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逆走車と衝突したときに「順走車の自賠責保険」は適用されるか?

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逆走車と衝突した事故について、逆走車の自賠責保険だけでなく順走車の自賠責保険からも支払われると解説してますが、

この人は根本的な仕組みと法律を理解してないのよね…

 

まず事故態様。

10日午前7時前、和歌山市の阪和自動車道の下り線で、逆走してきた軽自動車がワンボックスカーと正面衝突しました。

この事故で、軽自動車を運転していた大阪 和泉市の58歳の男性と、同乗していた母親の86歳の女性、また、ワンボックスカーに乗っていた静岡市葵区の36歳の男性と妻の38歳の女性、それに7歳と5歳の子どもの合わせて6人がけがをして病院に搬送されました。

このうち軽自動車の86歳の女性が意識不明の重体となっていて、ほかの5人は軽傷だということです。

現場は、大阪府と和歌山県の境に近い阪和自動車道の雄ノ山トンネルの付近です。

警察によりますと、ドライブレコーダーの記録などから、軽自動車は阪和自動車道の下り線を走行中、和歌山ジャンクション付近でUターンし、事故現場までおよそ2キロにわたって逆走していたということです。

調べに対し軽自動車を運転していた男性は「大阪府内の自宅近くの病院に向かう途中に『和歌山』という標示を見て、目的地と違うと思いUターンした」などと話しているということで、警察は詳しいいきさつや、ふだんの運転状況などについて調べています。

エラー|NHK NEWS WEB
順走車
・運転者X(軽症)
・同乗者X1(軽症)
・同乗者X2(軽症)
・同乗者X3(軽症)
逆走車
・運転者Y(軽症)
・同乗者Y1(重体)

※いずれも同乗者には運行供用者に該当する人がいないと仮定する。

 

これについて、逆走車の自賠責保険からは「順走車側X~X3」と「逆走車の同乗者Y1」の負傷について支払われる。
そして順走車の自賠責保険からは、「順走車の運転者以外X1~X3」と「逆走車側のYとY1」が支払い対象とも言えますが、

 

そもそも自賠責保険の適用については、機構の傘下にある自賠責損害調査事務所が決める。
ここについては運行供用者が無過失の立証をすることはなく、調査事務所が判断しますが、

 

損害保険料率算出機構(自賠責保険の管理者)は以下3つを無責事故の代表例としている。

https://www.giroj.or.jp/publication/outline_j/j_2023.pdf

逆走、追突、信号無視は「無責三兄弟」なのでして、順走車の自賠責保険に請求してもほとんどの場合は却下されるのよね。

 

そうすると、順走車の運転者(運行供用者)に対して自賠法3条を根拠に提訴するしかない。
けどさ、そもそもカネの出所がどこなのかは関係なく、きちんと補償してもらえれば済む話。
通常、逆走車も任意保険に入っていることが考えられるし、逆走車の過失は明らか。
順走車側を提訴したところで「無過失の立証」を認めて請求棄却になるリスクが高いのだから、ほとんどの場合わざわざ順走車側の運行供用者責任を追及する必要がないのよね…

 

ちなみに運転レベル向上委員会は「無過失の立証は難しい」と言ってますが、今回の事故については少なくとも逆走車にドラレコがある。
無過失の立証を認めた判例なんて普通にあるのだし、逆走車との衝突事故、しかも高速道路でしかもブラインドコーナーのようにも見える事故現場に回避可能性があるとは通常考えにくいし、そんなにハードルが高い話ではない。

 

順走車の同乗者が順走車の自賠責保険から支払いを受けるなら、機構は無責認定するだろうから運転者を提訴するしかない。
普通に考えたら家族なのだから、娘や奥さんが父ちゃんを提訴するとか普通はないわけよ。

 

逆走車側の重体になっている同乗者についても、認められる可能性が低いのにわざわざ順走車側に運行供用者責任を追及しないのよね。
するとしたら、逆走車が無保険みたいな特殊な事情がないとまずあり得ない。
逆走車の保険から重体の同乗者に補償すれば済む話。

 

