ちょっと温度差があるように思うのですが

すみませんがこの記事、「回避すべきか」「回避すべきではないか」という無意味な二項対立の話ではないですよ…
回避できる余地があるのなら回避すべきなのは当たり前の話ですから。
で。
判例の改竄ばかりを繰り返す某YouTuberって、具体的状況も説明しないまま「逆走車がきたときに回避行動を取らなければ過失がつく」みたいな解説をしているので、彼の解説をみると誤解するわけよ。
「具体的状況」ということはこういうこと。
センターラインをはみ出してきた車両と衝突し、順走車に35%の過失相殺をした東京地裁 昭和57年3月18日判決をみてみましょう。
1 車輛の状況
(一) 加害車について
被告が運転した加害車は、4トントラックであり、全長は8.565m、全幅は2.180m、全高は2.580mである。本件事故日時ころ、同車は最大積載量が3.750キログラムのところ4.885キログラム超過した8.635キログラムの鋳鉄円形水道管を積載していたので、そのハンドルの切れがやや悪くなつていた。(二) 被害車について
訴外亡Aが運転した被害車は、マツダファミリア・プレストバンSPCVであり、全長は3.700m、全幅は1.480m、全高は1.405mで約80キログラムの積載荷重(野菜、果物その他)を加えた事故時の車輛重量は約960キログラムである。2 道路の状況等について
(一) 本件事故現場は所沢市方面から青梅市方面に北から南へ左にカーブして通じる上下各一車線(南進車線の幅員3.9m、北進車線の幅員は4.0m)の歩車道の区別のないアスファルト舗装の平担乾燥の道路であり、現場から約20m北方に信号機による交通整理の行なわれていない交差点(以下、本件交差点という。)がある。
(二) 右交差点のほぼ中央部にアスファルト舗装が盛り上つた凸部があり、高さ約8センチメートル、長さ約274センチメートル、最大幅55センチメートルである。
(三) 右本件交差点の南側にある事故現場付近の交通規制は最高速度制限は毎時40キロメートル、追い越しのための右側部分はみ出し通行禁止、駐車禁止があり、北側は最高速度制限は毎時20キロメートルである。
(四) 本件事故現場は市街地に位置し、その付近の見とおしは良好である。
(五) 事故時の天候は晴である。3 被告の運転状況
(一) 被告は、前記本件交通事故日時ころ、加害車を運転して所沢市方面から青梅市方面に向け南進中、前記本件交差点にさしかかつた。
(二) 当時、被告は、その運転車輛には前記認定のような重量超過の水道管78本(100ミリ×4000ミリ管64本、200ミリ×5000ミリ管14本)を積載していたので、急ハンドル急ブレーキによつては荷崩れの危険があると考えていた。
(三) 被告は、時速約10キロメートルの速度で本件交差点に入つたところで、前方対向車線上を進行中の被害車を前方約90mの地点に見つけたが、距離は十分あると判断して右側に寄つて、交差点ほぼ中央にあるアスファルトの凸部分を跨ぐように速度を一層落して進み、被害車に対しパッシングを数回しただけで警笛吹鳴の必要はないと考えた。このころ、加害車は1ないし1.5m対向車線に入り込んで進行した。(なお、加害車は本件交差点と事故現場付近を中央線を越えずに正常に通過することは可能である。)
(四) 被告は、被害車が変りなく接近進行し続けてくるのを前方約30mに見て、自車線に戻るべく左にハンドルを切り、やや加速するも戻り切れず、被害車が自車の前方約6.5mの位置にあるのを見てハンドルによる回避は無理だと判断し、普通のブレーキをかけた。
(五) しかして、被告運転の車輛と被害車はそれぞれ右前部をセンターライン上で衝突するに至つた。衝突時の加害車の右前輪はセンターライン上にあり、右後輪外側は45センチメートルはみ出し、同車は時速約5ないし10キロメートルの速度で3度の角度をとつて自車線に戻りつつあつた時である。4 訴外亡Aの運転状況
(一) 訴外亡Aは、被害車を運転して北進中、前記交通事故発生日時ころ本件事故現場付近に至つた。
(二) 同訴外人は、右現場に至る前約10分間くらいの間(カーブの多い道路であつた。)、一定の速度を保てず減増速をくり返し、車線内を左右にゆれながら進行していた。
(三) しかし、同訴外人が過労運転や酩酊運転をしていたこと、荷崩れ防止のための変則運転をしたことを認めるに足る証拠はない。
(四) 訴外亡Aは、事故直前、センターライン寄りに平行して減速することもなく左にハンドルを切つて回避措置をとることもなく進行し(左に回避するとき、通過するに十分の道路幅はあつた。)、自車線に戻りつつあつた加害車とセンターライン上で自車右前方を衝突させるに至り、その後、後方に押し戻されて停止した。
(五) 衝突時の被害車の右前輪はセンターライン上に右後輪もほぼセンターライン上にあつて、速度は約30キロメートルであつた。
センターラインを超えて進行した加害車両は重量超過で低速。
一方被害車両はセンターライン寄りを時速30キロで進行。
なお加害車両がセンターラインを超えた時点での両者の距離は90m。
ではこれら具体的状況が事実認定された上で裁判所がどう判断したか?
訴外亡Aにも対向左折大型車が中央線を越えることの予想されうる形状の交差点にさしかかり、前方を注意してできるだけ左側に寄つて進行し、交通の状況に応じて安全な速度と方法で進行すべき注意義務があるのに、これを懈怠した過失があるといわなければならない。したがつて、訴外亡A及び原告らの損害額の算定に際し、右過失を被害者及び被害者側の過失として斟酌するのが相当であり、その減額割合は35%と見るのが相当である
東京地裁 昭和57年3月18日
双方ともに大した速度が出てない上に、「センターラインはみ出し」した際の両者の距離が90m。
そして被害車両は漠然とセンターライン寄りを進行していた。
さらに道路形状からも対向車がセンターラインを超えてくることが予見可能な状況もあったのだから35%の過失相殺を認めた。
こういう具体的状況がなんなのか?をすっ飛ばして、「対向車が逆走してきたら回避行動を取らないと過失がつく」みたいな雑な解説をすることは、何がなんでも回避行動を取ろうとして二次災害になるのよ…
回避できる余地があるのなら回避すべきなのは当たり前なのであって、要は「回避できる余地」と判断された具体的状況を伏せて解説したら誤解を招くだけでしょ、という話。
逆に、回避できる余地がないと判断された判例もあるのだし、要は「回避できる余地」とはどういう具体的状況を指しているのか?という話なのね。
そもそも「回避すべきか」「回避すべきではないか」という論点がおかしいわけ。
「回避できる余地と判断されたのはどういう状況か」「回避できる余地がないと判断されたのはどういう状況か」の話ですから。
ただまあ、あそこの人は福井地裁判決についても「回避行動を取らなかったから過失がついた」みたいな理解度なので、

