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「気付かなかった」といえばひき逃げは無罪なのか?

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読者様からこちらについてご意見を頂きました。

道路交通における世論の処罰感情と法律のズレ。
これについてちょっと語ろうと思う。事案は著しい高速度で信号無視して事故を起こし、救護義務違反(ひき逃げ)もしたもの。要するにこれを危険運転致死傷罪として処罰するには、「進行制御困難高速度(処罰法2条2号)」か「殊更信号無視(同7号)」に該当...
読者様
読者様
最後の轢き逃げについて、加害者側が「気づかなかった」と言って減刑になると浸透しているのも問題かなと。
フロントガラスが割れてボンネット凹んでるのに気づかなかった人だと思わなかったとか、絶対嘘だろって思いつつも断定しようがないニュースをよく聞きますし、それが最終的に裁判でどうなったかはよほど関心がないと知る機会がないですしね

これですが、救護義務違反罪は故意犯の処罰規定しかないので、事故が起きた認識が必要です。

 

で。

 

「気付かなかった」という供述ですが、そもそも刑事事件においては供述(自白)で有罪無罪が決まるわけでもなくて、客観的証拠が必要です。
「気付かなかった」という供述は「検察官がいう救護義務違反罪について争う」という意味でしかないと思うんですね。

 

一例として、こちらを挙げます。

「悪いことしちゃった」親子をひき逃げして死亡させた罪に問われている男 過失運転致死については認める=静岡地裁沼津支部 | 静岡のニュース | SBSNEWS | 静岡放送 (1ページ)
1月、静岡県沼津市でごみ出し当番の親子をひき逃げし、死亡させた罪に問われている男の裁判で、11月7日、被告人質問が行なわれました。男は「悪いことしちゃった」などと過失運転致死については認める供述をしまし… (1ページ)

この通り、救護義務違反罪については争うとしている。
ではどのように「被告人が事故を起こしたことを認識していたか?」を立証するか?

1 争点
被告人が、判示第1のとおり普通貨物自動車(以下「本件車両」という。)を運転中に被害者両名(以下、Aを「被害男性」、Bを「被害女性」という。)を死亡させる事故(以下「本件事故」という。)を起こしたこと、その後、客観的事実として、被告人が救護上必要な措置をとらず、警察官への報告をせずに本件事故現場を立ち去ったことについては、当事者間に争いがなく、証拠上も容易に認められる。
被告人は、本件事故を発生させたことに気が付かなかった旨を供述し、弁護人も、判示第2について、被告人には、人に死傷結果を生じさせたという認識がなかったため、不救護・不申告の故意があったとは認められない旨を主張するが、当裁判所は、以下のとおり、被告人は、自己の運転により人を死傷させたかもしれないと認識しており、不救護・不申告の故意が認められ、判示第2の罪が成立するものと判断した。

