PVアクセスランキング にほんブログ村
スポンサーリンク

時速268キロのポルシェが起こした事故について、危険運転致死傷罪を認めた理由。

blog
スポンサーリンク

ちょっと前に、時速268キロで事故を起こした被告人に危険運転致死傷罪(進行制御困難な高速度)を認めた横浜地裁判決がありました。

「常軌を逸した超高速度で運転」56歳男に懲役12年 危険運転致死罪を適用 夫婦死亡の湾岸線ポルシェ暴走事故 | TBS NEWS DIG
6年前、首都高湾岸線をポルシェで時速268キロで走行して乗用車に追突し、夫婦を死亡させた罪に問われた男の裁判。危険運転致死罪の適用をめぐり争われた裁判できょう、判決が言い渡されました。横浜地裁 足立勉 …

報道から読み取れない判決理由を解説しようと思う。

 

まずは事故の態様から。

第2 前提事実
1 本件事故現場は、最高速度が時速80キロメートルと規制された自動車専用道路(県道高速湾岸線)であり、その形状は、上下線が中央分離帯により区分された片側3車線の直線道路で、その幅員は、第1車両通行帯及び第3車両通行帯が3.6メートル、第2車両通行帯が3.5メートルであった。路面は平坦でアスファルト舗装されており、本件事故当日、路面は乾燥していた(以下、判示区間の道路を「本件道路」という。)。
2 被告人車両は、幅188センチメートル、長さ455センチメートルのポルシェ911GT2-RS(平成31年3月式)であり、最高時速340キロメートル等の性能を有する。
3 被告人は、本件事故当日、被告人車両の助手席に長男を乗せ、自宅近くの駐車場から出発して横浜方面に向かい、県道高速湾岸線に入った後、本件事故現場手前約6.35キロメートル地点を時速約181キロメートル、同約4.62キロメートル地点を時速約217キロメートル、同約1.7キロメートル地点を時速約240キロメートル、同約0.9キロメートル地点を時速約246キロメートルで走行し、同約504メートル地点において、第2車両通行帯を走行していたシトロエン(時速約87ないし88キロメートル)を、第3車両通行帯から時速約268.98キロメートルで追い抜いた。
4 被告人がシトロエンを追い抜いた当時、第2車両通行帯には、シトロエンの前方に3台の自動車が、その前方にいすゞフォワードが、その前方に被害者車両(トヨタbB)が、ほぼ等間隔の車間距離で走行しており、第1車両通行帯にはタンクローリーが走行していた。
5 被告人は、いすゞフォワードが第2車両通行帯から第3車両通行帯へ車線変更してくるのを同車から約105メートルの地点で認識し、ハンドルを左に切って、自車を第3車両通行帯から第2車両通行帯に進入させ、第3車両通行帯に移動したいすゞフォワードを追い抜いたが、第2車両通行帯内で、自車の前方を時速約83キロメートルで走行していた被害者車両の右後部に自車左前部を衝突させた。

当裁判所は、判示のとおり、被告人は、自車を第2車両通行帯に進入させた後、さらに第3車両通行帯に進入させようとした際、自車を横滑りさせて時速約200キロメートルで被害者車両に衝突させたと認定した。

では裁判所の判断を。

第4 制御困難高速度の該当性
1 意義
法2条2号にいう「その進行を制御することが困難な高速度」とは、速度が速すぎるため、道路の状況に応じて進行させることが困難な速度をいい(以下、この要件該当性を「進行制御困難性」ともいう。)、具体的には、そのような速度での走行を続ければ、道路の形状、路面の状況などの道路の状況、車両の構造・性能等の客観的事実に照らし、あるいは、ハンドルやブレーキの操作のわずかなミスによって、自車を進路から逸脱させて事故を発生させることとなるような速度をいうと解されその判断に当たっては、前記の客観的事実のみを考慮すべきであり、他の走行車両や歩行者の存在を考慮に入れるべきではない。
以上の解釈について両当事者に争いはない。

