こちらの記事についてご意見を頂いたのですが、


うーん…
まず、原則はこれ。
当該自動車の事故当時における取引価格は、原則として、これと同一の車種・年式・型、同程度の使用状態・走行距離等の自動車を中古車市場において取得しうるに要する価額によつて定めるべき
ところがですよ。
クルマは中古市場価格がある程度確立されてますが、ロードバイクの中古市場価格ってそんなに確立された価値観とは言えない。
そうすると「現存価値は算定不能」になり得ますが、一方では民訴法でこのように定めている。
第二百四十八条 損害が生じたことが認められる場合において、損害の性質上その額を立証することが極めて困難であるときは、裁判所は、口頭弁論の全趣旨及び証拠調べの結果に基づき、相当な損害額を認定することができる。
算定が困難なら、双方の主張と証拠から裁判所が合理的に判断できる。
その際に減価償却の概念を用いることは「合理的基準」になるのですが、自転車の償却年数をいわゆる「国税庁の償却年数」にすることはマレなんじゃないかと。
京都地裁 平成27年7月29日判決はロードバイクの耐用年数を5年として算定してますし、千葉地裁 令和5年7月19日判決は購入から1年経過したロードバイクの現存価値を15万(購入価値は約60万)としている。

中古市場価格が確立された分野なら中古市場価格に従うのが最高裁判決の趣旨ですが、中古市場価格が確立されてなく算定が困難なら合理的に判断するしかない。
なので減価償却されるのはわりと普通。
ところでこの最高裁判例。
そもそもの論点は何なのかというと、59万2000円で購入した新車が事故に遭った(停車中の被害車両にななめ後ろから追突したものなのでもらい事故みたいなもん)。
事故に遭ったのは購入から3ヶ月半、走行距離は3972キロ。
事故に遭った被害者は被害車両を購入した販売会社のアドバイスに従い、事故車両を下取りに出し買い替えしたのですが、下取り価格は35万1000円
要はこれ、事故当時の現存価値をどこに置くかの話でして、被害者は「現存価値-下取り価格」の差額を請求した。
原審の認定はこれ。
被害車両の事故前の価額を算定するに、事故当時被害車両は新車として購入されて3カ月半を経過したにすぎず、このような車両が買い替えられることは通常なく、当時被害車両を買い替えまたは他に売却すべき特別の事情があつたことについてなんら立証がないから、被害車両の事故前の価額の算定にあたつては、下取り価額を基準とするのは相当でなく、定率法による減価償却の方法によることが妥当であると解すべきところ、前記のとおり事故当時までの減価償却額は金6万2555円であり、これに被害車両には本件事故と無関係に前部フエンダーに金3000円の減額となる瑕疵と金2000円相当の工具の不備があつたことを勘案すると、事故前の被害車両の価額は、購入価額金59万2000円から右合計6万7555円を減じた金52万4445円であつたと認めるのが相当である。
(中略)
よつて、本件事故による被控訴人の車両の損害は、事故前の被害車両の価額金52万4445円と事故後の被害車両の下取り価額金35万1000円との差額金17万3445円である。
札幌高裁 昭和47年12月26日
これに対し最高裁は、原則は「中古市場価格」としながら破棄差し戻し。
(二) また、被害車輛の事故当時の取引価格については、前示の特段の事情につき何ら判断することなく、これを定率法によつて算定したに止まらず、自動車は登録されるとそれだけで約20パーセント価額が減額されるとの経験別の存在を認定し、しかも、被害車輛が新車として購入されたのち、本件事故当時まで3カ月半使用され走行距離も3972キロメートルに達している事実、すなわち、被害車輛は事故当時すでに中古車と認めるべき状態にあつたことを認めながら、何ら首肯するに足りる理由を付することなく、右経験則を適用しないで、被害車輛の事故当時の取引価格を、新車購入代金59万2000円から定率法による減価償却額6万2555円等を控除した残額52万4445円相当である、と判断している。
しかしながら、右各判断は、不法行為に基づく損害賠償額算定に関する法の解釈を誤り、ひいては審理不尽、理由不備又は理由そごの違法をおかしたものというべく、この違法をいう論旨は理由があり、原判決中上告人敗訴部分は破棄を免れない。
そして本件は、叙上の点についてさらに審理を尽す必要があるから、これを原審に差し戻すべきである。最高裁判所第二小法廷 昭和49年4月15日
結局、中古市場価格が算定困難なら裁判所は合理的基準として減価償却を採用するしかないけど、ロードバイク関係は償却年数が確立されているわけでもないし、いろいろ根拠を示して自身に有利に持ち込むしかないのよね。
間違っても「私は減価償却に同意してない!最高裁判例を読め!」みたいな主張をしても意味がない。
民訴法248条の趣旨からすれば、算定困難なら減価償却を採用するしかないわけで。
第二百四十八条 損害が生じたことが認められる場合において、損害の性質上その額を立証することが極めて困難であるときは、裁判所は、口頭弁論の全趣旨及び証拠調べの結果に基づき、相当な損害額を認定することができる。
示談交渉では「減価償却を認めない代わりにこっちを…」みたいに融通がきく場合もありますが、「カネを欲しい側」と「なるべく払いたくない側」の争いなんだから、示談交渉決裂で裁判するのが必ずしも利益になるとは限らないのよね。

2011年頃からクロスバイクやロードバイクにはまった男子です。今乗っているのはLOOK765。
ひょんなことから訴訟を経験し(本人訴訟)、法律の勉強をする中で道路交通法にやたら詳しくなりました。なので自転車と関係がない道路交通法の解説もしています。なるべく判例や解説書などの見解を取り上げるようにしてます。
現在はちょっと体調不良につき、自転車はお休み中。本当は輪行が好きなのですが。ロードバイクのみならずツーリングバイクにも興味あり。
コメント
減価償却を採用してくれるなら、先にコンポを買って、後からフレーム/ホイール/組み立て(固定資産であるコンポの価値を高める対応)の領収切ってもらったら、「娯楽又はスポーツ器具 主として金属製のもの」で耐用年数10年にして有利ですかね?
バイクのコンポをアップグレードも、コンポに前のバイクの部品流用したと言えば
自分のバイクは自転車の2年適用されたらタイヤ/チェーン/ブレーキ等のほぼ消耗品しか残ってない
もしもの時は、中古価格を主張しつつ、お陰様で買い替えできましたとなりそうです。
コメントありがとうございます。
要は合理的な基準か?と現存価値を越えてないか?により決まるので、正直なところ無理筋です笑。
この時代で60万のブツってフルカンパで、ハートやクラブの肉抜きとかの装飾したチェーンリングのイタリア製かな?って、思いました。
全盛期のエディ・メルクスのレプリカだったら、もっとしたのかなあーとか、本題とは無関係な点で思いを馳せてしまいました(笑)
コメントありがとうございます。
60万って最高裁判例の件ですか?
これは自転車ではなくクルマです。
千葉地裁の件はトレックのマドンだった記憶。
スミマセン
てっきりロードバイクと思い込んでました
事故ったロードの下取りが35万は変だなーとはおもいましたけど。。。。
やっぱり笑
ロードバイク関連で最高裁に行った事例は知らないですね。