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札幌高裁S45.8.20には2つのポイントがある。

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道路交通法38条2項に対向車を含むか?という話題は尽きませんが、だいぶ前にも挙げたように一つのポイントになるのは札幌高裁判決です。

道路交通法38条2項と判例の話。
以前の続き。 道路交通法38条2項は横断歩道手前に停止車両があるときには、前に出る前に一時停止するルール。 Aに対して Bに対して Cに対して 38条2項(一時停止) 38条1項前段(最徐行) 特になし 対向車(B)も含むのでは?と疑問が晴...

この判例には2つの意味がある。

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解釈の問題

まず、札幌高裁判決は38条2項の立法経緯と解釈について示している。

右規定の新設された立法の趣旨、目的は、従前、横断歩道の直前で他の車両等が停止している場合に、その側方を通過して前方へ出たため前車のかげになつていた歩行者の発見がおくれ、横断歩道上で事故を惹起する車両が少なくなかつた道路交通の実情にかんがみ、とくに歩行者の保護を徹底する趣旨で設けられたものである。すなわち、右規定は、本来駐停車禁止区域である横断歩道直前において車両等が停止しているのは、多くの場合、歩行者の通行を妨げないように一時停止しているものであり、また、具体的場合に、当該車両等が歩行者の横断待ちのため一時停止しているのかそうでないかが、必ずしもその外観のみからは、一見して明らかでないことが多い等の理由から、いやしくも横断歩道の直前に停止中の車両等が存在する場合にその側方を通過しようとする者に対しては、それが横断中の歩行者の存在を強く推測させる一時停止中の場合であると、かかる歩行者の存在の高度の蓋然性と直接結びつかない駐車中の場合であるとを問わず、いずれの場合にも一律に、横断歩道の直前における一時停止の義務を課し、歩行者の保護のよりいつそうの強化を図つたものと解されるのである。(浅野信二郎・警察研究38巻10号34頁。なお弁護人の論旨は、右「停止」中の車両の中には「駐車」中の車両が含まれないとの趣旨の主張をしているが、法2条18号、19号によれば、「停止」とは「駐車」と「停車」の双方を含む概念であることが明らかであるから、右の主張にはにわかに賛同できない。)

 

昭和45年8月20日 札幌高裁

「横断歩道直前」は駐停車禁止エリアだ、という前提に立ち、駐停車禁止エリアに停止している車両は

 

①横断歩行者優先のために一時停止中
②あえて違法駐停車している車両

 

このどちらかだとし、「いずれの場合にも一律に、横断歩道の直前における一時停止の義務を課し、歩行者の保護のよりいつそうの強化を図つたものと解される」としている。
①と②は見分けがつかないのだから当然。

 

で、札幌高裁判決は横断歩道直前は駐停車禁止エリアだという前提に立っているけど、多くの人が見逃しているのは、38条2項を新設した昭和42年は今と駐停車禁止エリア(44条3号)が違うこと。

つまり昭和42年当時は、下記「B」は駐停車禁止エリアではない。

そうすると札幌高裁判決がいう「いずれの場合にも」の範疇にBが含まれてないのよね。

 

そして旧44条3号が「手前の側端から前に5m」とし、昭和46年改正後の38条2項が「手前の直前」としている。
これらが示す位置は同じと解釈されていることや、表現が酷似していることを考えても、38条2項でいう「手前の直前」とは対向車を含んでいない。

 

38条2項の話をする上では札幌高裁判決とそのネタ元の警察研究(警察庁交通企画課 浅野氏)は外せないところ、なぜかこれに着目する人は少ない。
なので私なりに様々な資料から考えた結果「手前の直前」という表現自体に対向車を含んでいない上、「側方を通過し前方に出る」にも対向車を含んでいないと捉えたほうが辻褄が合うと思う。
全部統合しないと事実誤認したままになるよ、と何回も書いたのは、だいだいの人は旧44条3号を見落としたままだから。

