自転車や歩行者が赤信号無視してクルマと衝突した場合の過失割合についてご意見を頂きました。
でも歩行者が赤信号無視してクルマと衝突した場合にはクルマに30%、自転車が赤信号無視の場合にはクルマに20%の過失割合が設定されているし、それは理不尽と言えるのではないでしょうか。

確かにクルマ対クルマの赤信号無視事案は、赤信号無視した四輪車に100%の基本過失割合が設定されているのに対し、対歩行者や対自転車では青信号のクルマにも基本過失割合が20~30%設定されている。
で。
判例タイムズなど解説書によると、このような基本過失割合が設定されている理由は、「クルマに前方不注視等の安全運転義務懈怠が認められることを前提にしており、直近横断のように回避可能性がなくクルマに安全運転義務懈怠が認めれない場合には無過失もありうる」みたいな解説になっているのよね。
さて、これを考えてみましょう。
クルマの赤信号無視の場合、クルマは相応のスピードなのだから、青信号側に回避可能性があることはマレなんだと思う。
ちなみに青信号側に回避可能性が認められ過失がついた判例もあります。
ところが、歩行者や自転車の赤信号無視って「低速」な上に、自らがケガしないようにある程度確認してから赤信号無視したケースが多いんだと思う。
その場合、青信号側にも回避可能性が認められることが多いから基本過失割合を設定しているんだと思うのよね。
そしてきちんと注意していたのに赤信号無視自転車と衝突した事案については、青信号側に無過失を認めた事例がちゃんとあるわけで。

今までいくつか判例を紹介してますが、無過失を認めた事例はそこそこある。
例えばこれも無過失。

歩道通行自転車がこんな至近距離で転倒したら回避余地はないし、歩道通行自転車が車道に進出することを予見させる事情もなかったのだから無過失は当たり前。
けど、自転車が転倒した際の両者の距離次第ではクルマの過失割合が大きくなる。
結局、基本過失割合ってクルマ側にも何らかの不注意が認められることが多い実情から設定されているので、逆にいえば不注意が認めらないケースでは基本過失割合の適用はない。
けど、示談交渉でクルマ無過失を受け入れる被害者はまずいないので、無過失を主張するなら裁判しかないのよ。
裁判が面倒だから示談交渉で過失を受け入れて終わりにする人もいるでしょうし。
赤信号無視歩行者と青信号車両の事故のときに、歩行者が車両の直前で、しかも横断する予兆がないのに突如横断したような場合には、基本過失割合の適用はないことになる。
けどほとんどのケースはそうじゃなくて、歩行者は一応は左右をみて行けそうだと思って信号無視するわけで、そういう事故はクルマ側にも回避可能性が認められることが多いし、そういう事故が多いことから基本過失割合を設定している。
単に赤信号/青信号というだけで過失割合が決まるわけではないのよね。
確かに理不尽と思える事例もあるんだけど、民事ってわりと合理的に基本過失割合が設定されている気がする。
以前も書いたけど、「歩行者横断禁止」の場所での事故については、当初「赤信号同等」の過失割合が設定されたらしい(第一次倉田試案)。
しかし裁判所内部での批判が強く、赤信号無視とは異なる過失割合にしたと。
これにしても、時代背景がどうだったのかを考えるとなかなか興味深い。
要は第一次試案が設定されたとき、社会問題になっていたのが「横断歩道廃止→歩行者横断禁止規制→歩道橋の建設」。
しかし歩道橋を乗り降りできない人を無視した愚策として社会問題化した。
そのような背景からみても、赤信号無視同等と捉えるのはムリがあるから第一次試案が批判されたのよね。
そもそも民事の過失相殺は「平等に」ではなく「公平に」ですし、平等な過失相殺を期待していたら間違える。
けどちょっと注意していたのに起きた事故については、裁判所は理不尽に過失認定してないと思えるのよ。
2011年頃からクロスバイクやロードバイクにはまった男子です。今乗っているのはLOOK765。
ひょんなことから訴訟を経験し(本人訴訟)、法律の勉強をする中で道路交通法にやたら詳しくなりました。なので自転車と関係がない道路交通法の解説もしています。なるべく判例や解説書などの見解を取り上げるようにしてます。
現在はちょっと体調不良につき、自転車はお休み中。本当は輪行が好きなのですが。ロードバイクのみならずツーリングバイクにも興味あり。


コメント
倉田卓次(東京地裁判事)・福永政彦(東京地裁判事補)「自動車事故における過失割合の認定基準(試案)」(判例タイムズ229号(1969年3月15日)24~31頁所収)では,横断中の歩行者と自動車との事故における歩行者の基本の過失割合は,歩行者が横断禁止の場所を横断した場合は80,歩行者の信号が赤,車両の信号が青を表示している場合は90,歩行者の信号が赤,自動車の信号が黄を表示している場合は70とされています(26~28頁)。これらの点は,倉田卓次・福永政彦「自動車事故における過失割合の認定基準(改稿)」(判例タイムズ239号(1969年12月15日)2~25頁所収)でも同様ですが,倉田卓次・福永政彦「改正道交法による自動車事故過失割合の認定基準《改訂新稿》」(判例タイムズ270号(1972年2月15日)32~42頁所収)では,横断禁止場所の横断の場合について,歩行者に有利に手直しされ,「横断禁止の場所」が「明示の横断禁止の場所」とされ,歩行者の基本の過失割合は70とされました。
これらに対し,浜崎恭生(前東京地裁民事交通部,現岡山地裁津山支部裁判官)・田中康久(前東京地裁民事交通部裁判官,現法務省民事局付検事)・佐々木一彦(前東京地裁民事交通部,現札幌地裁裁判官)「民事交通訴訟における過失相殺率等の認定基準」(別冊判例タイムズ第1号(1975年4月25日)16頁以下所収)では,横断中の歩行者と自動車との事故における歩行者の基本の過失割合は,横断禁止場所における事故の場合は50(ただし,横断禁止の認識が困難なときは40,歩車道の境のガードレールを乗り越えて横断を開始したときは60),歩行者が赤信号で横断を開始し,車両が青信号で交差点に進入ないし横断歩道を通過した場合は80,歩行者が赤信号で横断を開始し,車両が黄信号で交差点に進入ないし横断歩道を通過した場合は50とされています。
コメントありがとうございます。
ちなみにですが、それらの時代に「歩行者が横断歩道で黄色の旗を使ったか?」は過失修正要素になっていたか知りたいです。
古い判例を見ると、黄色の旗を使ったか?が争点になっているものを見かけます。