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変な解説。

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こちらで取り上げた件。

名古屋高裁S49.3.26が「対向車」に判断してない理由。
こちらの記事にご意見を頂いたのですが、 名古屋高裁判決ってこれですよね。 同法38条2項にいう「横断歩道の直前で停止している車両等」とは、その停止している原因、理由を問わず、ともかく横断歩道の直前で停止している一切の車両を意味するものと解す...

その動画についていろいろ質問を頂いたのですが、要はこれの話ですよね。

名古屋高裁判決はこれ。

原判示道路は、道路標識等によつて駐車が禁止されているし、原判示自動車の停止位置は、道路交通法44条2号、3号によつても停車及び駐車が禁止されている場所であるから、かかる場所に敢えて駐車するが如きことは通常考えられない事柄であるのみならず、同法38条2項にいう「横断歩道の直前で停止している車両等」とは、その停止している原因、理由を問わず、ともかく横断歩道の直前で停止している一切の車両を意味するものと解すべきであるから、本件の場合、被告人の進路前方の横断歩道直前の道路左側寄りに停止していた自動車が、一時停止による場合であると停車或いは駐車による場合であるとにかかわりなく、被告人としては、右停止車両の側方を通過してその前方に出ようとするときは、出る前に一時停止しなければならないのである。つて、右措置をとらないまま横断歩道に進入した被告人に過失があるとした原判決に誤りはない。論旨は理由がない。

名古屋高裁 昭和49年3月26日

動画主の主張はこれ。

 

◯前提

限定するような解釈を示す場合には、裁判官はきちんと限定した書き方をする。

 

◯結論

名古屋高裁判決のこれについて、

同法38条2項にいう「横断歩道の直前で停止している車両等」とは、その停止している原因、理由を問わず、ともかく横断歩道の直前で停止している一切の車両を意味するものと解すべきである

対向車を含まない(道路左側のみ)と限定した解釈をするなら、

 

その停止している原因、理由を問わず、ともかく横断歩道の直前で停止している一切の車両を意味するものと解すべき

 

ではなく、

 

その停止している原因、理由を問わず、ともかく「進路前方の」横断歩道の直前で停止している一切の車両を意味するものと解すべき

 

と書かなければならない。

 

これがこの動画主の主張。
わりと的外れだと書いたのは、そもそも前提がおかしいわけよ。

◯前提
限定するような解釈を示す場合には、裁判官はきちんと限定した書き方をする。

ここがまず不正確で、そのようなことはないのよね…
これってわりとよくある話ですが、過去の判例では限定するような文言を使ってないので判決文を引用して主張しても、「事案を異にし適切ではない」として採用されないことは多々ある。

 

何か具体的な事例があるかな…と思って考えたのですが、例えば徳島地裁 令和2年1月22日判決(過失運転致死)。
被告人は片側三車線の道路を進行し青信号の交差点を直進しようとしたところ、赤信号無視し自転車横断帯を進行してきた自転車と衝突。

 

徳島地裁判決では、検察官が昭和50年札幌高裁判決を引用し道路交通法38条1項の義務違反があったと主張している。
札幌高裁判決はこれ。

被告人が本件交差点を通過するに際し、本件横断歩道上にいまだ横断中の歩行者が残存していることが予測できる場合においては、当該横断歩道により自車の前方を横断しようとする歩行者のいないことが明らかな場合とはいいえないから、たとえ、被告人が青色信号に従つて発進し本件交差点に進入したとしても、本件横断歩道の直前で停止できるような安全な速度で進行すべきことはもとより、同横断歩道により自車の前方を横断し、または横断しようとする歩行者があるときは、その直前で一時停止してその通行を妨害しないようにして歩行者を優先させなければならない(道路交通法38条1項なお同法36条4項参照)のであつて

札幌高裁 昭和50年2月13日

ここだけ見ると、被害者が信号無視したかしてないかを問わず38条1項の義務があるかのように誤解する。
判決文の説示では「限定」してないですよね。

 

でも札幌高裁判決って、横断歩行者は青信号で横断開始した適法横断者の事例
札幌のすすきのの繁華街にある、全長31mの長い横断歩道を青信号で渡りきれなかった事案な上、被告人は赤信号で信号待ちしていたのだから残存横断者が目の前で容易に視認可能な事案

 

