今回はちょっと特殊な判例ですが、自転車横断帯上で歩行者と自転車が衝突した事故です。
歩行者は「付近に横断歩道がある場合」には横断歩道を通行する義務がありますが(12条1項)、横断歩道の横に自転車横断帯がある場合、自転車横断帯上は「横断歩道の付近」になるため自転車横断帯上を通行するのは違法。
しかし、今回はそこはあまり問題ではありません。
Contents
信号無視&引き返し
判例は大阪地裁 平成13年3月5日(控訴審)。
事故の態様です。
T字路交差点に併設された自転車横断帯を控訴人(自転車)が南⇒北に横断しようとしたものの、歩行者用信号が青点滅だったので断念し自転車から降りた(東西道路は片側三車線)。
青点滅にもかかわらず、歩行者(被害者)が自転車横断帯上を横断開始。
歩行者が横断開始したことを確認した控訴人は、あわてて自転車に乗るつもりで勢いよく自転車を押して前進したところ、
歩行者が引き返してきたため衝突して歩行者がケガをした事故です。
事故現場は自転車横断帯南端から約3mの地点です。
争点としては、控訴人(自転車)は「反転してきた歩行者を認めて停止していたところに被害者が衝突してきたのだから、無過失」を主張。
停止していたところに被害者が衝突してきたとの主張については、採用されていない。
控訴人は、亡被害者が、突然引き返してきたため、控訴人車を停止させたが、亡被害者が止まれずに控訴人車に衝突してきた旨主張するが、本件事故直後に、控訴人の指示説明の下作成された実況見分調書(甲3)には、控訴人の説明として、亡被害者が急に引き返してきたので避けきれず衝突した旨の記載があること(亡被害者が引き返すのを見てから衝突するまで控訴人車は約1m前進している。)、控訴人自身、原審において、衝突前に控訴人車を停止させた旨の供述はしていないことなどからすると、亡被害者との衝突前に、控訴人車が停止していたことを認めるには至らない。
大阪地裁 平成13年3月5日
個人的にわりと不思議に思うのは、実況見分調書に記載がなく、一審でも主張してないことを二審で主張して何の意味があるのか謎です。
認められる可能性がほとんどない主張をして何の意味があるのかと。
では、過失相殺について。
上記認定の本件事故態様に照らせば、亡被害者には、東西道路を横断する際、対面歩行者専用信号の青色灯火が点滅していたのであるから、横断を始めてはならない注意義務があったにもかかわらず、横断を始めた過失がある。また、東西道路を横断する際、本件横断歩道が設置されていたのであるから、本件横断歩道上を横断歩行すべき注意義務があったにもかかわらず、本件自転車横断帯上を歩行していた過失がある。さらに、本件自転車横断帯上で、突然立ち止まり右後方へ引き返すことは、後方から進行してくる自転車等との接触、衝突を招く不適切な行為であるから、そのような行為を行うべきでなかったにもかかわらず、本件自転車横断帯上で、突然立ち止まり、右後方へ引き返した過失がある。
他方、控訴人には、東西道路を横断する際、対面歩行者専用信号の青色灯火が点滅していたのであるから、横断を始めてはならない注意義務があったにもかかわらず、横断を始めた過失がある。また、控訴人は、控訴人車を押して、勢いをつけて前進させて乗ろうとした際、控訴人車の前方を亡被害者が歩行していたことに気付いていたこと、亡被害者は、本件事故当時78歳と高齢であったことなどを考えると、控訴人は、亡被害者が、上記のような不適切な行為を行うことを十分予測できたと解するのが相当である。そうすると、控訴人には、前方を歩行する亡被害者の動静に十分な注意を払い、かつ、亡被害者との間に安全な距離を保って進行すべき注意義務があるにもかかわらず、対面歩行者専用信号の青色灯火が点滅していたため、急いで、東西道路を横断しようとして、亡被害者の動静に十分な注意を払わないまま、亡被害者に控訴人車を接近させすぎた過失がある。
以上のとおり、本件事故は、亡被害者及び控訴人の双方の過失が競合して発生したものであるところ、亡被害者が、本件自転車横断帯の途中で、突然立ち止まり、右後方へ引き返したことが、本件事故発生の原因となっていると解される。しかし他方、控訴人は、本件事故当時、控訴人車には乗っていなかったとはいえ、人身に傷害を及ぼす危険性のある自転車を押して勢いをつけて乗ろうとして前進させていたのであるから、歩行者と比較してより高度の注意義務が課されていると解されること、亡被害者の後方を進行していた控訴人にとって、亡被害者の動静に十分な注意を払って、安全な距離を保って進行することは比較的容易であったと解されることなどから、控訴人の過失も大きく、したがって、過失割合は、亡被害者4割に対し控訴人6割と認めるのが相当である。大阪地裁 平成13年3月5日
自転車から降りていた控訴人ですが、実質的には自転車とみなして過失相殺しているところがポイント。
歩行者対歩行者の事故ではなく、歩行者対自転車の事故とみなして過失相殺。
根本的な原因はどこにあるか?
青点滅なので横断を差し控えていれば事故は起きてないので、被害者が自転車横断帯上を通行したことは過失相殺の一因にはなりますが、事故の本質とはあまり関係ない気がします。
被害者が青点滅で横断開始したからといって、負けじと横断開始する必要はありませんし、あわてているときほど周りへの注意が疎かになるのもよくある話。
青点滅&高齢者ということから、歩行者が反転することは「予見可能」としてますが、予見可能なことを回避しなかったことが過失なので、道路交通法何条とか関係ないんですよね。
ニッポンの道路交通は、予見可能性と回避可能性を主体にしているので、予見可能な以上は回避すべき注意義務があるのは当然。
まあ、①青点滅で横断開始するな、②青点滅で横断開始した以上「あわてて」周りへの注意を欠くな、というところでしょうか。
ある意味ではこれにも似ている気がします。
これも①黄色信号で進行するな、②黄色信号で進行した以上は横断歩道が青に変わることが予見可能なのだから横断歩行者妨害するな、という二段構えの注意義務がありますが、どちらも怠れば事故るのは必然なのかもしれません。
2011年頃からクロスバイクやロードバイクにはまった男子です。今乗っているのはLOOK765。
ひょんなことから訴訟を経験し(本人訴訟)、法律の勉強をする中で道路交通法にやたら詳しくなりました。なので自転車と関係がない道路交通法の解説もしています。なるべく判例や解説書などの見解を取り上げるようにしてます。
現在はちょっと体調不良につき、自転車はお休み中。本当は輪行が好きなのですが。ロードバイクのみならずツーリングバイクにも興味あり。
コメント