可能性が著しく低い「順走車の自賠責保険」にリスクを承知でワンチャンかける必要がわからん。

 

ところでこの人はいまだに福井地裁判決を理解してないようですが、福井地裁判決にしても提訴時点で「順走車が無過失の立証に失敗し賠償される可能性」はかなり低い。
要は他に回収手段がないから一か八かの裁判ともいえる。

 

福井地裁 平成27年4月13日判決の事案の概要です。

対向車が居眠り状態に陥り、センターラインを50センチ(画像では80センチとしているがミス)はみ出して通行。

青車両の先行車2台ははみ出した対向車と衝突を避けたものの、青車両と赤車両は衝突した。

G車は,本件衝突地点の約100m手前(北側)付近で中央線上を走行するようになり,そのままゆるやかに中央線をはみ出し,本件衝突地点の約80m手前(北側)付近では,車体が50cmほど対向車線にはみ出す形で走行するようになった。このとき,F車の2台前を北進していた車両(以下「先行車①」という。)は本件基点電柱の約47m北側(すなわち,本件衝突地点から約49.5m北側)を時速約50kmで走行しており,先行車①とG車との距離は約29mであった。先行車①の運転者は,その場でハンドルを左に切ってG車を避けた。また,その後,F車の前を北進していた車両(以下「先行車②」という。)も,左側に寄りG車を避けた。その直後,F車とG車 正面衝突した。

これについての損害賠償請求訴訟。
整理しておきます。

順走車(青) はみ出し車(赤)
車両 F車 G車
運転者 原告F 被告A
車の所有者 被告E(Fの使用者) 亡G
同乗者 亡G(相続人は原告B~D)

複数の損害賠償請求が併合されてますが、とりあえず関係する部分のみ抜粋。

亡Gの相続人である原告B,原告C及び原告D(これらの者を併せて,以下「原告Bら」という。)が,G車を運転していた被告Aに対しては民法709条及び719条に基づき,F車の保有者であり原告Fの使用者でもある被告Eに対しては自動車損害賠償保障法(以下「自賠法」という。)3条本文,民法709条及び715条に基づき(ただし,自賠法3条本文に基づく請求は,人損部分に係る請求に限る。),連帯して損害賠償金及びこれに対する本件事故の日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求め(甲事件)

判決文を見る限り、順走していたFに対しては逆走したG車自賠責保険から331万の支払いを受けてますが、亡G(逆走車の所有者で同乗者)については、順走していたF車の自賠責保険からは支払われていない。
未請求は考えにくいので(費用の負担なく請求できるものから請求するのは当たり前)、普通に考えると機構の判断は「順走車は無責」として自賠責保険の支払いを拒絶したと考えられる。

 

この判例って、ポイントになるのは「警察作成の実況見分調書が必ずしも正確ではない」と裁判所が判断したところ。

法律を知らずに判例を語ると、違う内容になってしまう。
ずいぶん前に有名な「福井地裁 平成27年4月13日判決」を取り上げてますが、なんかまたおかしな解説をする人がいて…法律を知らずに判例を語ると、違う内容になってしまうのかと驚く。福井地裁 平成27年4月13日判決の趣旨事案の概要です。対向車が...

要はこの事故は、「先行車2台が逆走車と衝突を避けた」という事実から、「F車にも回避余地があったのでは?」という疑惑が生じる。
では具体的に回避余地があったのかを検討するには、F車が逆走車を「どの時点で発見できたか」が鍵になるところ、

警察の実況見分調書が不正確と判断した以上、どの時点で逆走車を発見できたかは「わからない」ことになる。
自賠法3条は「人身損害については無過失を証明しない限り賠償責任がある」とするのだから、「わからない=無過失の証明に失敗」になり、順走していたF車は人身損害については賠償責任が確定する。

