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横断歩道5m範囲は、渋滞停止なら問題ないのか?②

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先日の続き。

横断歩道5m範囲は、渋滞停止なら問題ないのか?
先日書いた記事に質問を頂いたのですが、という疑問ですね。これなんですが、44条3号でいう「危険を防止するため一時停止する場合」に該当するので違反にはならないとする見解があります。(停車及び駐車を禁止する場所)第四十四条 車両は、道路標識等に...

渋滞停止として「横断歩道5m範囲」に停止することが44条でいう「危険を防止するため一時停止する場合」に該当するので違反にはならないとする見解があると書いたばかりですが、

(停車及び駐車を禁止する場所)
第四十四条 車両は、道路標識等により停車及び駐車が禁止されている道路の部分及び次に掲げるその他の道路の部分においては、法令の規定若しくは警察官の命令により、又は危険を防止するため一時停止する場合のほか、停車し、又は駐車してはならない。
三 横断歩道又は自転車横断帯の前後の側端からそれぞれ前後に五メートル以内の部分

その見解に懐疑的な理由は、44条でいう「危険を防止するため」とはこのように厳格に解釈すべきという説もあるから。

「危険を防止するため」とは、この場合、ある程度事態が急迫している場合で、客観的にも真にやむをえないと認められる場合をいう。

木宮・岩井、「詳解道路交通法」、有斐閣ブックス、1977

※横井・木宮「註釈道路交通法」も同旨。

 

前回記事でも書いたけど、要は横断歩道の前後5mを駐停車禁止にしている理由は、歩行者の発見が遅れて歩行者に危険を及ぼすリスクがあるから。
その意味では緊急避難的に停止することになった場合は仕方ないにしても、渋滞停止のように「いずれ横断歩道5m範囲に停止する可能性がある場合に漠然と進み、やっぱり横断歩道5m範囲に停止した」のは意味が違うんじゃないかなと。

 

前回も書いたように、44条3号は昭和46年以前と以後で違う。

昭和39~46年 昭和46年以降
横断歩道の手前の側端から前に五メートル以内の部分 横断歩道の前後の側端からそれぞれ前後に五メートル以内の部分

旧44条3号の解釈はこちら。

本件略式命令請求記録及び所論略式命令書によれば、小樽簡易裁判所は、昭和四〇年三月四日、「被告人は同年二月二七日午後零時二〇分頃、普通貨物自動車札四ま三二〇一号を運転して余市町入舟町先道路において、横断歩道標識より一米の地点に二分間右自動車を駐車し、もって法定の駐車禁止場所に駐車したものである」との事実を認定し、道路交通法四四条、一二〇条一項五号、刑法一八条、罰金等臨時措置法二条を適用し、同人を罰金四、〇〇〇円に処する旨の略式命令を発し、同略式命令は、正式裁判請求期間の経過により、同年三月一九日確定したことを認めることができる。

ところで、道路交通法四四条中、本件に適用されたのは三号であるが、同号には「横断歩道の手前の側端から前に五米以内の部分」とあって、横断歩道の手前のみの駐車が禁止されているにすぎず、横断歩道を通過した先は、横断歩道の側端から五米以内の地点であっても、この規定の駐車禁止の対象とはなっていない。

しかるに、本件略式命令は、被告人が駐車した地点を、横断歩道標識より一米としているのであって、その意味は、記録中の司法警察員作成にかかる現認報告書により、横断歩道を越えた先一米の意味であることが明らかであるから、右略式命令は、罪とならない事実に法令を適用して有罪とした違法があり、かつ、被告人のため不利益であることが明白でであるというべきである。

最高裁判所第三小法廷 昭和41年2月22日

昭和46年に改正した理由は、対向車からの視認性なんですよね…

横断歩道の先方5メートル以内の部分を停車および駐車を禁止する場所とした(第44条第3号等の改正)

現行規定においては、横断歩道の手前の側端から5メートル以内の部分が停車および駐車を禁止する場所とされているが、横断歩道の先方5メートル以内の部分に車両が駐停車している場合であっても、対向の車両の運転者が、その横断歩道により道路を横断している歩行者の発見が困難になり、歩行者に危険を生じさせるおそれがあるので、今回の改正により、横断歩道の手前だけでなく先方についても、横断歩道の側端から5メートル以内の部分を停車および駐車を禁止する場所としたのである。

道路交通法の一部を改正する法律(警察庁交通企画課)、月刊交通、道路交通法研究会、東京法令出版、昭和46年8月

44条でいう「危険を防止するため」の解釈や、昭和46年に改正した理由を考えると、渋滞停止を「危険を防止するための一時停止だからセーフ」と捉えるのが本当に正しいのだろうか?

