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「道路」であるか否かの見解の対立。

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例の事故から離れて法律解釈の話。

高校のグラウンドで無免許運転罪が成立するか?
読者様から質問を頂いたのですが、こちらの件。話からすると、グラウンド整備目的で運転したのではなく、いわゆる若気の至りというか…さいたま市の私立高校のグラウンドで、無免許の男子生徒が運転する車が横転し、助手席の生徒が死亡した事故。運転していた...

小学校の校庭を道路交通法上の「道路」と認定し無免許運転罪が成立するとした判例がありますが、

一 道路
道路法(昭和二十七年法律第百八十号)第二条第一項に規定する道路、道路運送法(昭和二十六年法律第百八十三号)第二条第八項に規定する自動車道及び一般交通の用に供するその他の場所をいう。

道路交通取締法は道路における危険防止及びその他の交通の安全を図ることを目的とするものであり(同法第1条参照)、本件運転の場所は小学校校庭であること所論の通りであるけれども、道路交通取締法第2条第2項によれば同法に所謂「道路」とは道路法による道路、自動車道のみならず一般交通の用に供するその他の場所をも包含すること明かであるから、学童その他一般公衆の多数出入する小学校校庭の如も道路交通取締法にいう「道路」の中に包含されるものと解するを相当とする。従て被告人が法令に定められた運転の資格を持たないで原判示小学校校庭において本件貨物自動車を運転した以上かかる所為もまた道路交通取締法第7条第1項第2項第2号、第28条に該当するものと謂うべきであつて、原判決には法律の解釈適用を誤つた違法はなく、論旨は採用し難い。

 

高松高裁 昭和27年3月29日

この見解は下記仙台高裁判決とあわせてみるべきなので、小学校の校庭だから必ずしも道路と認定されるわけではない。

 

道路とするには下記解釈が通説。

道路交通法2条1号にいわゆる「一般交通の用に供する場所」とは、それが一般公衆に対し無条件で開放されていることは必ずしもこれを要しないとしても、道路交通法1条の道路における危険を防止し、交通の安全と円滑を図るという目的に照らし、現に一般公衆および車両等の交通の用に供されているとみられる客観的状況のある場所であつて、しかもその通行することについて、通行者がいちいちその都度管理者の許可などを受ける必要のない場所をいうものと解するのが相当である

 

仙台高裁 昭和38年12月23日

ところで、註釈道路交通法(横井・木宮)や法務総合研究所は、小学校の校庭を道路交通法上の道路とみなした場合、運動会を開催するのに道路使用許可(77条)が適用され不合理だとして否定的にみている。

「一般交通の用に供するその他の場所」とされて「道路」と認定される場所については、道交法上の各種の法的制限が一般的に加えられることになる点を注意しなければならないことである。ある場所が、適用される道交法の条文のいかんによって、道路になったり、ならなかったりするのは不合理であるから、どの制限規定が適用されても、不合理な結果にならないという見地から道路性の有無の判断も必要であると思われる。たとえば、無免許運転や交通事故に関する報告・救護義務に関する規定を適用するにあたって、その場所が道路であるかどうかを判断する場合には、危険の防止、交通の安全という見地を強調するのあまり、その場所に法77条(道路使用の許可)を適用すると、きわめて不合理な結果になることを看過するようなことがあってはならないし、その逆の場合も同様である<法総研40ページ>

東京地方検察庁交通部研究会、最新道路交通法事典、東京法令出版、1974

とはいえ法総研、横井・木宮の説は否定されていると思ってまして、たとえばコンビニの駐車場の通路部分を道路交通法上の道路と解釈した事例があるわけよ。
コンビニの駐車場を道路交通法上の道路と解釈した場合に、じゃあコンビニのオーナーが駐車場を改築のために封鎖したり、駐車場に露店を開く際に道路使用許可が必要とはならないわな。

 

なので東京地検の解釈のほうがすっきりするわけよ。

横井・木宮氏や法総研は、学校の校庭などを道路と認めると、77条(道路使用許可)なども適用しなければならなくなり不合理であるということなどを根拠に道路性を否定しているが、もともと、学校の校庭や工場の敷地などは一般交通の用に供する場所として設けられたものではなく、道路としての形態も備えていない。したがって、そのような場所で運動会を行ったり、工事をしたり、工作物を設ける場合に使用の方法や形態などについて警察署長の許可を得なくても道路交通の安全や円滑を損なうおそれはなく、77条の適用などはその必要がない
これに反し、64条(無免許運転の禁止)や65条(酒気帯び運転などの禁止)の規定などは、当該場所が現に公衆の通行の用に供されている以上その交通の安全を図るためにその適用が必要とされるのである。
かように、道路交通法の目的・諸規定の立法趣旨にたちかえって考えれば、道路交通法の道路と認定された場所について、ある規定が適用され、ある規定が適用されないという結果が生じても不都合ではない。

東京地方検察庁交通部研究会、最新道路交通法事典、東京法令出版、1974

これって他の事例を例に出すと、たとえば箱根駅伝。
道路使用許可をとり交通規制をした場所も道路交通法上は道路となりますが(東京高裁 昭和42年5月31日)、道路交通法上の道路だから道路使用許可や交通規制を実施しているわけで、道路ではないという解釈は取りようがない。
けど道路交通法上、歩行者にあたる選手が車道を走れば通行区分違反になり、道路交通法上は選手だからと除外する規定はない。

 

けどさ、駅伝するのに道路使用許可を出したんだから、通行区分違反を適用する理由がないのよ。

道路交通法の目的・諸規定の立法趣旨にたちかえって考えれば、道路交通法の道路と認定された場所について、ある規定が適用され、ある規定が適用されないという結果が生じても不都合ではない。

