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アルコール濃度「9倍」は危険運転致死傷罪になるか?

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原付と衝突して事故を起こしさらに逃亡していた運転者から「基準値の9倍」のアルコールが検出されたそうですが、

ちょっとであっても飲酒運転は許されないにしても、「9倍」となると危険運転致死傷罪なんじゃないか?と思う人が多いと思う。
危険運転致傷罪になるかは今後の捜査次第です。

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アルコール危険運転致死傷罪

要はこれに該当するかの問題になりますが、

(危険運転致死傷)
第二条 次に掲げる行為を行い、よって、人を負傷させた者は十五年以下の懲役に処し、人を死亡させた者は一年以上の有期懲役に処する。
一 アルコール又は薬物の影響により正常な運転が困難な状態で自動車を走行させる行為

もしくは3条の準危険運転致死傷罪。

第三条 アルコール又は薬物の影響により、その走行中に正常な運転に支障が生じるおそれがある状態で、自動車を運転しよって、そのアルコール又は薬物の影響により正常な運転が困難な状態に陥り、人を負傷させた者は十二年以下の懲役に処し、人を死亡させた者は十五年以下の懲役に処する。

アルコールの影響で正常な運転が困難な状態ですが、以下判例がある。

刑法208条の2第1項前段の「アルコールの影響により正常な運転が困難な状態」とは,アルコールの影響により道路交通の状況等に応じた運転操作を行うことが困難な心身の状態をいうと解されるが,アルコールの影響により前方を注視してそこにある危険を的確に把握して対処することができない状態も,これに当たるというべきである。

最高裁判所第三小法廷 平成23年10月31日

要は正常な状態であれば回避できたのにアルコールの影響で回避できなかったのなら成立する。
ただし「アルコールの影響」について立証が難しく、アルコール濃度は一つの参考材料にはなりうるけど絶対的な基準ではない。

一つ参考事例を。
アルコール危険運転致死傷罪(3条の準危険運転致死傷)に該当するか?が争われた事案です。
飲酒量とアルコール濃度はこちら。

関係証拠によれば、被告人は、居酒屋において、約2時間30分の間に生ビール1杯(約270ミリリットル・アルコール度数約5パーセント)、焼酎2杯(約360ミリリットル・アルコール度数約20パーセント)及びハイボール3杯(約420ミリリットル・アルコール度数約9パーセント)程度を、引き続きカラオケスナックにおいて、約1時間50分の間にハイボール3杯(飲み残しを除き約430ミリリットル・アルコール度数約9パーセント)程度を飲んだことが認められる。

イ 大阪府警の警察官Hの証言によれば、前項の飲酒量等を前提に、ウィドマーク計算式(大阪府警が、おおよその体内アルコール保有量を計算するために一般的に用いる計算式であって、一定の信頼性は認められる。)を用い、被告人に最大限有利な条件を適用して、本件事故時の被告人の体内アルコール保有量を推計すると、呼気1リットル当たり0.363ミリグラムから0.994ミリグラムと算出される。

大阪地裁堺支部 令和5年9月29日

準危険運転致死傷罪はこう。

第三条 アルコール又は薬物の影響により、その走行中に正常な運転に支障が生じるおそれがある状態で、自動車を運転しよって、そのアルコール又は薬物の影響により正常な運転が困難な状態に陥り、人を負傷させた者は十二年以下の懲役に処し、人を死亡させた者は十五年以下の懲役に処する。

「走行中に正常な運転に支障が生じるおそれがある状態で」運転し、その結果「アルコールの影響で正常な運転が困難な状態に陥った」ことが要件。

⑵ 被告人の運転開始前の挙動
ア 被告人が、本件事故の直前、カラオケスナックから駐車場に向けて歩く様子の一部を撮影した防犯カメラ映像(甲30)によれば、被告人は、歩行中、左右に蛇行する動きをすることがあったと認められる。
このような被告人の動きは、道路の形状に従った歩行とは認め難く、本件当日午後7時半頃、駐車場から居酒屋へ向かって歩く被告人には、蛇行する様子はないこと(甲31)と比較しても、ふらついていたと評価するのが相当であり、その原因は、飲酒の影響と考えるのが最も自然
である。

イ 弁護人は、別の防犯カメラの映像(弁8)では、被告人はふらついていない上、カラオケスナックの経営者Gは、被告人は、同スナックを退店する際、寝込んだり、ろれつが回らなかったりする様子はなく、通常どおり会計をし、店外の急な階段をつまづくことなく下りたなどと証言したことを指摘し、被告人の行動に、飲酒の影響が現れていたことは証明されていない旨を主張する。
しかし、酒に酔った者が、歩行中に常にふらついているとは限らず、酔いの程度によっては、ある場面ではふらつき、他の場面では正常な様子で歩行するということも十分にあり得る。また、飲酒が身体に与える影響には個人差があるから、上記Gが、一見して明らかな被告人の酔いの症状を認めなかったことは、必ずしも被告人の言動や判断力等に飲酒の影響がなかったことを意味しない。弁護人が指摘する各事情は、被告人が、本件当時、合理的な言動が全くできない程度まで泥酔するに至っていなかったことを示すものではあるが、飲酒の影響を受けていたこと自体に疑問を生じさせる事情ではなく、この点を考慮しても、被告人は、飲酒の影響によりふらつくことがあったという上記評価が揺らぐことはない。

