交差点直近に横断歩道があるときに、横断歩道は交差点に含まれるか?という問題がありまして、
「横断歩道は交差点に含まれ」
→含まれません。「本来横断が〜左側を走る必要がある」
→「横断歩道は自転車の横断のためのものではないこと」と「車道や路側帯では左側を通行しなければならないこと」は全く別の話です。 https://t.co/aQICyrs1uh— g (@rtl1_) December 27, 2024
交差点に含まれると捉えた場合、逆走(右側通行)になるのではないか?という話ですよね…
これちょっとややこしいのですが、警察庁や裁判所は「横断歩道は交差点に含まれる」なのよ。
横断歩道は交差点に含まれるか?
まず、交差点の定義から。
十字路、丁字路その他二以上の道路が交わる場合における当該二以上の道路(歩道と車道の区別のある道路においては、車道)の交わる部分をいう。
解釈上、隅切りは交差点に含まれる。
なお、道路交通法2条5号にいう道路の交わる部分とは、本件のように、車道と車道とが交わる十字路の四つかどに、いわゆるすみ切りがある場合には、各車道の両側のすみ切り部分の始端を結ぶ線によつて囲まれた部分――別紙図面斜線部分――をいうものと解するのが相当である。
最高裁判所第三小法廷 昭和43年12月24日
さて、横断歩道が交差点に含まれるかですが、警察庁や裁判所は「含まれる」とする。
根拠を3つ挙げます。
①平成20年施行令改正以前の解釈
現在の信号規定によると、横断歩道を通行する普通自転車は「歩行者用信号」に従うことになってますが、施行令改正以前は「三灯式」に従うことになってました。
「道路交通法施行令の一部を改正する政令案」に対する意見の募集について|e-Govパブリック・コメントパブリックコメントの「「道路交通法施行令の一部を改正する政令案」に対する意見の募集について」に関する意見募集の実施についての詳細です。
イ 横断歩道を進行する普通自転車が従うべき信号灯火を定めることについて
この項目に対しては、
○ 自転車に乗ったまま横断歩道を通行することはできないはずであり、また、自転車で横断歩道を通行することは大変危険。
といった御意見がありました。今回の改正は、道路交通法の一部を改正する法律(平成19年法律第90号。以下「改正法」といいます。)により、例外的に歩道を通行することができる普通自転車の範囲を明確化したことに伴い、自転車横断帯が設置されていない交差点において、これらの普通自転車が横断歩道を進行して道路を横断することが見込まれることを踏まえ、横断歩道を通行する普通自転車が従うべき信号を車両用でなく歩行者用灯器とするものです。
道路交通法においては、普通自転車が横断歩道を通行することを禁止する規定はありませんが、横断歩道は歩行者の横断のための場所であることから、交通の方法に関する教則(昭和53年国家公安委員会告示第3号)において、横断歩道の通行について、歩行者の通行を妨げてはならない旨を周知し、歩行者の安全確保を図ることとしています。
これについては改正以前の判例も同様に解釈している。
平成2年東京地裁の判例から。
なお、被告らは、「被害者が本件横断歩道上を横断する以上、たとえ自転車に乗つて横断するとしても歩行者用信号機の表示に従つて横断すべきであり、被害者が横断を開始しようとしたときには、本件横断歩道に設置されていた歩行者信号機は赤色ないし青色点滅の表示であつたから、被害者は横断を開始してはならず、それにもかかわらず、横断を始めた被害者には重大な義務違反がある」旨主張する。
しかし、自転車は、道路交通法上「軽車両」として、交差点の通行方法については、自転車横断帯が設けられていない交差点にあつては、交差点の側端に沿つて通行すべきものであり(道路交通法18条、34条、63条の7参照)、その際従うべき信号は、歩行者用信号機に「歩行者・自転車専用」と表示されている場合にはこれにより、そうでない場合には車両用信号によるものとされている(同法7条、道路交通法施行令2条1、4項)のであるから被告らの右主張は採用することができない。
東京地裁 平成2年12月18日
施行令改正以前は横断歩道を通行する自転車を「交差点を直進」と捉えていたから三灯式信号に従うことにしていたわけで、横断歩道を交差点の一部と捉えていたことになる。
②交通事故総合分析センターの解釈
交通事故総合分析センターによると、用語解説にて「この用語集は警察庁から提供を受けた資料を基に当センターが作成したもの」とし、横断歩道は交差点に含まれるとしている。
