運転レベル向上委員会がまた情報の切り抜きによる印象操作をしてますが、
新設された18条3項で「追い越しの場合は除外」とあることから、同義務は追い越しの場合にはないと力説している。
第十八条
3 車両(特定小型原動機付自転車等を除く。)は、当該車両と同一の方向に進行している特定小型原動機付自転車等(歩道又は自転車道を通行しているものを除く。)の右側を通過する場合(当該特定小型原動機付自転車等を追い越す場合を除く。)において、当該車両と当該特定小型原動機付自転車等との間に十分な間隔がないときは、当該特定小型原動機付自転車等との間隔に応じた安全な速度で進行しなければならない。
運転レベル向上委員会は、なぜ「追い越しの場合は除外」と規定しているかを全く理解していない。
これは単純な理由でして、追い越しの場合には28条4項に規定があり、読めばわかるように18条3項と内容的にはほぼ変わらないからでして。
第二十八条
4 前三項の場合においては、追越しをしようとする車両(次条において「後車」という。)は、反対の方向又は後方からの交通及び前車又は路面電車の前方の交通にも十分に注意し、かつ、前車又は路面電車の速度及び進路並びに道路の状況に応じて、できる限り安全な速度と方法で進行しなければならない。
追い越しする場合において、十分な側方間隔がない「状況」で速度を落とさず通過したら、「できる限り安全な速度で進行しなければならない」に違反するのだから、実質的には18条3項と求めている内容は変わらないのよね。
18条3項に「追い越しの場合は除外」と書いてない場合に、側方間隔が不十分なのに時速40キロで追い越しするような危険追い越しがあったときに、18条3項の違反になるのか、28条4項の違反になるのかわからなくなる。
それを「追い越しの場合は28条4項」「追い抜きの場合は18条3項」と明確にするために18条3項から「追い越しの場合は除外」にしているのよ。
「当該車両と当該特定小型原動機付自転車等との間に十分な間隔がないとき(18条3項)」は28条4項でいう「前車の速度及び進路並びに道路の状況」ですよね。
「当該特定小型原動機付自転車等との間隔に応じた安全な速度で進行しなければならない(18条3項)」は、28条4項でいう「…状況に応じて、できる限り安全な速度で進行しなければならない」に当たる。
状況が同じ「側方通過」なのに「安全な速度」の解釈が異なるわけがないのだから、今回警察庁が示した指針は28条4項でも同様だし、
メディアにおいてそれを「追い越しの場合は除外なんです」と伝えることは実務と掛け離れてしまうのだから、メディアが追い越しか追い抜きかを明確にする必要もないのよね。
道路交通法は刑法なんだから、「どっちかの違反になるから検挙」というのは許されない。
罰則は両者同じ119条1項6号ですが、切符を切るときには18条3項の違反なのか、28条4項の違反なのか明らかにする必要があるのだから、切符を切る側に疑義が生じないように18条3項において「追い越しの場合は除外」だと明確にしてるのよね。

ちなみに同様に除外する規定は一時停止(43条)にも見られる。
第四十三条 車両等は、交通整理が行なわれていない交差点又はその手前の直近において、道路標識等により一時停止すべきことが指定されているときは、道路標識等による停止線の直前(道路標識等による停止線が設けられていない場合にあつては、交差点の直前)で一時停止しなければならない。この場合において、当該車両等は、第三十六条第二項の規定に該当する場合のほか、交差道路を通行する車両等の進行妨害をしてはならない。
43条後段では「36条2項の場合は除外」だとしてますが、36条2項は優先道路の進行妨害禁止義務。
要するに、一時停止標識がある場合に優先道路の進行妨害をしたとして、「第三十六条第二項の規定に該当する場合のほか」と入れてないと43条後段の違反になるか、36条2項の違反になるかわからなくなるから、「第三十六条第二項の規定に該当する場合のほか」として除外した。
「第36条第2項の規定に該当する場合のほか」というのは、交差道路が優先道路または幅員が明らかに広い道路である場合には、交差道路を通行する車両等の進行妨害をしてはならない義務は、この規定によって課されるのではなく、第36条第2項の規定によって課されるものであるという趣旨である。したがって、この場合の違反については、第36条第2項の違反のみが成立する。
道路交通法の一部を改正する法律(警察庁交通企画課)、月刊交通、1971年8月、東京法令出版
さらにいうと、運転レベル向上委員会は18条1項で自転車が「左側端寄り」、クルマが「左側寄り」と分けていることから、両者の進路が重ならず追い越しはあり得ないとする。
これも誤りなのよ。

