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「自転車が右側通行・左方から進入」はなぜ過失修正要素になるか?

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交差点で自転車とクルマが衝突した場合の過失修正要素に

自転車が右側通行・左方から進入

というものがある。
これはどういう理由で過失修正要素にしているか理解してない人もいるので、ちょっと解説しようと思う。

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自転車が右側通行・左方から進入

「自転車が右側通行・左方から進入」というのは、「右側通行又は左方から進入」ではない
「右側通行かつ左方から進入」を意味する。

 

なぜこれが過失修正要素になるのかですが、日本は左側通行の原則。
左方優先という原理は左側通行同士の場合に左方から進入してくる車両を発見しやすいことが理由ですが、

右側通行かつ左方から進入してきた場合、クルマから見た回避可能性が著しく減退する。
自転車を発見してから回避行動を取るのに必要な「距離」が違うので(ただし信号交差点の場合はこれを修正要素にしないっぽい)。

歩道の右側通行は道路交通法上は違反ではないけど、過失(注意義務違反)の要素にはなりうるので過失修正します。

 

実際、上の事故態様について以下の判例がある。

 

優先道路に付属した歩道を通行していた自転車と、一時停止規制車両の衝突事故。

この場合民事の過失割合のベースになるのは「優先道路」対「非優先道路」になりますが、自転車が「右側通行かつ左方から進入」している分を過失修正している。

本件事故は、優先道路に併設された歩道を走行し、本件交差点を直進しようとした原告自転車と非優先道路から優先道路に左折進入するために本件交差点に進入しようとした被告車両との接触事故であるところ、双方に前方、左右の不注視等の過失が認められる。
そして、以上に加え、原告自転車が右側通行であり、被告車両から見て左方から本件交差点に進入してきたこと等に照らせば、本件事故の過失割合につき、原告15%、被告85%と認めるのが相当である。

 

名古屋地裁 平成30年9月5日

ちなみに勘違いしていたのですが、このように「自転車が優先道路側の場合」には「横断歩道修正」は行わないらしい。
なのでこんなイメージになる。

自転車 クルマ
基本過失割合 10 90
自転車が右側通行かつ左方から進入 +5 -5
15 85

なお、自転車が非優先道路の場合は50:50から横断歩道修正して45:55。

歩道から横断しても優先道路/非優先道路になるか?
こちらについて質問を頂いたのですが、要はこのような態様なら優先道路通行車と非優先道路通行車の事故だとわかりますが、歩道から横断したのに、優先道路通行車と非優先道路通行車の事故とみなす根拠ですよね。優先道路通行車と非優先道路通行車(民事)これ...

一例。

被告は、本件交差点を直進するにあたり、本件交差点には横断歩道が設けられていたのであるから、適宜速度を調節し、本件横断歩道を横断する歩行者等の有無及びその安全を確認しながら進行すべき自動車運転上の注意義務があるのにこれを怠り、本件横断歩道上を右方から左方に向かい横断してきた原告車に衝突直前まで気づかず、ブレーキペダルを踏むべきところを誤ってアクセルペダルを踏み込んで原告車に被告車前部を衝突させて原告車もろとも原告を路上に転倒させ、原告に傷害を負わせた。

 

他方、原告にも、交通整理が行われていない交差点に進入する際に、交差道路が優先道路であるときは、当該交差道路を進行する車両の進行を妨害しないよう注意して進行すべき注意義務があるのにこれを怠った過失が認められる。
そこで過失相殺について検討すると、原告が横断歩道上を進行していたこと、本件事故の時間帯は夜間であったが、横断歩道については感知式オーバーハングが設置され、横断歩道上がライトで照らされていたこと、被告が衝突時にブレーキペダルではなくアクセルペダルを踏み込んだことなどの本件事故態様や現場の状況に照らし、双方の過失の内容、程度を考慮すれば、原告の過失割合については30%と認めるのが相当である。

 

東京地裁 平成28年11月1日

一般的に判決文には「○✕修正で加算」みたいな話は書いてありませんが、過失割合は70:30。
推測するとこうなる。

加害者 被害者
基本過失割合 50 50
横断歩道修正 +5 -5
夜間修正 0 0
踏み間違え +15 -15
70 30

この場合は自転車が「右側通行かつ右方から進入」になりますが、「右側通行かつ左方から進入」を過失修正要素にしている理由はクルマから見た回避可能性なので、「右側通行かつ右方から進入」は修正要素になりません。

道路交通法とは無関係

「自転車が右側通行・左方から進入」を修正要素にする理由は、左方優先の原則を作った意味(回避可能性)を流用したとも言えますが、優先道路の場合にもこの修正要素があるように、道路交通法とは関係がない。

 

民事は道路交通法とは関係がない修正要素や基本過失割合が多いですが、そもそも「違反割合」ではなく「過失割合」だから当たり前とも言える。

 

ところで、交差道路左方の見通しがいい場合などにはこの修正要素は適用しないことが普通らしい。
要は見通しが悪い交差点で、「自転車が右側通行かつ左方から進入」だと回避可能性が著しく減退することから修正しているので、見通しがいいなら修正する理由がない。

 

以前書いた「夜間修正」にしても、「夜間だから」修正する要素ではない。
上の東京地裁判決にしても、「横断歩道上がライトで照らされていたこと」とあるのは「夜間修正する理由にならない」ことを示していると考えられますが、

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民事はある程度機械的に当てはめて行くので、判決文に書いてある意味を理解するにはそもそも過失修正要素の意味を理解しないとわからないのよね。
まあ、私も1年くらい前までその意味を理解してませんでしたが。

 

この判例にしても「原告自転車が右側通行であり、被告車両から見て左方から本件交差点に進入してきたこと」が民事の過失修正要素だと気づかないと、「裁判官が右側歩道通行を違反だと勘違いした」のかと勘違いしてしまう。
もちろん道路交通法でいう左方優先とは関係がない。

本件事故は、優先道路に併設された歩道を走行し、本件交差点を直進しようとした原告自転車と非優先道路から優先道路に左折進入するために本件交差点に進入しようとした被告車両との接触事故であるところ、双方に前方、左右の不注視等の過失が認められる。
そして、以上に加え、原告自転車が右側通行であり、被告車両から見て左方から本件交差点に進入してきたこと等に照らせば、本件事故の過失割合につき、原告15%、被告85%と認めるのが相当である。

 

名古屋地裁 平成30年9月5日

道路交通法の条文にしても、民事の過失修正要素にしても、それらを設けた意味を理解することが大事。

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