2 前提事実
関係各証拠によれば、次の各事実が認められる。
⑴ 本件車両の状況等
ア 被告人は、本件事故当時、魚の販売業を営んでおり、保冷庫型の荷台が積載された本件車両を、沼津市 e 所在の自宅から同市 f 所在のD魚市場(以下「魚市場」という。)まで、日常的に運転していた。
イ 本件車両の保冷庫型の荷台左側に取り付けられたパネル(跳ね上げ扉となっている。以下「本件跳ね上げ扉」という。)は、寸法が縦96センチメートル、横152センチメートル、厚さ3.0センチメートル、重量が28.8キログラムであり、上端に車体と固定するための丁番(幅約8センチメートルでねじ穴に3本のボルトで固定するもの。)4個、中央下部に密閉用埋め込みハンドル等が設置され、表面の材質はアルミ板で中にベニヤ様の板が挟まれ、さらに前側下端部付近はアルミ板が樹脂様のもので覆われていた(甲11、45、46)。本件跳ね上げ扉を閉じて車体に固定するための施錠設備は壊れており、その代わりとして、本件跳ね上げ扉と車体を繋ぐための鎖が取り付けられていた(甲11)。本件事故以前、被告人は、その鎖を車体に繋げることを失念して本件車両を運転し(甲17)、本件跳ね上げ扉が開放した状態で走行することが度々あり、周囲から開いたままになっていることを指摘されていた(甲15、16)。また、被告人は、複数回にわたり、開放した状態の本件跳ね上げ扉を電柱等に衝突させて、修理に持ち込むことがあった(甲14、52)
ウ 被告人は、本件事故当日の早朝、本件車両のロービームを点灯させた上、本件車両を運転して魚市場へ向かった。その際、本件跳ね上げ扉の鎖は車体に繋げられておらず、午前5時29分頃に本件車両が本件事故現場の約1.1キロメートル手前に至った地点では、本件跳ね上げ扉は上方に開放した状態となった(甲41)。
⑵ 本件事故現場の状況等
本件事故現場は、アスファルト舗装のされた平坦な片側一車線の道路であり、東進車線(幅員約2.6メートル)の進路前方に向かって左側(北側)に路側帯(幅員約0.9メートル)が設けられている(甲1、2)。進路前方の見通しを遮るような障害物等はなく、夜間であっても、車両のロービームを点灯させた場合には、数十メートルにわたり進路前方を視認することができる(甲32)。本件事故当時、本件事故現場付近の平均風速は毎秒4.1メートル・最大瞬間風速は7.7メートルであった(甲6)。
⑶ 本件事故における衝突状況
本件事故直前、被害男性及び被害女性は、本件事故現場 の路側帯上に設けられたごみ集積場所において、黄色の防鳥 用ごみネットを取り付ける作業をしていた。
被告人は、前記⑴ウの本件事故現場の約1.1キロメートル手前を走行時には、本件跳ね上げ扉を 約37度、路面から約105ないし 107センチメートル上方、車体から約53センチメートル左方に開放させた状態であり(甲18)、そのまま同様の開放状態で走行し、時速約46ないし57キロメートルで進行中、本件事故現場において、本件跳ね上げ扉の前側下端部を、被害男性の背部(高さ106センチメートルから113センチメートルの箇所)に衝突させた(甲25、26)。この衝突により、被害男性(体重約80.6キログラム。甲57)は跳ね飛ばされて被害女性と衝突し、仰向けに倒れた被害女性に覆いかぶさる 形で重なって倒れ、右第9、10肋骨骨折、左第5ないし11肋骨骨折及び外傷性血気胸等の傷害を負ってその場で死亡した(甲21、22)。
本件事故後、本件跳ね上げ扉は前側下端部の角が内側に10センチメートル曲損したほか、上部4か所のうち前方2か所の丁番が車体から外れていた(甲11、19、20、45、46)。