札幌高裁判決の判決文では「適法横断者」とか「被告人車が赤信号で停止していた状況から発車した場合」などの限定的な表現はしていない。
しかし徳島地裁判決の事案は、被告人車からするとずっと青信号のままの交差点を直進したのだから事案が違うし、被害者が信号無視したところも事案が違う。

 

だから札幌高裁判決を引用した検察官の主張は採用されていない。

(1)自動車を運転する者は、自車が信号機により交通整理の行われている交差点を対面信号機の青色表示に従い直進する場合でも、自動車運転者として通常要求される程度に、前方左右を注視し、進路の安全を確認しつつ進行すべき自動車運転上の注意義務があるものと解すべきであり、このことは本件の被告人においても同様である。

 

(2)これに対し、検察官は、その趣旨は必ずしも判然としないものの、論告において、被告人又は被告人車両には、道路交通法38条1項が適用されることを前提として、先に述べた以上に特に高度の注意義務が課されるかのような主張をしているため、この点について念のため付言しておく。
道路交通法38条1項は、「当該横断歩道等を通過する際に当該横断歩道等によりその進路の前方を横断しようとする歩行者又は自転車(以下この条において「歩行者等」という。)がないことが明らかな場合」を除外しているところ、この「歩行者等が無いことが明らかな場合」には、歩行者等に向けられた信号機の信号が赤色を表示しており、その赤色の現示時間中に車両等が横断歩道等を通過し終わることが明らかな場合が含まれると解される。本件における被告人車両は、この除外事由に該当するといえるから、道路交通法38条1項の適用はない。仮に、検察官の主張するように、被告人車両について道路交通法38条1項が適用されるとしたならば、信号機により交通整理が行われている交差点において、自車の対面信号機が青色を表示しており、横断歩道等の歩行者等に向けられた信号機の信号が赤色を表示している場合であっても、特にその道路幅が広ければ広いほど、自動車の運転者は、常に横断歩道等の直前で停止できるような速度、すなわち、横断歩道等に接近しながら徐々に速度を落とし、横断歩道等の至近のところでは徐行に近い状態の速度で進行しなければならないことになるが、このことが結論において不合理であることは明らかである

 

検察官は、この主張をするに際し、札幌高裁昭和50年2月13日判決判例タイムズ325号304頁を引用するが、同裁判例は、当該事案における道路および交通の状況等から、前方の横断歩道上に横断中の歩行者がなお残存する蓋然性が高く、運転者においても対面信号機が青色表示に変わった直後に発進したため前方の横断歩道上に横断中の歩行者等が残存している可能性があることを十分予測できた事案に関するものであって、本件とは事案を異にする
以上により、被告人又は被告人車両には道路交通法38条1項は適用されず、したがって、その適用を前提として高度な注意義務が課されるかのように述べる検察官の主張は採用できない。

 

徳島地裁 令和2年1月22日

要は判決文の基本はその具体的事案に対する判断なわけで、「限定する表現で書いてない」というのはそもそも誤り。
その事案について判断したのだから、事案が違う場合にも当てはまるようには書いてない。
その事案に限定して判断しているのが判決文の基本だと考えたほうが正確かも。

 

名古屋高裁判決の話に戻りますが、この判例は弁護人の以下の主張に対するアンサーとして、

所論は、原判示の横断歩道直前に停止していた自動車は、一時停止していたものではなく、「駐車」していたものであるから、本件において、被告人は、道路交通法38条2項にいう「その前方に出る前に一時停止しなければならない」義務を負わないのに、その義務があるとした原判決の認定は失当であると主張する。

このような説示をした。

しかし、被告人の立会のもとに作成された実況見分調書によつて明らかなとおり、原判示道路は、道路標識等によつて駐車が禁止されているし、原判示自動車の停止位置は、道路交通法44条2号、3号によつても停車及び駐車が禁止されている場所であるから、かかる場所に敢えて駐車するが如きことは通常考えられない事柄であるのみならず、同法38条2項にいう「横断歩道の直前で停止している車両等」とは、その停止している原因、理由を問わず、ともかく横断歩道の直前で停止している一切の車両を意味するものと解すべきであるから、本件の場合、被告人の進路前方の横断歩道直前の道路左側寄りに停止していた自動車が、一時停止による場合であると停車或いは駐車による場合であるとにかかわりなく、被告人としては、右停止車両の側方を通過してその前方に出ようとするときは、出る前に一時停止しなければならないのである。つて、右措置をとらないまま横断歩道に進入した被告人に過失があるとした原判決に誤りはない。論旨は理由がない。

