先日判決があった「大分時速194キロ危険運転」ですが、検察が判決を不服として控訴した模様。


先日の大分地裁判決は、危険運転のうち「進行制御高速度」(法2条2号)を認めましたが、「通行妨害目的」(法2条4号)は「積極的な妨害意図が認められない」として懲役8年としている。
第二条次に掲げる行為を行い、よって、人を負傷させた者は十五年以下の懲役に処し、人を死亡させた者は一年以上の有期懲役に処する。
二 その進行を制御することが困難な高速度で自動車を走行させる行為
四 人又は車の通行を妨害する目的で、走行中の自動車の直前に進入し、その他通行中の人又は車に著しく接近し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転する行為
検察が控訴したそうですが、表面的には量刑不当の主張にみえますが、実質的には「法令適用の誤り」(刑訴法380条)なんじゃないかと。
要は「通行妨害目的危険運転」が成立するのに原判決が法令適用を誤ったとして、判決に明らかな影響を及ぼすのだと主張するのですかね?
通行妨害目的については、大分地裁は「積極的な妨害意図が認められない」としたようですが、大阪高裁にこのような判例がある。
ア 本件罪の立法経過等に鑑みると,本件罪が「走行中の自動車の直前に進入し,その他通行中の人又は車に著しく接近し,かつ,重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転し」たこと(以下「危険接近行為」という。)に加えて,主観的要素として,通行妨害目的を必要としたのは,従前,業務上過失致死傷罪等で処断されていた行為のうち,極めて危険かつ悪質で,過失犯の枠組みで処罰することが相当でないものについて,故意犯と構成することによって,その法定刑を大幅に引き上げる一方,後方からあおられるなどして自らに対する危険が生じ,これを避けるために,危険接近行為に及んだ場合など,悪質とまでいい難いものについては,本件罪の成立を認めないとすることにより,処罰範囲の適正化を図ったものと解される。
そうすると,本件罪にいう通行妨害目的の解釈は,上記のような立法趣旨に沿うものである必要があると考えられるところ,人又は車の自由かつ安全な通行を妨げることを積極的に意図して行う危険接近行為が極めて危険かつ悪質な運転行為であることはいうまでもないが,危険回避のためやむを得ないような状況等もないのに,人又は車の自由かつ安全な通行を妨げる可能性があることを認識しながら,あえて危険接近行為を行うのもまた,同様に危険かつ悪質な運転行為といって妨げないと考えられる。したがって,そのような場合もまた,通行妨害目的をもって危険接近行為をしたに当たると解するのが合目的的である。
ところで,本件罪は目的犯とされているから,通行妨害目的の解釈も,目的犯における目的の解釈として合理的なものである必要があるところ,目的犯における目的の概念は多様であり,各種薬物犯罪における「営利の目的」のように積極的動因を必要とすると解されているものもあれば,爆発物取締罰則1条の「治安ヲ妨ゲ又ハ人ノ身体財産ヲ害セントスル目的」のように未必的認識で足りると解されているものもあり,さらに,背任罪における図利加害目的のように,本人の利益を図る目的がなかったことを裏から示すものという解釈が有力なものもある。これを本件罪についてみると,本件罪において通行妨害目的が必要とされたのは,外形的には同様の危険かつ悪質な行為でありながら,危険回避等のためやむなくされたものを除外するためなのであるから,目的犯の構造としては,背任罪における図利加害目的の場合に類似するところが多いように思われる。そうすると,本件罪にいう通行妨害目的は,目的犯の目的の解釈という観点からも,人又は車の自由かつ安全な通行を妨げることを積極的に意図することのほか,危険回避のためやむを得ないような状況等もないのに,人又は車の自由かつ安全な通行を妨げる可能性があることを認識しながら,あえて危険接近行為を行う場合も含むと解することに,十分な理由があるものと考えられる。
以上のとおり,本件罪にいう通行妨害目的は,人又は車の自由かつ安全な通行を妨げることを積極的に意図して行う場合のほか,危険回避のためやむを得ないような状況等もないのに,人又は車の自由かつ安全な通行を妨げる可能性があることを認識しながら,あえて危険接近行為を行う場合をも含むと解するのが,立法趣旨に沿うものであり,かつ,目的犯の目的の解釈としても,理由のあるものと考えられるから,結局,本件罪の通行妨害目的は,人又は車の自由かつ安全な通行を妨げることを積極的に意図して行う場合のほか,危険回避のためやむを得ないような状況等もないのに,人又は車の自由かつ安全な通行を妨げる可能性があることを認識しながら,あえて危険接近行為を行う場合も含むと解するのが相当である。
イ 原判決は,本件罪にいう通行妨害目的は,運転の主たる目的が人や車の自由かつ安全な通行の妨害を積極的に意図することになくとも,自分の運転によって上記のような通行の妨害を来すことが確実であることを認識して当該運転行為に及んだ場合にも肯定されると解するとして,東京高等裁判所平成25年2月22日判決・高刑集66巻1号3頁を援用しているから,同判決同様,そのような認識で当該行為に及んだ場合,自己の運転行為の危険性に関する認識は通行の妨害を主たる目的とした場合と異なることがないことを,上記のような解釈を採る理由としているものと解されるが,認識の程度が同じであればなぜ目的があるといえるのか不明であるし,なにより,そのような解釈を採ると,自分の運転行為によって通行の妨害を来すことが確実であることを認識していれば,後方からあおられるなどして自らに対する危険が生じこれを避けるためやむなく危険接近行為に及んだ場合であっても本件罪が成立することになり,立法趣旨に沿わないものと考えられる。また,原判決がいう「確実であることを認識して」とは,結局のところ,確定的認識をいうものと解されるが,確定的認識と未必的認識は,認識という点では同一であり,ただその程度に違いがあるにとどまるに過ぎない上,その判定は,確定的認識について信用できる自白がある場合や,犯行の性質からこれを肯定できる場合はともかく,当時の状況等から認識自体を推認しなければならない場合には,甚だ微妙なものにならざるを得ないから,そのような認識の程度の違いによって犯罪の成否を区別することが相当とも思われない。
検察官は,目的犯における「目的」の意義は多様であり,外国国章損壊(刑法92条)等のように,その目的が,構成要件的行為自体,または,その付随現象から,おのずと実現されるため,客観的構成要件該当事実を認識していれば,同時に,目的を有しているとも見られる犯罪類型にあっては,未必的認識で目的が充足されるとすると,故意とは別に目的を要求した意味がなくなり,そのため,このような場合の目的としては,目的の実現に対する未必的認識では足りず,目的が実現することを確実なものと認識することが必要であると解すべきであるとした上で,通行妨害目的は,まさにこのような場合であるから,相手方の自由かつ安全な通行を妨げることが確実であることを認識することが必要であり,このような認識がありながら,あえて危険接近行為に及ぶような場合には積極的な意図がある場合と同視し得るとして,通行妨害目的についての原判決の解釈に誤りはないというが,認識があることを前提としながら,その認識の程度によって犯罪の成否を区別するのが相当でないことは前記のとおりである。なお,検察官のように,「通行妨害目的」を肯定するためには通行妨害について確定的認識が必要と言い切ってしまうと,嫌がらせ目的で危険接近行為をしたが,通行妨害についての認識は未必的であったという場合,本件罪は成立しないことになりそうであるが,それが妥当であるかも疑問である。
一方,弁護人は,本件罪の立法過程では,行為者の主観的事情として,人の死傷に対する認識認容を求めないものとしたために,処罰範囲の拡大が懸念され,暴行や傷害等に準じた重い刑罰に見合った「極めて危険かつ悪質なもの」に処罰範囲を限定し,かつ,その範囲を明確にするために目的犯とされ,この点について,立法担当者が,「妨害する目的で著しく接近し」とは,「相手方が自車との衝突を避けるために急な回避措置を余儀なくされる」ことを「積極的に意図して自車を相手方の直近に移動させること」をいう旨明らかにしているから,本件罪では,客観的行為態様に加えて,主観をも考慮に入れて行為の危険性を判断しなければならないのであり,通行妨害目的が認められるためには,確実な認識が必要であるとともに,積極的意図も必要である旨主張する。
しかし,人又は車の自由かつ安全な通行を妨げることを積極的に意図して行う危険接近行為が極めて危険かつ悪質な運転行為であることはいうまでもないが,危険回避のためやむを得ないような状況等もないのに,人又は車の自由かつ安全な通行を妨げる可能性があることを認識しながら,あえて危険接近行為を行うのもまた,同様に極めて危険かつ悪質な運転行為といって妨げないと考えられることは,前記のとおりである。
ウ 以上の次第で,本件罪の通行妨害目的には,人又は車の自由かつ安全な通行を妨げることを積極的に意図する場合のほか,危険回避のためやむを得ないような状況等もないのに,人又は車の自由かつ安全な通行を妨げる可能性があることを認識しながら,あえて危険接近行為を行う場合も含むと解するのが相当である。
大阪高裁 平成28年12月13日
以前も書いたけど、検察としてはむしろ通行妨害目的危険運転を認めてほしかったのかなと思ってまして。

