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物損事故に慰謝料は認められるか?

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だいぶ前に読者様から、この件はなぜ慰謝料が認められているのだろう?とご意見を頂いたのですが、

発信者の情報不足が原因で、物損に対する慰謝料なのか、ケガをしたことに対する慰謝料なのか、慰謝料以外のものまで「慰謝料」とまとめているのかさっぱりわからないのよね。
なのでわからんとしか言えないのですが、

物損の場合、慰謝料は原則として認められません
壊れたものの修理費用か、同等品の再調達価格(中古市場価格)のみが原則。
ただし再調達価格の算定が困難な場合については、民法248条の規定により減価償却が採用されることが多い。

ロードバイク事故と減価償却の話。
こちらの記事についてご意見を頂いたのですが、うーん…まず、原則はこれ。当該自動車の事故当時における取引価格は、原則として、これと同一の車種・年式・型、同程度の使用状態・走行距離等の自動車を中古車市場において取得しうるに要する価額によつて定め...

ところで、物損事故は「原則として」慰謝料は認められませんが、例外がある。

 

※ここでいう「物損事故」とはケガを伴わない純粋な物的損害の話で、警察の事故処理上「物損事故」として処理したがケガを伴っているケースを含みません(警察の事故処理上の問題と、実質的被害は別問題)。
後者については慰謝料は認められます。
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物損事故と慰謝料

要は下記最高裁判決の問題になる。

上告人主張の訴訟は商取引に関する契約上の金員の支払を求めるもので、その訴訟で敗訴したため上告人のこうむる損害は、一般には財産上の損害だけであり、そのほかになお慰藉を要する精神上の損害もあわせて生じたといい得るためには、被害者(上告人)が侵害された利益に対し、財産価値以外に考慮に値する主観的精神的価値をも認めていたような特別の事情が存在しなければならない

最高裁判所第一小法廷 昭和42年4月27日

財産価値以外に考慮に値する主観的精神的価値をも認めていたような特別の事情」が認められれば、物損事故でも慰謝料が認められることになります。

 

具体的事例を挙げてみます(下記は物損自体の賠償のほかに、慰謝料が認められたか?の話)。

判例 物損の内容 慰謝料請求
東京地裁 平成元年3月24日 メルセデスベンツ500SL 認められず
大阪地裁 平成12年10月12日 墓石 10万円
東京地裁 平成15年7月28日 1年かけて制作した芸術作品 100万(ただし芸術作品の財産的価値が算定不能なことから、財産的価値+慰謝料の合計)

不法行為によつて財産的権利を侵害された場合であつても、財産以外に別途に賠償に値する精神上の損害を被害者が受けたときには、加害者は被害者に対し慰藉料支払の義務を負うものと解すべきであるが、通常は、被害者が財産的損害の填補を受けることによつて、財産権侵害に伴う精神的損害も同時に填補されるものといえるのであつて、財産的権利を侵害された場合に慰藉料を請求しうるには、目的物が被害者にとつて特別の愛着をいだかせるようなものである場合や、加害行為が害意を伴うなど相手方に精神的打撃を与えるような仕方でなされた場合など、被害者の愛情利益や精神的平穏を強く害するような特段の事情が存することが必要であるというべきである。これを本件についてみるに、原告本人尋問の結果によれば、原告は原告車を仕事に使用していたものであるが、前記修理の期間中(約一か月間)はタクシーを利用して仕事をせざるをえなかつたことが認められるものの、原告に前記特段の事情が存したことを認めるに足りる証拠はなく、右による原告の精神的苦痛は財産的損害の賠償とは別に慰藉料を認めるべき程度には至らないものというべきであるから、原告の慰藉料請求は失当といわざるをえない。

東京地裁 平成元年3月24日

本件作品の芸術的価値は、相当程度高く評価されている上、原告にとって、本件作品は、大学院卒業後初めて公の美術館に展示され、プロの作家として認められた記念碑的作品であるともいうべきものであって、原告が、一年という制作期間を費やし、陶板の制作のために長い工程を経て、時には作業が徹夜に及ぶなど多大な労力をかけて制作した思い入れのある作品であるにもかかわらず、被告の一方的過失によって惹起された本件事故により、陶板の多数枚が破損し、その破損状況や程度からして、もはやそれらを復元することができず、二度と同じ作品を制作できなくなったことが認められ、本件事故によって原告が受けた精神的打撃の大きさは容易に推認することができる。

以上のとおり、本件においては、被害物件が代替性のない芸術作品の構成部分であり、被害者が自らそれを制作した芸術家であることのほか、本件作品自体の芸術的評価、制作に至る経過、完成までの工程に鑑みると、客観的にも本件被害物件の主観的精神的価値を認めることができるので、原告が被った精神的苦痛に対する慰謝料は、本件事故による損害賠償の対象となると言うべきである。そして、上記事実関係に加え、上記二の認定、説示のとおり、本件被害物件の具体的な財産的価値が算定できない事情を考慮すると、その金額としては100万円と認めるのが相当である。