18条1項は自転車とクルマの通行位置を分けていて「観念上の通行帯」などと表現されますが、それは机上の空論の話であって、リアルに道路に出ればわかるように両者は重なる。
そしてそもそも、現在の18条1項を新設(同規定は昭和39年改正で新設)した際の立法者、宮崎氏はこのように解説する。
もっとも、厳密に述べるならば、「道路の左側」は「道路の左側端」を含むので、「道路の左側端に寄って通行する」ことは、「道路の左側に寄って通行する」こととなる。したがって、当該道路を軽車両が通行していない場合、自動車及び原動機付自転車は、道路の左側端に寄って通行することも差し支えない(もっとも、自動車や原動機付自転車は、軽車両に比べて走行速度も速いので、あまり左側端に寄り過ぎると交通安全上適切とはいえない)。
そもそも「キープレフト」の原則は、道路の中央部分を追越しのために空けておくという考え方によるものであり、道路の幅員が不十分な場合には、自動車等は相対的に左側端に寄ることになるであろうし、幅員が十分であれば、左側端側にそれなりの余裕を持って通行することとなろう。また、現実に軽車両が通行しているときは、自動車等は左側端に寄り難く、相対的に道路の中央寄りの部分を通行することになろう。このように「道路の左側に寄って」とは、あくまでも相対的な概念であり、具体的な場所が道路のどの部分を指すかは、道路の幅員及び交通状況によりある程度幅があるのである。
宮崎清文、注解道路交通法、立花書房
これは裁判所においても同じ考え。
同条1項の「道路の左側に寄って」とは、軽車両の通行分を考慮し、軽車両が道路の左側端に寄って通行するために必要とされる部分を除いた部分の左側に寄ってという意味であり、「道路の左側端に寄って」とは、道路の路肩部分を除いた部分の左端に寄ってという意味である(宮崎注解)。このように自動車及び原動機付自転車と軽車両とで若干異なる通行区分をしたのは、速度その他通行の態様が著しく異なる両者がまったく同じ部分を通行すると、交通の安全と円滑が害われるおそれがあるためである。もっとも軽車両がまったく通行していない場合に自動車または原動機付自転車が道路の左側端まで寄って通行することまで禁止したものではないだろう(同旨、法総研・道交法87頁)。
ところで、キープレフトの原則の本来の趣旨は、通常走行の場合はできるだけ道路の左側端を通行させ、追い越しの場合は道路の中央寄りを通行させることにより種々の速度で通行する車両のうち、低速のものを道路の左側端寄りに、高速のものを道路の中央寄りに分ち、もって交通の安全と円滑を図ることにあるとされている(なお、法27条2項参照)。右のような趣旨ならひに我が国の道路および交通の現状にかんがみると、18条1項の規定をあまり厳格に解釈することは妥当ではなかろう。
判例タイムズ284号(昭和48年1月25日) 大阪高裁判事 青木暢茂
そもそもこの規定に罰則がない理由は、どこまでが「左側寄り」どこまでが「左側端寄り」と明確にできないことから、罰則で強制することが適当ではないとする。
第1項の規定の違反行為については、罰則が設けられていない。これは、この規定による通行区分は、道路一般についての車両の通行区分の基本的な原則を定めたものであり、また、道路の状況によっては、道路の左側端又は左側といってもそれらの部分がはっきりしない場合もあるので、罰則をもって強制することは必ずしも適当ではないと考えられるからである。(従前の通行区分の基本的原則を定めた旧第19条の規定についても、ほぼ同様の理由により、同じく罰則が設けられていなかった。)。
宮崎清文、注解道路交通法、立花書房、1966
緊急車両の優先(40条2項)でも「緊急自動車が接近してきたときは、車両は、道路の左側に寄つて」としてますが、左側端に寄ったら「左側寄り規定に違反」とは解されない。
つまり「左側寄り」には「左側端」も含むわけで、厳格に自転車とクルマの通行位置が分けられていないのはリアルに道路に出る人からわかる話。
つまり、追い越し自体は起きるのでして。
さらに運転レベル向上委員会は、「自転車にも新しく義務ができた」と力説してますが、これも理解力不足と言わざるを得ない。
「できる限り左側端に寄って(18条4項)」は、「左側端に寄って通行しなければならない。ただし、道路の状況その他の事情によりやむを得ないときは、この限りでない(18条1項)」と同じ意味なのだから、

