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非優先道路(一時停止規制あり)を通行して事故を起こした自転車の過失割合。

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優先道路を通行していたクルマと、非優先道路(一時停止規制あり)を通行していた自転車の衝突事故について、「判例タイムズ38号」を元に解説しているとしてますが、

運転レベル向上委員会より引用

優先道路通行のクルマ:非優先道路通行の自転車の基本過失割合を50:50とし、自転車が一時停止しなかったことを「著しい過失」として修正してクルマ:自転車=35:65と解説している。

 

しかし判例タイムズ38号によると、この場合は一時停止規制の有無に関係なく優先道路/非優先道路態様(50:50)を適用するとし、一時停止しなかったとしても基本過失割合に内包されているというのが正解なのよね。
要は非優先道路側にまあまあの過失割合を設定している以上、それ以上に非優先道路側の過失を評価する対象とは考えないことになる。

 

修正要素「著しい過失」とは飲酒運転やながらスマホによる著しい前方不注視のことを指し、一時停止しなかったことを過失修正するという考え方は採用していない。

 

判例タイムズや実際の判例を当たればわかるはずなんだけど、この人の難点は「判例タイムズに書いてある」かのように解説しながら判例タイムズとは異なる独自論になること。
なぜ毎回のように読み落としが生じるのか疑問。

 

ところで優先道路であることを示す中央線がかなり消失しているようにも見えますが、道路交通法は標識標示主義を採る以上、中央線が視認できない状態にあれば「優先道路がない交差点」になる。
標識が破損して視認できなければ標識の効力がないのと同じで、標示が消失していたら標示の効力はない。

 

優先道路を示す道路標示は、優先道路通行車にとっては「徐行義務がないサイン(42条1項カッコ書き)かつ自車に優先権があるサイン(36条2項の反射的効果)」でもあり、非優先道路通行車にとっては「交差道路の進行妨害禁止のサイン(36条2項)」になりますが、中央線が視認できない状態ならば優先道路としての規制効力を失う。
つまり左右の見通しがきかない交差点なら徐行義務があることになる。

 

一例。

積雪により道路標示が見えない場合、過失割合に影響するか?
道路交通法では標識標示主義を採っていて、視認不可能な標識や標示については無効というのが基本的なスタンスです。さて道路交通法のみならず実情を加味して「公平に」責任を分担する民事において標識や標示が視認できない場合どう考えるかですが、「積雪によ...

積雪により優先道路を示す中央線が視認不可能な状態で起きた事故。

通常だと優先道路通行車(A)と非優先道路通行車(B)の基本過失割合はこうなる。

優先道路通行車(A) 非優先道路通行車(B)
10 90

ところが今回の事案では、積雪により優先道路を示すセンターラインが視認できないし、一時停止標識も停止線も視認できないという状況になっていた。
つまり標識、標示を全て外すとこうなる。

同幅員交差点事故と捉えた場合、左方車有利になるので基本過失割合はこうなる。

右方車(A) 左方車(B)
60 40

旭川地裁 令和5年3月16日判決は、これを優先道路なし、一時停止規制無しの同幅員交差点と捉え、若干の修正をして50:50にした。
優先道路を示す中央線がかなり消失しているケースでは基本過失割合をどっちにするか揉めるのよね。

 

道路交通法の基本中の基本、標識標示主義を知らないのだろうか…
数年前のGoogleマップをみる時点で道路交通法の基本を理解してないと言わざるを得ない。

 

ところでこの人の論旨は「こんなに賠償額が高額になるんです!」→「けど過失相殺されて減らされて足りないんです!」→「人身傷害特約があれば全額回収できるから人身傷害特約に入りましょう」。
意識不明というだけで後遺障害一級で計算する時点で論理が飛躍しているのは言うまでもないんだけど、事故を減らすという概念を全く感じない。

 

このケースは自転車がたまたま被害者になっただけで、交差道路通行車がオートバイならオートバイが死亡やケガすることもあるわけで、たまたま被害者になっただけといえる。

 

