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歩行者の直前横断と注意義務。刑事の注意義務はどこになるか?

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こちらの続き。

横断歩行者事故の実際と過失割合。修正要素はなんなのか?
事故を起こさないのが一番ですが、現実に事故が起きた場合には過失割合で揉めることがあります。横断歩行者事故(横断歩道外)の場合、基本過失割合に修正要素を加えて決めることが多いですが、意外と知られてないのは修正要素の意味なんじゃないかと。例えば...

民事の過失修正については書いた通りですが、要はこのような事故について

直前横断として歩行者不利に過失修正することにはなりますが、

車両側の注意義務としては、歩行者が歩道上にいることを視認した時点からあるわけで、

このようなケースについては、「直前横断だから回避不可能」とはならない。
刑事責任はどのように捉えるかみていきます。

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歩行者の直前横断と、車両側の注意義務

例えばこのような判例がある。

自車の前方約17.4mの右軌道敷の左側端付近に被害者(当時62歳)が道路を南側から北側に横断するため北方を向いて佇立しているのを発見したので、警告を与えるため、警音器を一回吹鳴したところ、同人が被告人車の方を振り向いたので、自車の接近を認識したものと思い、そのまま進行した。ところが同人と約8.4mの距離に接近した際、突然同人が北方へ1、2歩歩きだしたので、危険を感じ急制動の措置をとったが、自車がほとんど停止しようとした際、自車の前バンパーが同人に接触したため、その反動で同人が転倒した

(中略)

同所は横断歩行を禁止されてはいないものの、車両の交通が頻繁であって、同所を横断することは危険な状態であるから、同所を横断しようとした被害者には重大な過失があり、無謀な行為であるといわなければならないことは論をまたないところである。
(中略)
被告人としては、被害者発見時において直ちに減速徐行し、同人の動静を十分注視し、交通の安全を確認して進行すべき業務上の注意義務があったものといなければならないのに、これを怠り、警音器を一回吹鳴したのみで漠然同一速度で進行した点において過失があったものというべきである。

 

仙台高裁 昭和46年12月7日

この判例は歩行者が横断しようとして車道側に向いて佇立していた状態から、歩行者が無謀な横断をしたもの。
車両側の注意義務としては、「歩行者が直前横断を開始した時点」ではなく「歩行者が横断しようとしているのを発見した時点」にあるとし、警音器で警告するとともに直ちに減速すべき注意義務があったとする。

 

次の事例。

 

こちらは中央分離帯の切れ目から横断待ちして立っていた歩行者が、被告人車の2.8m前方から直前横断した事故。

被害者は当時69歳の老人でありその年齢の正確な認識はともかく被告人も老人であることに気付いていたのであり、そして老人は多少の例外はあるとしても車両の進行状況に対する判断力及び行動能力が通常の成人に比して相当劣っており、不測の行動に出ることのあることは経験上明らかであり、被害者が中央分離帯の切れ目に立ち止まって被告人車のほうをみていたのも横断歩行中一時停止したにすぎず依然として横断を続行する態勢にあったものであるから、右のように被告人車両の進行状況に気づかずあるいはこれを失念ないし判断を誤って進路に出てくることもあり得ることは通常予測しうるところであり、(中略)直ちに減速し、被害者の動静に注意を払って進行すべき注意義務があると認めるのが相当である。

(中略)

所論は(中略)被告人には減速義務はないというのであるが、本件の場合所論のように被害者との衝突の危険を感じた地点における注意義務を問題とするものではなく、その以前の被害者を発見した時点における注意義務を問題にするのであるから、所論はその前提においてすでに誤りがありしかもその時点における前記の状況下において被告人が前記注意義務を尽くして進行しておれば被害者の横断開始をより早期に発見し、的確なハンドル操作と制動操作により被害者との衝突を回避できたことは明白であり、所論は採用し得ない。

 

大阪高裁 昭和48年10月30日

こちらは中央分離帯の切れ目から直前横断した事例ですが、やはり注意義務は「歩行者が直前横断した時点」ではなく「横断しようとする歩行者を発見した地点」とする。

 

ただまあ、これらは「歩行者が横断しようとして車道側に向いて立っていた事例」。
歩行者が車道側に背を向けていたのに直前横断してきた事例では車両の過失責任を否定したものもある。