エ 本件事故直前の原告Fの動向について

原告Fは,本件衝突地点の手前で,北進車線の路側帯に歩行者がいるのを発見し,その方向に視線を移した。
その後,原告Fは,本件衝突地点の手前(南側)でG車を発見し,その場で急制動の措置を講じたが,G車と正面衝突した。
なお,原告Fは,平成24年6月5日に行われた実況見分において,本件衝突地点の約62.2m手前(南側)付近(別紙2の㋐の地点)で,前方約18mの位置(別紙2のⒶの地点)に北進車線の路側帯を同一方向に歩行している歩行者を見た,その後,本件衝突地点の約16m手前(南側)の地点(別紙2の㋑の地点)でG車が前方約33mの位置(別紙2の①の地点。本件衝突地点から約17m北側の地点)にいるのを発見し,その場でブレーキをかけた旨,具体的な説明をしている。しかしながら,原告F自身,上記説明のうち各車両の厳密な位置関係等については正確ではなかった可能性がある旨供述している上,上記実況見分は本件事故から1か月以上経った後に行われていることや,本件事故によりF車は大破し,原告Fも救急搬送されて全治2か月の入院加療を要する腰椎圧迫骨折及び肋骨骨折等の傷害を負うなど,本件事故の衝撃が相当大きなものであったと認められること等の事情に照らすと,原告Fが本件事故直前の状況を正確に記憶していないとしても不自然であるとはいえないことからすれば,上記実況見分で説明された位置関係が,すべて厳密に正確なものであるとまでは認められない。

実況見分調書に記載された内容が全て厳密ではないと裁判所が判断している。
わりと重要なのでここを押さえておく。

(2)以上を前提に,まず,本件事故について原告Fが無過失であった といえるかどうかについて検討する。

ア 本件事故について,被告Aには,自らが運転していたG車を対向車線に逸脱させた過失があることは事実によれば,本件事故直前に,被告Aが過労のために仮睡状態に陥り,そのままゆるやかに中央線をはみ出し,ついには対向車線に自車を逸脱させてF車と正面衝突したという本件事故の態様からすれば,本件事故の発生について,被告Aに極めて重大な過失があることは明らかである。
その上で,原告Bらは,原告Fは本件事故直前に脇見をしていたところ,仮に原告Fが脇見運転をしていなければ,より早い段階でG車の動向に気づき,F車を停車させるなどして本件事故を避けることが可能であったのであるから,原告Fには,本件事故について前方不注視の過失がある旨主張し,原告Fが無過失であることを争っている。
これに対し,被告Eは,原告Fは,本件事故直前に北進車線の路側帯にいた歩行者を見たものの進路前方を全く見ていなかったわけではない,F車の先行車の存在等により原告Fがより早い段階でG車の動向に気づくことは不可能であった,仮により早い段階でG車の動向に気づいたとしても,対向車線に回避する,その場で停止する,クラクションを鳴らすなどの原告Bらが主張する措置を咄嗟に講ずることは不可能であったし,仮にこれらの措置を講ずることができたとしても本件事故が避けられたとはいえないなどと主張している。
そこで,以下,これらの点について検討する。