福岡高裁 平成22年3月10日判決(重過失致死罪)は、自転車が一時停止無視して国道に飛び出したところ、オートバイと衝突。
オートバイ運転者は投げ出され対向車に轢かれて死亡した事件です(被告人が自転車側なのは言うまでもない)。

 

この人の発想だと「自転車保険に入っていれば賠償できる/被害者は人身傷害特約に入っていれば十分な賠償が見込まれる」なんだろうけど、

 

普通の感覚でいえば、その前に事故を起こさないためにどうすべきかを考える。
自転車が一時停止規制を遵守して交差道路を確認することは何ら難しい技術ではないし(難しくない技術が遵守されないのは大問題)、優先道路通行車は制限速度を遵守し前方注視するとしか言えない(なお優先道路を示す中央線が視認できないのなら、徐行義務を負うことは言うまでもない)。

 

そもそも優先道路通行車と非優先道路通行自転車の基本過失割合が50:50に設定されている理由は、優先道路通行車に何らかの安全運転義務違反/交差点安全進行義務違反があることを前提にしているからなのでして、安全運転義務違反や交差点安全進行義務違反が認められない場合にはこの基本過失割合の適用はない。
四輪車の軽度な速度超過や前方不注視が既に内包された基本過失割合になってますが、

 

事故を防ぐことがそれほど難しくもない事案に、わざわざありもしない過失割合を披露してでも保険の宣伝に夢中になる意味がわからないのよね、、、
無理矢理高額算定して過失割合も偽って保険を勧めることのほうが問題。

 

なおこのようなケースでクルマに「交差点安全進行義務違反」が成立した事案がある(東京地裁 平成28年12月9日)。

交差点安全進行義務(道路交通法36条4項)の解釈と判例。
先日取り上げた件について質問を頂きました。ええと、基本的にはならないです。交差点安全進行義務交差点安全進行義務はこちら。(交差点における他の車両等との関係等)第三十六条4 車両等は、交差点に入ろうとし、及び交差点内を通行するときは、当該交差...

事故が起きたら交差点安全進行義務違反があるのではなく、交差点安全進行義務違反が肯定されるには結果回避可能性が必要。
この判例では案内板に気をとられて前方不注視になったため、本来なら50m先に視認可能だった自転車(非優先道路)を見落とし、制動措置を採ることなく漠然進行して衝突したのだから、交差点安全進行義務違反が認められる。

裁判例結果詳細 | 裁判所 - Courts in Japan

仮に至近距離にならないと視認できない状況だったなら交差点安全進行義務違反は成立しないことになりますが、このようにクルマ側に回避可能性がある事故が典型例だから「優先道路通行車にも過失がある前提で」基本過失割合は50:50に設定されている。

 

判例タイムズ等をみればなぜそのような過失割合にしたのか解説がありますが、彼は読んでないのでしょう。
彼にとって専門書は何の意味があるのか疑問ですが、「なぜそのような基本過失割合なのか」って事故防止の観点では勉強になるのよね。

 

人身傷害特約をプッシュするためにやたら高額な算定を披露し、過失割合も無理矢理自転車の過失を高めに計算する姿勢は意味がわからないのですが、人身傷害特約があればいざというときに役立つのはそうだとしても、それを説明するために話を大きくして盛る理由がわからない。
現実的なところとして、基本過失割合50:50から自転車側に「有利に」修正されている判例をしばしば見かけるくらいですが、過度に不安を煽るために判例タイムズとは異なる独自論を使ってまですることなのだろうか?

