どうでもいい話。
昨日、やたらとこの記事絡みでメールを頂いたのですが、
何名かは「誤字脱字」についてでした。
すみません、ありがとうございます。
誤字脱字はもはやお家芸の領域でして、びっくりすることに裁判で提出した訴状にも誤字脱字がありました笑。
訴状にはこのように書いた模様。
「本件は◯✕に該当しないせず、違法であるから取り消されるべきである。」
裁判官も相手方もノーツッコミでしたが。。。
ところで
記事について、しかもアップしたのは結構前。
今さらなんなんだ?という疑問しかないけど、Twitterで取り上げた方がいたことと、YouTuberが同種内容を取り上げたことが理由だと聞きました。
同じ内容の質問が多く、めんどくさいのでこちらからまとめて回答にします。
なお、誤字脱字系のご指摘ありがとうございました。
もはやうちの伝統芸能だと自負しています。
「又は」
道路交通法38条はこのようになっています。
第三十八条 車両等は、横断歩道又は自転車横断帯(以下この条において「横断歩道等」という。)に接近する場合には、当該横断歩道等を通過する際に当該横断歩道等によりその進路の前方を横断しようとする歩行者又は自転車(以下この条において「歩行者等」という。)がないことが明らかな場合を除き、当該横断歩道等の直前(道路標識等による停止線が設けられているときは、その停止線の直前。以下この項において同じ。)で停止することができるような速度で進行しなければならない。この場合において、横断歩道等によりその進路の前方を横断し、又は横断しようとする歩行者等があるときは、当該横断歩道等の直前で一時停止し、かつ、その通行を妨げないようにしなければならない。
「横断歩道又は自転車横断帯」を横断しようとする「歩行者又は自転車」なんだから、横断歩道を横断しようとする自転車も含まれるのは当然だろ!というご意見。
このように「又は」をダブルで使う場合(以下、「ダブル又は」と呼ぶ)、二種類の解釈が成り立ちます。
どちらの解釈を取るのかは条文ごとに違います。
例えば刑事訴訟法62条。
「召喚、勾引又は勾留」は「召喚状、勾引状又は勾留状を発して」とあります。
解釈①に立つと、召喚状で勾留することが可能になりますが、それが不合理なことは明らかかと。
結局のところ条文ごとに「ダブル又は」の捉え方が違うため、法律なら常に解釈①だとか②だとか、そのような扱いではありません。
38条(昭和35年~42年は71条3号)の立法趣旨が何なのか?というと、歩行者が横断する際には「付近に横断歩道がある場合」、横断歩道を使う義務を定めた(12条1項)。
横断歩道を使う義務を定めた以上、飴と鞭じゃないけど横断歩道で歩行者が優先じゃないと誰も使わないわけ。
使えと規定した以上、使った歩行者は守りますよというのが立法趣旨。
自転車横断帯は昭和53年道路交通法改正により誕生しましたが、発想は同じ。
自転車横断帯を使う義務(63条の6、7)を定めた以上、自転車横断帯の優先権は自転車ですよと38条に追加しました。
こういう立法趣旨については、古い解説書や警察学論集などで警察庁交通企画課が説明しています。
昭和53年道路交通法改正時の資料でも、自転車横断帯の新設、使う義務、優先については説明されてますし、道路交通法ハンドブック(警察庁交通企画課)や判例も同様になってます。
道路交通法38条1項は、「横断歩道又は自転車横断帯(以下・・・「横断歩道等」という)に接近する場合には当該横断歩道等を通過する際に当該横断歩道等によりその進路の前方を横断しようとする歩行者又は自転車(以下・・・「歩行者等」という。)がないことが明らかな場合を除き、当該横断歩道等の直前で停止することができるような速度で進行しなければならない。この場合において、横断歩道等によりその進路の前方を横断し、又は横断しようとする歩行者等があるときは、当該横断歩道等の直前で一時停止し、かつ、その通行を妨げないようにしなければならない。」と規定しているが、これは、自転車については、同法63条の6において、自転車の自転車横断帯による横断義務を定めていることに照応するものであって、自転車が、自転車横断帯の設けられていない交差点の横断歩道上を走行して横断する場合には当てはまらない
大阪地裁 平成25年6月27日
「道路交通法38条1項は、自転車の自転車横断帯による横断義務を定めていることに照応するものであって」とある通りです。