右直関係の直進車が「他の車両に著しく接近させる行為」といえるのかは疑問がありますが、
危険回避のためやむを得ないような状況等もないのに,人又は車の自由かつ安全な通行を妨げる可能性があることを認識しながら,あえて危険接近行為を行う場合も含むと解するのが相当
この趣旨を応用(?)すれば、むしろ通行妨害目的危険運転を適用できると検察は考えていたはず。
ちなみにこの件。
地検の控訴を受け遺族は「ひとまず安心しました。今後、高裁が高速度による進行制御困難との判断を維持した上で、妨害目的についても認め、検察の求刑を踏まえ、適切な量刑判断がなされることを強く願っています」とコメントを出した。
時速194キロ「危険運転」裁判 大分地検が控訴:朝日新聞デジタル大分市内の一般道を時速194キロで運転し死亡事故を起こした元少年(23)の裁判で、大分地検は12日、自動車運転死傷処罰法違反(危険運転致死)の罪で懲役8年とした大分地裁判決を不服とし、福岡高裁に控訴…
一応仕組みの上では、高裁が「進行制御困難高速度」を否定する可能性もなくはない。
民事と違って控訴にかかる「不利益変更の禁止」は被告人が控訴した場合に限られますから…

2011年頃からクロスバイクやロードバイクにはまった男子です。今乗っているのはLOOK765。
ひょんなことから訴訟を経験し(本人訴訟)、法律の勉強をする中で道路交通法にやたら詳しくなりました。なので自転車と関係がない道路交通法の解説もしています。なるべく判例や解説書などの見解を取り上げるようにしてます。
現在はちょっと体調不良につき、自転車はお休み中。本当は輪行が好きなのですが。ロードバイクのみならずツーリングバイクにも興味あり。
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