昔から自転車が死亡事故を起こすことってあると思うのですが、ここ数年で重過失致死罪を適用する事例が出てきてます。
重過失致死は刑法ですが、似たようなものとして過失致死罪もある。
今回はそんな話。
重過失と過失
重過失致死も過失致死も刑法ですが、このような違いがあります。
第二百十条 過失により人を死亡させた者は、五十万円以下の罰金に処する。
第二百十一条 業務上必要な注意を怠り、よって人を死傷させた者は、五年以下の懲役若しくは禁錮又は百万円以下の罰金に処する。重大な過失により人を死傷させた者も、同様とする。
過失致死では罰金刑しかなく、重過失致死では懲役・禁固刑もあるというのが大きな違い。
過失と重過失の違いがどこにあるのかはなかなか難しいですが、通常の注意義務違反だと過失、結果発生が容易に予見されるような著しい過失を重過失とすることが多いのかと。
裁判上は重過失のほうが立件が難しいわけですが、刑事事件では検察が立証しない限り罪に問えないわけで、ここからが過失、ここからが重過失と一概に言えるものでもないのかと。
ただまあ、被害者感情としてはより重い刑罰を望むことが多いですし、ある種社会的な効果も狙って、自転車事故に対して重過失致死罪を適用したいのかなと思いますが、過去の事例でいうとだいたいは執行猶予が付いてます。
重過失致死罪の例①
これは当サイトでも取り上げたことがあります。

この事故は電動アシスト自転車に乗る大学生が、時速9.3キロで、片手に飲み物、片手にスマホ、左耳にイヤホンという状態で歩行者に突っ込んだ事故。
スマホをしまおうとして脇見運転になったときに歩行者にぶつかったことで起こった事故ですが、重過失致死罪で有罪となっています。
ただし低速だったことや、保険にて賠償される見込みだということで執行猶予付き。
この事故で重過失として認定されているのは、脇見運転状態だったことと、両手が塞がっていたことから危険を察知してもすぐにブレーキングできない状態だったことが重過失に当たると判断されているようです。
脇見であれば何かにぶつかる可能性はあるし、両手が塞がっていれば危険を察知してもブレーキングできない危険状態だったことが、著しい過失となっている。
ちなみに事故現場は【歩行者専用道路】だそうですが、自転車は車道を走るもので歩道にいることが論外というところで立件すると、重過失とは言えない可能性が高まります。
歩道を走ったとしても、前方を注視して徐行し、ブレーキレバーに手を掛けていれば事故が起こる可能性は限りなくゼロに出来ますし。
通行区分違反を追求してもせいぜい過失にしかならないので、重過失と言えるポイントを検察が立証したと言えます。
実態としてですが、歩道でスマホを操作しながらママチャリに乗る人ってかなり多くないですか?
マジで何とかしてほしいところなんですが、事故が起こっていない状況ではたいして取り締まりもされておらず、取り締まりにあっても事実上は刑罰が無いに等しい状況。
それも手伝ってやりたい放題感は出ていると思うので、今後創設される予定の自転車少額違反金制度が早く実施されるべきだと思うのですが・・・

ロード乗りがスマホを使いながら乗ることはほぼ無いと思いますが、強いて言うならサイコンの操作で前方不注意になれば同じこと。

通話を勧める動きもあるっぽいですが、そういうのも規制したほうがいいのでは?と思うのですが。
重過失致死罪の例②
たぶん当サイトでは取り上げた記憶が無いですが、過去にこういう自転車事故がありました。