イ まず,原告Fは,本件事故直前に北進車線の路側帯の歩行者を見たこと自体は認めているところ,本件全証拠によっても,原告Fが脇見をしていた正確な地点及びその時間は明らかではない
もっとも,原告Fにおいて,路側帯の歩行者の動向に注意を払うべき事情があったとしても,原告Fが自認しているとおり,歩行者の動向に注意を払うのと同時に,進行道路前方を注視することも不可能ではないことからすれば,原告Fに前方不注視の過失があったかどうかを判断するに当たっては,結局,原告Fにおいて,どの段階でG車の動向に気づくことが可能であったかが問題となる。
この点,G車が中央線上又はこれを越えて対向車線である北進車線を走行するようになった後,F車の前方には先行車が2台存在したところ,F車からG車方向の見通しは,これらの先行車との位置関係によって左右される。そして,上記認定事実によれば,先行車①が本件衝突地点の約49.5m北側を走行していたとき,G車はその前方約29mの位置を先行車①と対向して走行しており,先行車①とG車はほぼ同速度であったことからすれば,先行車①とG車は,本件衝突地点の約64m北側ですれ違ったことになり,さらに,原告Fが急制動の措置を講ずるまでのF車の速度と,G車の速度がほぼ同速度であったことからすれば,先行車①とG車がすれ違った時点で,F車は先行車①の約128m後方を走行していたことになる。これに対し,本件事故直前の先行車②とF車との距離は,証拠上明らかではない(なお,先行車①の運転者は,先行車②がG車を避けた「直後」にG車とF車が正面衝突した旨説明しているところ,G車の速度が時速50kmであったことを前提とすると,そもそもG車が先行車①とすれ違ってからF車と衝突するまでの時間は5秒足らずであり,「直後」という表現をもって,G車が先行車②とすれ違ってからF車と衝突するまでの時間を特定することはできないといわざるを得ない。)。
その上で,先行車①及び先行車②が中央線の0.8m内側を走行し(先行車①については,同車の運転者の説明に基づく位置である。),F車が中央線の0.5m内側を走行していたことを前提とした上(原告Fの説明に基づく位置である。なお,原告Bらは,F車は,実際には,より中央線に近い位置を走行していたはずである旨主張するが,これを認めるに足りる的確な証拠はない。),仮に,先行車②とF車との距離が40mであり,かつ,先行車②とF車が同速度であったとすると,F車からG車の動向を発見することができたのは,早くとも,先行車②が北進車線の左側の路側帯に回避可能となった時点,すなわち,F車が本件衝突地点の約35m手前(南側)付近に位置していた時点ということになる。また,上記と同条件の下,仮に,先行車②がF車と先行車①との中間(すなわち,F車の64m前方)を走行していたとすると,F車が本件衝突地点の約50m手前(南側)付近に位置していた時点では,F車からG車の動向を発見することができたと認められる。そして,上記のとおり,G車が先行車①とすれ違った時点における先行車①とF車との距離は約128mであり,G車が先行車①とすれ違った直後に先行車②とすれ違ったとすれば,先行車②とF車が64m以上離れていた可能性もあるところ,その場合には,F車は,さらに手前(南側)の位置でG車の動向を発見することができた可能性が高い。

ウ 以上の事実に加え,時速50kmの車両の停止距離は約24.48mであるところ,仮に原告Fにおいて,実際よりも早い段階でG車の動向を発見していれば,その時点で急制動の措置を講じてG車と衝突する以前にF車を完全に停車させることにより,少なくとも衝突による衝撃を減じたり,クラクションを鳴らすことにより衝突を回避したりすることができた可能性も否定できないことからすれば,本件事故について,原告Fに前方不注視の過失がなかったということはできない。

一方どの時点で逆走車を発見できたかわからない以上、民法上の賠償責任(主に物損)は否定される。
なぜなら民法は過失が証明されないと賠償責任が確定しないから。

(3)次に,本件事故について,原告Fに前方不注視の過失があったといえるかどうかについて検討する。

F車からG車方向の見通しは,F車と先行車,特に先行車②との位置関係によって左右されるところ,F車と先行車②との位置関係は,本件全証拠によっても明らかではない。したがって,原告Fにおいて,どの時点でG車を発見することが可能であったかについては,特定することができないといわざるを得ない。
さらに,原告Bら及び被告Aは,原告Fがより早い段階で急制動の措置を講ずることによりG車と衝突する前にF車を減速又は停車させていれば,あるいは,クラクションを鳴らしていれば,少なくとも衝突の衝撃が減じられた結果,少なくとも亡Gの死亡は避けられた可能性があるとも主張するが,結局,G車と衝突する以前にF車を完全に停車させることが可能であったかどうか(あるいは,どの程度減速を図ることができたか)や,急制動の措置を講ずることに加えてクラクションを鳴らす程度の心理的余裕があったかどうかは,G車の動向に気づくことができた段階で,G車とF車がどの程度離れていたかに依拠することになる。
そうすると,原告Fにおいて,どの時点でG車を発見することが可能であったかを証拠上認定することができない以上,この点からも,原告Fに過失があったと認めることはできないといわざるを得ない。
なお,原告Bら及び被告Aは,原告Fにおいて,上記の措置に加えて,対向車線である南進車線に進入することによりG車を回避すべきであったとも主張するが,被告Aが中央線を越えて北進車線に進入していることに気がついた場合,直後にG車を南進車線に戻す可能性もあり得ることからすれば,F車が対向車線である南進車線に進入すること自体危険を伴う行為であり,原告Fにおいてかかる措置を講ずるべきであったとはいえない。
以上によれば,本件事故について,原告Fに前方不注視の過失があったということもできない。