「新しく義務を設けた」という理解より、「追い抜きされる場合に限定して18条1項に罰則を設けた」が正解で、警察庁もこのように述べている。
第213回国会 参議院 内閣委員会 第14号 令和6年5月16日
○酒井庸行君 いわゆる例外という部分で、これもそういう規定があるんでしょうけれども、これもある意味では大変危険な部分もあるのかなというふうに感じます。
またこれはそれぞれの皆さんからもいろんな形で質問はあるというふうに思いますけれども、次にもう一つ、私がちょっとうんっと思ったのは、今回のその法改正の中で、この十八条にあるんですけれども、当該の特定小型原動付自転車等はできる限り道路の左側端に寄って通行しなきゃならないと書いてあるんです。できる限りという表現が、よく、曖昧のような気がするんです。その辺をまたちょっと、御説明をしていただける時間、大臣に質問する時間がなくなっちゃうので短くお願いしたいと思いますけど、その辺をちょっとまずお伺いしたいと思います。○政府参考人(早川智之君) 自転車の側方を自動車が通過する場合のその義務に関する規定についての御質問でありますが、先ほどお答え申し上げたように、元々自転車は車道の左側端を走行しなければならないというような規定がございます。自動車が側方を通過する際は、自転車は元々車道の左側端、走行しておるんですが、可能であれば、可能な範囲で左側端に走行してくださいということで、本来、もう元々左側端を走行しているのであればそれで十分であるというような規定の趣旨でございます。
頻繁に国会議事録を引用する上に、うちを見ている運転レベル向上委員会がこの答弁を知らないことはあり得ない(知らないというならよほどの勉強不足)。
運転レベル向上委員会が解説するような、すでに「可能な範囲で左側端寄りを通行している自転車がさらに左側端に寄れ」という規定ではないのよね。
運転レベル向上委員会より引用
そもそも、18条3項が何のために新設されたか知らないようですが、以下が理由。
第213回国会 参議院 内閣委員会 第14号 令和6年5月16日
○塩村あやか君 ありがとうございます。
ということは、やっぱりその自転車を運転する側がしっかりといろいろな方向に注意をしておかなくてはいけないという形で、運転する人がちゃんと、自分は大丈夫なのかというのはやっぱりちゃんと自問自答しながら自転車に乗っていかなきゃいけないなというふうに思いました。ありがとうございます。
十八条、先ほど酒井先生の方からも質問あったと思うんですけれども、自動車などの車両は、特定小型原動機付自転車などの右側を通過する場合において、十分な間隔がないときは、当該特定小型原動機付自転車等の間隔に応じた安全な速度で進行しなければならないという規定を創設するということに今回なっております。
十分な間隔そして間隔に応じた安全な速度とは具体的にどのようなものを想定しているのか、分かりやすく教えてください。○政府参考人(早川智之君) お答えいたします。
歩道における自転車と歩行者の事故件数が増加傾向にある中、自転車の車道通行の原則の徹底を図るためには自転車利用者が安全に車道を通行できる環境を整備することが重要であると考えております。
御指摘の規定は、車道における自転車と、失礼しました、自動車と自転車の接触事故を防止するため、自動車が自転車の側方を通過する際のそれぞれの通行方法を整備する規定でございます。本規定に定める自動車と自転車との間隔や安全な速度につきましては、自動車と自転車との具体的な走行状況に加えまして、道路状況や交通状況などにより異なることから、具体的な数値は規定していないところでございます。
その上で、あえて申し上げれば、例えばでありますが、都市部の一般的な幹線道路においては、十分な間隔として一メートル程度が一つの目安となるものと考えているところでございます。また、このような十分な間隔を確保できない狭隘な道路におきましては、自転車の実勢速度というものが、いろいろありますが、二十キロメートル毎時程度であるということを踏まえますと、例えばこうした場合には、間隔に応じた安全な速度としては二十キロから三十キロ、これぐらいの速度というのが一つの目安になるのではないかと考えているところであります。
いずれにいたしましても、この規定の趣旨は、自転車の安全を確保しつつ、自動車と自転車の双方が円滑に車道上を通行することを確保することにありまして、自転車に危害を加えるような態様でなければ本規定の趣旨に反するものではないと考えているところであります。
なぜ18条3項を新設するに至ったかというと、歩道上での自転車事故が増えているのだから、「自転車利用者が安全に車道を通行できる環境を整備することが重要」という観点から、愛媛県条例を参考に作られた。
「自転車利用者が安全に車道を通行できる環境を整備することが重要」という観点で作られ、アンバランス解消のために18条4項を新設して自転車にも一定の制限をかけたけど、あくまでも立法趣旨は「自転車利用者が安全に車道を通行できる環境を整備することが重要」なんよ。
そして3項でクルマに罰則を設けたのに、18条1項に違反して真ん中を通行する自転車がいても罰則がないのは不合理だから、追い抜きされる場合に限定して18条1項に罰則を設けたのが4項。

