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被害児童が青に変わる直前に飛び出したのに有罪?

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こちらで取り上げた判例について質問を頂いたのですが、

黄色信号と、停止線で停止できない場合の注意義務。
以前このような事案を取り上げてまして、事案としては、黄色信号にもかかわらず交差点に進入した上、青信号で横断開始した歩行者と衝突したもの。これについて、①黄色信号で停止できる速度だったのだから停止すべきだった、②黄色信号を看過して交差点に進入...
読者様
読者様
これって加害者が黄色灯火で交差点に進入し、被害者は「いわゆる全赤信号の状況にはあつたものの、対面する歩行者用信号は、まだ青色表示に変わつていなかつた疑いが濃く、被害児童についても、青色表示に変わる直前に横断を開始した可能性があることは否定できない」なんですよね?
それなら信頼の原則からみても有罪認定はムリがありませんか?

整理します。

 

被告人車は大型車ですが、時速40キロで進行していた被告人は黄色信号を認めた「停止線の20~30m手前」では既に停止線で止まれないことから(注、過積載等の事情もある)、そのまま進行。

その結果、横断歩道を横断した児童を轢いた事故です。

なお、横断歩道が赤→青に変わった瞬間については目撃者の証言や証拠から被告人車の最後尾が連光寺側自転車横断帯(画像左側)を越えた瞬間から1秒進んだところと認定(画像はビミョーに間違っているので注意)。

目撃者の対面信号が青色表示に変つた時の被告人車の位置は、被告人車の最後尾が連光寺側横断歩道に沿つた自転車横断帯の矢野口側端を越えた辺りから、最大限その地点から更に一秒進んだ地点までの範囲にあつたと考えることができるのは、以上認定したところから明らか

被告人の過失をどのように考えるのでしょうか?

本件事故における被告人の過失について考えるに、所論は、自動車運転者は交差点に差しかかつた際、対面信号機の表示が黄色に変わつた場合、直ちに急停止の措置をとつても停止線の手前で停止できないときは、そのまま交差点を通過できるとの見解を前提に、本件において、被告人は、黄色信号に変わつたのを認めたとき急制動の措置をとつても、停止線を越えてしまう状況にあつたのであるから、本件交差点を通過しようとした被告人には過失はない旨主張している。この点たしかに、黄色の灯火信号の意味については、道路交通法施行令2条において「車両……は、停止位置をこえて進行してはならないこと。ただし、黄色の灯火の信号が表示された時において当該停止位置に近接しているため安全に停止することができない場合を除く。」と定めている(なお、本件の場合、停止位置とは、「停止線の直前」である。同条1項の表の備考欄参照)が、この規定は、黄色の灯火信号が表示された時点において、当該停止位置に近接しているためそこで安全に停止することができない場合に、停止位置を越えて進行しても道路交通法違反(黄色灯火信号無視等)にはならないと定めているに過ぎないのであつて、規定の文言上も明らかなように、停止位置を越えた場合そのまま進行して交差点を通過することができる旨定めたものではない。ただ、交通の現状においては、黄色信号の場合、全赤信号となつた時間内に通過できるのであれば、そのまま交差点を進行することが許されるという態度で自動車を運転をする者も稀ではないが、全ての場合に当然にこのような態度で交差点の通過が許されるものではない。しかも、被告人車が、全赤信号の表示中に本件交差点を通過し終えることができなかつたことは前記認定のとおりであるから、そのような理由で被告人が制動措置を講じなかつたことを合理化することはできない。

道路交通法上の義務はさておき、事故の発生を未然に防止しなければならない自動車運転者の業務上の注意義務という観点から考えると、前記認定のような状況下において、被告人が対面信号機の黄色表示を認めながら、急制動の措置を講じることなく、停止線を越えて進行する場合には、交差道路側の車両用及び横断歩行者用の各信号表示に従つて動き始める歩行者、自転車又は自動車が被告人の進路前方に立ち入る危険が十分に予想されるばかりか、右のように交差道路側の各信号が変わる直前においても、被告人側の対面信号が赤色の表示をしているのを見て、交差道路から車道交差部分に進入してくる車両や横断を開始する歩行者等もないとはいえないのが実情である。しかも、前記認定のとおり、被告人は、停止線の約30m手前において、すでに矢野口側横断歩道の北東側歩道上に、横断しようとして信号待ちをしているとみられる被害児童ら2人の姿を認めていたのであるから、同児らを含め横断歩道等を横断する可能性のある歩行者等又は車道交差部分に進入してくる可能性のある車両との衝突を避けるためには、黄色信号を認めた時点で、急制動の措置を講じても停止するまでに停止線を越えてしまう状況にあつたと認められる本件においても、被告人としては直ちに急制動の措置を講じ、できるだけ速やかに停止すべき注意義務があつたというべきである(なお、実際にその結果、停止線を越えて横断歩道上、自転車横断帯あるいは車道交差部分において停止し、横断歩行者や車両の通行の妨げになる事態が生じたときは、その事態に対応してさらに交通状況に注意しながら自車を前進又は後退させてそれらの通行の妨げとならないようにすべきことはいうまでもない。)。そうすると、これに反して、黄色信号を認めながら急制動の措置を講じることなく、漫然と本件交差点を通過しようとした結果本件事故を惹起した被告人には、過失があるといわざるをえない。

東京高裁 平成5年4月22日

で、「この規定は、黄色の灯火信号が表示された時点において、当該停止位置に近接しているためそこで安全に停止することができない場合に、停止位置を越えて進行しても道路交通法違反(黄色灯火信号無視等)にはならないと定めているに過ぎないのであつて、規定の文言上も明らかなように、停止位置を越えた場合そのまま進行して交差点を通過することができる旨定めたものではない」とするのはその通り。
横断歩道が青に変われば横断歩行者が横断するのだから38条1項前段の減速接近義務があるし、横断しようとする歩行者がいれば「横断歩道の直前」で一時停止する義務がある(同後段)。