だからこうなる。

以上のとおり,本件事故について原告Fは無過失であったと認めることはできない一方原告Fに過失があったとも認められない。したがって,被告Eは,原告Bらに対し,自賠法3条に基づき,本件事故により亡Gの生命又は身体が害されたことにより受けた損害の限度でこれを賠償する義務を負う一方,民法715条に基づく損害賠償義務を負わない。

福井地裁 平成27年4月13日

さて。
自賠責機構が無責かの判定をする際には、おそらく警察が作成した実況見分調書をそのまま採用しているはずで、だから亡Gに対し順走車Fの自賠責保険が支払われた形跡がない。
機構は逆走事故は無責三兄弟として挙げているように、現実には自賠責保険から支払われる可能性は限りなく低く、訴訟提起して運行供用者責任を確定させるしかない。

 

福井地裁判決は「警察の実況見分調書が不正確」と判断されたことが運行供用者責任を認定したポイントなのですが、逆にいえばこの認定が得られなければ訴訟上も無責認定されうるのでして。
福井地裁判決は死亡した「逆走車の同乗者」が「逆走車の所有者(つまり逆走車の共同運行供用者)」だったことから、逆走車の自賠責保険が適用できない特殊事情が起こり、しかも逆走車の運転者に対して損害賠償請求を確定させたところでそこに保険がなければ回収の目処は立たない。
だから順走車の運行供用者責任にワンチャンかけるしかないという特殊事情なのよ。

 

「なぜ認められる可能性が低いのに順走車を提訴せざるを得なかったか?」を法律に照らして考えないと、福井地裁判決は理解できないと思う。
勝てないリスクを承知で提訴するのは、他に回収手段がないからなのよね。

 

福井地裁判決をおもいっきり勘違いして解説した後に勉強して理解したのかと思ってましたが、結局この人は「なぜ順走車を提訴したか」と「なぜ福井地裁が無過失の証明を認めなかったか」を理解してないのではなかろうか。

 

無過失の証明についてはハードルは高いといえば高いんだけど、理不尽に無過失の証明を否定するわけではないし、今回の事故現場と態様をみても無過失認定される可能性のほうがはるかに高い。
というよりも自賠責保険機構の判断は順走車については無責事故でしょう。

 

それに対し、勝てないリスクを承知で順走車の運行供用者責任を追及する訴訟を起こすだけの「必要性」があるのか疑問だし、裁判ってタダじゃないのよね。
提訴した結果、順走車の運行供用者責任が認められる可能性はゼロとは言わないが、ほとんどあり得ない状況を当たり前に認められるかのように解説するのはどうかと思う。
もっと謎なのは「自賠責保険は支払われるが民事は100:0」という支離滅裂な解説なんだけど(自賠責保険や運行供用者責任は民事なので)、

 

そもそも、もっと不思議なのはこの手の逆走事故を防ぐにはどうすべきか?という観点が全くない点。
つまり逆走させないための方策がない。

 

人間は間違いを犯すのだから、行きたい方向とは違う方向に進入してしまうこともあるでしょう。
しかしその時に、ほとんどの人は逆走を選ばないところ、なぜか逆走してしまう人が出てくる。

 

道路構造でもそれを回避できるようにできると思うんだけど…

 

判決の中身を理解することは重要ですが、提訴するに至った経緯も法を理解して判決文を読むと容易に推測できる。
そこまで考えないと福井地裁判決は勘違いすると思う。

 

ちなみに無過失の立証を認めた事例はわりとある。
むしろ問題なのは、無過失とは言えない事案で無過失の主張をする事案も多いから認められないのでして。
一例として無過失を認定した最高裁判例(一審は過失認定したものの、二審は無過失の認定)。