どうも違う気がするけど、現実的に渋滞停止時に「横断歩道5m範囲だから」と取り締まりされた事例を聞いたこともない。
違反の成立はともかくとして44条3号の改正経緯と44条本文の立法趣旨(危険を防止するためを除外した理由)を考えると、渋滞停止でも横断歩道5m範囲は開けておくのが筋でしょうね。

 

ところで、道路交通法の解釈についてインターネット上でごちゃごちゃ揉めているのを時々見かけますが、わりと不思議なのは立法趣旨や改正経緯に触れないまま条文解釈をする人が多いところ。
条文の読み方なんてだいたいは揉めるだけでしかなくて、立法趣旨や改正経緯をみるほうが理解しやすいことなんて多々あると思うのですが…

 

ちなみに44条でいう「危険を防止するため」については判例があります。
こんなもんを取り締まり起訴していた時代も凄いなと思うけど。

論旨は、被告人が一時停車して右側ドアを締めたところ、母親らしき人が突然「子供を真中へやるから」といいながら左側ドアを開けて降車し、右側ドアから乗り込んで来て子供を座席の中央に坐らせたものであるが、被告人としてはその間約10秒の停車をせざるを得なかつたのであり、原判決のいう如く母親らしき人の降車を阻止するに十分な処置に出なかつた事実はなく、危険な状態が去つた後においても停車状態を継続したことがないのである。又被告人としても乗客の瞬間的な降車を阻止することは不可能であり、母親が降車した後の停車は、乗客たる親子の生命身体及び通行中の人車に対する現在の危難を避けるため已むを得ない措置であるから、本件一時停車は緊急避難である、というのである。

事案としては「交差点2m」において、①右側のドアを閉め直すために一時停止し、②母親が突如左側のドアを開け車外に出て右側から乗り直すために10秒ほど停止したもの。
原判決は①について無罪、②については駐停車禁止違反(44条)として有罪に。

そこでまず原判決の認定した罪となるべき事実をみるに、それは「被告人は昭和37年(略)ごろ神戸市葺合区小野柄通8丁目1番地先道路の交差点の側端から約2mの地点において不法に普通乗用自動車を停車したものである。」というのであり、更に被告人及び原審弁護人の無罪の主張に対する判断として示した理由は、要するに、自動車のドアが開きかけたので危険であるから、被告人が一時停車してドアを締めたのは適法であるが、その直後母親らしき人が子供を真中へやるからといつて一旦降車し、車の後を廻り反対側のドアから乗車するまで被告人はこれを阻止する十分な措置を採らず、その他妥当な方途を講じないで停車状態を継続していたものであるから、被告人の右の如くドアを締めるまでの停車は道路交通法44条にいう「危険を防止するため一時停車する場合」に該当するが、ドアを締めた後の停車は右除外事由に当らないというのである。

大阪高裁は以下の理由から②についても「危険を防止するための一時停止」と認め無罪にしている。

被告人は自動車の後部右側ドアを締めるため原判示道路上に一時停車し該ドアを締めたところ、後部左側座席に乗車していた母親らしき人が後部右側座席の子供を真中にやるといつて左側ドアを開けて降車しようとしたので「降りては困る」と注意したが、母親はいきなり降車し車の後方を廻り反対側の後部右側ドアから乗車し座席の真中にあつた荷物をかわし、子供を真中に坐らせたこと、被告人は母親が降車したので「早くしてくれ」と急がせ、母親が乗車するや直ちにドアを締め発車したことが認められるのである。右事実によると、母親の降車は被告人の予期しない突然の出来事であるから、被告人は母親の降車を阻止できなかつた状況であつたといわなければならない。従つて、母親の行動を阻止しなかつたとして被告人を非難する原判決のこの点の判断は失当である。更に被告人として母親が降車した後車を他の適当な場所へ移行させ、改めて母親を乗車させることが可能であつたかどうかについて検討を加えてみるに、本件停車地点附近は交通の往来の頻繁なところで、被告人の車の前後にも交差点があり、他に適法に停車できる場所があつたとは証拠上認められず、殊に原審証人の第二回公判における供述によると、本件停車当時被告人の車の前後にバスがいたというのであるから、母親を残して発進することは却つて乗客に対しては勿論他の通行の人車に対する危険性を増長することになり、この危険を犯してまで停車を禁止することは法の目的に反するものである。従つて、母親が乗車するまで車を停車した被告人の措置は「危険を防止するため一時停車する場合」に該当するから、本件停車を不法な停車とした原判決の認定は誤りである。更に証拠を検討しても本件につき法定の除外事由が存在しなかつたことを認めることはできない。

大阪高裁 昭和40年7月10日

雰囲気的には44条でいう「危険を防止するための一時停止」を限定的に捉えているように思いますが、要は本当にやむを得ない事情のことを指しているんじゃないですかね。

渋滞停止なんていずれ「横断歩道5m範囲」に停止する可能性を理解しながらノロノロ進行しているわけで、ちょっと注意するだけで「横断歩道5m範囲」を避けて渋滞停止することは余裕。
それを「危険を防止するための一時停止だからセーフ」と言われても、なんか違うような…
どちらにしても昭和46年に改正した理由をみればわかるように、避けて停止すべきでしょうね。

 

けど、「渋滞停止時に横断歩道5mは開けよう」みたいなムードを全く感じない…
法解釈としてどっちが正解なのかは濁しますが、改正経緯を考えれば「渋滞停止時にも開けておくべき」になることは間違いない。
これもある意味では、「違反の成立よりも法の趣旨から注意義務を考える話」なのかもしれませんが…

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