さて、こちらの続き。

通行妨害目的危険運転致死罪については一審、二審ともに認めませんでした。
理由はこちら。
2 原判決の「事実認定の補足説明」の要旨
⑴ 法2条4号の通行妨害目的とは、歩行者又は道路上を通行する車全般に自車との衝突を避けるために急な回避措置をとらせるなど、相手方の自由かつ安全な通行を妨げることを積極的に意図することをいい、これらについての未必的な認識、認容があるだけでは足りないと解するのが相当である。
⑵ 被告人は、本件当時、直進車優先の本件道路の第2車両通行帯を西進し、被害者車両との衝突地点の手前約728mの地点において、被告人車両の前後及び対向車線を進行する車両は存在しないとの認識の下、アクセルを強く踏み込み始めるとともに、前方の状況を確認すべく前照灯をハイビームにし、同衝突地点の手前約331mの地点で本件交差点の対面信号機が青色を表示しているのを確認した後、時速約194.1kmの速度で本件交差点に進入したものであり、その際、対向右折進行してきた被害者車両に対して積極的にその通行を妨げる動機があったことを窺わせる事情もないから、被害者車両の自由かつ安全な通行を妨げることを積極的に意図していたとは認められない。
本件の事実関係の下においては、被告人が、被告人車両を運転して本件道路を直進する際、場合によっては対向車線から本件交差点を右折進行する車両があり、場合によってはこれらの車両が急ブレーキをかける必要が生じる可能性があると考えていたことを認定し得るにとどまるから、被告人に通行妨害目的があったとは認められない。
3 当裁判所の判断
⑴ 原判決の認定、判断に、論理則、経験則等に照らし、不合理な点は認められず、これを是認することができる。
⑵ 所論は、原判決には、原審公判廷での証拠調べの結果明らかになった種々の間接事実を総合的に認定、評価していない誤りがあり、証拠上認められる被告人による危険かつ悪質な「客観的な妨害行為の態様」、被告人が自車の走行性能を享受したいという動機の下、法定速度の3倍以上の常軌を逸した高速度で本件交差点に進入した「妨害行為に至るまでの経緯、運転態様」、対向車両の存在を現に認識し、同車両が本件交差点を対向右折してくる可能性を認識していたという「相手方車両の存在又は進行状況の認識」等の判断要素から認定できる事実関係を総合的に認定、評価すれば、通行妨害目的を優に認定できる、という。
しかしながら、危険運転致死傷罪は、重大な死傷事故を惹起する危険性が高い運転行為により死傷の結果を生じさせた場合の全てを処罰の対象としているものではなく、生命、身体に対する危険性の高い運転行為(危険運転)を故意に行うことを基本犯として構成し、それによって人を死傷させた行為を結果的加重犯として過失運転致死傷罪よりも重く処罰するため、そのような危険性が高い類型の運転行為の一部を抽出した上、これに該当する運転行為により人を死傷させた場合に限って適用されるものであり、過失運転致死傷罪に比して格段に法定刑の重い危険運転致死傷罪の処罰範囲を適正に限定する必要があることを踏まえると、法2条4号の通行妨害目的の要件は、客観面で、通行を妨害する危険性が存在していることを前提とした上で、主観面で、そのような危険性の認識、認容を超えて、相手方の自由かつ安全な通行を妨げることを積極的に意図している場合に限って通行妨害目的類型の危険運転致死傷罪の成立を認めることにその意義があるというべきである。故意という認識要素に加えて目的という意思的要素を構成要件としていることにも鑑みれば、原判決が説示するとおり、通行妨害目的とは、相手方に自車との衝突を避けるために急な回避措置をとらせるなど、相手方の自由かつ安全な通行を妨げることを積極的に意図することをいい、これらについての未必的な認識、認容があるだけでは足りないと解すべきである。通行妨害目的の要件の上記趣旨からすれば、相手方の自由かつ安全な通行を妨げることを積極的に意図していたというためには、いまだ視界に入っていない不特定の車両等の自由かつ安全な通行を妨げるかもしれないという抽象的な可能性があることを認識していたと認められるだけでは足りず、少なくとも、相手方である車両等の存在を認識した上で、敢えて、その相手方の自由かつ安全な通行を妨げることを確定的に認識、認容していたと認められる必要があるというべきである。