改正18条3項に関係して質問を頂いたのですが、

「追い越しの場合は除外」になってますが、後方映像がない以上、追い付いてから進路変更したのかわからないので追い越しなのか追い抜きなのか確定できなくなりませんか?
ヘタクソは右車線の車と並走してスレスレを抜くのホント好きよね。
前の状況なんて数百m後方からずっとわかっていたのに頑なに並走したまま。 pic.twitter.com/GWdL80km19
— g (@rtl1_) February 19, 2025
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追い越しなのか追い抜きなのか?
要は改正18条3項の対象が「追い抜き」のみで「追い越し」が対象になっていないわけですが、
追い越しの定義に当てはまらない「側方通過&前方に出る」ことを便宜的に「追い抜き」と呼んでいる。
たぶんなんだけど、追い越しについては定義がある一方、追い抜きの定義がないことを考えると、追い越しに該当すると立証出来なければ追い抜きと捉えるしかないのでは?
「追い付く」とは進路が重なっていて、26条の車間距離まで詰まった状態と解釈されますが、
後方映像がない以上、追い越しに該当すると判断しようがない。
そういうのは追い抜きとして処理するしかない気がしますが、ちょっと自信なし。
18条3項に抵触するか?
冒頭の映像が18条3項に抵触するかですが、
「間隔に応じた安全な速度」については、警察庁の回答はこうなっている。
第213回国会 参議院 内閣委員会 第14号 令和6年5月16日
○塩村あやか君 ありがとうございます。
ということは、やっぱりその自転車を運転する側がしっかりといろいろな方向に注意をしておかなくてはいけないという形で、運転する人がちゃんと、自分は大丈夫なのかというのはやっぱりちゃんと自問自答しながら自転車に乗っていかなきゃいけないなというふうに思いました。ありがとうございます。
十八条、先ほど酒井先生の方からも質問あったと思うんですけれども、自動車などの車両は、特定小型原動機付自転車などの右側を通過する場合において、十分な間隔がないときは、当該特定小型原動機付自転車等の間隔に応じた安全な速度で進行しなければならないという規定を創設するということに今回なっております。
十分な間隔そして間隔に応じた安全な速度とは具体的にどのようなものを想定しているのか、分かりやすく教えてください。○政府参考人(早川智之君) お答えいたします。
歩道における自転車と歩行者の事故件数が増加傾向にある中、自転車の車道通行の原則の徹底を図るためには自転車利用者が安全に車道を通行できる環境を整備することが重要であると考えております。
御指摘の規定は、車道における自転車と、失礼しました、自動車と自転車の接触事故を防止するため、自動車が自転車の側方を通過する際のそれぞれの通行方法を整備する規定でございます。本規定に定める自動車と自転車との間隔や安全な速度につきましては、自動車と自転車との具体的な走行状況に加えまして、道路状況や交通状況などにより異なることから、具体的な数値は規定していないところでございます。
その上で、あえて申し上げれば、例えばでありますが、都市部の一般的な幹線道路においては、十分な間隔として一メートル程度が一つの目安となるものと考えているところでございます。また、このような十分な間隔を確保できない狭隘な道路におきましては、自転車の実勢速度というものが、いろいろありますが、二十キロメートル毎時程度であるということを踏まえますと、例えばこうした場合には、間隔に応じた安全な速度としては二十キロから三十キロ、これぐらいの速度というのが一つの目安になるのではないかと考えているところであります。
いずれにいたしましても、この規定の趣旨は、自転車の安全を確保しつつ、自動車と自転車の双方が円滑に車道上を通行することを確保することにありまして、自転車に危害を加えるような態様でなければ本規定の趣旨に反するものではないと考えているところであります。
かなり抽象的な規定だと認めた上で、「都市部の一般的な幹線道路」の一例として、十分な間隔とは1mを目安とし、「十分な間隔を確保できない狭隘な道路」の一例として自転車の速度が20キロ程度と想定したときに、「間隔に応じた安全な速度」は20~30キロ(+10キロ程度)と説明している。
若干ややこしいのは、改正18条3項は「十分な間隔を取れ」ではなく、「十分な間隔を取れない場合は間隔に応じた安全な速度」としている点。
何を以て安全な速度とみなすかは難しいですが、少なくとも業務上過失致死傷判例で示されてきた注意義務違反に該当する場合であれば、当該規定に抵触すると考えていいような気がする。