3 検討
⑴ 被告人が、本件車両が何かに衝突したかもしれないと認識したか
ア まず、本件事故による衝撃は、重量が28.8キログラムあり、ベニヤ板がアルミ板及び樹脂様のもので二重に覆われた、3センチメートルもの厚さのある本件跳ね上げ扉の角を内側に10センチメートル曲損させ、また、本件跳ね上げ扉を上端で固定していた丁番を2か所外れさせるほどのものである上、本件跳ね上げ扉と衝突して跳ね飛ばされた被害男性が多数の肋骨骨折等の傷害を負いその場で死亡していることからしても、かなり強いものであったと認められる。
加えて、本件事故後に実施した 走行実験(本件事故現場において 本件車両を時速約46キロメートルで走行させて重力加速度を計測したもの。甲58)と衝突実験(本件車両に本件跳ね上げ扉を開き幅53センチメートルに取り付けた上、同速度で走行させダミー人形に衝突させて重力加速度を計測したもの。以下「本件衝突実験」という。 甲61、62)の結果をみると、 本件衝突実験において 本件跳ね上げ扉がダミー人形の背部に衝突して回転したときの重力加速度は約1Gであり、これは、本件事故現場の通常の走行時の重力加速度の3倍ないし10倍であった。また、一般道路の傾斜のある凹凸(荒れた路面、舗装の不連続部など)を走行した場合の重力加速度は約0.4Gであるところ(甲60)、その約2.5倍の重力加速度に相当した。これらの実験結果からも、本件事故時に相当の衝撃があった ことが裏付けられる。
これに対して、弁護人は、本件事故時に、本件跳ね上げ扉の上部の丁番が変形・破損することによ って、被害男性との衝突による衝撃が吸収された可能性がある一方、 本件衝突実験は、本件跳ね上げ扉 を逆さに設置して棒状の金具等で一定の角度に固定した上で実施されており、衝撃が逃げる余地が全くないから、 実験結果を踏まえても、被告人が本件事故時に衝撃 を覚知できなかった可能性があると主張 する。しかし、本件跳ね上げ扉の取り付け方法 を除けば本件衝突実験の前提条件は本件事故時の状況と ほぼ異ならず、取り付け方法についても、 実験後丁番に緩みが認められた(甲67)ことからすると 衝撃が逃げる余地の全くないものとはいえないから、本件衝突実験 の結果から認められる衝撃の程度 が、本件事故のそれを大きく上回っていることはないと考えられる。本件衝突実験に関する弁護人の主張は、採用できない。
イ そして、被告人は、魚の販売業を営みながら、日常的に自動車を運転しており、認知、判断及び運動能力等は相応に保たれていたといえることに加え、 本件事故以前、本件車両を運転して 本件事故現場 付近を日常的に走行していたことも考慮すれば 、本件事故時には通常走行時とはかなり異なる大きな衝撃を覚知し、本件車両が何かに衝突したかもしれないと認識したものと認められる。
⑵ 被告人が自己の運転により人を死傷させたかもしれないと認識したか
被告人は、本件事故現場付近において、ごみを捨てている人が2人いて、その横を通り過ぎた旨述べているところ、かかる供述は、ごみ集積場所の当番であった被害男性及び被害女性の上記作業状況と整合している上、この点に関しては捜査段階から一貫していることや、本件事故現場付近の視認状況に特段問題は見られないこと等も踏まえれば、信用性が認められる。そうすると、被告人は、本件事故現場付近において、ごみを捨てている人が2人いると認識していた中で、同人らの傍を通過したときに、前記⑴のとおりの通常走行時とはかなり異なる大きな衝撃を覚知したことが認められるから、被告人が、その衝撃を覚知した時点で、人と衝突したかもしれないと認識したことが強く推認される 。
また、自動車を車線に沿って走行させた場合には、通常、路側帯にいる人と衝突することはないが、被告人は、周囲からの指摘にもかかわらず、複数回にわたり、開放した状態の本件跳ね上げ扉を電柱等に衝突させることがあったのだから、本件事故当時も、開放した状態にある本件跳ね上げ扉が路側帯にいる人に衝突したかもしれないということにも思い至ったといえる。
そうだとすると、被告人は、前記衝撃を覚知した時点で、自己の運転により人に死傷結果を生じさせたかもしれないことを認識したものと認められる。

静岡地裁沼津支部 令和7年11月13日

供述から確定的故意は認めがたいけど、証拠から未必的故意は優に認定できるのでして。

 

確かに、被告人において「事故と認識しなかった」という供述は争う意思表示と言える。
例えば他にどのように故意を認定するかというと、フロントガラスが蜘蛛の巣状に割れたような場合。

 

その状況で「じ、事故が起きたとは認識してませんでした」と供述することは、むしろ逆効果なのよね。

 

明らかに状況証拠と合わず、ウソをついてますよね?と思われてしまいむしろ悪質なのよ。

 

現実には、被告人において事故発生を認識し難いケースはある。
例えばこれ。

裁判例結果詳細

本件刑事判決のうち,救護・報告義務違反の点について無罪とする理由の要旨は,次のとおりである。
すなわち,①原告車両の損傷状況については,擦過痕以上のものを確認できない。②本件事故の接触状況については,互いに向かい合った車両同士の衝突ではなく,同じ方向に向かう車両同士の接触であり,上記損傷が生ずる程度のものにすぎない。③聞こえたという衝突音については,上記損傷状況・接触状況に照らして,どの程度の大きさであったか判然としない。④Bは,「ガチャンという大きな音でした。」などと証言するが,これを客観的に裏付けるものがあるわけではなく,むしろ上記損傷状況・接触状況と整合するかについて疑問がある。⑤原告は,「コン」という音や「ああ」という女性の声を聞いているが,「コン」という音は後部ドアが開いた音か積んでいた本件工具類の音であると思った,「ああ」という女性の声は被害者の声とは思わなかったなどとする原告の供述が直ちに不自然とはいえない。⑥ブレーキを踏んだこと,女子高校生と自転車を見たこと,警察からひき逃げ事故で調査していると言われてその女子高校生のことを思い出したことについては,ブレーキを踏んだのは「コン」という音を聞いた時かもしれない,路上に倒れた女子高校生と自転車を見たが自分のせいであるとは思わなかったなどとする原告の供述が不自然とまではいえない(原告が思い出したという内容も具体的・明確なものではない。)。⑦上記損傷状況・接触状況に照らせば,検察官の指摘するそれ以外の事情の推認力はいずれも強いものではなく,それらの事情により検察官の主張する原告の交通事故の認識という事実を推認するには十分ではなく,原告の弁解供述を無視できない。⑧そして,上記各事情に加えて,原告には批判されるべき不良な運転態度が認められ,そのような運転態度によって一層注意散漫になっていたと考えられるから,本件事故後も,本件事故自体を確定的に認識していなかっただけでなく,本件事故に関する客観的状況を明確に認識していなかった合理的な疑いが十分に認められ,原告に重大な過失があったとはいえたとしても,原告が規範に直面していたと評価して原告に故意責任を認めることには合理的な疑いを否定できない。

