先日、電動キックボード(実証実験、小型特殊自動車)で初の死亡事故が起きたわけですが、
ヘルメットに注目が集まるのはある意味必然。
とはいえ、ちょっと違和感がありまして。
実証実験の電動キックボード
そもそも理解していない人も多いのですが、実証実験の電動キックボードは、以下の条件で行われています。
・MAX15キロまでしか出ない電動キックボード
・小型特殊自動車とみなす特例
・あくまでも「自動車」なのでヘルメットは任意
・使うには免許が必須
なんでこんな実験をしていたかというと、ヘルメット無しの実験をしていたからです。
既存の電動キックボードは道路交通法では「原付」。
原付の区分のままヘルメット不要の実験をすることができないため、特定レンタル事業者のMAX15キロまでしか出ない電動キックボードを「小型特殊自動車」とみなす特例を設け、クルマだからヘルメット着用義務が無いというところを利用して実験しています。
ヘルメット無しについては賛否両論あるのはわかります。
ただまあ、冒頭の事故から「ヘルメット無しは良くない!」と導くことには強い違和感がありまして。
現場と思わしき場所はこちら。
月島署によると、事故があったのは25日午後10時45分ごろ。男性が中央区勝どき6丁目のマンション駐車場内で電動キックボードを運転中、方向転換して走り出そうとした際に車止めに衝突。前から倒れて頭を強く打ち、搬送先の病院で死亡が確認された。飲酒運転の可能性があるという。
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飲酒運転が疑われるとありますが、そんなに見通しが悪い場所には見えない。
ここで「ヘルメット問題」を出すと、「飲酒運転でもヘルメット着けていたら助かった」みたいになりません?
飲酒運転するな!が先に来るべきだと思うんだけどなあ。
ちなみにどうでもいい話をすると、現場は私有地なので道路交通法上の道路には当たらず、この敷地内限定で言うなら飲酒運転が違反にはならないと思われます。
もちろん、敷地内を乗り回していたとは考えられないので、公道を走行してきたか、公道に出る予定だったかは不明。
ヘルメット問題についてですが、私の意見としては「検討する材料が足りない」。
事故データも全て開示されているワケではないので、なんとも言いがたい。
ただし、「ヘルメット着用禁止」ではないので、自主的にヘルメットを着用することは何ら問題ありません。
強いて言うなら、お隣韓国では「ヘルメット不要」で開幕した前日に「ヘルメット着用義務」の法案が可決。
その結果、ヘルメット不要は半年間限定でした。
日本では実証実験をしてデータ収集してから改正道路交通法に繋げたワケですが、諸外国の状況も参考にしながら「特定小型原付」という新しい区分を作りました(令和4年9月時点では未施行)。
特定小型原付の詳しい内容はこちらをどうぞ。
個人的には、ロードバイク乗りがヘルメットを被るように、電動キックボードも任意でも問題ないような気がしてます。
ロード乗りがヘルメットを被るのは、自己防衛。
車に轢かれてヘルメットをしていたら助かるとは到底思えませんが、単独落車など不注意で転倒することを100%回避する方法はありませんし。
そもそも、電動キックボードはどのような事故が起きていて、どのような違反行為が頻発しているのかデータも全て開示されているワケではない。
一般論として、電動キックボードが不安定で前転リスクがあるのはよくわかるけど。
警察庁のデータによると
一応、警察庁が集計した電動キックボードの違反や事故のデータがあります。
https://www.npa.go.jp/bureau/traffic/council/personal23.PDF
