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信号遵守義務違反の故意と過失。

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信号遵守義務は道路交通法7条に規定されていますが、

(信号機の信号等に従う義務)
第七条 道路を通行する歩行者等又は車両等は、信号機の表示する信号又は警察官等の手信号等(前条第一項後段の場合においては、当該手信号等)に従わなければならない。

この規定、罰則が二種類ある。

第百十九条 次の各号のいずれかに該当する者は、三月以下の懲役又は五万円以下の罰金に処する。
二 第七条(信号機の信号等に従う義務)、第八条(通行の禁止等)第一項又は第九条(歩行者用道路を通行する車両の義務)の規定の違反となるような行為をした者(当該行為が車両等の通行に関して行われた場合に限る。)
3 過失により第一項第二号、第五号(第四十三条後段に係る部分を除く。)、第十四号、第十六号若しくは第十九号又は前項第二号の罪を犯した者は、十万円以下の罰金に処する。

なんか「事故を起こした場合は119条3項になり罰則が重くなる」という珍解説をしている人がいますが、

この人ってどういう理解力なのか…

119条1項2号 119条3項
3月以下の懲役または5万以下の罰金 10万以下の罰金

懲役刑がある119条1項2号のほうが罰則が重いわけです。
この人が致命的に勘違いしているのは、119条1項2号は「信号無視の故意犯」、119条3項は「信号無視の過失犯」の話。
赤信号だと「認識して」信号無視したなら119条1項2号(故意犯)になり、赤信号だと認識せず「過失(不注意)により」信号無視した場合は119条3項になる。

 

この報道で出ているのは、「信号を見落とした過失」により信号無視したわけなので、事故を起こしたから119条3項になるわけじゃないのよね。
この人、「過失」の意味をわかってないからいつも謎解釈に至っているように思えますが…過失とは不注意のこと。
道路交通法は刑法なので特別な規定がない限りは過失による違反は処罰の対象にはなりませんが(刑法38条)、信号遵守義務違反の「故意」とは「赤信号だと認識しながら信号無視すること」。
119条3項で信号遵守義務違反罪の過失犯の処罰規定を置いているから「信号を見落とした過失による信号無視」も処罰対象になるわけで…

 

例えば以前取り上げた赤信号無視最高裁判例。

なぜ?赤信号無視で最高裁まで?
以前取り上げたこちらの判例について質問を頂いたのですが、ちょっと分かりにくいのかな、この判例。被告人は「信号無視はしてない!」と裁判で争ったわけではありません。争ったのはなに?まずは事件の概要。(1) 被告人は,平成27年7月12日午後8時...

まずは事件の概要。

(1) 被告人は,平成27年7月12日午後8時11分頃,大阪府内の道路において,赤色の灯火信号を看過してこれに従わないで,停止線を越えて普通乗用自動車(以下「被告人車両」という。)を運転して進行した。同所付近で交通取締りに従事していた警察官らは,上記事実を現認したことから,直ちにパトカーを発進させて追跡を開始し,被告人車両を停止させた。警察官らは,被告人に対し,赤色信号無視を現認したなどと告げて降車するように求めたが,被告人が,黄色信号だったと主張して違反の事実を認めず,降車を拒否し,運転免許証も提示しなかったことから,被告人を道路交通法違反(信号無視)の現行犯人として逮捕した。
(2) 被告人は,交通取締りの現場や逮捕後に引致された警察署で,警察官らに対し,対面信号機が赤色であったことを示すパトカーの車載カメラの映像(以下「本件車載カメラ映像」という。)の提示を求めたが,警察官らは,その映像が存在するにもかかわらず,そのようなものはないと言って拒否した。警察官らは,被告人を釈放した後,交通反則切符を作成し,被告人に対し,交通反則告知書の記載内容及び交通反則通告制度について説明したが,被告人が「信号は黄色や」などと上記主張を繰り返し,交通反則告知書の受領を拒否したことから,本件を受領拒否事件として処理することとした。
(3) 被告人は,検察官から取調べを受けた際も,対面信号機は黄色であったと主張したが,その後,本件車載カメラ映像を見せられると,赤色の灯火信号を看過した事実を認め,交通反則通告制度の適用を求めた。検察官は,平成28年4月5日,被告人を起訴し,第1審裁判所は,公判期日を開いて審理した上,同年6月14日,公訴事実どおりの事実を認め,被告人を罰金9000円に処する判決を言い渡した。

これって被告人の言い分は「黄色信号だった」なので「赤信号とは認識してない」わけですよね。
だから公訴事実も判決も「過失による信号遵守義務違反罪(119条3項)」として有罪(枚方簡裁 平成28年6月14日)。

 

そもそも過失により信号無視して事故を起こしたなら、過失運転致死傷罪に信号遵守義務違反罪(道路交通法違反)は吸収されるわけで…

 

ところで、この事故。

14日午後、青森市の小学校付近で、下校中の女子児童が車にはねられました。児童は搬送時、会話ができる状態だったということです。警察は運転していた40代の女を現行犯逮捕しました。