全然違う意味に捉えたら、そりゃ無理な回避行動を取ろうとして二次災害に繋がりかねないわなと思うけど、民事の過失は回避可能性のみならず損害拡大防止義務違反(その注意を払えばより被害が小さかった)も含まれうる。
そもそも、突然現れた逆走車に冷静に対処できる人はほとんどいなくて、順走車に過失相殺を認めた事例って「普通の注意で回避できたと考えられる事案」ばかり。
その具体的状況を示さずに解説するような雑な姿勢が問題なのでして、「回避すべきか」vs「回避すべきではないか」みたいな低レベルな話ではないのよね。
例えば以前、逆走車を避けられなかった事例について順走車無罪にした最高裁判例を挙げてますが、これって「回避すべきか」vs「回避すべきではないか」みたいな低レベルな話ではないですよね。
「回避できる余地があったか」「回避できる余地がなかったか」の問題。

けどあのYouTuberがおかしな解説を繰り返す原因は、そもそも裁判とはなんなのか?を理解していない点にある。
裁判ってまず事実を認定して、認定した事実に対して法的評価をするわけですが、つまりは具体的事例についての判断なのよ。
具体的状況を示さずに解説したら誤解を招くのは当たり前ですが、そもそも彼の場合は裁判で認定された事実すら歪めてしまうのだから

いったいなにをしたいのだろう。
2011年頃からクロスバイクやロードバイクにはまった男子です。今乗っているのはLOOK765。
ひょんなことから訴訟を経験し(本人訴訟)、法律の勉強をする中で道路交通法にやたら詳しくなりました。なので自転車と関係がない道路交通法の解説もしています。なるべく判例や解説書などの見解を取り上げるようにしてます。
現在はちょっと体調不良につき、自転車はお休み中。本当は輪行が好きなのですが。ロードバイクのみならずツーリングバイクにも興味あり。


コメント