道路交通法12条1項は横断歩道がある場所での横断歩道による歩行者の横断を、また、同法63条の6は自転車横断帯がある場所での自転車横断帯による自転車の横断義務をそれぞれ定めているので、横断者が右の義務を守り、かつ青色信号に従って横断する限り、接近してくる車両に対し優先権が認められることになるのであるが(道路交通法38条1項)、本件のように附近に自転車横断帯がない場所で自転車に乗ったまま道路横断のために横断歩道を進行することについては、これを容認又は禁止する明文の規定は置かれていないのであるから、本件被害者としては横断歩道を横断するにあたっては自転車から降りてこれを押して歩いて渡るのでない限り、接近する車両に対し道交法上当然に優先権を主張できる立場にはないわけであり
昭和56年6月10日 東京高裁
警察や裁判所は実務上、解釈②の立場なのでそれに従うのが筋かと。
他の判例はこちらをどうぞ。
「歩行者等」に自転車が含まれるのは明らか
「歩行者等」に自転車が含まれるのは条文上明らかだろ!という内容も頂いています。
これ、単に「歩行者又は自転車」を歩行者等と略しただけなので、含まれるかどうかという観点に立つ時点で的外れなような。
略称使わずに書くとこうですよ?
「歩行者等に自転車が含まれるから」という観点で話す人は、単なる略称であることに気がつかないのでしょうか。
略にしたら意味が変わるわけもありません。
略称を使わない場合、驚くほどくどい文章になるかと。
平成20年施行令改正
平成20年施行令改正により、人の形をした信号の意味に自転車が規定されました。
これにより38条の意味が変更されたという主張ですね。
施行令改正は単に従うべき信号機を変えただけだと警察庁が説明しています。
イ 横断歩道を進行する普通自転車が従うべき信号灯火を定めることについて
この項目に対しては、
○ 自転車に乗ったまま横断歩道を通行することはできないはずであり、また、自転車で横断歩道を通行することは大変危険。といった御意見がありました。
今回の改正は、道路交通法の一部を改正する法律(平成19年法律第90号。以下「改正法」といいます。)により、例外的に歩道を通行することができる普通自転車の範囲を明確化したことに伴い、自転車横断帯が設置されていない交差点において、これらの普通自転車が横断歩道を進行して道路を横断することが見込まれることを踏まえ、横断歩道を通行する普通自転車が従うべき信号を車両用でなく歩行者用灯器とするものです。
道路交通法においては、普通自転車が横断歩道を通行することを禁止する規定はありませんが、横断歩道は歩行者の横断のための場所であることから、交通の方法に関する教則(昭和53年国家公安委員会告示第3号)において、横断歩道の通行について、歩行者の通行を妨げてはならない旨を周知し、歩行者の安全確保を図ることとしています。
自転車が横断する際に横断歩道を使う義務はなく、施行令改正は38条の解釈に影響しません。
このあたりは「よくわかる交通事故・事件捜査 : 過失認定と実況見分(立原書房、2012)」においても同趣旨の説明があり、裁判所も同様かと。
道路交通法上、自転車は軽車両に該当し(同条2条1項11号)、車両として扱われており(同項8号)、交差点における他の車両等(同法36条)との関係においても、車両に関する規定の適用により、四輪車や単車と同様の規制に服する(自転車の交通方法の特例が定められているものは除く。)。交差点を左折する四輪車にもその進行にあたっては前方を確認すべき注意義務があることは当然であるが、歩行者用信号規制対象自転車であっても、横断歩道では歩行者が横断歩道により道路を横断する場合のような優先的地位(同法38条1項)は与えられておらず、また、他の車両との関係においてはなお安全配慮義務(同法70条)を負うと解されるから、安全確認や運転操作に過失がある場合は、自転車の運転者は、相当の責任を負わなければならない。
神戸地裁 令和元年9月12日
大阪高裁 平成30年2月16日についても、人の形をした信号に従って横断した自転車の判例です。
なお、よくわかる交通事故・事件捜査 : 過失認定と実況見分(立原書房、2012)では以下のように説明されています。
元々38条は横断歩道を横断する自転車を対象にしていないが、平成20年施行令改正が38条の解釈に影響するかを検討し、影響しないと結論付けた上でどのような根拠で過失運転致死傷における注意義務違反を設定するかについて。