【坂本庸明記者】
「小学生はあちらの横断歩道ではねられました。近所の人によりますと、事故があった時間帯は西日で前が見えづらいことがあるそうです」

警察によりますと、14日午後2時半ごろ、幸畑小学校前の信号機のある横断歩道を渡っていた7歳の女子児童が軽乗用車にはねられました。

女子児童は、青森市内の病院に搬送されましたが、搬送時、会話はできる状態だったということです。

【近くの人】
「ドンっという音がして、キューって急ブレーキの音がしたのですよ。ん?と思って振り返ったら、もうその時は小学生が隣のラーメン屋さんのところまで飛ばされていて」

警察は、軽乗用車を運転していた青森市の40代の女を過失運転致傷の疑いで逮捕しました。

警察の調べに対し、女は「西日が目に入ってまぶしくて、よく見えなかった」などと話しているということです。

警察は、青信号で横断歩道を渡っていた女子児童を、赤信号で走ってきた車がはねたとみて捜査を進めています。

下校中の女児をはねる 40代女を現行犯逮捕 「西日がまぶしくてよく見えなかった」/青森市(ABA青森朝日放送) - Yahoo!ニュース
14日午後、青森市の小学校付近で、下校中の女子児童が車にはねられました。児童は搬送時、会話ができる状態だったということです。警察は運転していた40代の女を現行犯逮捕しました。【坂本庸明記者】「

仮に容疑者が「赤信号と知りつつ信号無視した」だと、危険運転致傷罪になるような話。
刑法上、過失を認定するには具体的にどんな過失があったか捜査しないといけない。

 

「信号無視したこと」は結果であって、いかなる不注意によって信号無視したのかを確定させないといけないわけですが、西日で見えにくいならそれに応じた速度や方法で進行することが求められる。
サンバイザーを出していなかったと思われる事案にサンバイザーの話をして意味があるのかわかりませんが、見えにくいなら速度を落として見える範囲で停止できる速度で進行する注意義務があるわけだし(似たような趣旨としてハイビーム/ロービームについての東京高裁S42.4.3判決)、必要に応じサングラスなどを使用すべき注意義務がある。

ハイビームorロービームのアホ理論。
道路交通法52条によると、夜間等はライトをつけ、対向車とすれ違うときや他の車両の直後を通行するときなどにはロービームにするように書いてあります。ちょっとこれについて。極端な論とにかくハイビームにすべき、みたいなアホ理論がありますが、判例から...

例えば制限速度が40キロの道路を、西日が眩しい状況で40キロ以下なら問題なし…とは言えないわけで、見えにくいなら見えにくいことに応じて減速して見える範囲で停止できる速度で進行する注意義務があるのは当然なのよ。
なので仮に信号が見えにくいにしても、それに応じた速度で進行していれば事故は回避できたと思われる。
要は過失運転致死傷罪で要求される「具体的過失」ってこういうところの話で、何を怠ったかを具体的に指摘しないと成立しないのよね。
このケースにおいては信号無視したのは結果であって、具体的過失は別。
何をしていれば信号を見落さなかったか?が過失になるわけですが、仮に西日により信号の存在に気がつかなかったとしても横断歩道の道路標示を認識できるなら横断歩行者があることは「予見可能」で、予見可能ならそれに応じた速度で進行する注意義務があるのは当然。

 

過失とはなんなのか理解してないから信号遵守義務違反の過失犯(119条3項)の意味を取り違えるのだろうけど、そもそも故意犯(119条1項2号)には懲役刑も設定されていて故意犯のほうが刑罰が重いのは当たり前ですが、この人が頻繁に繰り返す間違い解説って大丈夫なのか心配になる。
判例をきちんと調べず全く違う事案として取り上げたり

控訴審判決の読み方と、横断歩行者妨害の話。
民事(行政)の控訴審判決を、一審判決を読まずに解説する人がいるのはなかなか凄い。民事(行政)の控訴審判決って、一審判決を引用して補正する形になってますが、控訴審の判決文においては当裁判所も,控訴人の請求は理由がないものと判断する。その理由は...

存在しない前提を創作したり。

変な解説。
こちらで取り上げた件。その動画についていろいろ質問を頂いたのですが、要はこれの話ですよね。名古屋高裁判決はこれ。原判示道路は、道路標識等によつて駐車が禁止されているし、原判示自動車の停止位置は、道路交通法44条2号、3号によつても停車及び駐...

いやはや理解し難いな。
そもそもこれにしてもそうですが、

求刑について「これ以上の求刑が出来ない理由」としている。
刑事事件について求刑とは、検察官が「これくらいが妥当」と思うものを発表するだけにすぎず、求刑は義務ではない(もっとも実務上は行われる)。
そして裁判所は検察官の求刑以上の刑罰を科すことも何ら問題がないわけで(求刑に左右されない)、「出来ない」という話自体が的外れ。
この人の法律知識は謎が多すぎるけど、根本的な知識を欠いたまま調べているようにしか見えないのよね。

コメント

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