このことは、立法当局者の説明(井上宏ほか「刑法の一部を改正する法律の解説」法曹時報54巻4号71頁、72頁)においても、交差点で直進車両の前を横切って右折する際に、場合によっては当該車両に急ブレーキを踏ませることになるかもしれないと考えていた程度にとどまる場合などにおいては、通行妨害目的は認められないとされていることからも明らかである。こうした理解を前提とすれば、前方にある交差点を直進進行しようとする車両の運転者の認識が、同交差点に対向右折車両が存在し、場合によっては当該車両に急ブレーキを踏ませることになるかもしれないと考えていた程度にとどまるときには、通行妨害目的は認められないと解すべきことは当然の帰結である。このように解さなければ、直進車両の運転者としては、自車が対向右折車両よりも優先され、対向右折車両による右折の中断を期待することは、道路交通法規に則ったものであるにもかかわらず、対向右折車両の存在や、同車両に急ブレーキを踏ませることになるかもしれないとの抽象的な可能性を認識していただけで、結果として当該対向右折車両との衝突事故が生じたときに、通行妨害目的類型の危険運転致死傷罪が成立するという著しく不合理な結論に至らざるを得なくなる。対向右折車両との関係で直進車両に通行妨害目的が認められるのは、例えば、直進車両が、対向右折車両が自車の通過を待たずに始めた右折進行を続けている事実を認識した上で、敢えて、その通行を妨げることを確定的に認識、認容して直進進行を継続した場合などに限られるというべきである。以上の点は、直進車両が法定速度を超える高速度で走行していたからといって変わるところはなく、直進車両の運転者において、高速度での走行や、その危険性を認識、認容していたと認められるとしても、そのことから直ちに法2条4号の通行妨害目的を認定することはできないというべきである。
以上を前提に、本件についてみるに、被告人は、本件交差点内の衝突地点の手前約331mの地点で、本件交差点の対面信号機が青色を表示しているのを確認した後、時速約194.1kmの速度で本件交差点に進入したと認められる(原審甲6、甲59、原審第5回公判被告人供述調書16頁)。確かに、所論が指摘するように、時速約194.1kmという高速度で本件道路のような一般道路を走行する場合、その行為の危険性はいうまでもなく、被告人において、抽象的には、本件交差点での対向右折車両の存在を想起し得たといえるし、現に、被告人自身も、時速150kmを超える高速度で走行しようと思っていたことや、本件交差点において対向右折車両が来る可能性があることを認識し、そのときは対向右折車両に譲らせる気持ちがあり、事故を避けるためには、対向右折車両に急ブレーキを踏ませるなどして相手に事故を回避してもらうしかなかったことを理解していたことを認める趣旨の供述をしている(前記被告人供述調書16頁ないし18頁、49頁ないし51頁)。
しかしながら、被告人の同供述は、自車走行車線内を直進進行していることを前提として、交差点において対向右折車両が存在する場合には、その車両に急ブレーキを踏ませることになるかもしれないという抽象的な可能性を認識していたという限度で自認するものにすぎないし、本件に現れた全証拠をみても、被告人が、本件交差点で対向右折を開始した被害者車両の存在を認識した上で、敢えて、その自由かつ安全な通行を妨げることを確定的に認識、認容して本件交差点に進入したという事実は立証されていないといわざるを得ない。なお、対向右折中の被害者車両に対し、直進進行してきた被告人車両が衝突したという本件事故の態様からすれば、被告人は、衝突に至るまでのいずれかの時点において、被害者車両を視認したはずであり、また、被告人も、捜査段階においては、本件交差点に差し掛かった時、進行方向右側から車のライトが見えた旨供述していることが窺われる(前記被告人供述調書52頁、53頁)。しかし、被告人車両が、当時、時速約194.1kmという高速度で走行していたことや、証拠上、被害者車両の右折時の走行態様が明確ではないことからすれば、被害者車両に気付いた時点ではもはや衝突を回避し得ないほど間近に差し迫っていた状況にあったことも十分に考えられるのであって、被告人が、本件交差点に進入する時点において、被害者車両の存在を現実に認識し、敢えて、その自由かつ安全な通行を妨げることを確定的に認識、認容していたと認めるには合理的な疑いが残るといわざるを得ない。また、本件事故当時、本件交差点において、対向右折車両が間断なく続くなど、その通行量が多く、直進車両にとって対向右折車両が当然に存在することを予測すべき状況であったなどの事情は何ら
