ちょっと前に書いた記事について、質問を頂いたのですが。


参考までに聞かせていただきたく。
このネタ、なんか荒れそうなのでアレなんですが。
理由
この件ですよね。
判例を見る限り、路側帯通行の自転車だからと言って特別な保護があるわけでもないし、自転車も車両である以上は一定の注意義務もあるし、ロードバイクは一般のママチャリよりも過失が加重されやすい傾向にあることを踏まえると、裁判官によっては5%程度は過失を付けるんじゃないかと思ったりしますが、争っても0:100が濃厚な案件で保険会社が示談に応じないということも想定しづらい。
なので0:100が基本線。
歩行者同様の保護となると、降りて歩いているか、歩行者同然の速度である場合に限られてくると思う。
どちらにせよ、車の合図不履行と路側帯一時停止義務違反のほうが重過失になるので、保険会社は吹っ掛けてくるでしょうけど最後は折れるかと。
「もらい事故はもらいに行く人がいるから起こる」このような意見を言っている方がいらっしゃったので。うーん、そうなのか??もらい事故もらい事故というのは一般に、過失割合が0:100になる事案を指します。例えばですが、信号待ちで停車中に後方から追突されるとか、歩道を歩いていたら車が突っ込んで...
まずそもそも論なんですが、ここを理解してないと話にならない。
民事での過失割合というのは、道交法違反を争っているだけではないということ。
民事で損害賠償請求をする際は、民法709条に基づいて請求します。
故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。
ここでいう「過失」って、要は注意義務違反とか、通常予見されることに対しての回避義務違反を意味します。
民事での判例を見れば理解できると思うけど、法律上は問題ないけど、一般的に考えてよろしくないみたいなところを過失にしている判例ってそこそこあるんですよ。
例えばコレとかも。
交通事故の民事裁判ですが、事故現場は片側2車線道路で、第1車線をトラックが通行していて、第2車線を原付が通行していた。
この状態でほぼ並走状態。
そしてトラックが第2車線に進路変更した際に、第2車線にいた原付を見落としていたことで起こった事故というわけです。
本件事故現場は道路左側が2車線になっており、そのうち、少なくとも事故直前の時点にあっては、道路中央線から遠い車線、即ち道路左側から数えて1番目の車線(以下便宜「第1車線」という)上を被告のトラックが、道路中央線に近い車線、即ち道路左側から数えて2番目の車線(以下便宜「第2車線」という)の梢第1車線寄りの部分を原告が、いずれも同一方向に、殆ど近接した状態で併進したこと、被告は第1車線上の他車輛を追越すため後方を確認したが、その確認状態が杜撰で不十分であったため原告に気付かず、事故現場直前約13.8mの地点で第2車線に進路変更のための方向指示器を挙げて追越にかかり車体が約半分第2車線に出たところで直進してきた原告に接触したこと、しかし右の第1、第2車線は道路交通法第20条所定の車両通行帯ではないこと、即ち、右両車線の中央を仕切る境界線は道路標識、区画線及び道路標示に関する命令別表第四(区画線の様式)(102)所定の車線境界線であって、道路管理者である建設省において便宜表示した記号にすぎず、之と若干まぎらわしい記号ではあるが、同命令別表第六(道路標示の様式)(109)1(1)所定の、公安委員会が危険防止のため設定表示した車両通行帯境界線ではないこと
福岡地裁小倉支部 昭和48年1月19日
これの判決ですが、原告である原付運転者に2割の過失を付けています。
その理由がコレ。
各種車両の交通頻繁な箇所では、最高速度時速30キロメートルの原動機付自転車は、同法18条の立法趣旨を尊重し、軽車両同様できるだけ第一車線上の道路左側端を通行して事故の発生を未然に防止すべきである。
昭和48年1月19日 福岡地裁小倉支部
車両通行帯ではない片側2車線道路ですが、原付は18条1項に基づいて左寄り通行義務がある(罰則は無い)。
この場合、第2車線を通行していた原付は18条1項の違反とまでは言えない、と判決文でも書いてあるのですが、立法趣旨から考えれば速度が30キロしか出ない原付は立法趣旨に則り、軽車両同様に左端を走るべき注意義務があったとのことで2割の過失をつけてます。
あと先日書いた判例も。