そりゃそうだなと。
なので法総研の見解はちょっとムリがあると思うし、何より裁判所はそのような見解に立っていない。

道路交通法72条1項にいう「車両等の交通による人の死傷又は物の損壊があつたとき」とは、道路上における車両等の交通に起因する事故があつたときをいい、その道路とは、同法2条1号に定める道路をいうことは明らかであり、更に、所論ミユキ観光駐車場又はその一部が道路法に規定する道路又は道路運送法に規定する自動車道でないこともまた明白であるから、要は、所論場所が同条にいわゆる「一般交通の用に供するその他の場所」すなわち、現に不特定多数の人ないし車両等の交通の用に供されているとみられる客観的状況のある場所に該当すると認められるか認められないかにある。
ところで、記録及び当審における事実取調べの結果によれば、被告人が原判示第三の(二)で報告義務を履行しなかつたとされた事故を惹起した場所は、同原判示のとおり、岐阜県海津郡海津町馬の目103番地の1所在のミユキ観光駐車場内であるが、右駐車場は、同敷地内にあるミユキパチンコ店及びミユキ喫茶店の附属の駐車場で、右敷地は、東西約54メートル、南北約36メートルのほぼ長方形(但し、その東北角部分において約17メートルにわたつてすみ切りが施され、該部分が県道津島南濃線に接している。)の土地であり、右土地の東端にミユキパチンコ店の建物が、また南端にミユキ喫茶店の建物が建てられているが、その余の部分はアスフアルト舗装の広場であつて、その東側及び西側はいずれも水田に、南側は農道に、北側は排水路に面していること、右土地の正規の出入口は、前記東北角部分一か所のみであり、同所に門戸の設備はなく、守衛等も置かれていないこと、その駐車場の部分は、自動車一台ごとの駐車位置を示す白ペイントの区画線によつて仕切られているが、右駐車区画は、右広場の北側及び西側に接した部分、ミユキパチンコ店及びミユキ喫茶店の各西側部分等の周辺部分、更にそれら周辺部分から各通路部分を隔てた広場の中央部分にそれぞれ設けられていて、特にその利用者の制限等を示す標識等はなく常時一般に開放使用されていて、もとより管理人等も置かれておらず、前記パチンコ店及び喫茶店を利用する不特定多数の客が自由かつひんぱんに右駐車場内の駐車区画外の道路部分を通行して車両を駐車区画内に駐車させ、あるいは右通路部分を歩行して通行し、ことに、前記喫茶店を利用する客にとつて右通路部分は唯一の正規の進行路であるばかりか、右通路部分は、前記県道津島南濃線と南側の農道との連絡通路として付近の店舗等に赴く者や近隣の者の通行利用に供されることも稀でないこと、以上の事実が認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。以上認定の事実状態に徴すると、なるほど本件駐車場のうち駐車位置を示す区画線によつて仕切られた各部分は、これを前記「一般交通の用に供するその他の場所」ということが困難であり、これを道路と認めるべきではないが、駐車位置区画線のない通路部分は、同駐車場の一部としてこれを利用する車両のための通路であるにとどまらず、現に不特定多数の人ないし車両等が自由に通行できる客観的状況にあると認められるから、前記「一般交通の用に供するその他の場所」に包含され、したがつて、道路交通法にいわゆる「道路」に該当すると認めるのが相当である。所論引用の判例は本件と事案を異にして適切でない。

名古屋高裁 昭和56年7月14日

この駐車場の管理者が駐車場で露店を開く際に、道路使用許可が必要なん?
理不尽だなぁ。自分の敷地なのに。

 

法総研の見解を取ると、コンビニやショッピングセンターの駐車場は道路と解釈できないことになりますが、裁判所は必ずしもそのような見解を取ってないわけ。

 

東京地検交通部の最新道路交通法事典のいいところは、とりあえず他の解説書の見解を挙げた上で東京地検の解釈を書いている点。
道路使用許可の該当性から道路性の有無を判断する考え方をとる判例を見たことがありませんが、結局は一般人が自由に通行していた実態があるかどうかで判断するしかないでしょうね。

 

なお判例タイムズ284号「道路(東京地裁判事補 藤井一夫)」によると、「道路使用許可との整合性」を主張する法総研/横井・木宮の見解と、「道路使用許可に関してはある程度合目的的、弾力的に解釈可能」とする法曹会の見解を挙げつつ、後者の見解を採用している(つまり東京地検交通部と同じ見解)。

 

このあたりに詳しいのは、下記。
・道路交通法 例題解説 改訂版 (法曹新書)法曹会 44頁
・判例タイムズ284号 130頁
・最新道路交通法事典(東京地検交通部研究会)

 

まあ、例の事故については学校のグラウンドが一般交通に供されていた実態があるとは思えないので道路性は否定されるでしょうけど、いろいろ見ていくと「小学校の校庭を道路と解釈したら、運動会を開催するのに道路使用許可が必要になり不合理だろ!」という考え方は主流論ではないでしょうね。
詳しくは上記解説書をどうぞ。
法総研の解説を詳しく引用しているのは「例題解説(法曹会)」。

 

ちなみになんですが、現行の道路交通法解説書といえばみんな大好き執務資料ですよね。
執務資料がいい解説書だと認めた上でですが、たぶん執務資料を読むと「なぜ?」とか「ここの解説は矛盾してね?」などと感じると思う。
そこで必要になるのが古い時代の解説書や判例集なわけでして…執務資料に満足いかなくなって他の解説書を漁り出してからのほうがむしろ理解が進む気がする。

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