この事故ですが、自転車は路面状況に気を取られて下を向きながら走行し、イヤホンを装着し赤信号を無視して交差点に進入し、横断歩道を歩いていた女性を死に至らしめたことで重過失致死罪で有罪になってます。
岩田裁判官は判決理由で「高速度で進行し、被害者に気付くのが遅れるなど過失の程度は大きい」と指摘した
https://cyclist.sanspo.com/235037
この事故は重過失致死の容疑で立件されているわけですが、なぜ赤信号無視自体が直接的な重過失になっていないのかという話。
変な話ですが、赤信号を無視したとしても、ちゃんと見ていれば避ける・止まることが可能なので事故は起こらない。
まさか殺意を持って赤信号を無視したわけではないでしょうし。
またこれが仮に低速だったとした場合は、止まることが出来るか、ぶつかったとしても死亡までは至らない可能性もある。
なので【死に至らしめた重大な過失】は何なのか?という点になるわけですが、この加害者は路面の凹凸に気を取られて下を向いて高速度で走行していたために、赤信号を見落として交差点に進入したことが原因となっているようです。
つまりここでいう高速度というのは、前方不注視状態で走るには速すぎる速度という意味かと。
絶対的な速度というよりも、その状況下での速度ですかね。
変な話、赤信号を無視する自転車なんてたくさんいるわけですが、そのすべてで死亡事故が起こっているわけではない。
赤信号を無視したとしても、前方注視義務を果たし、減速して様子を見ていれば死亡事故にはなっていない可能性が高い。
というよりもちゃんと前を見ていれば信号の存在に気が付いて停止していた可能性もある。
例えばこういうの。
ガッツリ赤信号を無視していますが、かなり減速して左右を確認してから信号無視しています。
こういう書き方はしたくないですが、【最低限の安全確認を行った上で赤信号無視した】と言えます。
赤信号無視したことが死に至らしめた直接的な重過失とはならないわけなんですよね。
まあ、左右確認してから信号無視とか、バカなんじゃないかと思うのですが。
そうすると、死亡に至らしめた重過失が何なのかというと、前をちゃんと見ないで減速もしていなかったことになる。
前を見ないでそれなりの速度で走っていれば、何かにぶつかる可能性は容易に予見できるよね、というところが重過失になるわけです。
信号無視については、故意なのか過失なのか?というところで判断も分かれる。
ちなみに重過失致死の重過失は、死に至らしめた原因となる重過失を指すので、交通違反の故意・過失の話ではありません。
故意に信号無視したというなら、それ自体が【死亡事故が起こる可能性を容易に予見できる状態だったにもかかわらず、故意に信号を無視した】という結論になる可能性もあるわけですが、信号無視自体が故意なのか愛なのか見落としなのか、立証することも難しい。
刑事事件は立証できないものについては被告人の利益に(疑わしきは被告人の利益に)という原則があるわけで、重過失致死として判断する上では、【下を向いて前を見ずに信号を見落とし、かつ高速度で交差点に進入したこと】が死亡事故を起こした重過失となるわけです。
信号を守れば事故は起きていないとも言えますが、そもそも信号無視に至った原因は何なのか?というところなんですよね。
前を見てない状態なのに速度が高ければ、そりゃ信号を見落とす可能性もあるし何かにぶつかる可能性も高いし危険だよね、というシンプルな判決。
前を見ていれば信号に気が付くか、横断歩道上の被害者に気が付く。
そして速度が遅ければ気が付く⇒停止できる可能性もある。
犯罪の立証ってなかなか難しいですね。
ちなみにイヤホンの装着自体は重過失には認定されていないようです。
さらにいうと、裁判って当事者主義、弁論主義が採用されているので、検察が主張していない内容を判決に加えることは出来ません。
赤信号無視だけでは重過失致死に問えないという判断なんでしょう。
これも有罪判決ですが、執行猶予が付いています。
重過失致死罪の例③
これも当サイトで取り上げた記憶が無いですが、無灯火+スマホを見ながら両耳イヤホンで死亡事故を起こした大学生に対し、重過失致死で書類送検となっています。
この件は家裁送致になっているためその後は不明ですが、無灯火で前方視野が著しく悪い+スマホを見ているのでそもそも前が見えていないことが重過失に当たると判断されたんでしょう。
酷いケースだとスマホでゲームしながら自転車に乗ってますから、スゲーなと驚くばかりです。
他人を傷つける恐れがあるのももちろんのこと、自分の命すら危うい運転だと思うのですが・・・
重過失致死罪の例④
こちらの件も重過失致死で有罪ですが、執行猶予付き判決となっているようです。