主に過失をつけているポイントは進路変更禁止違反ですが、車両通行帯だからといっても自転車は常に車に追い越されることを考えれば、左端に寄って通行すべきものだとしている。
前から何度も書いてますが、民事の判例って道交法違反を争っているわけではないので、

ちょっと安易かなと。
判例とかあまり見ていない人であれば理解しがたいかもしれないけど、要は民事って予見できることについては回避しないと過失になります。
道交法上で許されていても、民事ではダメ出しされることはある。
これを踏まえて。
あの動画、基本は先行車の合図不履行(53条1項、3項)と路側帯一時停止義務違反(17条1項)が重過失なので、基本線は0:100。
ただあえて民事で事故った場合を想定すると、そこそこツッコミどころはあるんです。
主に2点、かな。
・左追越し
・路側帯速度
まず動画が削除されてますが、ネットで探すと出てくるのでテキトーに探してください。
一応あれって、車道から路側帯に進入しているわけですよ。
追越しの定義はこれ。

4つの要件が成立して初めて追越しになるとされます。
条文 | 意味 | |
1 | 他の車両等に追い付いた場合 | 法26条の車間距離まで迫ること |
2 | 進路を変えて | 進行方向に対し鋭角をつけることで、左折と右折を除くもの |
3 | 車両等の側方を通過 | 横を通る |
4 | 当該車両等の前方に出る | 同一道路上で前に出ること全部 |
追いつくというのは26条の車間距離まで迫った状態ですが、進行方向に向かって前後の車体が一部でも重なることを条件とします。
※過去の画像を流用するので、前後関係は逆です。
映像を見ると、先行車と自転車は進行方向に向かって重なった位置にいて、追い付いてから進路を路側帯に変更したと取れる。
で、追越しのルール(28条)って基本は車道のルールなんですが、オートバイとか原付が路側帯から左追越しした場合、そもそも通行できないので通行区分違反になる。
けど自転車は路側帯を通行できるわけで、路側帯を使って「追越し」をすることが28条に抵触するかどうかはまあまあ疑問として、民事では刑事罰を争っているわけではない。
いくつか判例を見ると(民事)、路側帯から追越ししたオートバイに通行区分違反と左追越し違反としている判例もあったりするので、民事上ではそれを追及することは可能。
左追越しが違反かどうかという点で攻めるよりも、「28条で追越しは右側からと定められている以上、路側帯から追越しする自転車が明確に違反かどうかはさておき、車両である自転車も通常とは異なる左方向から追越す以上は、追越す側が側方間隔を空ける等相応の注意義務は負うべき」みたいな主張は出来る。
それを裁判官がどう判断するかは別問題。
2点目。
路側帯を通行する自転車には、歩道と違って徐行義務はありません。
第十七条の二 軽車両は、前条第一項の規定にかかわらず、著しく歩行者の通行を妨げることとなる場合を除き、道路の左側部分に設けられた路側帯(軽車両の通行を禁止することを表示する道路標示によつて区画されたものを除く。)を通行することができる。
2 前項の場合において、軽車両は、歩行者の通行を妨げないような速度と方法で進行しなければならない。
これも刑罰規定としては、歩行者の通行を妨げない限り違反にはなりませんが(そもそも取り締まりしているようにも思えない)、だからといって歩行者が目に見える範囲にいないときに、ロードバイクで時速30キロ以上で走ることは問題ないのか?という疑問はある。
民事での判例を見ていると、ロードバイクのようにスピードが出る自転車って、時速30キロ以上だとママチャリよりも過失が大きくなる傾向にあります。
実際にどの程度の速度なのかは不明ですが、一般的見地からしても路側帯でロードバイクがかっ飛ばすということを想定している規定とは思えず、「歩行者の通行を妨げないような速度と方法」なのか?というところはツッコミの余地がある。
路側帯は歩行者の交通の用に供する場所(2条1項3号の4)と定義されていることから見ても、急に道路外や小道などから歩行者が現れた場合に備えて、すぐに徐行などに移行できる速度を求めていると解釈する余地もあるので、ロードバイクがあのような速度で走ること自体が過失だという主張は可能なわけです。
ただね、結局のところ先行車の合図不履行と一時停止義務違反のほうが重過失なわけで、基本線は0:100。
こういうのって仮に事故になってしまった場合、保険会社は10:90から示談交渉始めると思います。
それに対して自転車側は0:100を主張していくわけですが、裁判しても過失相殺が認められない可能性もあるし、仮に過失相殺を認めても5-10%程度にしかならないだろうと予測されることを考えると、保険会社も下手に裁判に持ち込まれるよりも素直に100%で払ったほうが安い。
弁護士立てたり余計な経費が掛かる上に、敗戦濃厚なことには間違いないので。
なので仮に訴訟まで行った場合には、裁判官次第では5%程度認める可能性はあるけど、そもそも裁判に行くことが無い事例なのであんまり関係ないとも言えます。
道交法上で刑罰規定に抵触しない行動なら何でも許されているのか?というと、刑事としては認められている。
民事では責任を負う可能性はある。
たぶんここを理解していない人が多いのかと。
以前、自転車に対して27条の適用がどうのこうのの判例を挙げましたが、