 

そもそも、家族がクルマを所有してなければ人身傷害特約に入れないことになりますが、みんなが加入できるわけではないものが「対策」になるわけがないのよね。

 

ところで、民事過失割合の態様を考えるときには、優先道路があったとしても「優先道路がなく片方に一時停止規制がある場合」を適用することもあれば、優先道路がなくても「優先道路態様」を適用することもある。
そしてその理由は判例タイムズに書いてある。

 

例えばこのような判例がある。

(一) 本件事故は、信号機がない十字路交差点で発生したものであるが、原告が北に向かって進行していた道路は、幅員1.9mの、自転車がようやく通れる程度の狭い道路であり、被告車両が西に向かって進行してきた道路は、中央線こそ表示されていないものの車両が対向通行することが可能な幅員5.7mの道路であって、優先道路といえる。右交差点南東角にはマンションが建っており、その前面には、丈は低いものの塀や植え込み等があって、西行車両と北行きの足踏式自転車とは、相互に見通しが悪く、当時はカーブミラーもなく、被告車両の通行方向に、路面に「とび出し」との標示がされたのは、事故の後であった。

神戸地裁 平成10年12月20日

中央線がない幅員5.7mの道路が道路交通法上の優先道路になるわけもない。
じゃあこれは裁判所の誤判なのかというとそうではない。

 

民事の過失相殺は「公平的見地から」責任分配するものですが、1.9m対5.7mと状況からみて優先道路態様の基本過失割合を適用することが「公平」だと判断しただけのことで、そのように判断することがあるのは判例タイムズにも書いてある。
民事の基本過失割合は一定の状況について数値化されてますが、それを杓子定規的に適用することが公平とは言い難い場合にはこのように優先道路がなくても優先道路態様を適用する。

 

これを理解してないと、停止車両の側方を通過して前に出たケースを「追い越し」と評価した民事判例の意味を取り違え、警察に「停止車両の場合も追い越しなのか?」というとんちんかんな質問をすることに繋がりますが、

交通事故民事判決文の読み方。
交通事故の後に損害賠償請求訴訟になることもありますが、損害賠償請求訴訟で揉める一因が過失割合。過失割合について、民事判決文をどう読み解くかがポイントになります。過失割合の対立構造過失割合の対立構造ですが、チャート化するとこうなる。判例タイム...

基本的な原理を理解しないまま判決文を読めば意味を取り違えてしまうとはいえ、なぜこの人は判例タイムズをきちんと読まないまま判例タイムズ基準を語るのだろう。

 

ところで話を戻すと、結局のところ「自転車は一時停止後に十分な確認をすべき」、四輪車は「中央線が視認できない左右の見通しがきかない交差点なら徐行、仮に徐行義務がないにしても制限速度遵守と前方注視を尽くし事故回避に努めるべき」となる。
そもそも、四輪車の立場からしても加害者になるか被害者になるかは結果論に過ぎず、交差道路から一時不停止で進入してきたのが大型車だったならケガや死亡に至るのは言うまでもないし、飛び出してきた自転車を避けようとして中央分離帯に衝突し重症を負った事案すらある。

 

しかし一部の人は「この交差点に進入する際に何を注意すべきか?」ではなく、「起きた結果に対する論評」に走る。
事故がなくならない理由はこういう思考回路にあるのよね。。。

 

ところで今回の事故、実名報道されている。
逮捕については「逃亡や証拠隠滅のおそれ」があれば問題ないにしろ、実名報道の妥当性については疑問。
著しい速度超過や薬物乱用運転などの重大な悪質性があるものに限定するほうがいいのではないかと考えますが、

無罪判決を受け国を提訴。
以前札幌地裁にて、赤信号を無視した中学生とクルマが衝突した事故(過失運転致死)で無罪判決が出た裁判があったのを覚えているでしょうか?中学生が自殺目的だった可能性を否定できないとし無罪判決が出て確定しましたが、被告人側が国に損害賠償請求するら...

著しい速度超過があっても過失運転致死傷罪が成立するかは別問題なので、話がややこしい。
「過失があるから逮捕なんです!」という誤った価値観を広める人がいるから、推定無罪の原則を蔑ろにして「叩く」ことが横行しますが、それのどこが健全な社会と言えるのか激しく疑問。

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