今回取り上げるのは、こちらの「民事責任」についてです。
発表によると、昨年9月3日午後3時30分頃、同市安曇川町の片側1車線の県道で、南進していた51歳の男の乗用車を、60歳の男が運転する軽乗用車が追い越そうとしたところ、51歳の男が加速。
2台は通行を妨害するために著しく接近するなどして並走した後、互いにハンドルを切って車を衝突させ、弾みで近くのガードパイプに突っ込んだ60歳の男の軽乗用車に同乗していた妻(当時55歳)を死亡させるなどした疑い。
軽乗用車が追い越そうとしたところ車が加速・並走して衝突、同乗の妻が死亡…2台の運転手をそれぞれ逮捕…「相手が悪い」「私は被害者」と容疑を否認【読売新聞】 滋賀県高島市の県道で昨年9月、追い越しを巡って車2台が衝突し、女性が死亡した事故があり、県警高島署は14日、それぞれの車を運転していた草津市笠山の会社員の男(60)と、高島市安曇川町の会社員の男(51)を自動車運転死傷
というのも、おかしな解説を繰り返す運転レベル向上委員会が追い越し態様や追突態様の基本過失割合を挙げ、どれに当てはめるかと解説している。
基本過失割合を理解してないとしか。
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基本過失割合を当てはめる事例ではない

追い越し妨害と張り合いのために並走し、著しく接近させてさらに衝突させる…なんて基本過失割合パターンはありませんが、当たり前。
「そんな特異な事故を類型化する必要がない」
そして基本過失割合として設定されているパターンは、このような場合まで想定したものではない。
それこそ外見上は基本過失割合が設定されているパターンでも、基本過失割合を適用しない事例が普通にある。
○優先道路/非優先道路の基本過失割合は「非優先道路90%」のところ、基本過失割合が想定したものではないとして「非優先道路5%」とした判例
民事交通訴訟における過失相殺率の認定基準として公にされている基本過失割合は、各事故において典型的な事案を想定したものであって、特異な事情がある個別の事案についても常に当てはまるというものではない。本件事故についてみると、被告車が法定最高速度を時速54キロメートルも上回る時速約114キロメートルという異常な高速度で走行していたという特異性があり、劣後道路からの左折進行車の運転者においてこのような高速度で直進車が走行していることを認識するのは容易なことではないし、他方、このような高速度で走行する車両の運転者は、周囲の交通の状況に応じた変化に対応し事故を回避することを自ら極めて困難にしているものといえる。そうすると、本件事故は、基本過失割合が当てはまる典型的な事案とはおおよそ言い難く
名古屋地裁 令和4年9月28日
○右直事故の基本過失割合は「右折車85%」のところ、基本過失割合が想定したものではないとして右折車無過失とした事例
交差点内を右折しようとする⾃動⾞(⾃動⼆輪⾞を含む。以下同じ。)の運転者としては,対向直進⾞の有無さえ確認すればよいというものではなく,右折進路先の当該交差点⼜はその直近で道路を横断する歩⾏者の有無などの安全にも特に注意して進⾏しなければならないのであり(道路交通法36条4項参照),夜間においては,発⾒しづらくなる歩⾏者の有無はより慎重に確認されるべきである。また,もとより,交差点内を右折しようとする⾃動⾞の運転者は,その進⾏中,対向道路の状況を常に視認し続けなければならないというものではない。そして,⾃動⾞の運転者にとって,夜間の⾛⾏時に前照灯を点灯させるというのは必ず順守されるべきごく基本的な義務であり,深夜という時間帯であればこれを失念するということも考えにくく,その他この義務を履⾏するのに何らかの⽀障があるとは考え難い。そうすると,深夜,交差点を右折しようとする⾃動⾞の運転者としては,対向直進⾞(⾃動⾞)は前照灯を点灯しているものと信頼してよく無灯⽕で進⾏してくる対向直進⾞(⾃動⾞)があり得ることまで予⾒すべき義務はないものと解される。
東京地裁 令和元年6月25日