これ、なんで1審では35:65なのかその理由を見たいのですが、サッパリ見つかりませんw
控訴審では10:90に変更されているので自転車側の主張が功を奏したとも言えますが、民事って争っている内容が道交法違反とは限らない。
ちなみに信頼の原則がどうのこうのというのもありますが、信頼の原則というのは刑事事件で働く法理で、民事でも多少は働きますがそこまで強くはありません。
違反が無ければ0:100というわけではないケース、いくらでもあるんだよなぁ。
これもそうか。

対向右折車が動いていたのか止まっていたのかは争いがあったものの、車の後ろで隠れて見えなかったオートバイに、18条1項に基づくキープレフト違反による過失をつけてます。
左側端1.5m空けていたことが事故の原因でもあると。
普通、左側端1.5m空けているオートバイなんてザラにいると思うけど、違反ではないけど過失にはなりうる。
原告車両から見て衝突位置の左側に、車線の半分以上である少なくとも1.5m以上のスペースを残して直進進行してきたものであるから、左側寄り通行義務(道路交通法18条1項)に違反した過失もあるというべきであり、このことが本件事故発生の一原因になっていることは否定し難い。
東京地裁 平成19年1月21日
左側端1.5m空けているオートバイなんて一般的レベルからすれば違反とは言い難いというか、そもそも罰則もない規定ですが(笑)、刑事で処罰対象にならないことでも民事では過失になる。
ロードバイクの場合、時速30キロ以上で走行中に事故に遭うと、原付と同等の注意義務を課すケースもあるくらいなので、違反が無いから過失はゼロと考えるのは判例とか見てないんだろうなと。
ただまあ、冒頭のケースでは基本線は0:100。
あとは裁判官次第。
法律を理解する
道路交通法に抵触しなければそれでいい、みたいな考えの人もいらっしゃるようですが、刑罰規定に引っ掛からないというだけのことで、民事での責任はまた別です。
それこそ、隣の車線から突如ミサイルのごとく車線変更してきた判例でも、過失ゼロになってませんから。
80:20です。
判決文でも、原付は違反とは言えないけど注意義務があるとしてます。
注意義務と回避義務は普通にある。
それがどの程度なのか?という話。
ただまあ、あえて書こうと思うのですが、私としては基本分けて考えてます。
自分が怪我したくないので、避けられる可能性があることは避けるし、避けようが無いことについては当然避けられない。
こういうのも避けようがない事故ですね。
これを故意だと思う人はいないでしょうけど、トンネル出口に近づいてきてホワイトアウト的な状況で見逃したのかなと。
刑罰としては、当然ですが車のドライバーは過失運転致死傷罪に問われ、自転車側が刑罰規定に触れる要素はない。
刑罰に掛かることは警察に任せるしかない。
怪我をしたくないと思う人は、こういう避けようがない事態にどうするか?と頭を使う。
リアライトを複数付ければ、後続車の発見可能性が上がるのかなとか、そもそも信用しがたいからトンネルは避けるとか。
車が悪いということは見りゃ分かっているので、その先を見据えている。
人間、絶対に間違いを犯さないなんてことは無いので、想定される程度の間違いは予見して考えておくのが人間の知恵。
違反事実は私人が裁く権利なんて無いので、警察に通報してあとは任せるしかないですから。
法律上、トンネル内であっても反射板さえ付いていれば違反ではないけど、その上の安全性を求めるかどうかの話であって、誰が悪いのかなんてことは見りゃ分かるんだよね。
その先の話をしているので。
けどまあ、「違反が無いから過失はゼロ」という考えであれば、もうちょっと判例とか見たほうがいいと思う。
道交法違反にならないことでも、注意義務違反となっていることなんて普通にあるので。
こういうのは勉強不足の結果なのか、法律構造を理解していないのかわかりませんが、数々の民事での不思議な判例は多々挙げてきたつもりです。
それこそ生活道路で逆走自転車と衝突した場合、基本過失は50:50ですが、順走側に事故回避義務はあるものの程度問題でいえば逆走のほうが悪い。
けど過失はつく。
以前挙げた逆走自転車との衝突事故の判例なんて、順走側に100%の過失となってますが、あれにしても逆走事実を追求したとしても、せいぜい10%とか20%程度しか変わらないと思われ。