窺われない(原審甲63によれば、本件の約半年後の同じ曜日、時間帯の右折進行車両は、35分間で20台にすぎない。)。所論が種々主張するところは、結局、被告人において、自車の進行方向に対向右折車両が存在するかもしれないという抽象的な可能性を認識していたことを前提として、被告人に通行妨害目的が認められるとするものであって、採用の限りでない。
⑶ 所論は、不特定の一切の車両、歩行者等の通行を妨害する意図を有していた場合、例えば、暴走族が進路一杯に広がって集団で暴走をし、対向してくる全ての車両等を避難(避譲)させる意図を有していた場合においても、通行妨害目的が認められ得るとされているから、不特定の一切の車両、歩行者等の通行の妨害を来すことが確実であるとの認識があれば、通行妨害目的が認定できると解されるべきである、とした上で、本件においても、被告人は、対向車両が右折してくることがあり得るとの認識の下、減速するどころか、敢えて加速しながら高速度で本件交差点を通過しようとしている以上、不特定の一切の対向右折車両に急ブレーキを踏ませる回避措置をとらせるのが確実であることを認識しながら危険な運転行為を行ったといえるのであり、被告人の認識は、人や車の自由かつ安全な通行の妨害を積極的に意図していた場合と異なるところはなく、通行妨害目的が認められる、という。
しかしながら、不特定の一切の車両等の通行を妨害する意図を有していた場合に通行妨害目的が認められるときがあるとしても、それは、特定の車両等の通行を妨害しようとする場合だけでなく、例えば、対向車線を逆走して、現実に存在する、全てあるいは不特定の対向車両の通行を妨害しようとした場合も含むということなのであって、存在するかもしれない、いずれかの対向車両、すなわち、不特定の車両等の通行を妨害するかもしれないという程度の抽象的な可能性を認識していれば足りるということを意味するものではない。前記⑵で説示したとおり、相手方の自由かつ安全な通行を妨げることを積極的に意図していたと認められるためには、少なくとも、概括的にでも、現実に、相手方である車両等の存在を認識した上で、敢えて、その相手方の自由かつ安全な通行を妨げることを確定的に認識、認容していたと認められる必要があるというべきである。
所論が引用する東京高等裁判所平成25年2月22日判決(平成24年(う)第1991号、高等裁判所刑事判例集66巻1号3頁)の事案は、運転者が、パトカーの追跡をかわすことを主たる目的とし、片側1車線の道路で、中央線を跨いで自動車の車体の半分を反対車線に出る状態で直進進行し、前方先行車両を追い抜こうとした際、反対車線を対向進行してきている車両が間近に接近していることを認識しており、上記の状態で走行を続ければ、対向車両に自車との衝突を避けるため急な回避措置をとらせることになり、対向車両の通行を妨害するのが確実であることを認識していたと認められる事案であり、自車走行車線を逸脱することなく直進進行し、かつ、被告人が直前まで対向右折車両を認識していなかった本件とは、前提となる事実関係が明らかに異なっている。また、同判決は、「不特定の一切の車両・歩行者等の通行の妨害を来すことが確実であると認識して運転行為に及んだ場合においても、通行妨害目的が認められ得る」などとは判示しておらず、そのような解釈が導き出されるものでもない。
また、所論が例示する、暴走族が進路一杯に広がって集団で暴走をし、対向してくる全ての車両等を避難させる意図を有していた場合や、警察車両に追尾された運転者が自動車専用道路を逆走した事案についての広島高等裁判所平成20年5月27日判決(平成19年(う)第236号、高等裁判所刑事裁判速報集平成20年224頁)は、いずれも、対向車線を逆走するなどし、対向車線上の対向車両が眼前に走行している事案であって、被告人が自車走行車線を走行し、かつ、直前まで対向右折車両の存在を具体的に認識していなかった本件の場合とは、やはり、根本的に、客観的な状況が異なっている。
