしてます。
現在はちょっと体調不良につき、自転車はお休み中。本当は輪行が好きなのですが。ロードバイクのみならずツーリングバイクにも興味あり。
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