しかしこれは、被告人の言い分の通りで客観的証拠が弱すぎるし、これで事故発生を認識しなかったことはあり得るのでして。

 

供述というのは供述に過ぎず、検察官は証拠を集めて立証して初めて有罪になる。
被告人において「気付かなかった」という供述が故意を否定することに直ちに繋がるわけじゃないし、むしろ不自然不合理な供述として心証も悪くなることすらあるのだし、被告人の供述は供述に過ぎないとみるほうが適切かと。

 

まあ、どこぞのYouTuberとかだと「弁護人の入れ知恵」とか「気付かなかったといえば無罪」みたいに語るでしょうが、供述に客観的証拠を加えて判断するのが裁判なのよね。

 

ところで、ちょっと前に側頭葉てんかんで意識レベルが落ちていた可能性を否定できないとして過失運転致傷と救護義務違反の両方が無罪になった事件がありましたが、

過失運転致傷、救護義務違反ともに「てんかん」で無罪に。
こちらの件。ちょっと前に取り上げましたが、事故時にてんかん発作を起こして意識喪失していたものと考えられ、過失運転致傷罪、救護義務違反罪ともに無罪となった。さて、この事件は1月28日に追突事故を起こして逃走したことに対し、検察官は過失運転致傷...

「事故を起こしたことを知らなかった」という報道を見たときに、即座に「言い訳だ」と非難することが正しいのか疑問に残る。
非難するなら証拠が出揃ってからでも十分だし、報道レベルであれこれ推測しまくって非難するのは、違和感がある。
事故を起こした認識がなく、しかも側頭葉てんかんであることすら知らなかった被告人が何を反省するのか?というと難しいわな。
それは刑事責任ではなく、民事の賠償責任で足りる。

コメント

  1. A-O-Man より:

    書き込み失礼します。

    今回の記事の話でふと思ったのですが、去年に「市バスを急ブレーキで止めさせた自転車が、ひき逃げ(救護義務違反)で捜査」って話がありましたよね。
    その後の話を聞かないですけれど、結局どうなったんですかね。

    冒頭の読者さんの言葉ではないですが、積極的に知ろうとしなければ分からないし、知ろうと思っても捜査結果までニュースになることは殆ど無いので、分からないままで終わってしまう。

    こちらの記事ではよく過去の事例を取り上げてくださるので、ホントに助かっています。
    ありがとうございます。

    • roadbikenavi roadbikenavi より:

      コメントありがとうございます。

      報道されてない情報については、裁判のように公開されない限りわかりません。
      そしてもう1ついうと、判決文をみると報道との差にビックリすることが多々あり、報道されたからといってその情報を鵜呑みにするのはリスクがあるということになります。

  2. より:

    この件でコメントした人です、解説ありがとうございます。
    自転車とトラックの事故だと後者の判例のような「事故発生を認識し難いケース」に近そうですね
    本当に気付かなければ救護しようもないけど、逃げ得は許しがたいです
    そもそも逃げなければただのよくある交通事故として大事にならないんですけどね・・・

    • roadbikenavi roadbikenavi より:

      コメントありがとうございます。

      逃げ得というのが、故意であるなら当然非難されてしかるべき。
      しかし世の中には本当に事故を起こした認識がない事案もあるという話です。

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