所論が種々主張するところは、結局、被告人において、自車進行方向に対向右折車両が存在するかもしれないという抽象的な可能性を認識していたことを前提として、被告人に通行妨害目的が認められるとするものであって、当を得ない。
⑷ 所論は、被告人は、加速による自車の挙動の変化を体感したいという動機と、自車の限界性能近くまでできる限り加速して高速度で走行したかったという動機の下、危険を回避するために対向車両の挙動に気を配ることも、自ら減速する気もなく、直進車両の優先意識から対向右折車両が回避措置をとるのが当然との認識の下、被告人車両との衝突を避けるためには対向右折車両に急な回避措置をとらせるほかないほどの高速度で本件交差点内に進入し、時速約194.1kmで被害者車両と衝突したのであって、被告人は、相手方の自由かつ安全な通行を妨げることを積極的に意図していたと認められる、という。
しかしながら、前記⑵で説示したとおり、所論が種々主張する点を踏まえて検討しても、被告人が、本件交差点で対向右折を開始した被害者車両の存在を認識した上で、敢えて、その自由かつ安全な通行を妨げることを確定的に認識、認容して本件交差点に進入したという事実は立証されていない。この点について、所論は、①被告人は、本件交差点に接近する過程において、対向車両の存在を認識したはずであり、対向車両が右折してくる可能性も認識していたと認められる、②原審甲68の資料14を根拠に、遅くとも衝突5秒前の時点で、被告人は、概ね約290m前方にいた被害者車両の左右の前照灯を十分に視認できたと明らかに認められる、などという。しかし、いずれにせよ、これらは、自車の進行方向に対向右折車両が存在するかもしれないという抽象的な可能性を認識していた旨を主張するものにすぎず、被告人が、対向右折を開始した被害者車両を認識した上で、敢えて、その自由かつ安全な通行を妨げることを確定的に認識、認容して本件交差点に進入したという事実を主張するものではないから、所論は、その前提において採り得ない。
⑸ 以上のほか、所論が種々主張する点を踏まえ、また、所論が指摘する諸事情を総合的に評価してみても、被告人に通行妨害目的があったとは認められないと判示した原判決に誤りはない。
検察官の事実誤認ないし法令適用の誤りの論旨は理由がない。福岡高裁 令和8年1月22日
要するに、妨害の対象については確定的認識が必要であって、「右折車がいるかも」みたいな抽象的認識ではダメという話か。
これについては以前書いたけど、

通行妨害目的については未必的認識で足りるとした大阪高裁判決がありますが、同判例は妨害の対象については確定的認識があり、通行妨害の意思が未必的という事案。
その意味では事案が違う。
そして東京高裁判決と広島高裁判決を引用し主張したようですが、事案が違う。
さて、福岡高裁の判決文を見渡したときに、判例違反の上告理由が指す判例とはなんなのか、わからない。
しかし福岡高裁判決が立証不足を理由に原判決を破棄していることを考えると、立証についての判例なんじゃないかとすら思える。
つまり、進行制御困難高速度についての判例ではない可能性もある。
上告趣意は刑集に掲載される可能性がありますが、経験則からすれば進行制御困難高速度を認めて問題ないのではなかろうか。
通行妨害目的については、ちょっとハードルが高い。
2011年頃からクロスバイクやロードバイクにはまった男子です。今乗っているのはLOOK765。
ひょんなことから訴訟を経験し(本人訴訟)、法律の勉強をする中で道路交通法にやたら詳しくなりました。なので自転車と関係がない道路交通法の解説もしています。なるべく判例や解説書などの見解を取り上げるようにしてます。
現在はちょっと体調不良につき、自転車はお休み中。本当は輪行が好きなのですが。ロードバイクのみならずツーリングバイクにも興味あり。


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