この場合、実証実験の電動キックボードと個人所有の電動キックボード(原付扱い)を分けていないデータになります。
まずは違反件数から。
令和3年9月~令和4年3月までの半年間のデータです。
ここで言う「通行区分」というのは、17条に関するものなので具体的にいうと「逆走」「歩道通行」「路側帯通行」になります。
通行区分違反が最も多い。
「整備不良」は、ミラーやウインカー、ナンバープレートなど保安装備を付けてないものを指すと思われますが、実証実験の電動キックボードはきちんとついているので、個人所有の電動キックボードになるかと。
ここで注意点がありますが、右図は「指導警告件数」となっています。
整備不良や無免許、通行区分違反がなぜ「指導警告」止まりなんだ!とブチギレそうです笑。
重罪なのに。
指導警告止まりなのには理由がありました。
個人所有の電動キックボードについては、モーター出力によって「原付1種扱い」と「原付2種扱い」になるものがあり、取り締まりする現場の警察官がモーター出力を見極める力があるはずもない。
原付1種と2種では免許すら違うし、違反切符を切るには「原付1種なのか2種なのか?」が確定しないと切れないという問題がありました。
そのため、指導警告止まりにしかならないという大問題がありました。
しかし警視庁は市販されている電動キックボードの出力をデータベース化したらしく、現場の警察官は本部に問い合わせして確定できるシステムに改めました。
大阪府警もそのようなシステムがあるっぽいです。
なので指導警告止まりになったのは、ある意味では警察官に同情します。
明らかに違反だけど、対象の電動キックボードが原付1種なのか2種なのかわからないから切符を切れないという大問題があり、「無免許だけど気をつけて!」という謎指導をせざるを得なかったワケですから…
違反件数として目立つのは、やはり通行区分違反。
警視庁管内(東京都)だけの参考資料もありますが、やはり通行区分違反がメインです。
つまりは歩道通行や逆走。
事故件数は令和3年中、東京都だけで18件。
全国の違反件数の推移はこちら。
着実に伸びてます笑。
まあ、今まで取り締まりできず指導警告だったものを取り締まり可能にしたり、利用者が増えたら違反も増加するのは当たり前。
事故詳細は不明ですが、当事者別。
報道内容でみた場合、いくつかヒットします。
まずは無免許&信号無視。
新宿区内の都道交差点で、無免許の飲食店従業員女性(23)が信号無視し、タクシーと衝突、乗客に軽傷を負わせ、女性も手を骨折した。警視庁は8月、自動車運転処罰法違反(無免許危険運転致傷)の疑いで女性を書類送検した。女性は「免許が必要なのは知っていた」と話したという。
密避けるはずが事故急増…違反の電動キックボード、都心で横行 頭蓋骨骨折も 警視庁注意喚起:東京新聞 TOKYO Webコロナ禍でも密を避けられる乗り物として人気の電動キックボードが絡む交通事故が、東京都内で今年、約40件起きていることが、警視庁への取材...
歩道通行(通行区分違反)とひき逃げ。
大阪市中央区の繁華街・ミナミで5月、歩道を電動キックボードで走行中に重傷ひき逃げ事故を起こしたとして、大阪府警は4日までに住所不定、無職の容疑者(30)を自動車運転処罰法違反(過失傷害)と道交法違反(ひき逃げ)の疑いで逮捕した。
電動キックボードで重傷事故、ひき逃げ疑いで男逮捕 大阪 - 日本経済新聞大阪市中央区の繁華街・ミナミで5月、歩道を電動キックボードで走行中に重傷ひき逃げ事故を起こしたとして、大阪府警は4日までに住所不定、無職の山名優希容疑者(30)を自動車運転処罰法違反(過失傷害)と道交法違反(ひき逃げ)の疑いで逮捕した。捜査...