2 被告人の運転行為の評価
⑴ 前記認定のとおり、被告人は、自車を運転して、最高速度が時速80キロメートルと規制された片側3車線の直線道路の第3車両通行帯を時速約268キロメートルで走行していたところ、いすゞフォワードが第3車両通行帯に車線変更してきたのを同車から約105メートルの地点で認識し、第2車両通行帯に被告人車両を進入させ、さらに前方を走行していた被害者車両との衝突を避けるために第3車両通行帯に被告人車両を進入させようと右にハンドルを切ったが、同車を横滑りさせ、時速約200キロメートルで被害者車両に衝突させたものである。
一般に、自動車の速度が速くなればなるほど、わずかにハンドルを動かすだけでもその方向に車体は大きく移動するし、ブレーキをかけた際に車体がスピンする可能性が生じるなど、ハンドル・ブレーキ操作の困難性が高まることは明らかであるところ、本件の時速約200キロメートルないし約268キロメートルという速度は、本件道路の最高速度を時速約120キロメートルないし約188キロメートル上回る超高速度であり、常識的にみて、ハンドルやブレーキの操作のわずかなミスによって、自車を進路から逸脱させる危険性を有する速度であるといえる(危険運転致死傷罪の創設時にも、立法担当者は、「進行を制御することが困難な高速度かどうか、これはもちろん、絶対的に、例えば二百五十キロ、三百キロというような速度で走っていれば、それはそれとして考えられるわけですが、それ以外の場合では、基本的にはやはり道路の状況との関係が一番大きな判断要素になろうかと思います。」と述べている(第153回国会衆議院法務委員会第9号平成13年11月7日のF政府参考人(法務省刑事局長)の答弁参照)。)。この点、専門家であるD証人は、時速約200キロメートルで旋回しようとしてハンドルを切れば、スピンしたり、横転したりする可能性がある非常に危険な状態に陥るという趣旨の証言をしており、前記のハンドル・ブレーキ操作の困難性が裏付けられており、公道上でもサーキットでも相当回数、被告人車両のようなスポーツカーを運転した経験を有し、車両の性能に関する知識も豊富であると認められる被告人が、高速度で走行中はスリップしたりスピンしたりする可能性があるので、フルブレーキはかけないし、ハンドルの切り方は手を添える程度であるという供述をしていることは、前記の困難性を被告人も明確に認識していることを示している。
また、本件道路は、片側3車線の自動車専用道路であるから、走行車両が適宜車線変更することは当然に予定されているのであり、こうした客観的事情は、進行制御困難性の判断の基礎となる「道路の状況」に含まれるものと解される。すなわち、本件道路のようないわゆる高速道路は、いわゆる一般道路に比べ、合流や分岐等も多い道路であり、そのような道路において、進行を制御することが可能であるというためには、単に1本の車両通行帯を直進できていれば良いわけではなく、他の車両通行帯に車線変更して変更後の車線を進行する場合も含めて進路を適切に保持できる速度で進行することが求められており、これを言い換えれば、およそ安全な車線変更等をすることが困難なほどの高速度で自動車を走行させることは、もはや道路の状況に応じた走行とはいえず、「その進行を制御することが困難な高速度で自動車を走行させる行為」に該当するものというべきである。
なお、本罪は、他の走行車両や歩行者に対する危険を回避するための対処が困難になるような高速度による危険性(以下では「対処困難性」ともいう。)を考慮して処罰する規定ではない。ここでは、他の車両等との関係で安全に車線変更等をすることが困難になるような高速度かどうか(対処困難性)ではなく、およそ安全に車線変更等をすることが困難なほどの高速度かどうか(進行制御困難性)が問題とされていることを付言しておく。
⑵ 以上を踏まえて本件を検討すると、被告人は、自車を運転して、本件道路の第3車両通行帯を、時速約268キロメートルという超高速度で走行しているが、路面が平坦でアスファルト舗装され、かつ乾燥していたという本件道路の状況や被告人車両の性能を踏まえても、安全な車線変更等をすることがおよそ困難な高速度で走行していたと認められる。そして、被告人は、いすゞフォワードが第3車両通行帯に車線変更してきたことを契機に、自車を第2車両通行帯に進入させ、さらに被害者車両との衝突を避けるべく、第3車両通行帯に進入させようとしたが、速度に見合わない右旋回走行をしたことにより自車を外側に横滑りさせ、被害者車両に衝突させている。衝突時の速度は時速約200キロメートルであり、当初の速度から大きく減速していないのは、超高速度で走行中であったために被告人がフルブレーキをかけなかった(かけられなかった)ためであり、ハンドル操作も困難を極めたことがうかがわれる。こうした本件事故に至る機序は、被告人車両の走行速度が、衝突に至るまで、およそ安全な車線変更等をすることが困難な高速度で走行し続けていたことを如実に示しており、同車両は、最終的に右旋回走行したことで横滑りするに至った時点で、走行を制御することができなくなったものと認められる。
よって、被告人車両が本件道路を走行した速度は、進行を制御することが困難な高速度に該当する。

