右直事故の判例について質問を頂いたのですが、
①時速118キロで直進した白バイと衝突した右折車に、過失運転致死罪の成立を認めた札幌高裁 令和7年2月20日判決(刑事)

②時速120キロ以上で直進したバイクと右折車が衝突した事故について、直進バイクの一方的過失(右折車無過失)と判断した福岡高裁 令和5年3月16日判決(民事)

右直事故で直進バイクが時速120キロという点は同じですが、なぜ差が出るのか?という話。
刑事と民事は別問題という点を考慮せずに回答しますが、最大の差はここ。
札幌高裁 | 福岡高裁 | |
種別 | 刑事 | 民事 |
直進バイクの速度 | 時速120キロ以上 | 時速118キロ |
右折車の挙動 | 本件交差点に進入させて一旦停止させ、対向車線を車両等が進行してきていないことを確認した上、時速10キロメートル程度の速度で被控訴人車を右折進行させた | 右折6秒前(95m手前)で対向車を確認し、右折直前には対向車確認をしなかった(既に直進バイクが近距離に迫っていた) |
判決 | 右折車は無過失 | 右折車は有罪 |
福岡高裁判決(民事)は、右折車ドライバーは交差点で右折する前に一時停止して、対向車が来てないことを確認してから右折開始したところに、異常な高速度で直進バイクが突っ込んできた。
札幌高裁判決(刑事)は、右折車ドライバーが対向車確認をせずに右折したところ、既に近距離に迫っていた直進バイクと衝突したが、たまたまそのバイクが時速118キロだった。
だいぶ意味が違うんですよ。
「異常な高速度の直進車を予見する注意義務はない」というのはその通りだけど、それは「全く対向車がいないことを確認した」とか「対向車がだいぶ遠くにいるのを確認し安全に右折できるはずだった」という前提での話。
近距離に迫っている直進車がいるのにノールック右折して、たまたま相手が異常な高速度だったのなら事案が違うことになる。
けどややこしいのは、報道では右折車が右折開始したときの「両者の距離」なんて報道しない。
「時速120キロは異常だ」ばかりを強調するから本質を見失うけど、
結局、右折開始する直前に両者の距離がどうだったかの問題なんですね。
福岡高裁判決(民事)にしても、一時停止して対向車がいないことを確認してから徐行進行したことが無過失のポイント。
きちんと安全確認してから右折したのに、夜間、最高速度の2.4倍以上の速度の時速122ないし179キロメートルがいるなんて予測できないし、回避もできない。
もしノールック右折してたまたま相手が時速122ないし179キロメートルだったなら無過失認定はされない。
結局のところ、やることをきちんとやっていて起きた事故なら、法は不可能を強いるわけじゃないし無罪(刑事)、無過失(民事)はありえる。
なので
としか言えないのよね。
ただし刑事無罪と民事無過失は別です。
これは過失認定構造の違いから来る話なのでしょうがない。
たぶん、民事の過失割合は関心が高いポイントなんだと思う。
無過失認定の判例はいくつも挙げてますが、ぶっちゃけ民事無過失はかなりハードルが高いし、自賠法3条により無過失を証明しない限りは民事賠償責任を負うのだから、民事無過失を証明するには相当の労力が必要なのよ。
例えばこういう記事がある。

基本過失割合が70:30のものを、細かく計算して無過失を主張したようですが(ただし物損事故なので自賠法3条の「無過失の証明」は不要)、
相当細かく計算して無過失を主張すれば、70:30を0:100にすることはできなくはないだろうけど、あまりにも面倒という話でもある。

2011年頃からクロスバイクやロードバイクにはまった男子です。今乗っているのはLOOK765。
ひょんなことから訴訟を経験し(本人訴訟)、法律の勉強をする中で道路交通法にやたら詳しくなりました。なので自転車と関係がない道路交通法の解説もしています。なるべく判例や解説書などの見解を取り上げるようにしてます。
現在はちょっと体調不良につき、自転車はお休み中。本当は輪行が好きなのですが。ロードバイクのみならずツーリングバイクにも興味あり。
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