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やはり民事特有の概念。過失割合の考え方と判決文の読み方。

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こちらの件。

民事と刑事を勘違いするからおかしくなる。
停止車両に追い付いてから進路変更し、側方通過したバイクを「追い越し」と認定した判例について疑義を述べてますが、要はこれ、この道路と状況において右から進行することは「逆走」(通行区分違反)になるのだから、どのみち前に出ることは違反になる。それ...

停止車両に追い付いてから進路変更し、側方通過したことを「追い越し」(2条1項21号)とし、横断歩道手前30mだから追い越し禁止(30条3号)とした判決に発狂している人がいますが、要は民事特有の概念なのよね。
先に「民事特有」の一例を挙げてみます。

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民事特有の概念と判決文の読み方

例えばこういう事案があります。

○東京地裁 平成28年11月1日

被告は、本件交差点を直進するにあたり、本件交差点には横断歩道が設けられていたのであるから、適宜速度を調節し、本件横断歩道を横断する歩行者等の有無及びその安全を確認しながら進行すべき自動車運転上の注意義務があるのにこれを怠り、本件横断歩道上を右方から左方に向かい横断してきた原告車に衝突直前まで気づかず、ブレーキペダルを踏むべきところを誤ってアクセルペダルを踏み込んで原告車に被告車前部を衝突させて原告車もろとも原告を路上に転倒させ、原告に傷害を負わせた。

 

他方、原告にも、交通整理が行われていない交差点に進入する際に、交差道路が優先道路であるときは、当該交差道路を進行する車両の進行を妨害しないよう注意して進行すべき注意義務があるのにこれを怠った過失が認められる。
そこで過失相殺について検討すると、原告が横断歩道上を進行していたこと、本件事故の時間帯は夜間であったが、横断歩道については感知式オーバーハングが設置され、横断歩道上がライトで照らされていたこと、被告が衝突時にブレーキペダルではなくアクセルペダルを踏み込んだことなどの本件事故態様や現場の状況に照らし、双方の過失の内容、程度を考慮すれば、原告の過失割合については30%と認めるのが相当である。

 

東京地裁 平成28年11月1日

この判決文を民事特有の概念で考えます。
民事では基本過失割合がまずあり、そこに修正要素を加味する。

原告にも、交通整理が行われていない交差点に進入する際に、交差道路が優先道路であるときは、当該交差道路を進行する車両の進行を妨害しないよう注意して進行すべき注意義務があるのにこれを怠った過失が認められる。

この一文は、優先道路/非優先道路態様を適用すると判断したと読み取れる。
この場合、加害者が優先道路、自転車が非優先道路なので基本過失割合は50:50。

 

次に修正要素。

原告が横断歩道上を進行していたこと

非優先道路通行自転車が横断歩道を通行したことを過失修正すると判断。
横断歩道通行自転車に有利に5%修正する。

 

次にこちら。

本件事故の時間帯は夜間であったが、横断歩道については感知式オーバーハングが設置され、横断歩道上がライトで照らされていたこと

通常夜間の場合、自転車に不利に5%修正する。
しかし夜間修正は当該現場が明るければ適用しないので、

横断歩道上での事故に、「夜間修正」として歩行者不利に修正するのは真実か?
読者様から質問を頂いていたのですが、これについてはそもそも「夜間修正」の意味を理解する必要があると思う。確かに、横断歩道上での基本過失割合は車両が100%。一方、夜間は歩行者に+5%する修正要素があります。なぜ?夜間に被害者不利に修正する理...

この場合、「夜間だけど夜間修正は適用しない」という意味になる。

 

次。

被告が衝突時にブレーキペダルではなくアクセルペダルを踏み込んだこと

加害者はブレーキではなく間違えてアクセルを踏み込んだ。
それを重過失と評価して、最終的に自転車30%、加害者70%とした。
つまりまとめるとこうなる。

クルマ 自転車
基本過失割合 50 50
横断歩道修正 +5 -5
夜間修正 0 0
踏み間違え +15 -15
70 30

民事の判決文って、民事特有の概念をベースに読み取ると初めて意味を理解できる。
なんとなく30%にしたわけではなく、30%にした根拠を述べているわけね。

 

で。
運転レベル向上委員会の人が挙げた判決って、路外から車道に進出した自転車と車道直進車の態様。
通常であれば自転車過失は40%になる。

 

そして、追い越し態様の事故の場合、追い越し禁止場所(30条3号)の場合とそうではない場合では基本過失割合が10%違う。
要はこの事故態様においては30条相当の過失修正をしますよ、という意味で裁判所が述べただけで、要はこのケースでは逆走なんだしどのみち前に出ることは禁止になる。
それを「民事特有の修正要素として追い越し禁止場所(30条)の場合に準じますよ」という意味で書いた判決と解釈することになる。

