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時速194キロ事故は、最高裁に上告へ。

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大分の時速194キロ事故について、福岡高検は最高裁に上告の手続きを取ったそうな。

 

この事件は当初過失運転致死罪で起訴されたものを、遺族の要請で再捜査し、「進行制御困難高速度危険運転致死罪(処罰法2条2号)」と「通行妨害目的危険運転致死罪(同4号)」に訴因変更。
一審は「進行制御困難高速度危険運転致死罪」の成立を認めたものの、「通行妨害目的危険運転致死罪」は認めず。

 

二審はどちらも認めずに過失運転致死罪にとどまるとした。

 

さて、福岡高検の上告理由は判例違反らしい。
上告理由は実質的に憲法違反か判例違反に限られるので、どちらかを主張する必要がありますが、

 

ここでいう「判例」が何を指すのだろうか。
上告理由でいう判例とは最高裁判例か、最高裁判例がないときは高裁判例だと規定されている(刑訴法405条)。
進行制御困難高速度に関する高裁判例なのか、通行妨害目的に関する高裁判例なのか、それとも事実認定に関する最高裁判例なのか?(それとも全部?)

 

ただしややこしいのは、判例違反というのは「同じ事案なのに結論が違うこと」を指すので、判例違反を主張しても「事案を異にし適切な判例ではない」となる。
しかし実質的には「破棄しなければ著しく正義に反する(刑訴法411条)」を期待していると考えられる。

 

ちなみにちょっと触れておこうと思う。
この事件について、「検察が控訴したから被告人も控訴した」みたいな話をする者がいますが、調べてもらえばわかるんだけど、一審判決から控訴に至るまで、弁護人は取材に応じられないとして何も語っていない。
控訴したのは検察も被告人側も同日で、弁護側は控訴した後も「控訴したかも含めてノーコメント」としている。

 

検察が控訴したから被告人も控訴した、という可能性もなくはないだろうけど、検察の控訴判断とは無関係に被告人側も控訴を検討していた可能性が高く、「検察が控訴したから被告人も控訴した」というのは単なる想像・憶測なのよね。

 

しかも想像・憶測のタチが悪い点は、想像や憶測だったはずなのにいつの間にか真実であるかのように独り歩きすること。
しまいにはこれを前提にして「だから控訴にはリスクがあると言ったじゃないか」という批判をする者もいますが、あなたの前提は単なる想像なのよね。

 

さらにいうと、福岡高裁の裁判長個人を責める論調には賛同し難い。
合議なのだから、理屈の上では「裁判長は危険運転を支持+左右の陪席は危険運転を否定」だと、判決は過失運転になる。
裁判長個人の意見がどうだったのかは合議の秘密だから公開されないが、わからないものはわからないとしか評価しようがなく、裁判体を責めるならわかるが、裁判長個人を攻撃する論調には賛同し難い。

 

なお、最高裁が原判決を破棄するのは1%以下で、弁論をするのもほとんどない。
最高裁がこの件で弁論期日を指定するかが最初のハードルになりますが、最高検がどれだけ説得力がある上告理由を書けるかになるのよね。

 

さらに追加しますが、いまだに右直事故の基本過失割合を理由に「右折車の方が過失が大きい」と語る者がいるのは、危機的だと思っている。
直進車が著しい速度超過の場合には基本過失割合を適用しないことは民事では常識で、現に以下判例がある。

時速120キロ直進車と、交差点右折車が衝突。過失割合はどうなる?
何年か前に大分で、時速194キロで直進するクルマと交差点右折車が衝突する事故がありましたが、一般原則としては右折車が劣後します(道路交通法37条)。第三十七条 車両等は、交差点で右折する場合において、当該交差点において直進し、又は左折しよう...