事故の概略については、実証実験の電動キックボード(MAX15キロ、要免許)のほうはまとめがあります。
以下は「実証実験限定データ」。
https://www.mlit.go.jp/common/001469846.pdf
2、逆走してきた自転車から接触(怪我なし)
3、停車車両へ接触(怪我なし、軽微物損あり)
4、自損転倒(打撲、捻挫)
5、後方からきた自転車から接触(怪我なし)
6、停車車両へ追突(怪我なし、軽微物損あり)
7、自転車へ追突(先方捻挫)
8、停車車両へ追突(怪我なし、軽微物損あり)
9、自損転倒(打撲)
10、自損転倒(擦り傷)
11、不注意運転タクシーから接触(打撲、物損なし)
電動キックボードのほうに過失があると思わしき事故にはマーカーをつけてみました。
基本的には前方不注視による接触や、何らかの操作ミスによる自損事故なのかなと思いますが、何か語れるほどの件数でもないのでなんとも言いがたい。
合計(4月~10月の7ヶ月間) | |
乗車人数 | 85869人 |
乗車時間 | 73546時間 |
走行距離 | 539041km |
事故件数 | 11件 |
違反件数 | 80件 |
違反件数については、取り締まり漏れのほうが多いのは予想できるので、実態を表すモノではありません。
話を戻しますと
初の死亡事故からヘルメット着用問題に発展するのはわからないでもないのですが、報道を見る限り飲酒運転と前方不注視が疑われる事案。
「飲んだら乗るな!」の前に「ヘルメット義務化」の議論に行くのはちょっと理解しがたい。
自転車だって、酒飲んで乗れば転倒して死にますよ。
それは「なんで酒飲んで自転車乗るんだ!」が問題なのであって、「酒飲んでいたらヘルメット被れよ!」や「酒飲んでいてもヘルメットさえあれば…」ではないはず。
個人的には、ヘルメットを任意にすることで自転車用ヘルメットを使えるようになるわけで、被るか被らないかは自己責任の範疇に思えるのですが…
自転車事故で死ぬ人もたくさんいて、それでもヘルメットは任意(令和4年改正道路交通法により、全年齢に対し努力義務が出来ました)。
ヘルメット着用義務化については、自転車とのバランスを取れば無理があるようにも思えます。
どちらにせよ、今後特定小型原付が正式にスタートしてからどうなるかは未知数ですし、韓国みたいに「やっぱりヘルメット義務!」となる可能性もあるし。
韓国の状況はこんな感じ。
当初 | 改正後 | |
免許 | 不要 | 必須 |
年齢 | 13歳以上 | 免許 |
速度 | 時速25キロ以下 | 時速25キロ以下 |
ヘルメット | 任意 | 義務 |
日本は同じ轍を踏まないように実証実験をしていたのではないか?と思いますが、半年で真逆に変わった韓国の事例をみると「特定小型原付(免許不要、16歳以上、ヘルメット任意)」が正式にスタートしてからどうなるか次第なのかもしれません。
言い方は悪いけど、どんだけバカが違反しまくるか次第でその後に影響します。
特定小型原付が施行され、免許不要になり違反者急増なら、民度が低いとしか。
まあ、私は絶対に乗らないんですけどね笑。
データ詳細についても、国がもうちょい開示したり説明すればいいのに。
2011年頃からクロスバイクやロードバイクにはまった男子です。今乗っているのはLOOK765。
ひょんなことから訴訟を経験し(本人訴訟)、法律の勉強をする中で道路交通法にやたら詳しくなりました。なので自転車と関係がない道路交通法の解説もしています。なるべく判例や解説書などの見解を取り上げるようにしてます。
現在はちょっと体調不良につき、自転車はお休み中。本当は輪行が好きなのですが。ロードバイクのみならずツーリングバイクにも興味あり。
コメント
原付免許で原付二種以上運転してた場合出力確定しなくちゃいけないのは分かるのですが、多分ほとんどが原付免許すら持ってない無免なわけで、それを区分を理由に見逃すのは、ちょっと考えさせられますね
そもそも類似品だらけの電動モビリティの世界でデータベースだけで把握できるんですかね?
ちょっと外装変えただけでデーターにない見逃します!ってなったり
あとナンバー無しだけなら道交法反則金の範疇でしょうが、それに付随して自賠責シールがないのなら自賠責法違反になり反則金では済まないわけで
こちらは既存の車両でもすぐ加入して入ったことを報告しろっていう指導警告だけで見逃してもらえることがあるそうですが
いずれにせよ赤切符手続きが面倒なだけではという気がします
反則金制度がいちいち刑事手続きしてたらパンクするから始まったので、ある意味警察の対応はあってるのかな?
コメントありがとうございます。
違反事実を確定させないまま検挙すると誤認検挙の問題があるから及び腰だったのだと思いますが、某県警の警察官は「電動キックボードは取り締まりするな」みたいな指示が出ていると言ってました笑。
取り締まりする側にも問題があるのは明らかですが、警視庁はだいぶ力を入れているように感じます。
とはいえ、まだまだ不十分なんですが。