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逆走車を避けようとしてガードレールに衝突。

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国道を逆走してきたクルマを避けようとしてガードレールに衝突し大ケガを負ったようですが、

国道を逆走しひき逃げ 逆走車を避けようとした女子大学生が胸や背中の骨を折る大けが | TBS NEWS DIG (1ページ)
金沢市の国道で10日夜、逆走車を避けようとした軽乗用車がガードレールにぶつかり運転していた女子大学生が大けがをしました。警察では逃げた逆走車の行方を追っています。10日午後11時30分頃、金沢市鈴見台1丁目… (1ページ)

上下線が完全分離された国道で、トンネルから逆走車が出てきたらそりゃビックリするわな…
たまたま路側帯が広めだったから左側に回避行動を取る余地があったと言えますが…

 

ところでこういう事故は「誘因事故」なので、逆走車は衝突してなくても加害者になる。
そのため救護義務違反罪だけでなく、過失運転致傷罪または危険運転致傷罪になりうるのですが、

 

逆走車について危険運転致死傷罪(通行妨害)を認めた判例はいくつかある。

(危険運転致死傷)
第二条次に掲げる行為を行い、よって、人を負傷させた者は十五年以下の懲役に処し、人を死亡させた者は一年以上の有期懲役に処する。
四 人又は車の通行を妨害する目的で、走行中の自動車の直前に進入し、その他通行中の人又は車に著しく接近し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転する行為

「逆走」がなぜ「通行妨害目的」と認定されうるか?ですが、逆走すれば正常に通行する車両を妨害することは明らかなのだから、ですね。

 

◯広島高裁 平成20年5月27日

以上認定したとおり,被告人は,被告人車を運転して,信号待ちのため交差点手前で停止中,警察官に職務質問されそうになったことから,酒気帯び運転の発覚を免れようとして被告人車を発進させ,逃走を開始したところ,警察車両が追跡してきたため,Eバイパスを逆行すれば,警察車両もそれ以上の追跡を諦めるであろうと考えて,その逆行を始めたものである。そして,その後の被告人車の走行状況にかんがみると,被告人は,何台もの対向車両とすれ違ったり,対向車両と衝突する危険を生じさせたことから,そのままEバイパス上り線を逆行し続ければ,さらに対向車両と衝突する危険が生じることを十分に認識しながら,警察車両の追跡から逃れるためには,その危険を生じさせてもやむを得ないと考え,敢えて逆行を継続したものと認められる。なお,実際に被告人車が対向車両と衝突してしまえば,それ以上逃走することができなくなるところ,被告人は,上述のとおり,本件事故に至るまでの間は,対向車両と衝突する危険が生じた際,いずれも対向車両に急ハンドルや急ブレーキ等の措置を取らせるなどして,被告人車との衝突を回避させたことから,被告人車がさらにEバイパス上り線の逆行を続け,対向車両に同様の措置を取らせて衝突を避けさせることにより,逃走できることを期待して,逆行を続けたものであることが認められる。
そうすると,被告人は,警察車両の追跡から逃れるため,逆行を継続することにより 対向車両が被告人車と衝突する危険を生じさせるとともに, 逃走を続けるために,対向車両に対し被告人車との衝突を避けるための措置を取らせることをも意図しながら,逆行を継続したものということができる。
所論は,危険運転致傷罪が成立するためには,相手の自由かつ安全な通行を妨げることを積極的に意図することが必要であって,その未必的な認識では足りないとの解釈が立案担当者からも示されている(「刑法の一部を改正する法律の解説」法曹時報第54巻第4号71頁)と指摘した上,被告人の意思は,一貫して,警察車両から逃れることにあったのであり,被告人は,対向車両の自由かつ安全な通行を妨げることを積極的に意図していないから,被告人に人または車の通行を妨害する目的はなく,同罪は成立しない旨主張する。
たしかに,被告人は,警察車両から逃れることを意図して,Eバイパスを逆行したものである。
しかし,自動車専用道路であるバイパスを逆行すれば,直ちに対向車両の自由かつ安全な通行を妨げる結果を招くことは明らかであり,バイパスを逆行することと対向車両の自由かつ安全な通行を妨げることとは,表裏一体の関係にあるというべきである。また,上記認定事実に照らせば,被告人が,警察車両の追跡から逃れるため,バイパスを逆行することを積極的に意図していたことは明らかである。そして,バイパスを逆行することを積極的に意図していた以上,被告人は,これと表裏一体の関係にある対向車両の自由かつ安全な通行を妨げることをも積極的に意図していたと認めるのが相当である。