⑶ 事故現場及び事故態様
ア 上記2⑵のとおり本件道路は、車線幅が広いとはいい難いものの、少なくとも普通乗用自動車が路側帯にはみ出さずに走行するには十分な幅があり、車線が複雑に湾曲しているようなこともない直線道路であった。
また、本件事故当日の被害者らの服装には、明るい色調のものも相当含まれており、本件事故時と類似の条件下で行った検証の際、被告人は、後方約66.99メートルの地点において、進路前方を歩く歩行者を視認できたことも認められる(甲2、25)。
そうすると、被告人が、本件事故現場において、被害者らの隊列を事前に発見し、同人らを避けて走行することは容易な状況であったと認められる。
被告人は、そのような状況下において、規制速度を20キロメートル以上上回る時速約64キロメートルで被告人車を走行させ、急制動や急転把を含む一切の回避措置をとることなく、路側帯付近を歩行中の被害者らに同車を衝突させており、衝突まで被害者らの隊列に気付いていなかったと推認されることも含め、通常ではあり得ない態様の事故を引き起こしたといえる。加えて、被告人が、運転開始からわずか約2分で本件事故を起こし、これにより被告人車が大きく破損し、相当な衝撃を受けたと考えられるにもかかわらず、そのまま走り去るなど、車両運転者として不合理な行動を続けたことをも考慮すると、被告人は、本件事故当時、注意力及び判断力等が相当程度減退していたといわざるを得ず、その原因となる事情についても、やはり飲酒の影響以外には考えがたい。

大阪地裁堺支部 令和5年9月29日

「走行中に正常な運転に支障が生じるおそれがある状態で運転を開始した」ことを立証するために、検察官は居酒屋に入る前と居酒屋を退店する際の被告人の歩行挙動の違いに着目。
入店時にふらつきがなく退店時に蛇行歩行している様子と飲酒量を考えれば、蛇行歩行していたのはアルコールの影響と考えるのが妥当。

 

つまり「走行中に正常な運転に支障が生じるおそれがある状態で運転を開始した」に該当する。

 

次に実際に事故を起こした道路状況ですが、「普通の状態なら路側帯にはみ出さずに通行できる幅員」であり、再現実験(もちろん正常時)では「後方約66.99メートルの地点において、進路前方を歩く歩行者を視認できた」。
つまり正常な状態であれば容易に事故回避できるのに、事故を起こしたことになる。
さらに「運転開始からわずか約2分で本件事故を起こし、これにより被告人車が大きく破損し、相当な衝撃を受けたと考えられるにもかかわらず、そのまま走り去るなど、車両運転者として不合理な行動を続けたこと」も正常な状態であれば考えにくいのだから、「アルコールの影響で正常な運転が困難な状態に陥り、よって事故を起こした」ことになる。

 

アルコール濃度は一つの参考材料にはなりますが、危険運転致死傷の立証はこのように構成要件に沿って立証することになるため、今後の捜査次第では危険運転致死傷罪として起訴することも考えられる。

飲酒+事故+ひき逃げ

今回の事故は飲酒運転+事故+ひき逃げになりますが、過失運転致傷と危険運転致傷ではビミョーに変わる。

 

◯過失運転致傷の場合

過失運転致傷罪+酒気帯び運転罪(道路交通法違反)+救護義務違反(道路交通法違反)

◯危険運転致傷の場合

危険運転致傷罪+救護義務違反(道路交通法違反)

 

危険運転致傷罪の場合には酒気帯び運転は危険運転のほうで評価されている以上、「吸収」されて併合罪の関係にはない。
いわゆる行政処分については頭の骨を折る大怪我とは言え命に別状はないとのことですが、治療期間1ヶ月以上と仮定するとこうなる。

危険運転の場合 過失運転の場合
危険運転 51
酒気帯び運転 25
付加点数(専ら) 9
救護義務違反 35 35
86 69
交通事故と点数の関係。無免許酒気帯び運転による事故はどうなる?
この人の解説は頻繁に不正確で驚きますが、運転レベル向上委員会より引用無免許+酒気帯び運転+ひき逃げ事故について反則点数の解説をしてますが、危険運転致死傷にしても過失運転致死傷にしても全部間違っている。ほとんどの人はこんなヤバい事故を起こさな...

付加点数は後遺障害や治療期間により変わります(危険運転致死傷は付加点数が内包されている)。

 

まあなんにせよ、飲酒運転すんなって話にしかならないのよね。
最近おかしな点数計算やあり得ない併合罪を披露する人がいるので一応書いておきますが、本質的には「飲酒運転すんな」でしかない。

 

なお今回はどこの話なのかは書きませんが、交差点の優先道路進行妨害(36条2項)を「法定横断禁止違反」(25条の2第1項)と説明したり、二日酔いで起こした事故(過失運転致死傷罪として起訴)を「危険運転にならなかった事案」みたいに紹介して何の意味かあるのかさっぱりわからない。
過失運転致死傷罪として起訴したなら危険運転致死傷罪になるわけもないし、危険運転致死傷罪の成立を争って認められなかった事案を取り上げるならまだわかるけど。

 

アルコール濃度は一つの判断材料になりうるけど、危険運転致死傷の成立はアルコール濃度以外の要素が大きい。
今後の捜査次第になるかと。

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