3 弁護人の主張について
弁護人は、被告人は、第3車両通行帯を直進することしか考えておらず、実際に被告人車両は高速度ではあったが第3車両通行帯を安定して直進走行できていたため、進行制御困難な高速度に当たらないと主張する。しかし、本件道路は片側3車線の自動車専用道路なのであるから、どれだけ高速度であっても1本の車両通行帯を直進できれば良いというものではなく、安全に車線変更等ができる速度で走行しなければならないのは既に述べたとおりである。
また、弁護人は、度外視すべき他の走行車両(いすゞフォワード)の存在を考慮して判断するのは、進行制御困難性における「道路の状況」の解釈として誤っているとも主張する。しかし、進行制御困難性を肯定した当裁判所の判断は、いすゞフォワードを含む他の車両の存在を道路の状況として考慮するものではない。いすゞフォワードが車線変更をしたことは、被告人車両の進路変更の契機となってはいるが、いすゞフォワードの車線変更の方法が格別異常であるとはいえないことなども踏まえると、本件事故は、被告人車両が進行制御困難な高速度で走行したことの危険が現実化したものと認められるのであり、批判は当たらない。

横浜地裁 令和8年1月27日

最近の「進行制御困難高速度危険運転致死傷罪」の判例をみると、対処困難性について論じているのではないことを明確にしようとしているのが特徴。
時速194キロの大分地裁判決や、時速125キロ川口でのさいたま地裁判決でも、対処困難性を含まないことを明確にしてから論点を整理してますが、この判例については特段おかしな点は見当たらない。
要するにこの裁判では、進路変更(車線変更)するのに著しい高速度であれば、わずかな操作ミスでスピンしかねない(進路変更時に適切な航路を維持できないおそれ)という観点で進行制御困難高速度危険運転致死傷罪(処罰法2条2号)の成立を認めた。

 

ちょっと前に書いたんだけど、

まっすぐ走れていたら進行制御困難高速度ではないのか?
読者様から時速194キロ事故の「進行制御困難高速度危険運転致死傷罪」について、と言われたのですが、ぶっちゃけた話、そのような話がどこにあるのか見当たらなくて。進行制御困難高速度を関わる部分のみ抜粋します。○法制審議会刑事法(自動車運転による...

立法時の説明を曲解して「まっすぐ走れていたら成立しないと言った」みたいな話をする人がいるんだけど、

 

そんな話はないのよね。

この「自動車の進行を制御することが困難な著しい高速度」という言葉の意味は,そのような速度で当該自動車運転した場合には,速度が速すぎるために,当該道路状況などに応じて自車の進行を制御することが困難となるような速度であります。例えば,速度が速すぎるため,ハンドルのぶれや車体の揺れが生じてしまっている場合でありますとか,道路の湾曲,カーブの状況,路面の状況,自動車の安定性などに照らしまして,当該速度で運転を続ければハンドルやブレーキの操作のわずかのミスによって自車を進路から逸脱させるなどして事故を発生させることになると認められる,このような場合に,このような高速度であると認めることができるわけでございます。したがいまして,このような制御困難な高速度に達していない場合であれば例えば住宅街をそこそこの速い速度で走行いたしまして,速度違反が原因で路地から出てきた歩行者を避けられずに事故を起こしたような場合でありましても,本罪には当たらないということになります。

「このような制御困難な高速度に達していない場合であれば」という前提において、いわゆる対処困難性で同罪を判断しないとする。
なぜかおかしな切り抜き論法で、立法時の説明すら誤認させたがるYouTuberがいてウンザリする。

 

ところでこの裁判、主位的訴因を「進行制御困難高速度危険運転致死傷罪」とし、予備的訴因として「通行妨害目的危険運転致死傷罪」と過失運転致死傷罪を主張している。
主位的訴因が認められたことから、予備的訴因の通行妨害目的危険運転致死傷罪に対する説示はほぼない。

 

最近の判例をみると、検察としては通行妨害目的危険運転致死傷罪の成立を目指しているのだとわかりますが、大阪高裁判決以降、通行妨害目的については確定的認識ではなく未必的認識でも足りるとした判例がいくつかある。

 

時速250キロ以上で通行すること自体、他の車両を妨害するおそれが高いことは言うまでもない。
しかし同罪における「通行妨害意思」が未必的であるとしても、妨害の対象になる車両が漠然としている場合には同罪の成立を認めていないように思う。

通行妨害目的危険運転致死傷罪の「未必的な認識」について考えてみた。
さて、こちらの件。通行妨害目的危険運転致死傷罪(処罰法2条4号)について、「通行妨害になる可能性があるという未必的な認識で足りる」とした大阪高裁平成28年12月13日判決がある一方、酒田市の事故では同罪での起訴を見送り、大分時速194キロ事...

ここは判断が難しくて、妨害の対象になる車両が狙い打ちされているなら、妨害意思が未必的であったとしても同罪の成立を認めるでしょうが、妨害の対象になる車両が漠然とした中で同罪の成立を認めると、ほとんどの事故が通行妨害目的危険運転致死傷罪になりうる。

 

それは立法趣旨からみてもまずい。

 

進行制御困難高速度にしても、最初から「対処困難顕著高速度危険運転致死傷罪」を規定するべきだったのではないかと思いますが…

コメント

タイトルとURLをコピーしました