控訴人は、衝突時の控訴人車の速度は時速100キロメートル程度である旨の陳述及び供述をする。
しかしながら、○県警察が、控訴人車の走行状況を撮影した防犯カメラの記録等を解析して、本件事故直前の控訴人車の速度を時速122ないし179キロメートルと算出していること(上記撮影地点から、控訴人が急制動の措置を講ずるまでの間に、控訴人車が減速したことを認めるに足りる証拠はない。)、控訴人自身、警察が120キロメートル以上は出ていたというのであれば、間違いないと思う旨の陳述及び供述ををすることに照らすと、上記速度は120キロメートル以上と認めるのが相当である
車両は交差点に入ろうとするときは、当該交差点の状況に応じ、反対方向から進行してきて右折する車両等に特に注意し、かつ、できる限り安全な速度と方法で進行しなければならないところ(道路交通法36条4項)、控訴人は、夜間、最高速度の2.4倍以上の速度で控訴人車を進行させ、同車を、本件交差点を右折進行してきた被控訴人車の左側面後端に衝突させたのであって、控訴人に過失があるのは明らかである。
これに対し、被控訴人は、被控訴人車を本件交差点に進入させて一旦停止させ、対向車線を車両等が進行してきていないことを確認した上、時速10キロメートル程度の速度で被控訴人車を右折進行させたにすぎない。被控訴人に、夜間、最高速度の2.4倍以上の速度で本件交差点に進入してくる車両等を予見し、運転操作をすべき注意義務があったとするのは困難であるし、加えて、控訴人は、原判決別紙1の①地点から約75.9m手前で、被控訴人車が本件交差点を右折進行してくるのに気付いたというのであり、控訴人が時速50キロメートル程度の速度で走行していた場合、その停止距離(28m)や、被控訴人車の速度を考慮すると、本件事故の発生を回避し得た可能性が高いことに照らすと、本件事故は専ら控訴人の過失によるもので、被控訴人に過失はないというべきである。

福岡高裁 令和5年3月16日

優先道路通行車が114キロで直進。非優先道路通行車と衝突した場合の過失割合。
優先道路通行車と非優先道路通行車が衝突した場合、基本過失割合はこうなる。優先道路通行車非優先道路通行車1090ところで、優先道路通行車が著しい高速度で直進してきた場合、どうなるのでしょうか?優先道路通行車が著しい高速度で直進判例は名古屋地裁...

民事交通訴訟における過失相殺率の認定基準として公にされている基本過失割合は、各事故において典型的な事案を想定したものであって、特異な事情がある個別の事案についても常に当てはまるというものではない。本件事故についてみると、被告車が法定最高速度を時速54キロメートルも上回る時速約114キロメートルという異常な高速度で走行していたという特異性があり、劣後道路からの左折進行車の運転者においてこのような高速度で直進車が走行していることを認識するのは容易なことではないし、他方、このような高速度で走行する車両の運転者は、周囲の交通の状況に応じた変化に対応し事故を回避することを自ら極めて困難にしているものといえる。そうすると、本件事故は、基本過失割合が当てはまる典型的な事案とはおおよそ言い難く

名古屋地裁 令和4年9月28日

50キロ超過の直進バイクと右折車が衝突。過失割合は?
いきなりですが質問です。指定最高速度が40キロの道路にて時速90キロで直進するオートバイと、一時停止後に右折するために交差点に進入したクルマが衝突しました。過失割合はどうなるでしょうか?大幅な速度超過直進車と右折車が衝突この場合、法条競合と...

さらにいうと、時速194キロ事故の刑事一審は「被害者に過失はない」とする。
これは刑法上の過失である「制限速度+20キロ程度を予測して右折したか?」の問題において、被害者に注意義務違反がなかったことを意味し、民事と刑事では過失の認定が異なるとはいえ、民事でもこの考え方は採用される部分。

 

さらに刑事一審判決では「損害全額」とあることを総合的に判断すると、

その上で、被告人が、常習的に高速度走行に及んでいたことなど自己に不利益な事実を率直に認めたり、本件事故現場での献花を続けたりして、反省の態度を示していること、未だ若年であること、両親が出廷して社会復帰後の監督を申し出ていること、被害者の遺族に対して保険により損害全額の賠償がなされる見込みがあることのほか、被告人の責めに帰し得ない事情のため公訴提起から公判審理までの期間が長引き、被告人として不安定な状態に置かれ続けたことといった一般情状も考慮し、主文の刑を量定した。

大分地裁 令和6年11月28日

被害者過失0%で示談は成立しているんだろうなと。
そしてそれは判例に照らして何ら不合理ではない。

 

けどろくに勉強もしない者が、被害者の方が過失が大きいなどと誹謗中傷する。
被害者遺族はこのような声に心を痛めることを理解してないのだろうか。

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