 

これってある意味では冒頭の東京地裁判決にも共通するんだけど、

道路交通法上、歩道から横断歩道を通行した自転車は「横断」(25条の2第1項)。
しかし民事特有の概念で、交差点に優先道路/非優先道路があるから36条2項になる。

歩道から横断しても優先道路/非優先道路になるか?
こちらについて質問を頂いたのですが、要はこのような態様なら優先道路通行車と非優先道路通行車の事故だとわかりますが、歩道から横断したのに、優先道路通行車と非優先道路通行車の事故とみなす根拠ですよね。優先道路通行車と非優先道路通行車(民事)これ...

道路交通法を厳格に解釈した場合、歩道から横断歩道に進行した自転車はあくまでも「横断」でしかないのに、民事では優先道路を横切る横断歩道だから「優先道路の進行妨害(36条2項)」とする。
民事特有の概念を理解してないと、裁判所が法令適用を誤ったのかと勘違いしてしまう。

 

運転レベル向上委員会の人が挙げた判決についても民事特有の概念で、「追い越し禁止場所相当の過失修正をしますよ」という意味で30条3号としただけなので、民事と刑事の区別が付いてない人が読むと理解できるわけがないのね。

 

なお、基本過失割合から考えると結果的に自転車不利に修正したことになります。

民事は独特

例えば民事特有の概念を理解しているかで理解できるか問われるのがこちら。

優先道路に付属した歩道を進行していた自転車と、非優先道路から優先道路に出ようとしたクルマの事故。

本件事故は、優先道路に併設された歩道を走行し、本件交差点を直進しようとした原告自転車と非優先道路から優先道路に左折進入するために本件交差点に進入しようとした被告車両との接触事故であるところ、双方に前方、左右の不注視等の過失が認められる。
そして、以上に加え、原告自転車が右側通行であり、被告車両から見て左方から本件交差点に進入してきたこと等に照らせば、本件事故の過失割合につき、原告15%、被告85%と認めるのが相当である。

名古屋地裁 平成30年9月5日

この判示、民事の概念を理解している人は「なるほど」と思うし、民事の概念を理解してない人は「裁判所は右側歩道通行を逆走と勘違いした誤判」と感じるでしょう。
要はこれ、

優先道路に併設された歩道を走行し、本件交差点を直進しようとした原告自転車と非優先道路から優先道路に左折進入するために本件交差点に進入しようとした被告車両との接触事故であるところ

基本過失割合のベースになる態様は、「自転車が優先道路/クルマが非優先道路」と認定。
この態様では自転車:クルマ=10:90になる。

 

次に過失修正要素。

原告自転車が右側通行であり、被告車両から見て左方から本件交差点に進入してきたこと

これは民事過失修正要素の「自転車が右側通行で左方から進入」なのよね。
これを過失修正要素とする理由は以前解説した通り。

右側通行・左方から進入が過失修正される理由。
以前、見通しが悪い交差点において「自転車が右側通行&左方から進入」は過失になると書きましたが、要はこういうことなのよ。皆さんこれ防げますか? pic.twitter.com/XXyez9E2Vn— 秋山★優花里☆非公式 (@YukariAk...

なのでこうなる。

自転車 クルマ
基本過失割合 10 90
右側通行で左方から進入 +5 -5
15 85

民事を理解している人は納得し、民事を理解してない人は発狂することになる。
そもそも、17条4項カッコ書きからすれば歩道通行自転車を優先道路/非優先道路と捉えることはできませんが、民事では優先道路/非優先道路態様なのよね。
だから上で挙げた東京地裁判決も36条2項(優先道路の進行妨害)と捉えるし、名古屋地裁判決は「自転車が優先道路」と捉える。
これを一律「横断」(25条の2)と捉えると実情と乖離してしまうから民事では当たり前。

 

要は民事特有の「違反」や「過失」を理解してないと、その文言が示す意味を勘違いして警察に解釈を確認してしまうなど支離滅裂なことになりますが(民事と刑事の違いを理解していたら…)、民事は道路交通法を厳格に解釈してないことに気づけるかどうかなのかもしれません。

 

的外れな解説をしている人がいるのは…いつものこととも言えるけど、読者様からこの事案について重大な疑義を頂いたので、いずれ解説するかも。
そして民事と刑事は別概念で動いていることを理解しないと、リアル生活とかけ離れてしまうのよね。
民事判決を見るときは、民事の概念で読まないと意味を取り違えてしまう。

 

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