しかし前記改定によっても、自転車に乗って横断歩道を通行することができるのは例外的な場合であり、自転車は車道を通行するのが原則であるので、道路交通法38条が、横断歩道における自転車自体を保護する規定ではないと考えざるを得ない。
それでは、横断歩道を横断する自転車との事故についても、通常、横断歩道上の歩行者との事故と同じように「横断歩道による横断自転車の有無及びその安全確認を怠った過失」として事件が処理されているのはどのような根拠によるのであろうか。
この点については、東京高等裁判所第8刑事部平成22年5月25日判決が参考になる。
よくわかる交通事故・事件捜査 : 過失認定と実況見分(立原書房、2012)
東京高裁判決平成22年5月25日の紹介の前に、38条が横断歩道を横断する自転車に適用できるかを説明しています。
東京高裁も同趣旨を是認してますし。
判例
こちらで挙げた判例についてですが、あくまでも自転車の過失として評価された部分や、私から見て重要と考える箇所を抜粋しています。
自転車のサイトですから、自転車の過失をメインに考えます。
これについて、抜粋してない点について質問を頂くのですが、知りたいなら自分で調べて全文読んでください。
何のために裁判所名や判決年月日を書いているのかというと、第三者が疑問に感じたときに検証できるようにしているわけでしょ。
こちらでメール頂いた方については、メール前半から「ちゃんと読みなよ感」が凄まじく。
こういう人は全文読んで、咀嚼して整理してから語るべきであって、断片的な情報だと想像だけでアレコレ語りそうな雰囲気しか感じず。
全文読んで咀嚼することと、一部を見てわかった気になること。
どっちが有意義なのかは言うまでもなく。
疑問があるならまずは全文読んでからどうぞ。
ちょっと前にYouTuberを語る人が、判決の詳細を教えてくれとメールしてきました。
どんなYouTuberなのかは知らないけど、自分で調べなよと突き放しておきました。
認めた判例
「横断歩道を横断しようとする自転車について38条の適用があるとした判例」もあるのだから、偏ってるだろ!というご意見も。
一応、中立な立場なのでどちらも紹介したことがあるのですが。
令和になってからも、横断歩道を横断した自転車が事故に遭った判例にて、車のドライバーに「38条1項の義務を怠った過失」としている判例はあります。
ていうか、昭和の時代からあります。
例。
この判例は横断歩道(自転車横断帯なし)を横断した自転車と左折車が衝突した事故です(双方青信号)。
広島地裁は横断歩道を横断する自転車も38条の対象だとしましたが、広島高裁は否定。
本件横断歩道上を自転車に乗つたまま通行していたこと(道路交通法は自転車に乗つたまま横断歩道を横断することを予想していないが、同法25条の2の1項などに抵触しない限り、直接的にこれを禁止する規定はない。もつとも、同法38条1項所定の「横断しようとする歩行者」には当らない。)
広島高裁 昭和59年6月29日
一審はこうです。
以上の事実からすると、被告は、本件交差点を左折し、本件横断歩道を通過しようとするに当つては、当時明らかに横断歩行者のいない状況でもなかつたのであるから、自動車運転者として、その横断歩道直前で停止できる程度に十分徐行して横断歩行者(自転車に乗つている場合も、これに準じて含む、以下同じ)の有無を確認し、もし横断歩行者のある場合は、本件横断歩道の直前で一時停止して横断者の通行を妨げないようにすべき注意義務があるのに、これを怠り、時速約15キロメートルで、しかも、右方の電話工事現場に気をとられ、左方の横断者の有無の確認をしないまま、被害者が青信号に従いすでに本件横断歩道に進入し横断しようとしているのにこれに気づかず、漫然そのまま進行したため、本件衝突に至つたものであり、この点その過失は明らかなものといえる。したがつて、被告は民法709条により本件賠償責任を負うべきものといえる。
一審は自転車に乗った状態も「横断歩行者」としてますが、二審は否定しています。
ただし、一審で認定した自転車の過失については、二審は否定しました。
地裁判決の中には、横断歩道を横断する自転車も38条の適用があるとしたものなんて探せば出てきます。
しかし二審は否定してますし、何より最高裁も自転車横断帯を横断する自転車が対象としているのでね。