この件の報道はよくわかりませんが、被告の主張は【サイクリング自転車は下を向いているので斜め上の信号なんか見えなくても仕方ない】ということだそうですが・・・この話をそのまま読むとすると、故意に信号無視したわけではなく、前方不注視によって歩行者を死に至らしめたというところが重過失なのかもしれません。
まあ、まともなロード乗りならこんな主張するとは思えませんが・・・
このブログにも書いてありますが、被害者家族が判決に不服だとして控訴を望んでも、刑事事件は主体が検察になるので、執行猶予を覆せそうな要素が無い限りは控訴してくれません。
民事であれば被害者家族が原告なので、自由意思で控訴できますが・・・
厳罰化を
重過失致死を適用する事例は増えているわけですが、実態としては執行猶予がつくケースも多いのが実態。
実名報道されるとか、大学を退学処分になるとか、前科が付くとか社会的制裁はあるとはいえ、被害者感情に寄り添っているとは言えないのかなと。
ロードバイクでも、サイコンとか、ハンドルに付けたスマホを注視したまま事故を起こせば、重過失致死傷に問われる可能性は当然あります。
近年、高速道路に自転車が進入する報道が増えていますが、原因の一つにスマホのナビアプリがあります。

個人的にはそんなもんに頼らずに、道路標識をみて判断しろと言いたいところですが、ロード乗りでも使用者は多いですよね。
うまく使えばいいものでも、注視していれば害にもなりうる。
それもあってあんまりオススメしていません。
とりあえず言えるのは、普通に前を見て、ブレーキレバーに手を掛けて、ライトを照らすべきところでは照らして、減速すべきポイントで減速していればこのような事故は防げる可能性が高いということです。
当たり前の話ですが。
けど道交法を厳守したから事故を防げるとも限らなくて、結局は譲り合いのマナーに委ねる部分も大きい。

マナーって曖昧な部分なのですが、そもそも道交法自体が曖昧な部分が多いので、どうすれば道交法を厳守したかというところも難しい。
法律解釈ってなかなか難しいですが、立証できないことは証拠にはならないのが通常。
こういう考え方についても、訴訟を経験したから出来るようになった面は大きいですが、なぜそういう判決が出たのか考えるのも勉強になると思います。
単に批判ばかりしているだけでは、何も成長しませんから。
例えばの話ですが、大雨の日に車に乗っていて、ワイパーが故障して前方視野がほぼなくなったとします。
故障の瞬間、赤信号を見落として交差点に入ってしまえば、故意ではないものの信号無視が成立する。
それによって事故が起きた場合、信号無視が過失になるわけではなくて故障と同時に必要な停止操作を怠ったことが原因となると思いますが、それと似たような話ですね。
まずは軽微な違反からガンガン取り締まることが必要だと思うので、少額違反金制度には期待してます。
スマホ使いながら乗るとか、信号無視とかガンガン取り締まって違反金徴収するのが事故防止になるのかもしれません。
とりあえず安全運転でどうぞ。

2011年頃からクロスバイクやロードバイクにはまった男子です。今乗っているのはLOOK765。
ひょんなことから訴訟を経験し(本人訴訟)、法律の勉強をする中で道路交通法にやたら詳しくなりました。なので自転車と関係がない道路交通法の解説もしています。なるべく判例や解説書などの見解を取り上げるようにしてます。
現在はちょっと体調不良につき、自転車はお休み中。本当は輪行が好きなのですが。ロードバイクのみならずツーリングバイクにも興味あり。
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