原告らは,本件事故当時の原告⼆輪⾞の速度が解明され,特定されなければ被告P5の無過失が⽴証されたことにはならないと主張する。しかしながら,本件訴訟において,原告⼆輪⾞の速度は,本件事故の発⽣につき被告P5に過失があったか否かの評価を基礎付ける事実の⼀つというにすぎないものであるから,その評価を⾏うのに必要な程度の具体性が保たれていれば,概括的な認定であってもそれで⼗分というべきである。上記で判⽰したとおり,証拠によれば,衝突前の原告⼆輪⾞の速度が時速30〜40kmといったものではなく,これを⼤きく上回る速度であったことについて合理的な疑いを差し挟まない程度に⽴証されたと認められるところ,このような原告⼆輪⾞の速度を前提とすれば,その他の証拠から認められる原告⼆輪⾞が無灯⽕であったことや,本件交差点の中央付近からの北側道路への視認状況,衝突までの被告⾞の速度等の本件事故に関する具体的な事実に照らし,被告P5は,原告⼆輪⾞が衝突地点まで30m前後の距離に迫った時点では未だ同⾞を認識することができず,これより間近にまで迫った時点では同⾞との衝突を回避し得なかったと優に判断できるのであるから,第1,第2事件原告らの上記主張は採⽤できない。その他,上記の判断に反する第1,第2事件原告らの主張は,いずれも採⽤することができない。
東京地裁 令和元年6月25日
○同様の事例
乙ア第1ないし第12号証、原告及び被告両名各本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨によれば、被告Xは、本件事故の際、本件二輪車の後部に原告を同乗させ、夜間、前照灯のない右車両を時速6、70キロメートルの高速で走行させ、玉野市(南西)方向から岡山市街(北東)方向に向けて現場交差点にさしかかつたが、手前で、本件普通車が対向してくるのを同車の前照灯によつて発見し、同車が右折のウインカーを点滅させて、交差点を右折しようとしているのを認めたのに、現場が暗く自車が無灯火であるから、同車が自車を発見できないかも知れないなどとはつゆ考えもせず、自車が直進車で優先権があり、対向する本件普通車の運転者が自車を発見して道を譲るべきであるとの身勝手かつ無鉄砲な判断の下に、同車の動静を注視することなく、僅かにエンジンブレーキを効かせて時速約55キロメートルで交差点内に自車を進入させた結果、本件二輪車に気付かず右折を開始した本件普通車の右前部に、自車の右前側部を衝突させ、自車を転倒させたことが認められ
(中略)
右認定事実及び前記二2認定事実(被告Xの本件事故の際における運転状況及び過失内容)を対比し、走行中の車両から夜間の暗がりを対向高速走行してくる車両を発見することは極めて困難であるのに対し、対向車が前照灯を点灯照射していればその発見は極めて容易であることからすると、無灯火で高速走行してきた本件二輪車を発見できず右折を開始した被告Yの運転行為に落ち度は認め難いのに対し、敢えて危険を省みず無灯火による高速走行に及び、対向右折中の本件普通車を発見しながら身勝手かつ無鉄砲な判断に頼り、同車に対する動静注視を欠いていわば交差点に突入し、事故惹起に至つた被告Xの運転行為はもはや無法無謀の極みというほかなく、その過失はまことに重大であるから、本件事故は、被告Xの一方的過失によるものと認めるのが相当である。
なお、乙ア第9号証によれば、捜査段階の被告Yの供述中には、「この事故を起こした原因は、私が前方に対する注意が不足していたことです。私は右折するため、交差点の右方向を見ていたと思います」などと、事故の過失を自認するかのごとき部分が存するが、同被告は、右供述部分に続けて、「私が前方に対する注意が足りなかつた理由は、当時対向車線から進んでくる車が全く見えなかつたからです・・・私は、無灯火のオートバイが接近していたとは全く予測していませんでした」と述べており、要するに、無灯火の車両を予測しないで、これを発見できなかつたことを注意不足とするものであるが、通常、自動車運転手は、夜間暗がりの国道を交差点に無灯火で高速突入してくる車両の存在を予測すべき義務はないものというべきであり、また、前方を見ていれば時速6、70キロメートルないしエンジンブレーキ作動後の時速55キロメートルで対向進行してくる自動二輪車を発見できたという証拠もない(仮に、静止してじつと目を凝らしていれば発見できるかも知れないとしても、通りすがりの走行中の運転者に、夜間無灯火による高速走行といつた自他の生命財産を顧みない極度に危険な運転行為に及ぶ徒輩の存在を常に予測して、かくのごとき過酷かつ絶対的な注意義務を課することは明らかに不当である)ことからしても、右過失自認の供述部分は、衝突という結果から敢えて注意不足をこじつけた捜査官の誘導に応じたにすぎない疑いが濃く、これをもつて、被告Yに過失ありとすることはできない。