運転レベル向上委員会は3項の意味を理解せず「追い越しの場合には除外」というが、3項と実質的に変わらない「追い越しの場合の規定」は28条4項にあるのだから、全くバカげている。
そもそもこの人がおかしな解釈を繰り返す理由は、立法経緯などを調べず、しかも解釈もきちんと調べないからおかしな話を繰り返すのよね。
そして側方間隔1mの判例だとして昭和43年広島高裁判決を挙げてますが、

判例から検討するのに、たった一つの判例から語るのは理解を阻害する。
なかなか興味深いのは、民事判例ですがこちら。

追い抜き時に1.2mの側方間隔を保ったのに、非接触事故が起きた。
これについて裁判所は、側方間隔はまあまあ十分だが減速すべきだったとする。
新設された18条3項は、「十分な間隔」に具体的数値を挙げておらず、この判例のケースでも違反になりうる。
要するに、本来の趣旨は2輪車の側方を通過する際には「安全側方間隔」+「減速」であり、事故防止の観点からは当然なのよね。
過去様々な判例を挙げてますが、本質的には違反かどうかよりも安全を重視するかどうかの話だし、この規定は「歩道における自転車と歩行者の事故件数が増加傾向にある中、自転車の車道通行の原則の徹底を図るためには自転車利用者が安全に車道を通行できる環境を整備することが重要」という観点で新設されたことをすっ飛ばせば理解できるわけがない。
しかしメディアやYouTuberは「煽る」ことばかりで、この規定の真意と正しい解釈をきちんと説明出来ていない。
あまりに馬鹿馬鹿しいから静観してましたが、情報の切り抜きと恣意的解釈で印象操作するか、そもそもなぜこの規定を作ったかを考えるかの差だし、
18条3項にしても、「新しく義務を設けた」という理解は不正確で、昭和の時代から業務上過失致死傷判例で示されてきた注意義務を、道路交通法上の罰則付き義務に昇格させたに過ぎない。
つまり、元々義務はあるのよね。
2011年頃からクロスバイクやロードバイクにはまった男子です。今乗っているのはLOOK765。
ひょんなことから訴訟を経験し(本人訴訟)、法律の勉強をする中で道路交通法にやたら詳しくなりました。なので自転車と関係がない道路交通法の解説もしています。なるべく判例や解説書などの見解を取り上げるようにしてます。
現在はちょっと体調不良につき、自転車はお休み中。本当は輪行が好きなのですが。ロードバイクのみならずツーリングバイクにも興味あり。


コメント
4月1日からの青切符適用とかで、色々とSNSでチャリがどうとか邪魔とか騒がれてますね。
その話題のツイートの中で、自転車追い越し時にイエローラインをカットすると違反というルールがバズっており、最近そのルールが認知されてきたみたいです。
今回そのカットしたら違反というルールが更に罰則強化されたと書いてあるツイートがいくつか見受けられたのですが、本当でしょうか?
自転車を追い越す際の黄色線カットが違反というのは本来元からあったルールだと思いますが、自転車ならOKと誤解していた人もたくさんいて、皆さん普通に黄色線をカットして抜いてたと思います。本来は違反でもパトカーですら守っておらず、実情としてそういう形になっていましたよね。
4月以降もこれまで通り、対向車がいなければラインカットして追い越しても警察もお咎めなし状態になるのかと思ってましたが、そこら辺は何か変わっているのでしょうか?
コメントありがとうございます。
具体的危険がなければ取り締まりしないと思いますよ。
具体的危険とは対向車リスクのことです。