名古屋高裁 昭和49年3月26日

「駐車は含まないだろ!」に対し「その停止している原因、理由を問わず、ともかく横断歩道の直前で停止している一切の車両を意味するものと解すべき」として「駐停車を含む」なので、駐車を含むか含まないかの議論においてなされた説示とみるのが自然かと。
わりとシンプルに裁判所は無関係な部分には判断する理由も必要もないので、この事故(業務上過失致傷)で問題になった道路左側の停止車両が駐車だった場合についてしか判断してないと思いますよ。

 

停止車両に「対向車を含む」とした判例ではないし、「含まない」とした判例でもない。
なのでこの件の元ネタを発信した弁護士さんも名古屋高裁判決に触れてないはずですが、シンプルに無関係な判例だから触れてないのかと。

 

動画主が語る「限定するような解釈を示す場合には、裁判官はきちんと限定した書き方をする」という前提自体が誤りだし、前提が間違っていればその後の主張も無意味ですが、このように「限定する説示」になってない判例を引用して「事案が違うから採用できない」みたいなことになる判例はまあまあ見かける。
他にも同じように、限定する表現をしてないけど「事案が違うから採用できない」とした判例なんていくらでもありますが、判決の基本は「その具体的な事例についてのみ」しか判断してないのよ。

 

そうじゃないと、裁判官はクソ大変だと思いますよ。
起訴された具体的事例についてのみ判断するのが仕事なのに、その説示をすることで違う事案にまで穴がないか検討しないと判決文を書けなくなるリスクすらあるわけで…

 

他に事例を挙げるなら例えば最高裁判所第一小法廷 昭和60年4月30日。
側方間隔60~70センチ、時速5キロで自転車を追い抜き中に起きた死亡事故について、原審高松高裁は「追い抜きを差し控えるべき注意義務違反」として有罪に。
弁護人は判例違反を理由に上告。
引用した判例は側方間隔50センチ、時速10キロで自転車を追い抜きし「追い抜きを差し控えるべき注意義務違反」を認めず無罪にした広島高裁 昭和32年1月16日判決。

 

最高裁判所は「引用した判例は事案が違うから適切ではない」としてますが、広島高裁判決は広島高裁判決の具体的事例についてのみ判断したのだから、細部が違うならそうなるわな。
判決文で限定するような説示をしてなくても、個別具体的事例についてのみ判断したと捉えるのは妥当。

「自転車を追い越し、追い抜きすることを差し控えるべき注意義務違反」はいかなるときに認定されたか。
以前書いた内容の続きです。 昭和60年4月30日 最高裁判所第一小法廷決定では、「追い抜きを差し控えるべき業務上の注意義務があつた」としています。 刑法上、「追い越し、追い抜きを差し控えるべき注意義務違反」を認定した判例がどれくらいあるのか...

「判決文で限定した書き方をする」というのがそもそも誤りなので、間違っている前提で解説を進めても何の意味もない。

ところで昭和42年に新設された38条2項ですが、なぜか「停止には駐車を含まないはずだ!」という主張をしている判例が複数ある。
条文上は駐車も停止の一種なので「含まない」と主張しても意味がない気がしますが、これって苦し紛れに主張していたわけでもないのよね。

 

というわけで、名古屋高裁判決は「対向車云々」については無関係な判例としかいいようがないし、対向車云々を判断して欲しいならそういう事案についての判例じゃないと意味がない。
動画主の主張はそもそも前提がおかしいので、だいぶ的外れな話をしているとしか。
そもそも、名古屋高裁の説示は名古屋高裁がオリジナルではないという問題もありますが、

名古屋高裁判決の説示は、名古屋高裁が言い出しっぺではない。
こちらの続き。 38条2項について説示した名古屋高裁判決のこのフレーズは名古屋高裁が言い出しっぺではなく、宮崎清文氏(警察庁)の解説書(条解道路交通法)の可能性が高いと書きましたが、 同法38条2項にいう「横断歩道の直前で停止している車両等...

ちゃんと調べてきちんと判例の意味を理解すれば、名古屋高裁判決は道路左側にあった駐車車両の解釈を示したのみだとわかるかと。
38条2項の解釈問題は、なにやらおかしな話をする人がいてビックリしますが、解釈以前に事実誤認があったり何か見落とししていたり、矛盾を解消しないまま語っていたりなど…

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