ではこちら。

題材になるのは埼玉・八潮市の道路陥没事故ですが、綾人サロンは災害だから任意保険(人身傷害条項)の対象ではないとし、運転レベル向上委員会は「交通事故だから」対象だとする。
そもそも両者ともに的外れなのは、約款該当性を考えずに災害か交通事故かを考えている点。
第1条(保険金を支払う場合)
⑴ 当会社は、次の規定に従い、保険金、入通院定額給付金または入院生活サポート費用保険金を支払います。
① 当会社は、被保険者が次のいずれかに該当する急激かつ偶然な外来の事故によってその身体に傷害を被った場合は、その直接の結果として被保険者またはその父母、配偶者もしくは子が被る損害に対して、この人身傷害条項および基本条項に従い、保険金請求権者に保険金を支払います。
ア.契約自動車の運行に起因する事故
イ.契約自動車の運行中の、飛来中もしくは落下中の
他物との衝突、火災、爆発または契約自動車の落下 Web約款|損保ジャパン損保ジャパン公式ウェブサイト
「交通事故の場合」ではなくアは「運行起因」、イは「運行中」としている。
なぜ「交通事故の場合」とはしてないのでしょうか?
「交通事故の場合」としたら?
道路交通法でいう交通事故とは「道路」に限定しているので、「交通事故の場合」と規定したら道路外致死傷の場合には適用外になりかねない。
現実的には自宅駐車場など「道路」ではない場所においても事故は起きるのだし、保険の趣旨からしても道路交通法と定義を合わせることが不合理。
なので「運行」という概念にしている。
なお自賠法では運行をこのように規定している。
第二条
2 この法律で「運行」とは、人又は物を運送するとしないとにかかわらず、自動車を当該装置の用い方に従い用いることをいう。
任意保険でいう運行も、自賠法でいう運行と同じと考えてよいかと。
運行起因と運行中の差
アは「運行起因」、イは「運行中」と分けている。
第1条(保険金を支払う場合)
⑴ 当会社は、次の規定に従い、保険金、入通院定額給付金または入院生活サポート費用保険金を支払います。
① 当会社は、被保険者が次のいずれかに該当する急激かつ偶然な外来の事故によってその身体に傷害を被った場合は、その直接の結果として被保険者またはその父母、配偶者もしくは子が被る損害に対して、この人身傷害条項および基本条項に従い、保険金請求権者に保険金を支払います。
ア.契約自動車の運行に起因する事故
イ.契約自動車の運行中の、飛来中もしくは落下中の
他物との衝突、火災、爆発または契約自動車の落下 Web約款|損保ジャパン損保ジャパン公式ウェブサイト
自賠法でいう「運行によって」については相当因果関係と解釈される。
自動車損害賠償保障法三条は、自己のために自動車を運行の用に供する者は、その運行によつて他人の生命または身体を害したときは、これによつて生じた損害を賠償する責に任ずる旨を定めているところ、右にいう「運行によつて」とは運行と被害との間に因果関係があることを要するものと解すべきである。
最高裁判所第三小法廷 昭和43年10月8日
運行と「被害」に因果関係があるものと解釈されますが、道路陥没事故の主因は「道路の陥没」なのだから運行と相当因果関係があるかと言われたらだいぶ無理筋になる。
ところがイでは「運行中の契約自動車の落下」を対象にしているのだから、
契約自動車の運行中の、
①飛来中もしくは落下中の他物との衝突
②火災
③爆発
④契約自動車の落下
これに該当するので保険支払いの対象になる。
「運行起因」「運行中」「交通事故の場合」は対象になる範囲に差がありますが、どちらにせよ保険支払いの対象は交通事故に限定してないから交通事故であるかを力説しても無関係だし、ましてや「災害か否か」も論点ではない。
不思議なのは、保険支払いの対象になるかを確認するなら約款を見ますよね。
約款を見れば「災害か?」「交通事故か?」なんてとこは関係ないことがわかりますが、交通系YouTuber同士で無意味な観点で論争しても、結局は視聴者が誤認するだけでしかない。
「保険の対象になる」という結論が合っていたかで考えるのもまずい発想でして、運転レベル向上委員会の解説を信じると、道路外致死傷案件は対象外だと誤認する。
なぜにこの人たちはおかしな解説をして世間の誤解を惹起するのかわかりません。
民事は難しい
ちなみに民事は難しいのでして、ちょっと前には運転レベル向上委員会が「自賠法3条」の意味を理解しないまま福井地裁判決を解説していましたよね。

民事は道路交通法解釈なんかよりはるかに複雑なので、理解してないならプロに任せて語らないほうがよい。
福井地裁判決についてはかなり複雑ですが、自賠法と民法の概念を知らないまま判決文を読んでも理解できるわけがないし、案の定「逆走車を避ける努力をしなかったから過失がついた」みたいな誤った解説をしてしまう。
福井地裁判決は「過失の立証ができず、一方では無過失だった立証もできないから自賠法に基づいて支払う義務がある」という事案なのであって、要は「詳細不明」なのよね。
ドラレコがあれば無過失の立証ができたかもしれないし過失の立証ができたかもしれない。
けどわからない。
民事は被害者救済を目的とするのだから、「過失があったかなかったかわからない」ものは「支払え」という法律にしてんのよね(自賠法3条)。
保険の対象になるかにしても約款を見ればわかる話。
法律を確認し理解しないまま判決文を解説すること人は、約款を確認して理解しないまま解説することに繋がるわけで、この人たちの問題点がどこにあるか見えちゃうのよね…
反面教師にしましょう。
なお、ショートクランクを「短小竿」呼ばわりする私をろくでもない人と認定し、反面教師にすることは正解です。

2011年頃からクロスバイクやロードバイクにはまった男子です。今乗っているのはLOOK765。
ひょんなことから訴訟を経験し(本人訴訟)、法律の勉強をする中で道路交通法にやたら詳しくなりました。なので自転車と関係がない道路交通法の解説もしています。なるべく判例や解説書などの見解を取り上げるようにしてます。
現在はちょっと体調不良につき、自転車はお休み中。本当は輪行が好きなのですが。ロードバイクのみならずツーリングバイクにも興味あり。
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