判例ならなんでもかんでも価値があるという発想はないので、価値がないと私が考える判例をわざわざ取り上げるまでもないかと。
判例の中には、正直何を言ってるのかわからないものはあります。
例えばこちら。
また、車両は、横断歩道に接近する場合には、当該横断歩道を通過する際に当該横断歩道によりその進路の前方を横断しようとする歩行者又は自転車がないことが明らかな場合を除き、当該横断歩道の直前で停止することができるような速度で進行しなければならず、この場合において、横断歩道によりその進路の前方を横断し、又は横断しようとする歩行者又は自転車があるときは、当該横断歩道の直前で一時停止し、かつ、その通行を妨げないようにしなければならない(同法38条1項)。そして、同条2項との対比において、進行方向の信号の色が青色であることは右注意義務に影響を及ぼさないことは明らかである。
神戸地裁 平成9年10月28日
この判例によると、車道が青、横断歩道が赤でも38条の義務に影響を及ぼさないという大胆な説示をしています。
車道が青信号でも横断歩道に接近するときには、38条1項前段の減速義務を果たさないといけなくなりますが、馬鹿馬鹿しいのは言うまでもなく。
これも、なぜ38条1項に信号機の有無が書いてないのか理由については歴史からみれば明らかなんですね。
判例にも価値があるものとないものはあるし、裁判官も人間なので間違いはある。
この判例なんて、一審も二審も法律解釈(事実認定)を間違えてます。
日本の司法は事実上二審制なので、きちんと主張しないとどんな不利益食らうかわかりません。
間違えている判例なんて普通にあるので。
なので判決文全体を見て、法律と照らし合わせて意味があるのかないのかは考えないといけない。
そもそも民事は道路交通法違反を争っているわけではないし。
こんな判例すらあるけど、こういうのを「歴史的誤判」と断じる前になんでこういう判決になるのか理由を確認しないと。
せっかく書籍には過失100%になった理由が書いてあるのに、意味を理解できないととんちんかんな批判にしかならない。
疑問
Twitterで取り上げた方がいたことと、YouTuberが同種内容を取り上げたことがメールしてきた理由のようですが、YouTuberのほう。
ちょっと不自然な説明としか思えず。
弁護士といっても専門分野外ならわからないし、専門分野外なら即座に判例を調べて確認したり、専門書で確認してから回答するのが当たり前なような。
私が訴訟で争った内容も、専門外の弁護士さんに聞いてもさっぱりわからないわけ。
弁護士さんなら道路交通法に詳しいわけじゃないし。
YouTuberの方、なんか変な言い分だなぁと思ってしまいましたが、そこはどうでもいいか。
とりあえず言えるのは、警察も裁判所も、横断歩道を横断しようとする自転車に38条による優先権はないとするのが一般的なので、一般的な見解を採用しています。
そりゃ、探せば38条の解釈が違う判例なんていくらでもあります。
「裁判所が書いたから」みたいな無能な理由では考えてないし、「裁判所が書いたから」という理由だけで信じる無能戦士ではないので。
けどあえていうならば、ド素人同士が感情をぶつけたところで建設的な議論になる余地がありませんし、私が挙げた判例の解釈を否定するものを出すのが筋かと。
「弁護士が言ってたから」というのは全く重要視していません。
他にも数件質問を頂いたのですが、別記事にします。
とりあえず言えるのは、38条だけを読んでもわからない規定だし、理解できないときは立法経緯や趣旨から検討しないとわからないと思う。
それこそ横断歩道が赤信号でも38条の適用があるか?についても、昭和24年道路交通取締法時代から見ていかないと理解できないと思われ。
2011年頃からクロスバイクやロードバイクにはまった男子です。今乗っているのはLOOK765。
ひょんなことから訴訟を経験し(本人訴訟)、法律の勉強をする中で道路交通法にやたら詳しくなりました。なので自転車と関係がない道路交通法の解説もしています。なるべく判例や解説書などの見解を取り上げるようにしてます。
現在はちょっと体調不良につき、自転車はお休み中。本当は輪行が好きなのですが。ロードバイクのみならずツーリングバイクにも興味あり。
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