(2) 「交差点-環状交差点」とは、車両の通行の用に供する部分が環状の交差点であって、道路標識等により車両がその部分を右回りに通行すべきことが指定されているものをいう。なお、横断歩道等(自転車横断帯を含む。)が設けられている場合には横断歩道等を含み、横断歩道のない場合には始端結合説によるものとするが、すみ切り部分も含むものとする。
(3) 「交差点-その他」とは、環状交差点以外の交差点をいう。なお、横断歩道等(自転車横断帯を含む。)が設けられている場合には横断歩道等を含み、横断歩道のない場合には始端垂直説によるものとするが、すみ切り部分も含むものとする。
交通事故統計用語解説集 - 交通事故総合分析センター交通事故総合分析センター(イタルダ)では、「人・道・車」の観点から交通事故の総合的な調査分析を行い、研究成果を提供しております
③大阪高裁 令和4年9月14日
先日取り上げたばかりですが、

この判例は横断歩道を通行した自転車とクルマが衝突したもの。
一審は交差点の事故態様として、「優先道路を通行するクルマ」と「非優先道路を通行する自転車」の基本過失割合50:50から過失修正。
自転車は優先道路の進行妨害(36条2項)とし、諸々を含めクルマ70%、自転車30%とした。
原告が控訴した理由に「横断歩道は交差点に含まれないのに交差点の事故態様を適用したのは誤り」というものがある。
◯控訴人(原告)の主張
本件横断歩道の設置場所は、本件車道の交差部分の範囲外である。したがって、本件事故が交差点内の事故であることを前提とする原判決の判断には誤りがある
大阪高裁は横断歩道が交差点に含まれるのは明らかだとし控訴棄却。
結局、警察庁や裁判所は「横断歩道は交差点に含まれる」なのよね。
なぜ横断歩道通行自転車を「逆走」と見なさないか?
横断歩道が交差点に含まれるなら逆走(右側通行)と解釈しうるのではないか?という疑問がありますが、要は「横断」だから左も右もないのよね。
そもそも歩行者についても歩道等と車道の区別がない場合には右側通行義務がありますが、少なくとも交差点については歩道がない。
横断歩道を通行した歩行者についても「左側通行」として非難されるか?という問題が出ますが、「横断」だから左も右もないわけでして。
たまたま交差点で横断するから一瞬意味がわからなくなるだけで、横断歩道を通行することはあくまで「横断」だから逆走扱いにはならないことになる。
ところで、刑事や行政事件で交差点の範囲が問題になるのは主に「駐停車禁止の5m」の絡み。
交差点から5mは駐停車禁止ですが、駐停車禁止エリアを考える上では「横断歩道は交差点に含まれるか?」を考える必要がない。
なぜなら、横断歩道から5mは駐停車禁止なので交差点に含まれるかを考えるまでもない。
横断歩道は道路交通法上は歩道ではないし、横断歩道を通行する自転車や歩行者はあくまで「横断」になるから左も右もないことになりますが、個人的には横断歩道を交差点に含めて考えるのは民事特有の考え方なんじゃないかと思っていて、あくまで隅切り部分までなんじゃないかと疑問がありますが、どちらにしても逆走扱いにならない理由は「横断」だからですよね…
まあ、自信満々に「横断歩道は交差点に含まれない」と主張できるのも凄いなと…

2011年頃からクロスバイクやロードバイクにはまった男子です。今乗っているのはLOOK765。
ひょんなことから訴訟を経験し(本人訴訟)、法律の勉強をする中で道路交通法にやたら詳しくなりました。なので自転車と関係がない道路交通法の解説もしています。なるべく判例や解説書などの見解を取り上げるようにしてます。
現在はちょっと体調不良につき、自転車はお休み中。本当は輪行が好きなのですが。ロードバイクのみならずツーリングバイクにも興味あり。
コメント
横断歩道の範囲を通ってくれればいいのですが、隅切りあたりから渡ったり、さらに交差点内に寄ってくる逆走自転車は、正直迷惑ですね。大体にして、横断歩道に歩行者がいるのでスピード出せないからと言わんばかりのスピードで走ってますし。
コメントありがとうございます。
おかしなところから横断するのは勘弁して欲しいですよね。
うろ覚えですが、みんな大好き執務資料だと道交法の交差点と施行令の信号で整理する交差点は違う物だから留意してねって書いてあったような気がしました
コメントありがとうございます。
記事にも書いたように、おそらくは民事的な概念なんだと捉えてます。
道路交通法上はどちらにも解釈しうるので。
そうなった場合、要は論点のベースがなんなのか次第で結論が変わりうるので、噛み合うわけがない気がしますw