判例 歩行者の様子 結果
仙台高裁S46.12.6 交通の頻繁な道路にて、横断しようと佇立していた歩行者(62歳)を前方約17.4m先に発見し警音器を一度吹鳴したものの、直前横断し衝突。 有罪(漠然進行した過失)
大阪高裁S47.7.26 幹線道路の路側帯左側を車両と同方向に歩行する歩行者が、衝突地点8m手前で突如小走りで斜め横断 無罪
大阪高裁S48.10.30 中央分離帯の切れ目から被告人車の方向を向いて横断しようとしていた老人が、被告人車の前方約2.8mの地点で横断し衝突 有罪(中央分離帯の切れ目で発見時に警音器を吹鳴し直ちに減速して注意しながら進行すべき注意義務違反)
東京高裁S39.3.18 時速40キロで進行中、対面歩行してくる8歳(下を向いて歩行)を発見。被告人車の約4.6m手前で横断 有罪(54条2項但し書き「危険を防止するためやむを得ない場合」に該当する)
東京高裁S45.5.25 幅員25mの車道を横断するために、ガードレールの切れ目(街路樹の陰)から小走りで横断。夜間、雨天、酔っぱらい 無罪(横断開始するまでに発見不可能)
東京高裁S45.12.23 電柱の傍に佇立し道路左側を見ていた歩行者が、突如直前横断。バス停の付近。 無罪(横断しようとしていた事実が認められない)

歩行者が横断しようとしていたわけではないけど過失責任を認めた事例としては東京高裁S39.3.18がありますが、これは小学生という事情や歩車道の区別がない道路など様々な事情により変わる。
ただまあ、仮に刑事責任が否定され無罪になったとしても、民事責任上は「直前横断」として過失修正すればそれで足りるわけで、刑事と民事は別問題。

 

結局、刑事も民事も「歩行者が直前横断開始した時点での注意義務」ではなく、「歩行者を発見した地点での注意義務」を問題にする。

 

直前横断だから回避不可能ではなくて、

歩行者が歩道上にいることを視認した時点から注意義務があるわけ。

あまり道路交通法にこだわらなくても

前回記事について、「道路交通法38条の2」に触れないのはなぜか?という質問を頂いたのですが、

(横断歩道のない交差点における歩行者の優先)
第三十八条の二 車両等は、交差点又はその直近で横断歩道の設けられていない場所において歩行者が道路を横断しているときは、その歩行者の通行を妨げてはならない。

道路交通法の話ではなく、注意義務が問題になるのだからあんまり関係ないのよね。
というのも道路交通法の話をしだすとややこしくて、道路交通法38条の2はあくまでも「適法に横断する歩行者が対象」としており(警察学論集1967年12月)、「直前横断の場合には道路交通法38条の2は適用がない」(東京高裁 平成27年8月6日)としている。
仮に歩行者に優先権が認められない事案でも、事故回避義務を免除するわけではないので、結局はどの時点での注意義務を問題にするか?でしかないのよ。

 

だから道路交通法の義務と、過失(注意義務違反)は別問題だという法律体系なわけで…

道路交通取締法が自動車を操縦する者に対し特定の義務を課しその違反に対して罰則を規定したのは行政的に道路交通の安全を確保せんとする趣旨に出たもので刑法211条に規定する業務上の注意義務とは別個の見地に立脚したものであるから道路交通取締法又は同法に基づく命令に違反した事実がないからといって被告人に過失がないとはいえない。

 

東京高裁 昭和32年3月26日

この視点がわからないと、無駄に道路交通法に固執して何か大事なものを見失う気がしますが、そもそも過失(注意義務違反)と道路交通法の義務違反は別問題だと理解してない人は多い気がする。
そして場合によっては、注意義務違反のほうが道路交通法の義務違反より重い。

コメント

  1. 元MTB乗り より:

    > 電柱の傍に佇立し道路左側を見ていた歩行者が

    歩行者に限らず、左から車道(及び交差点)に侵入するのに、右を見ずに車道に侵入しようとする車両(含む自転車)がよく目に付きます。右を見てから進み始めればいいのに、進み始めてから右を確認するので、接近する自転車に気付いて慌ててブレーキを踏み直したり(まー自転車だとノールックで来ますが)。そんなに確認するのが手間なんですかね。

    • roadbikenavi roadbikenavi より:

      コメントありがとうございます。

      この事例はバス停付近というのもポイントで、バス待ちに見えてしまうんですね。
      まあ、なぜか片側しか見ずに横断する人がいるのは事実ですが…

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