こちらで取り上げた路側帯の駐停車ルールが誤りではないか?と指摘を受けたのですが、

えーと、これ間違いやすいけどあってます。
路側帯が0.75m以下 | 進入禁止の路側帯 | 路側帯が0.75mより広い場合 |
車道の左側端(47条1/2項) | 車道の左側端(47条1/2項) | 路側帯に進入し、左側に0.75mの余地を取る(47条3項) |
参考までに北海道警の資料を挙げておきます。
路側帯の幅が0.75mを超える場合は、その路側帯に入り、左側に0.75mの余地をとって駐車しなければなりません。
路側帯の幅が0.75m以下の場合は、路側帯を避け、車道の左側端に沿って駐車しなければなりません。
https://www.police.pref.hokkaido.lg.jp/info/koutuu/chukin_jogai/reiji.pdf
さて、47条をどう読み解くか。
昭和46年以前は路側帯という概念がありませんので、47条は1項と2項だけでした(より正確には47条と48条に分かれていた)。
第四十七条 車両は、人の乗降又は貨物の積卸しのため停車するときは、できる限り道路の左側端に沿い、かつ、他の交通の妨害とならないようにしなければならない。
2 車両は、駐車するときは、道路の左側端に沿い、かつ、他の交通の妨害とならないようにしなければならない。
※道路とは「歩道等(歩道又は路側帯)と車道の区別があるときは車道」を意味する(17条4項カッコ書き)
昭和46年改正で路側帯が新設された(注、それ以前から車道外側線は存在したが、歩道がない場合の車道外側線の外側については道路交通法上明確な概念がなかった)ことにより47条3項を新設した。
第四十七条
3 車両は、車道の左側端に接して路側帯(当該路側帯における停車及び駐車を禁止することを表示する道路標示によつて区画されたもの及び政令で定めるものを除く。)が設けられている場所において、停車し、又は駐車するときは、前二項の規定にかかわらず、政令で定めるところにより、当該路側帯に入り、かつ、他の交通の妨害とならないようにしなければならない。
「前二項の規定にかかわらず」としていることからも、3項は1/2項の例外規定だと読み取れる。
そして3項の適用については以下が除外されています。
②政令で定めるもの
では47条3項でいう「政令で定めるもの」とは何か?
第十四条の六 法第四十七条第三項の政令で定めるものは、歩行者の通行の用に供する路側帯で、幅員が〇・七五メートル以下のものとする。
0.75m以下の路側帯を「法47条3項の政令で定めるもの」とし、47条3項の除外にしている。
従って路側帯が0.75m以下の場合には47条3項の適用がなく、駐停車は47条1/2項に従うのだから、「車道の左側端」ですよね。
では路側帯が0.75mより広い場合には、「47条1/2項にかかわらず」47条3項の適用がある。
47条3項を再確認。
第四十七条
3 車両は、車道の左側端に接して路側帯(当該路側帯における停車及び駐車を禁止することを表示する道路標示によつて区画されたもの及び政令で定めるものを除く。)が設けられている場所において、停車し、又は駐車するときは、前二項の規定にかかわらず、政令で定めるところにより、当該路側帯に入り、かつ、他の交通の妨害とならないようにしなければならない。
「政令で定めるところにより」路側帯に入ることを求めてますが、令14条の6第2項にて「路側帯に入つて停車し、又は駐車するときは」として駐停車方法を規定している。
第十四条の六
2 車両は、路側帯に入つて停車し、又は駐車するときは、次の各号に掲げる区分に従い、それぞれ当該各号に定める方法によらなければならない。
一 歩行者の通行の用に供する路側帯に入つて停車し、又は駐車する場合 当該路側帯を区画している道路標示と平行になり、かつ、当該車両の左側に歩行者の通行の用に供するため〇・七五メートルの余地をとること。この場合において、当該路側帯に当該車両の全部が入つた場合においてもその左側に〇・七五メートルをこえる余地をとることができるときは、当該道路標示に沿うこと。
路側帯に入って駐停車するときは、左側に0.75mの余地を取るように指示している。
で。
以前これについて昭和46年改正時に警察庁が立法趣旨を解説したものを示しましたが、