これらは事例判例なのですが、例えば最高裁S60.4.30は側方間隔60~70センチ、時速5キロで追い抜きして起きた事故について「追い抜きを差し控えるべき注意義務違反」を認定している。
道路状況 | 幅4mの道路(大型貨物車通行禁止) |
自転車の動静 | 高齢者で左右に揺れて不安定な様子を確認していた |
車の速度 | 約5キロにて追い抜き(警音器を鳴らし、自転車は有蓋側溝上に進路変更) |
側方間隔 | 60~70センチ |
事故現場は車道幅員3.38m。
時速50キロで通行し、自転車に対しクラクション。
自転車が有蓋側溝に避譲したので側方間隔60~70センチ、時速5キロで追い抜き。
不安定な状況で倒れた。
なお、原判決の認定によると、被告人は、大型貨物自動車を運転して本件道路を走行中、先行する被害者運転の自転車を追い抜こうとして警笛を吹鳴したのに対し被害者が道路左側の有蓋側溝上に避譲して走行したので、同人を追い抜くことができるものと思つて追い抜きを始め、自車左側端と被害者の自転車の右ハンドルグリツプとの間に60ないし70センチメートルの間隔をあけて、その右側を徐行し、かつ、被害者の動向をサイドミラー等で確認しつつ、右自転車と並進したところ、被害者は、自転車走行の安定を失い自転車もろとも転倒して、被告人車左後輪に轢圧されたというのであるが、本件道路は大型貨物自動車の通行が禁止されている幅員4m弱の狭隘な道路であり、被害者走行の有蓋側溝に接して民家のブロツク塀が設置されていて、道路左端からブロツク塀までは約90センチメートルの間隔しかなかつたこと、側溝上は、蓋と蓋の間や側溝縁と蓋の間に隙間や高低差があつて自転車の安全走行に適さない状況であつたこと、被害者は72歳の老人であつたことなど原判決の判示する本件の状況下においては、被告人車が追い抜く際に被害者が走行の安定を失い転倒して事故に至る危険が大きいと認められるのであるから、たとえ、同人が被告人車の警笛に応じ避譲して走行していた場合であつても、大型貨物自動車の運転者たる被告人としては、被害者転倒による事故発生の危険を予測して、その追い抜きを差し控えるべき業務上の注意義務があつたというべきであり、これと同旨の見解に立つて被告人の過失を肯認した原判断は正当である。
昭和60年4月30日 最高裁判所第一小法廷
あくまでも以下の状況においての話なので、側方間隔60~70センチ、時速5キロの追い抜きなら必ず違反とは言えない。
②側溝上は、蓋と蓋の間や側溝縁と蓋の間に隙間や高低差があつて自転車の安全走行に適さない状況であつたこと
③被害者は72歳の老人であつたこと
ただし18条3項ってもしかして警察庁なりのホンキなのかなと思っていて、
「できる限り安全な速度」ではなく「安全な速度」としている。
道路交通法でいう「できる限り」とは「可能な範囲で」というニュアンスですが、

あえて「できる限り」と付けないことで、客観的危険と認められるなら違反という趣旨にも取れる。
ちなみに冒頭の映像が18条3項として切符の対象にするかはわりとビミョーです。

2011年頃からクロスバイクやロードバイクにはまった男子です。今乗っているのはLOOK765。
ひょんなことから訴訟を経験し(本人訴訟)、法律の勉強をする中で道路交通法にやたら詳しくなりました。なので自転車と関係がない道路交通法の解説もしています。なるべく判例や解説書などの見解を取り上げるようにしてます。
現在はちょっと体調不良につき、自転車はお休み中。本当は輪行が好きなのですが。ロードバイクのみならずツーリングバイクにも興味あり。
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