原審の確定するところによれば、上告人A1が、昭和40年4月3日午後4時20分頃被上告人B運転の三輪貨物自動車と接触して受傷した事故現場は、東西に走るa国道とb道路(南北路、幅員約7.5mの歩車道の区別のないコンクリート舗装道路)とが交差する大阪市c区de交差点から右南北路上南方約50mの地点にあつて、本件事故現場附近からは、ほぼ南西方向に一本の地道が三差状に出て、その三差路の幅員は、右南北路と接する部分では約9.3mあるが、南西方向に伸びるに従い急に狭くなり約4mとなる。本件事故現場附近は田畑が多く、ことに、西側の見通しは良好であり、信号や横断歩道の設備はない。右南北路は、自動車の往来が頻繁で、右e交差点の信号が南北赤になるときは、北行車はたちまち停滞して、その列は、右三差路すなわち本件事故現場附近をはるかに超えて、全長約100mに達する程の停滞状況を示し、他方南行車の方は、e交差点で通行止めとなるので、a国道から廻つてくる自動車が南進してくるだけの状態となる。上告人A2は、その友人訴外Dを見送るため、右三差路を経、右南北路を通つてe交差点のバス停留所まで行くべく、その長男上告人A1を伴つて自宅を出、Dと話をかわしながら、三差路を通り、南北路に達したが、そのときの南北路の交通状況は、丁度e交差点の信号が南北赤であつたから、北行車が、前記のように100m位列をなして停滞し、三差路前も、人が車の間を通つて横断できる程度に少しの間隔をおいたほかは、自動車が頭尾を接して停車していた。上告人A2は、右南北路の西側端を通ることは停滞車のため困難であるとみて、なんとなくその場で直ちに横断してその東側端を歩こうと考え(上告人A2は近辺の交通状況を知悉していた。)、前記停滞車の間隙を抜けて南北路を横切り、その東側端に渡ろうとし、よつて、上告人A1が先頭にたち、少し間隔をおいて上告人A2が続き、その後にDがほぼ一列になつて続いたのであるが、上告人A2は、その際、特に南行車通過に伴う危険に備え、上告人A1の手をつなぎ、または、注意を与える等の措置をとることなく、慢然上告人A1の独り歩きに任せていたため、かかる場合の事故防止能力を欠く上告人A1は、そのまま独りで停滞車の間を通り抜けて南北路中心線附近まで飛び出した。折しも、被上告人Bは、本件事故車を運転してa国道を東進し、e交差点を右折して右南北路に乗り入れ、その中心線から約50センチ東寄りのところを時速約25キロで南進し、右三差路附近にさしかかつたが、前記のように、同所には横断道路の設定はなく、また、叙上のとおり、西側に停滞する車両列のため三差路をなすことすら見極め難い事情にあつたため、そのまま進行したところ、本件事故現場約2m手前で上告人A1が北行停滞車の間隙からやにわに飛び出してきたのに気付き、突嗟にブレーキを踏んだが間に合わず、上告人A1は、自己の右側顔面を被上告人B運転の三輪貨物自動車後部荷台右側面の二つの蝶つがい附近にひつかけるように接触して転倒した。被上告人Bとしては、北行停滞車が列をなしていたため、上告人A1がその間隙から飛び出してくることを予知することはできない状況であつたというのであり、以上の事実は、原判決挙示の証拠関係に照らし是認することができる。そして、右事実によれば、被上告人Bとしては、本件事故現場附近を本件事故車を運転して時速約25キロで南進通過中、停滞していた対向北行車列のかげから、突如として上告人A1が自ら飛びかかつてきたような状態となつたのであつて、これに気付いたときは、急停車の措置をとつても、もはや上告人A1との接触を避けることができず、自車の右側面が上告人A1の顔面に接触してしまつたことが認められ、この間、被上告人Bの運転には別段非難すべき点はなく右述のような道路交通状況のもとで、被上告人Bに対し、自車の進路直前に突如飛び出してくるものを予見し、これに対処することまで要求することは難きを強いるものといわねばならない。)、結局本件事故につき、被上告人Bには過失はなかつたというべきで、かえつて、上告人A2は、学令にも達しない僅か5才10か月の幼児である上告人A1を帯同して、右南北路の如き自動車交通頻繁な、しかも、横断歩道の設けられていない個所を横断しようとしたのであるから、わが子の手をつなぎ.または、注意を与える等の措置をとつた上、左右の安全をみずから確認して相応の指示誘導をし、もつて、交通事故を未然に防止すべき歩行者、子の監護者としての注意義務があつたにもかかわらず、右義務を怠り、慢然上告人A1を先頭にたたせ、独りで横断するに任せたため、本件事故にあつたというべきであつて、上告人A2は、本件事故につき過失があつたことは明らかである、とした原審の判断は正当として首肯するに足りる。所論引用の判例は、事案を異にし本件に適切でなく、原判決に所論の違法は認められない。
論旨は、原審の認定しない事実関係を前提とし、独自の見解に基づき原判決を非難するものであつて、採用することができない。