 

さて、確かに被害児童が青信号に変わる前に横断開始した可能性は否定できないとしてますが、被告人の過失を肯定した理由。

そうすると、Bが横断を開始した時点では、いわゆる全赤信号の状況にはあつたものの、対面する歩行者用信号は、まだ青色表示に変わつていなかつた疑いが濃く、被害児童についても、青色表示に変わる直前に横断を開始した可能性があることは否定できないというべきである。しかしながら、以上認定してきた当時の客観的状況から明らかなように、被告人車が被害児童と衝突したときにはその歩行者用信号が青色表示であつたのであり、被告人が横断歩道上を通行する歩行者との衝突という事態の発生を避けなければならないことはいうまでもなく、その意味で、Bや被害児童が全赤信号の状態のときに駆け出したかどうかは、被告人の過失の有無に直接影響するものではない。

東京高裁 平成5年4月22日

要は被害児童が横断開始したタイミングが「まだ青に変わる前」だった疑いがあるにせよ、衝突時は「横断歩道が青信号だった」。
衝突時にまだ赤信号だったなら別ですが、衝突時に横断歩道が青信号だったことも考えると被告人は「横断歩道が青に変わることを予測して減速、横断歩道の直前で一時停止すべき」ということになる。

 

これは他の判例でも示されている。

原判示のように自動車を運転し青の信号で交差点内に進入した被告人が前方の横断歩道上左側端付近に左から右に横断しようとして佇立している数名の歩行者を認め更に交差点中央付近まできたとき前方の信号が黄色に変つたのを認めた場合、直ちに右横断歩道の直前で停止すべき業務上の注意義務があると解するのは相当でない。けだし、この程度の状況下においては、被告人は後に述べるように必要な減速をして徐行すると同時に横断歩道又はその付近における歩行者の動静に絶えず留意して進行する等運転上適当な注意を払うならば、横断歩行者の前方をその通行を妨げることなく無事に通り抜けることがまだ不可能ではないと認められるからである。しかし右のような場合、間もなく歩行者に対する信号が青に変り歩行者が当該横断歩道を左から右に横断を開始することが必至であることは明らかであるから、被告人は自動車運転者として当然右歩行者の通行を妨げないよう配慮すると同時に減速徐行して状況に応じ必要があれば何時でも急停車し得るような態勢の下に横断歩道又はその付近における歩行者の動静に絶えず留意して進行する等してその安全を図るべき業務上の注意義務があることはもちろんである。しかるに原判決挙示の証拠によれば原判示のように被告人はこれを怠り、当時の毎時約三〇粁の速度をわずかに落しただけで(被告人は時速一五粁ぐらいに減じたというけれども本件事故を目撃していた自動車運転者Aの供述調書によれば、多くを減じたとは認めがたい。)、漫然進行したため、折柄信号が変り前記横断歩道左側から右側に歩いて横断をはじめた歩行者の前は事なく通過したものの、その後方から抜けて同横断歩道の外側を横断し被告人の車の前面に馳け出してきた七才の男の子を至近距離に迫つて始めて発見し、急制動の措置をとつたが間に合わず、自車左側前部を同人に衝突させて、同人に対し原判示の傷害を負わせたことが認められるのであつて、本件事故に対し被告人は過失の責を免れ得ないものといわなければならない。したがつて、原判決が被告人に対し本件横断歩道の直前における停止義務を認めた点にたとえ法令の解釈を誤つた違法があるとしても、とにかく原判決が前述のように停止義務以外の注意義務違反の点をもとらえて被告人に過失があると判示した以上、原判決に判決に影響を及ぼすことが明らかな誤があるとはいえないので、結局論旨は理由がない。

東京高裁 昭和41年10月19日

要は「横断歩道が青に変わることを予見して減速接近しろ」という話ですが、被告人車が黄色灯火で停止線を越えたことが直ちに信号無視になるわけではない。
しかしそれは「停止線を越えること」のみが許さるただけで、交差点を突破していいかは別問題なのよ。

 

そして東京高裁判決は、被害児童が青に変わる直前に飛び出した可能性は否定できないとしてますが、衝突時は横断歩道が青になっていたのだから被告人の注意義務を減じる要因ではないとする。

 

ところで、巷でみかけるのはむしろ逆。
黄色灯火で「スピードを上げて突破」ですよね。

 

ほとんどの場合、歩行者も注意するから事故に至らないと思うけど、小学生なら事故るのよ。
減速接近義務の判例としてはわりと興味深いですが、黄色灯火で減速接近義務(38条1項前段)があると考える人がどれだけいるだろうか?

 

ちょっと前に減速接近義務の判例をいくつか取り上げましたが、

減速接近義務「のみ」で取り締まり可能か?
読者様から「38条1項前段」(いわゆる減速接近義務)のみで検挙可能なのか?と質問を頂いたのですが、第三十八条 車両等は、横断歩道に接近する場合には、当該横断歩道を通過する際に当該横断歩道によりその進路の前方を横断しようとする歩行者がないこと...

あえて執務資料には詳細がない判例ばかりを挙げてます。
国がまとめた判例集でも大阪高裁 昭和56年11月24日判決に着目してますが、興味深い判例ばかりなのにあまり知られていないのよね。
そして冒頭の質問ですが、「衝突時には被害児童が青信号だったため、信頼の原則が検討されるケースではない」と考えます。

わりと興味深い判例だし、黄色灯火の注意義務という意味でも重要だと思う。

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