広島高裁 平成20年5月27日

◯東京高裁 平成25年2月22日

これらの事実に照らすと,被告人が,車体の半分を反対車線に進出させた状態で走行し,C車両を追い抜こうとしたのは,パトカーの追跡をかわすことが主たる目的であったが,その際,被告人は,反対車線を走行してきている車両が間近に接近していることを認識していたのであるから,上記の状態で走行を続ければ,対向車両に自車との衝突を避けるため急な回避措置を取らせることになり,対向車両の通行を妨害するのが確実であることを認識していたものと認めることができる。
ところで,刑法208条の2第2項前段にいう「人又は車の通行を妨害する目的」とは,人や車に衝突等を避けるため急な回避措置をとらせるなど,人や車の自由かつ安全な通行の妨害を積極的に意図することをいうものと解される。しかし,運転の主たる目的が上記のような通行の妨害になくとも,本件のように,自分の運転行為によって上記のような通行の妨害を来すのが確実であることを認識して,当該運転行為に及んだ場合には,自己の運転行為の危険性に関する認識は,上記のような通行の妨害を主たる目的にした場合と異なるところがない。そうすると,自分の運転行為によって上記のような通行の妨害を来すのが確実であることを認識していた場合も,同条項にいう「人又は車の通行を妨害する目的」が肯定されるものと解するのが相当である。
3 以上からすると,被告人には,対向車両の通行を妨害する目的があったということができるから,その目的を肯定して,被告人に刑法208条の2第2項前段の危険運転致死罪の成立を認めた原判決には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令適用の誤りはない。

 

東京高裁 平成25年2月22日

ところが、逆走による事故だから直ちに危険運転致死傷罪ということにはならない。
通行妨害にあたることの認識が必要なので、逆走していることにすら気付いてないなら、過失犯として捉えることになる。

 

被害者はお気の毒としか言えないんだけど、正面衝突したらより被害は甚大になるともいえるし、回避行動の結果多重事故の誘因になることすらありうる。
それこそ例えばこれ。

自転車乗りが実刑になるケース。
自転車乗りが何らかの事故を起こしたときに、例えば歩行者が死亡したとしても執行猶予付き判決になるのが多いです。これは車の事故でもそうですが。ただまあ、実刑判決になった判例もあります。自転車乗りが実刑判決判例は大阪地裁 平成23年11月28日。...

無謀な横断をした自転車がいて、

回避行動を取ったクルマが最終的には歩道を歩いていた人をはねた。

もちろん歩行者をはねたクルマの運転手は緊急避難にあたるのだから罪には問われないにしても(この事件は無謀な横断をした自転車が重過失致死罪で実刑判決)、お亡くなりになった歩行者側からしたら意味がわからないのよね。
それならハンドルを切らずにブレーキングのみで回避行動を取り、回避できずに自転車に衝突してくれたほうが良かったと考えたとしても仕方ない。

 

民事の過失を理由に「回避行動を取らなければ過失がつく」みたいな話を力説する人もいるけど、回避行動を取った結果として無関係な通行人を事故に巻き込む可能性もあるのだから、民事で過失相殺されることを理由に回避行動を推奨するのは必ずしも是認し難い。
余裕かつ安全に回避行動を取れる余地がある場合には回避行動を取るのは当たり前ですが、判決文にはそういう具体的状況が記されているのだから、「どういう事実関係において下された判断なのか?」が大事なのよね。

 

判決文の読み方を理解してない人が判決を解説すると、誤解が生まれるだけ。
裁判はまず事実を認定してから、認定された事実に対し判断されますが、具体的状況を解説せずに「逆走車に回避行動を取らなかったから過失」みたいな雑な説明をする意味がわからない…

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