路側帯は0.75m以上としながらも0.5mまで縮小可能としている(令1条の2第2項)。
第一条の二
2 法第四条第一項の規定により公安委員会が路側帯を設けるときは、その幅員を〇・七五メートル以上とするものとする。ただし、道路又は交通の状況によりやむを得ないときは、これを〇・五メートル以上〇・七五メートル未満とすることができる。
つまりこういうことになる。
車両が駐車し、または停車するときにその中に入ってはならない路側帯として政令で定めるものは、歩行者の通行の用に供する路側帯でその幅員を0.75メートル以下のものとする予定である。車両がこの程度の狭い路側帯に入って停車または駐車することは、常に歩行者の通行の妨害になるおそれがあるといえよう。路側帯の幅員については、第4条第1項の規定に基づく政令で、路側帯を設けるときにはその幅員を0.75メートル以上(やむを得ないときは、0.5メートル以上)とすべきことが規定される予定であるから、幅員が0.5メートル未満の路側帯は、存在しないたてまえとなり、路側帯が設けられている場所において車両が路側帯に入らないで停車し、または駐車する場合には、必ずその車両の左側に0.5メートル以上の余地があることになる。
「道路交通法の一部を改正する法律」、警察庁交通企画課、月刊交通、1971年8月、東京法令出版
つまり、駐停車ルールについて「歩行者の通行余地」として保証したのは0.5mですよね。
0.75m以下の路側帯の場合には47条3項の適用がないとし、47条1項2項に従うのだから。
0.5mしか保証してないのに、「車椅子を考慮した」とか「歩行者の安全ガー!」と言われても、そりゃ違うだろと。
現在の国土交通省が発表している「占有幅」によると、こう。
歩行者 | 車椅子 | |
幅 | 0.5m | 0.7m |
占有幅 | 0.75m | 1.0m |
そもそもこの「占有幅」の概念はいつからあるのか疑問があるのですが、昭和35年時点で歩行者の幅を「0.75m」としていまして。
歩道の巾員
第3項は歩道を設ける場合の最小巾員の規定である。
本表における歩道の巾員の数値のうち、左側は通常の場合用いる一般巾員であり右側は本文にあるとおり特別な場合に用いる特別巾員である。左側の一般巾員で路上施設を設けない場合の最小は3.25mであるが、これは人が3人同時に並んで歩ける巾という考えで1人の巾0.75mを3倍したものである。高野務、「道路構造令解説」、日本道路協会、1960(昭和35年)、64頁
あくまでも歩行者1人の占有幅を0.75mとみていたのだと思われる。
結局のところ、0.75m開けるルールは「車椅子を考慮しなかった結果」と見るのが自然な上、法が保証したのは「最低0.5m」でしかないのだから、このルールは建前的な意味での妥協策に見えるのよ。
路側帯を0.5mまで縮小可能にした時点で妥協の結果なんだと理解できる。
ちなみに「できる限り」の意味はこちら。
停車の説明
なお、「できる限り」としたのは、本来は左側端にぴったり寄るのが望ましいが、道路工事その他障害物のため左側端に寄ることが不可能な場合を考慮したからである。
宮崎清文、条解道路交通法、立花書房、1961(昭和36年)
駐車の説明
本項においては、停車の場合と異なり、「できる限り」という言葉が用いられていない。したがって、車両は、駐車しようとするときには、かならず道路の左側端に寄らなければならぬことになる
宮崎清文、条解道路交通法、立花書房、1961(昭和36年)
そもそもなぜ0.75mとしているかというと、法10条1項でいう「歩行者等の通行に十分な幅員を有する路側帯」とは0.75m以上だとしており(「道路交通法の一部を改正する法律」、警察庁交通企画課、月刊交通、1971年8月、東京法令出版)、0.75mの根拠は人間1人の通行幅を0.75mで計算した道路構造令にある。
つまり0.75m以下の路側帯は「歩行者の通行に十分な余地ではない路側帯」なのだから、左側に歩行者の通行余地を0.75m開ける必要はないという概念なのよ。
この解釈については、YouTubeとか見ていても間違っているものが散見される。
詳しく知りたい人は専門書を複数確認することをオススメします。
車両の駐停車方法は、道路(歩道または路側帯と車道の区別がある道路では、車道)の左側端に沿い、かつ、他の交通の妨害にならないようにすることが原則であるが、車両は、路側帯が設けられている場所において駐車し、または停車するときは、その路側帯に入り、かつ、他の交通の妨害にならないようにしなければならないこととした。ただし、その路側帯が駐車及び停車を禁止することを表示する道路標示によって区画された路側帯または政令で定める路側帯である場合には、路側帯に入ってはならず、原則とおりの方法によって駐車し、または停車しなければならないこととした。
「道路交通法の一部を改正する法律」、警察庁交通企画課、月刊交通、1971年8月、東京法令出版
さて、この規定は令和において維持すべきでしょうか?
立法趣旨と経緯を踏まえてお考えください。
昭和46年に新設したルールと解釈、警察庁の解説を踏まえて、それが令和にもふさわしいのでしょうか?
ちなみに興味深い話も伺ったのですが、どこかの人が法律解釈を間違えるのはいつものことですから…

2011年頃からクロスバイクやロードバイクにはまった男子です。今乗っているのはLOOK765。
ひょんなことから訴訟を経験し(本人訴訟)、法律の勉強をする中で道路交通法にやたら詳しくなりました。なので自転車と関係がない道路交通法の解説もしています。なるべく判例や解説書などの見解を取り上げるようにしてます。
現在はちょっと体調不良につき、自転車はお休み中。本当は輪行が好きなのですが。ロードバイクのみならずツーリングバイクにも興味あり。
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