ちょっと前に書いた記事についてご意見を頂いたのですが。
事故現場はこちら。
駐車車両によって横断歩道の標識が見えない場合も、横断歩道の要件(標識と標示)が欠けてしまい、運転者の過失が下がるはずです。
すみません、たぶんいろいろ混同していると思うのです。
菱形の予告標示は法定要件ではない
まず一つ目。
そもそも菱形マークは横断歩道の法定要件じゃないのよね。
「交通規制基準」として警察庁が推奨しているに過ぎず、横断歩道の要件はこれだけ。
菱形マークは要件ではない。
施行令1条の2により、信号がない横断歩道には標識と標示が必要とされますが、
菱形マークは関係ない。
道路交通法違反と、過失を混同しているのでは
読んでいてちょっと不思議に感じたのですが、
駐車車両によって横断歩道の標識が見えない場合も、横断歩道の要件(標識と標示)が欠けてしまい、運転者の過失が下がるはずです。
「道路交通法違反」と「過失」を混同してませんか??
道路交通法違反と過失は別の概念です。
事故が起きてしまった場合、「過失」運転致死傷罪に問われたり、民事責任も「過失」の有無について争われる。
過失って「予見可能なことを回避しなかったこと」なので、道路交通法上で横断歩道と認められるか?は関係ありません。
横断歩道の道路標示が見えるなら、
そこが横断歩道だとわかる。
・横断歩道がある
↓
・横断歩道を歩行者や自転車が横断することは当たり前
↓
・歩行者や自転車が横断することは予見可能
↓
・予見可能なので減速して注意し、事故を回避する注意義務がある
過失運転致死傷罪も民事の過失も、道路交通法違反が成立するか?ではなく予見可能な事故を回避しなかったことを問題にします。
なので仮に横断歩道標識が漏れていたとしても、それは道路交通法上の義務がなくなるのみ。
横断歩道であることを認識できるならそれに応じて減速して事故を回避する注意義務があるのは当たり前なので、関係ないんですよ。
横断歩道があることを認識できるなら、実質的に38条1項前段相当の注意義務があるわけなので。
昨年でしたっけ。
大量に「標識漏れの横断歩道」が発掘され、道路交通法違反が成立しないとして違反の取消が相次いだ。
けどあれ、過失運転致死傷罪は取消してないはず(非常上告もありません)。
確定判決は最高裁に非常上告して破棄することができますが、標識漏れで道路交通法上の横断歩道とは認められなくても、横断歩道だと認識できるなら注意義務は免れない。
なので事故が発生した件については、標識漏れとか標識が視認できないとか関係ないかと。
完全消失なら別
ただし、横断歩道の標示が完全消失していたとして無罪にした判例もあります。
この事故は対向車とすれ違った直後に横断歩行者と衝突してますが、
自車進行方向の路面標示が完全消失していて、対向車線の路面標示は対向車の影で視認不可能。
このレベルになると過失運転致傷罪は無罪にせざるを得ないかと思いますが、「横断歩道の路面標示が完全消失して法定要件を満たさないから」が無罪の理由にはならない。
判決は「車の進行方向の横断歩道を示す路面の白線標示は完全に消失していた。現場が横断歩道上であると認識するのは困難」などとし、「横断歩行者の予見は可能ではなかった」とした。また、検察側が「被告は過去に現場を複数回通行していた。横断歩道と認識できた」と主張した点については、「道路標示を記憶することを運転者に義務付けすることはできない」と退けた。
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あくまでも判決理由は「現場が横断歩道上であると認識するのは困難」。
横断歩道だと認識できるなら、それが道路交通法上の要件を満たすかどうかは無関係で注意義務が要求されます。
道路交通法の義務と、過失は別だという法律体系を取ってますし、菱形マークは法定要件ではありません。
道路交通取締法が自動車を操縦する者に対し特定の義務を課しその違反に対して罰則を規定したのは行政的に道路交通の安全を確保せんとする趣旨に出たもので刑法211条に規定する業務上の注意義務とは別個の見地に立脚したものであるから道路交通取締法又は同法に基づく命令に違反した事実がないからといって被告人に過失がないとはいえない。
東京高裁 昭和32年3月26日
所論は、道路交通法上の義務と自動車運転過失致死罪における注意義務を同一のものと理解している点で相当でない。すなわち、信頼の原則が働くような場合はともかく、前者がないからといって、直ちに後者までないということにはならない。
東京高裁 平成22年5月25日
ただまあ、横断歩道の視認性を悪くするような駐車スペースは避けたほうがいいでしょうね。
あとついでに書くと、菱形マークは「横断歩行者・横断自転車」には見えないし、横断歩道標識についても車道通行車両に向けているのであって、横断歩行者や横断自転車に向けたものではない。
仮に横断歩道標識が視認困難だとしても、横断歩行者や横断自転車に過失責任を転嫁する理由にはならないわけ。
なので標識が視認困難だとしても、横断歩道の道路標示が双方に視認可能な限りは民事の過失割合にも影響しません。
道路交通法違反が成立する・しないの問題と、注意義務(過失)の有無は別になっているわけで、標識が隠れていて視認困難でも横断歩道だと認識可能な以上は過失責任に影響することはあり得ないですが…
2011年頃からクロスバイクやロードバイクにはまった男子です。今乗っているのはLOOK765。
ひょんなことから訴訟を経験し(本人訴訟)、法律の勉強をする中で道路交通法にやたら詳しくなりました。なので自転車と関係がない道路交通法の解説もしています。なるべく判例や解説書などの見解を取り上げるようにしてます。
現在はちょっと体調不良につき、自転車はお休み中。本当は輪行が好きなのですが。ロードバイクのみならずツーリングバイクにも興味あり。
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