また、乙ア第5号証、第9ないし第12号証、原告及び被告両名各本人尋問の結果によれば、被告Yは、本件事故当時、たまたま本件普通車の前照灯を下向きにしており、右折に際し、交差点内のいささか手前部分を進行するいわゆる早回りの方法をとつていたこと、右事故直後、転倒している原告らに対し、被告Yが「すいません、すいません」などと言い、泣いていたことが認められるが、前照灯を下向きにしていたことについては、これが注意義務違反又は過失にあたるとはいい難く(そういうためには、夜間暗がりの交差点を右折する車両の運転手は、無灯火で対向高速直進してくるかもしれない危険車両を発見し、その車両の運転者の生命身体を保護するために、常に前照灯を上向きに照射しなければならない義務を負うとしなければならないが、もちろんそのような義務までをも負ういわれはない)、多少の早回りについても、周囲に全く車両の存在を認識し得なかつた状況下においては、これを過失として評価することはできないところであり、さらに、右事故直後の被告Yの言動についても、思わぬ事故に巻き込まれて気も動転した善良な女性が思わず示したごく自然な態度にすぎないものというべきであり、これをもつて被告Yの過失の証左とすることもできない。
ところで、調査嘱託の結果(自動車保険料立査定会岡山調査事務所宛)によれば、同調査事務所では、本件事故について、「新判例タイムスを準用し、過失修正を適用しても被告Yの車両の有責は免れない」との見解を有していることが認められるけれども、前記認定の本件事故状況及び被告Xの過失内容に照らし、右見解は当裁判所の採用しないところである。
ちなみに、右「新判例タイムス」なるものは、おそらく別冊判例タイムズ第1号民事交通訴訟における過失相殺率等の認定基準1991年全訂版を指すものと目されるが、右は、故意に危険行為に及ぶようなことのない通常の運転者による通常の過失、重過失を勘案して、その利害の調整と損害の公平な分担をはかるための一応の基準としては意味があるものといえても、本件事故のように、一方当事者が、無免許で夜間無灯火による車両を高速走行させるなどという自他の身体生命財産の安全を顧みない極度に危険かつ反社会的挑戦的な故意行動をとつており、その危険性が当然のように現実化したにすぎない形態の事故の場合には、右基準の予想する前提を根本から欠いているものというべきであり、本件事故にも、型どおり右基準を当てはめようとするのは正当ではない。もっとも、本件事故について、右基準を適用するとしても、被告Xの過失内容を正当に評価するならば、本判決と同様の結果を得られるものと解され、被告Yを有責とした調査事務所の判断には直ちに与し難く、同被告を有責とすることは容認できない。
そのほか、甲第9号証の2によれば、被告Yは、岡山簡易裁判所に対し、原告を相手に、本件事故後、弁護士を代理人を立てて、本件事故の損害賠償についてしかるべき調停を求める旨の申立をし、その際、過失割合を、同被告2割、原告8割とするかのごとき提案をしたことが認められるが、弁論の全趣旨によれば、右過失割合は、同被告代理人が事態の円満解決のためにとりあえず意見として述べた(前記判例タイムズの基準に対する理解不足に引きずられた疑いもある)ものにすぎず、右調停は結局不調に終わつたことが認められ、右のように交渉過程において妥協のための一定の提案をしたからといつて、直ちに同被告に過失責任が発生するいわれもない。
被告Y運転の本件普通車の構造上の欠陥又は機能の障害が本件事故と因果関係を有することをうかがわせるような事実も認められない。
従つて、被告Yは、自賠法3条但書により、本件事故の賠償責任を負わないものというべきである。
岡山地裁 平成5年10月26日
実務では、必ず基本過失割合を適用するという発想がない。
基本過失割合が想定する事故と異なる場合には個別判断する。
並走しながら接近させ衝突させることはどの基本過失割合でも想定外なのは明らかなので、50:50から微調整する程度になるでしょう。
自賠責保険2倍説

もっと意味不明なのは、自賠責保険が2倍になる件。
要するに、同乗者死亡に係る損害賠償で、2台の運転者が共同不法行為で死亡させたのだから、2台の自賠責保険が適用できる。
ここまでは誤りではない。
しかし「弁護士基準」で算定した賠償額5600万が、2台の自賠責保険3000万×2で6000万になるから自賠責保険で全額まかなえる…とはならない。
なぜか?