東京地裁 平成15年7月28日

※なおこの判例においては、陶芸家として他の作品を売買した価格を参考に破損した作品の価値を主張しているが(500万以上)、それは認められなかった。

 

そのほか、限定車の物損に慰謝料を認めなかった事案もあり、最高裁判決がいう「財産価値以外に考慮に値する主観的精神的価値をも認めていたような特別の事情」として認められる範囲は限定的。

 

ペットは法律上「モノ」扱いになるとは言え、実質的には家族として捉えるので慰謝料が認められるでしょうけど、「私が愛情を注いでカスタムしメンテナンスしてきた愛車」みたいな話には慰謝料は認められないと考えてよいかと。

一般化しようとすると失敗する

民事は前提になる事実が違えば結論が変わるのは当たり前で、冒頭の件にしてもなぜ減価償却ではなく再調達価格(?)が認められたのかは定かではないし、慰謝料についても何に対する慰謝料なのか明らかではない。

 

むしろ判例の多くでは減価償却法が採用されているのが現実でして、千葉地裁 令和5年7月19日判決は購入から約1年、購入代金は60万のロードバイクの現存価値を15万としている。
ロードバイクの耐用年数を5年として計算した京都地裁 平成27年7月29日判決もあるし、結局のところ個別に考えるしかなく、冒頭の事案が一般的な話と捉えたら現実世界と乖離するのよね。

 

要は下記最高裁判決との問題から、減価償却法はあくまでも例外的と言えるんだけど、

思うに、交通事故により自動車が損傷を被つた場合において、被害車輛の所有者が、これを売却し、事故当時におけるその価格と売却代金との差額を事故と相当因果関係のある損害として加害者に対し請求しうるのは、被害車輛が事故によつて、物理的又は経済的に修理不能と認められる状態になつたときのほか、被害車輛の所有者においてその買替えをすることが社会通念上相当と認められるときをも含むものと解すべきであるが、被害車輛を買替えたことを社会通念上相当と認めうるがためには、フレーム等車体の本質的構造部分に重大な損傷の生じたことが客観的に認められることを要するものというべきである。
また、いわゆる中古車が損傷を受けた場合、当該自動車の事故当時における取引価格は、原則として、これと同一の車種・年式・型、同程度の使用状態・走行距離等の自動車を中古車市場において取得しうるに要する価額によつて定めるべきであり、右価格を課税又は企業会計上の減価償却の方法である定率法又は定額法によつて定めることは、加害者及び被害者がこれによることに異議がない等の特段の事情のないかぎり、許されないものというべきである

 

最高裁判所第二小法廷 昭和49年4月15日

中古市場価格が確立されていない自転車については、中古市場における再調達価格が確立されているわけではない。
そうすると合理的基準として減価償却法が採用されることは珍しいことではない。

ロードレース中の事故でも、損害賠償請求が認められる可能性はある。しかし。
こちらにご意見を頂きました。前者は「ある」ですが、後者は「ノー」です。ちょっと話が長くなりますが、理由を説明します。レース中の事故と損害賠償請求訴訟ロードレースではなくデュアスロンのバイクパートでの事故ですが、損害賠償請求訴訟が認められた事...

で、結局は個別事情に左右されるのだから、プロの弁護士さんに一任して最適解を模索してもらうほうがいいという結論になります。
結局のところ冒頭のようなポストは、あくまでもこの人の事例に過ぎないのだから他人の事例に当てはまるかは別問題。
しかしSNSってこういう1事例を挙げて一般化しようとする。

 

ちょっと前に、人身傷害特約に関する話を一般化しようとするとムリがあると書きましたが

人身傷害特約で「裁判所基準」の損害賠償額を確保しうるか?
読者様からご意見を頂いたのですが、うーん…これはある状況下では正しいとも言えるし、違う状況下では不正確ともいえる。参考までにある裁判の判決文によると、裁判所基準による算定では被害者の損害額は7828万2219円、被害者過失が10%なので過失...

弁護士さんのサイトをみるとわかるんだけど、「こういう事例がありました」という解説はしても、「こういう事例はこうなります」みたいに断言することは避けている。
なぜかと言えばわずかな前提の違いが大きな差になり、結論が変わるからなのかと(結果を保証すると問題になるのは当たり前ですが)。

 

最高裁判決からすると、基本は中古市場での再調達価格であり、減価償却法は例外ともいえますが、

 

中古市場価格が確立されていない自転車については、基本と例外が逆転せざるを得ない。
結局民事は個別の問題だし、何かあったときは弁護士さんに一任した方がいいという結論でしかない。

コメント

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