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刑事と民事の過失は別。進路変更して2輪車を巻き込んだ事例から。

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結構不思議に思うのですが、過失運転致死傷罪(刑事)が無罪になると、民事過失割合が100:0(加害者過失0%)になると勘違いしている人がチラホラ。

 

ざっくりいうと、刑事と民事は連動していません。
刑事無罪で民事加害者過失が80%なんて事例もあるし、やや珍しい判例ですが刑事有罪で民事は加害者無過失なんてことすらある。

 

ちょっと極端な事例を挙げてみます。

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加害者が進路変更して2輪車を巻き込んだ

刑事の判例は大阪高裁 昭和45年5月1日。
事故の概要です。

被告人車(青)は時速55キロで進行中、高速度でセンターラインから車体の半分以上がはみ出たまま進行してくる対向車を30~40m先に確認。
被告人はビックリして、やや減速しながら左側に進路変更したところ、後続オートバイの進路を塞ぎ事故が起きた。

刑事事件では、緊急避難を適用して無罪。

この衝突の危険を避けんとして把手を左に切り、約1に寄つた被告人の行動は、現在の危難を避けるため已むことを得ない行為といわざるを得ない。
その際多少減速した点は対向車との衝突を避けるためには不必要な処置かも知れないが、高速で進行したまま把手を操作すること自体危険な措置であるから、その際被告人が咄嗟に原判決の認める程度の減速をしたこともまたやむを得ぬ処置と解すべきである。しかも被告人のとつた右行為により。後続する被害者運転の自動二輪車と衝突したことによつて同人に被らしめた損害が、前記対向車との正面衝突により発生すべき損害を超えるものとは考えられないから、本件は刑法第37条第1項前段に所謂緊急避難行為であるといわなければならない。

大阪高裁 昭和45年5月1日

で。
もし刑事無罪=民事無過失というルールにしたら、巻き込まれた被害者は一方的に泣き寝入りする。
いきなり進路を塞がれ、回避不可能な状態になり大怪我したのに補償がないなんてあり得ないわけでして。

 

民事的にどうなるかというと、例えば過失割合がこうだとする(数字はテキトー)。

加害者A 加害者B 被害者
20 70 10

被害者が負った損害が仮に1000万として、過失割合で割るとこう。

加害者A 加害者B 被害者
過失割合 20 70 10
負担額 200万 700万

被害者はそれぞれの加害者に請求して払ってくれればスムーズですよね。

加害者Aが200万、加害者Bが700万の合計900万を払ってくれればスムーズですが、もしもですよ。

加害者Bが偽造ナンバーで行方不明だとすると、被害者は200万しか受け取れないのか?という問題が起きてしまう。
もしくは加害者Bは無保険で支払い能力がない場合など。

被害者は一方的に被害を受けて泣き寝入りしたら被害者の救済にならないので、共同不法行為責任ではどちらに請求することも可能になっている。

 (1) 複数の加害者の過失及び被害者の過失が競合する一つの交通事故において,その交通事故の原因となったすべての過失の割合(以下「絶対的過失割合」という。)を認定することができるときには,絶対的過失割合に基づく被害者の過失による過失相殺をした損害賠償額について加害者らは連帯して共同不法行為に基づく賠償責任を負うものと解すべきである。これに反し,各加害者と被害者との関係ごとにその間の過失の割合に応じて相対的に過失相殺をすることは,被害者が共同不法行為者のいずれからも全額の損害賠償を受けられるとすることによって被害者保護を図ろうとする民法719条の趣旨に反することになる。

最高裁判所第二小法廷 平成15年7月11日

被害者過失10%を控除した900万について、加害者Aと加害者Bが連帯して900万を支払う義務があるので、加害者Bが行方不明なら加害者Aが900万支払うことになります。

 

刑事はあくまでも刑罰を課す基準で考えるし、民事は起きた損害について被害者救済の観点で考える。
刑事と民事が連動していると、不合理なんですね。
無罪になることは、民事無過失になることを意味しない。

被害者的には「賠償して」なので

ちょっと極端な事例を挙げましたが、対向車を避けるべく進路変更した被告人を刑事責任として非難することは出来なくても、進路変更して2輪車を巻き込んだことは事実なので民事の賠償責任は負う。

 

もうひとつ極端な事例を挙げますが、このような事故がありました。

自転車が赤信号の自転車横断帯を避け、ワケわからん位置から横断。

死角から横断してきた自転車を避けるため、青車両は左側に進路変更して停止。

第一車線を通行していた車両は衝突を回避するため、進路変更したところ歩道を歩いていた歩行者と衝突した事故です。
刑事責任は以下のようになっています。

横断自転車 青車両 黄車両
重過失致死罪(実刑) 不起訴 不起訴

青車両と黄車両は緊急避難になると考えられますが、民事責任上は横断自転車、青車両、黄車両の共同不法行為責任になる。

 

もしもですよ。
横断自転車が無保険で支払い能力がないとすると、被害者は泣き寝入りしてしまいます。
だから仮に横断自転車に支払い能力がない場合でも、被害者は共同不法行為責任として青車両と黄車両に全額負担するように請求可能になっている。
それこそ、黄色車両も無保険だとしても、青車両に全額請求可能。

 

これらの仕組みって被害者救済の観点で考えられているので、それらを理解して保険に入っておかないとまずいのよね。
被害者的には、加害者の誰が払ってくれてもいいから全額請求可能。

 

刑事と民事は目的が別なので、刑事の判断と民事の判断が一致しないことなんてザラですが、要は「仕方なくやってしまったことを犯罪と捉えることは出来なくても、被害者を生んだ以上は賠償責任まで免除するわけではない」というところでしょうか。

 

民事的には、被害者救済の仕組みがまあまあ用意されていて、加害者無保険のときには「政府保障事業」で自賠責相当の支払いを受けることはできる。
自賠法3条により、加害者は自らの無過失を立証しない限り人身損害の賠償責任を負う。
過失相殺(民722)は、「平等」ではなく「公平」。

 

刑事無罪と、民事無過失はイコールではありません。

 

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