38条2項問題は、ロジカルに全ての整合性を考える必要がある。
38条2項の解釈として、対向車が停止している場合を含むのか?という問題がありますが、 この問題、かなりいろんな資料を挙げて整合性を検討してきました。 要はこの話、全ての面で整合性を考えないとどこかで辻褄が合わない話になり、感情論にしかならな...
名古屋高裁判決の説示は、名古屋高裁が言い出しっぺではない。
こちらの続き。 38条2項について説示した名古屋高裁判決のこのフレーズは名古屋高裁が言い出しっぺではなく、宮崎清文氏(警察庁)の解説書(条解道路交通法)の可能性が高いと書きましたが、 同法38条2項にいう「横断歩道の直前で停止している車両等...
変な解説。
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旧44条と現44条の違いを理解して札幌高裁判決を読むのと、違いがあることに気づかないまま読むのではだいぶ差が出る。
旧44条を改正した理由も含め、あらゆる資料や判例を統合しないとね。

注意義務と道路交通法の義務は別

札幌高裁判決はバスが同一進行方向にある駐停車車両の側方を通過して前に出ようとした際に、横断歩行者を見つけブレーキを掛けたところ、乗客がケガをした事故。
なお、バスが駐停車車両の側方を通過した際の速度は5キロ。
つまり最徐行で横断歩道に接近していた。

検察官は「一時停止すべき注意義務違反があった」と主張。
公訴理由はこれ。

被告人は、北海道拓殖バス株式会社の大型乗合自動車の運転業務に従事しているものであるが、昭和42年9月1日午後4時10分ごろ、乗客20名位が乗車している前記自動車(本件バス)を運転し、北海道河東郡音更町字下音更基線二八番地先の交通整理の行なわれていない十字路交差点を南方から北方に向け時速約10キロメートルないし15キロメートルで直進しようとしたが、同交差点直前に横断歩道(指導線)が設けられており横断者があることが予想され、当時前記横断歩道手前の道路左端部に同一方向に向けて駐車している普通貨物自動車があつて、同車の前方の見とおしがきかなかつたから、被告人としては、右横断歩道直前で一時停止し、横断歩道上の交通の安全を確認した後進行して、みだりに急制動をかけて乗客に危害を及ぼすことのないよう安全に運転すべき業務上の注意義務があるのにこれを怠り、漫然前記同一速度で進行した過失により、前記駐車中の車両のかげから右横断歩道を左方から右方へ横断走行してくるX(5歳)を直前で認め、これとの衝突を回避するため急制動の措置をとり、その反動で、自車の乗客であるA、Bの各身体を、それぞれ座席前部の鉄製手すりおよび右手すりの支柱に激突させて、Aに対し加療0日間を要する右上腕打撲兼右肩関節打撲の、Bに対し加療52日間を要する右側頭骨皹裂骨折兼脳挫傷の各傷害を与えたものである。

要は一時停止しようとしていたなら急ブレーキにならないだろ!という話なんですが、新設されたばかりの38条2項はまだ施行前。
そこをあえて38条2項の趣旨を考えて「一時停止すべき注意義務違反」として起訴した。

 

勘違いする人が多いけど、道路交通法の義務以外にも状況に応じた注意義務があるので、理屈の上では38条2項が働かないケースでも一時停止すべき注意義務が要求されることもあり得る。
例えばBが大型車だったり、対向車線側に歩行者がたくさんいる場合や、対向車線側に小学校があるなどの場合は、一時停止すべき注意義務が要求されることもあり得る。

札幌高裁判決自体は無罪ですが、道路交通法の義務以外にも注意義務の一環として一時停止が要求されることもあり得るわけ。
ただしそれを認めた判例があるかはわからない。
ちなみに札幌高裁判決の裁判官は有名な木谷明氏が含まれてますが…

 

札幌高裁判決は2項の解釈のみではなく、場合によっては2項の義務がなくても一時停止すべき注意義務違反を認定する可能性も示唆してますが、札幌高裁判決を読むのに旧44条を理解しているかいないかはわりと大事。
全部統合しないと事実誤認するよ、と書いてきたのはそういうことなのよ。

 

まあ、ほとんどの人は旧44条に着目してない気がするし、札幌高裁判決すら気づいてない気がする。
注解の内容にしても、旧44条が現在と違うことを理解しないとわからない。
そして2項による一時停止義務がなくても、状況次第では一時停止すべき注意義務があることも忘れないほうがよい。

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