自賠責保険は弁護士基準よりはるかに低額の「自賠責基準」で算定した賠償額しか支払われない。
弁護士基準で5600万なら、自賠責基準だと3600~4000万程度になると思われる。
通常自賠責保険の適用が1台分のみであれば、死亡に係る保険金の上限は3000万なのだから、算定上3600~4000万でも支払われるのは3000万になる。
つまり600~1000万程度がカットされる。
自賠責保険の適用が2台になれば、自賠責基準の「上限」が6000万になるにしても、自賠責基準の算定額しか支払われないのだから、弁護士基準で算定した5600万が自賠責保険でまかなえるわけがない。
しかもややこしいことに、同乗者を死亡させた当該車両の運転者は「混同」の問題が起きる。

運転者の法定相続分は民法520条「混同」により消滅する(最高裁判所第一小法廷 平成元年4月20日)。
第五百二十条 債権及び債務が同一人に帰属したときは、その債権は、消滅する。ただし、その債権が第三者の権利の目的であるときは、この限りでない。
そうすると結局、自賠責保険が2倍になるメリットはほとんどない。
いつまで支離滅裂な解説を繰り返すのか不思議。
ところで、基本過失割合が適用されなかった事案は過去いくつも挙げてますが、例えばこれもそう。






無過失を証明したときには無過失だと自賠法に規定されているのだから、無過失を証明した場合には基本過失割合を適用することはない。
特異な事情がある事案は、基本過失割合が想定する事故ではないから、基本過失割合は適用されない。
実務ではこれが基本なのに、なぜ基本過失割合に当てはめることを考えるのか謎。
で。
何らかの事故が起きた後に、相手方が強硬に基本過失割合を強調してくることがある。
例えばこれもそう。


青車両(原告)は一時停止後、優先道路に向かい左折。
赤車両(被告)は優先道路(法定速度60キロ)を時速114キロで直進し衝突。
青車両の後部座席に座っていた同乗者が車外に投げ出され死亡した事故です。
なお青車両が第二車線に左折したのは、直後の交差点で右折するため。
問題になるのは過失割合ですが、原告と被告の主張は解釈が対立している。
優先道路に左折するにあたり十分確認してから左折したところに異常な高速度で追突されたような形だから、原告は無過失である。
優先道路と非優先道路の基本過失割合10:90をベースに、時速20キロ以上の速度超過修正「+20%」を適用すれば30:70なのだから、原告の過失は70%である。
実務を知らないままインターネット上の知識だけでみると、被告が主張する「基本過失割合から修正」が正しい考え方で、原告の主張が無理筋であるかのような錯覚をする。
しかしこの事例については原告の主張通り「基本過失割合は適用されない」が正しい。
民事交通訴訟における過失相殺率の認定基準として公にされている基本過失割合は、各事故において典型的な事案を想定したものであって、特異な事情がある個別の事案についても常に当てはまるというものではない。本件事故についてみると、被告車が法定最高速度を時速54キロメートルも上回る時速約114キロメートルという異常な高速度で走行していたという特異性があり、劣後道路からの左折進行車の運転者においてこのような高速度で直進車が走行していることを認識するのは容易なことではないし、他方、このような高速度で走行する車両の運転者は、周囲の交通の状況に応じた変化に対応し事故を回避することを自ら極めて困難にしているものといえる。そうすると、本件事故は、基本過失割合が当てはまる典型的な事案とはおおよそ言い難く
名古屋地裁 令和4年9月28日
必ず基本過失割合を適用するわけではないことを知らないと、相手方の主張が正しいと勘違いしたまま示談してしまったりするのよね…
おかしな解説を繰り返す人は無責任すぎると思う。
2011年頃からクロスバイクやロードバイクにはまった男子です。今乗っているのはLOOK765。
ひょんなことから訴訟を経験し(本人訴訟)、法律の勉強をする中で道路交通法にやたら詳しくなりました。なので自転車と関係がない道路交通法の解説もしています。なるべく判例や解説書などの見解を取り上げるようにしてます。
現在はちょっと体調不良につき、自転車はお休み中。本当は輪行が好きなのですが。ロードバイクのみならずツーリングバイクにも興味あり。



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