こちらで取り上げた件。

西日が眩しかったために信号を見落としたという供述のようですが、このような場合にどんな注意義務が要求されるか考えてみましょう。
西日が眩しかったために視界不良がある、というのは、見方を変えれば「夜間にライトの照射範囲の問題から視野が限定される」ことに似ている。
判例の立場は、見えている視界に応じた速度にしろなのよ。
自動車の運転者は、前照灯の照射範囲を考え、適宜減速して進行すべき注意義務がある。
東京高裁 S42.4.3
自車の前照灯を下向きにして進行する場合、前方30mを超える距離にある障害物を確認できないことを前提として、自車の速度を調節すべき注意義務を負っていたものと解するのが相当である。(中略)スチールラジアルタイヤを装着すれば、運転者が危険を感じてから停止するまで約29mを要するのであるから、運転者が前方注視を厳にし、障害物を約30m前方に発見して直ちに制動の措置を講ずれば、その直前において停止し、これとの衝突を回避することが不可能であるとはいえない。しかしながら、運転者は絶えず前方注視義務を十分に果すことが理想であっても、長い運転時間中に一瞬前方注視を怠ることもありえないとは言えず、あるいは前方注視義務を十分に果していても急制動の措置を講ずることに一瞬の遅れを生ずることもないわけではなく、さらに運転者がその注意義務を果そうとしても外部的事情により義務の履行が困難となることがありうることを考えると、運転者としては、車両の性能と義務の履行につき限界すれすれの条件を設定して行動すべきではなく、若干の余裕を見て不測の事態にも対処できるような状況の下で運転をすべき業務上の注意義務があるといわなければならない
東京高裁 S51.7.16
考え方としては似ていて、眩しくて視界が限定されるならそれに応じた速度で進行する注意義務があり、その速度は不測の事態にも対応できるよう限界制動速度より余裕があるスピードと解釈される。
この場合、仮に信号が見えにくいにしても横断歩道の道路標示さえ視認できれば、横断歩道がある以上は横断歩行者が予見可能。
そうすると信号を認識してない運転者にとっては「信号がない横断歩道」にすらなりうるわけで、やはり大幅に減速すべき注意義務を負っていたことになる(横断歩道の標識がないから信号のない横断歩道と解釈できないのはあくまで道路交通法上の問題にすぎず、横断歩道の道路標示が視認できるなら横断歩行者があることは予見可能)。
この事故の加害者がどのようなスピードだったかはわかりませんが、仮に信号が西日で見えにくいなら大幅に減速して進行すべきだったとしか言い様がないのよね…
サングラスがあるならそれでも構わない。
何をしていれば事故に至らなかったか?が過失の内容なので、仮に西日が眩しくて信号すら認識できない状況ならその視界に応じた速度で進行する注意義務があり、ましてや横断歩道の道路標示さえ認識できれば信号を認識してない運転者にとっては「信号がない横断歩道」になるので大幅に減速すべき注意義務を負っていたことになりますが、以前これでも取り上げたけど二段構えともいえる。
これってまず「黄色灯火で止まるべきだった」という一段階目があり、仮に黄色灯火で交差点内に進入したなら、今度は38条1項後段に基づき横断歩道の直前で停止することになる(二段階目)。
次の事例。
以前記事で取り上げてますが、なぜか信号がない交差点だと誤認してしまう人が頻発する交差点があるそうな。
これも二段構えの義務があり、信号遵守が一段階目。
二段階目として、信号がない交差点だと誤認したなら「左右の見通しがきかない交差点」として徐行義務を負うことになりますが(42条1号)、二段構えの注意義務を課していずれも怠れば事故るのは当たり前。
こういう話も、「違反の成立」という観点からみるからわからなくなりますが、運転者にとって信号がない交差点だと誤認したなら「その運転者にとっては」信号がない交差点として別の注意義務を負うわけ。

これについては、見えにくいなら相応の速度に落として進行すべき注意義務があり、信号を遵守する義務がある(一段階目)。
信号を視認できなくても横断歩道の道路標示さえ視認できるなら、「その運転者にとっては」信号がない横断歩道となるわけで大幅に減速すべき注意義務を負っていたことになりますが(二段階目)、リアルな運転の場面では見えている範囲で考えるしかないのだからそうなりますよね。
結果的に38条の義務があったかが問題ではない。
これらを遵守していれば事故に至らなかった可能性が高そうですが、道路交通法って結果的に違反が成立するかの問題と、見えている範囲で負う義務が必ずしも一致しないのよね。

結果論で違反が成立するかを考えると、
この場合の子供は小児用の車(歩行者)なのか、自転車なのか?という問題になりますが、運転しながらわかるわけないじゃんね。
わからない以上は小児用の車と判断して一時停止義務があると考えるしかない。
西日で眩しかったなら速度を落として進行すべき注意義務があり、それでも信号が視認できなかったなら「信号がない横断歩道」として減速接近義務を負っていたことになりますが、いずれも怠れば事故るのは当たり前なのよ。
そして結果論で違反の成立を考えると、リアルな視点が失われる。
この加害者視点でどのような注意義務があったか考えないと、無意味なのよ。
もし横断歩道の道路標示すら視認できないほど眩しかったなら、それはむしろ運転避止義務のレベルになる気がしますが…
そりゃサングラスを持っていたなら使えばいいけど、持ってない状況なんていくらでもあり得るのだし、サングラスを持ってない前提でどんな注意をする必要があったか考えないと意味がない。
その意味では単に「信号を守れ」だけではダメなのよ。
なぜ信号を見落としたのか、信号を見落としたなら信号がない前提の注意義務がなんなのか?

2011年頃からクロスバイクやロードバイクにはまった男子です。今乗っているのはLOOK765。
ひょんなことから訴訟を経験し(本人訴訟)、法律の勉強をする中で道路交通法にやたら詳しくなりました。なので自転車と関係がない道路交通法の解説もしています。なるべく判例や解説書などの見解を取り上げるようにしてます。
現在はちょっと体調不良につき、自転車はお休み中。本当は輪行が好きなのですが。ロードバイクのみならずツーリングバイクにも興味あり。
コメント
信号の灯火が確認できず、信号機の存在が認識出来るなら「止まれ」でなく、「最徐行」でいいんですか?
また、明らかに他の交通や横断者が無ければ、全消灯でも一旦停止や徐行しないで通過でも問題ないのでしょうか?
例えば鉄道では信号の全消灯は信号機手前で停止で、霧や降雪等で灯火が確認できない時は、確認できる位置まで徐行(45〜65㌔程度)です。
車と違って鉄道は速度しか制御出来ないうえに、多くの人命を抱えてなので、安全第一は当然ですが、一人で車や自転車に乗る場合でも、周囲の人の命を抱えているつもりで運転したいものです。
コメントありがとうございます。
一般人の通常の注意で信号灯火を視認不可能だったなら「信号がない横断歩道」と解釈せざるを得なくなりますが、現実にそのような事態があるかは別問題です。ほとんどの場合は言い訳に使われるだけだと思われますが、その言い訳を使ったならば信号がない横断歩道なんだから減速してないとダメだよね?となるだけのことで、実際には注意していれば信号を見落とすことはないかと。