 

最高裁判所第一小法廷  昭和45年1月22日

対向車が渋滞停止していた隙間から横断した幼児と、25キロで進行した加害車両の衝突。
2mに迫っていたのに横断したのだから、回避はムリなのよ。

 

理不尽に無過失を認めないわけでもないし、ムダにハードルを上げることも不要。
右直事故の「右折車」に無過失を認めた事例もありますが、

異常な高速度の右直事故と、過失割合の話。
右直事故の直進車が「時速120キロ」という異常な高速度だった2つの事例を取り上げましたが、刑事と民事の差は無視しますが、時速120キロという異常な高速度で差が出る理由はここ。①時速118キロで直進した白バイと衝突した右折車に、過失運転致死罪...

やるべき注意を払っていたなら無過失になるわけよ。
高速道路の逆走車を回避することは、偶然以外にはほとんど不可能。

コメント

  1. shtakah より:

     損害保険料率算出機構『2024年度(2023年度統計) 自動車保険の概況』35頁の「図13 無責・対象外事故件数の推移」によれば,2023年度の無責事故件数は,死亡132件,傷害2682件,合計2814件であり,『令和7年版交通安全白書』(内閣府のウェブサイトに掲載)148頁の「第1-22表 自賠責保険の保険金・共済金支払件数及び支払額の推移」によれば,令和5年(2023年)度の支払件数は88万0352件(うち死亡2730件,傷害84万4951件,後遺障害3万2671件)です(支払件数は1名につき1件と集計)。
     無責事故件数の内訳を示す資料としては,相当古い(約24年前)の資料ですが,旧運輸省の平成11年4月28日の記者発表資料(「自賠責保険の支払いに関する審査会,再審査会の開催状況と死亡無責の動向について」(下記ウェブサイト))及びその参考資料の「無責事故の状況(詳細版)」が見付かりました。
    https://warp.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/283156/www.mlit.go.jp/kisha/oldmot/kisha99/koho99/jibaisinsakai_.htm
     上記の資料及び参考資料によると,3大原因(被害車両の中央線突破,被害車両の赤信号無視,被害車両の追突)死亡事故の件数,3大原因死亡事故の無責件数(補正数(上記の資料の2ページの「○ 無責件数の推移」の(注)2ご参照。)ではなく実数),後者の件数が前者の件数に占める割合は次のとおりです。
    平成8年度 3181件 637件 20.0%
    平成9年度 3076件 341件 11.1%
    平成10年度 3008件 450件 15.0%
     なお,上記の参考資料によると,無責率(=無責件数÷請求受付件数×100)は,平成8年度が死亡無責率5.3%,傷害無責率0.6%,平成9年度が死亡無責率2.8%,傷害無責率0.5%,平成10年度が死亡無責率3.9%,傷害無責率0.5%です。

    • roadbikenavi roadbikenavi より:

      コメントありがとうございます。

      やはり三大要因は一気に無責率が高まりますが、思っていたよりは低い印象です。
      最新のデータを探してみます。

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