何で逆走側の過失が少なくなるかというと、先に停止して事故回避義務を果たしているから。
道交法がどうのこうのではないんだよね。
民法709条の過失が道交法違反のことを指す、なんて法律はどこにもないので。
なぜこういう判決が出るのか?というところに目を向けるといいですよ、という意味で挙げてますが、適切な主張が出来なかったとしても全部自己責任。
個人的には争っても無駄なことに時間を費やすことはしません。
これは自分なりに調べて、そこを争うことに意味が無いと判断しているから。
貴重な時間を費やすのであれば無駄なことはしない。
どうでもいいことですが、私自身は誰から不法行為をされたとしても、きちんと謝罪され損害に対して賠償されれば水に流すタイプです。
そういえば昔交通事故に遭った日、その日の夜は加害者の車に乗せてもらって帰宅しましたw
深い反省を見せていたので、それはそれで受け入れた。
最高裁で判決が出た数日後、役所から電話が来て謝罪されましたが、お互いの健闘を称えはしませんでしたが(笑)、結果が出て謝罪された以上はそれ以上を求めませんし。
若干皮肉は言ったかもしれません。
何せこの件で担当部署の課長さんが左遷されたことを知っているので。
これから大変ですねwと言ってあげたような気がしますが、そのあたりは持ち前の性格の悪さを発揮しただけなので大きな問題ではない。
これもいくつかのマスコミが嗅ぎつけて取材させてくれと言ってきましたが、嫌な予感しかしなかったので全部断りました。
行政の悪を追求したいのではなくて、自分の利益さえ確保されるならそれ以上は求めませんので。
以前、原付ババアにクラクション連打されたときもそうですが、

何が正しくて何が間違いなのかをハッキリさせたなら、それ以上求めませんし。
まさかこういうので、精神的苦痛による慰謝料ガー!なんてバカなことを言いだすつもりもない。
そんなもんは発生していませんから。
けど、わざわざ相手方の会社を調べて、慰謝料を払えというような人もいるらしいし、もうちょっと勉強したら?と思う。
どうでもいい話ですが、対向右折車に進路を譲って先に行かせた場合、
直進待ちの車両の左側から、2輪車が飛び出てきてサンキュー事故が増えると説明する人もいます。
それは道交法上、飛び出てくる奴にも責任があるので、
第三十六条
4 車両等は、交差点に入ろうとし、及び交差点内を通行するときは、当該交差点の状況に応じ、交差道路を通行する車両等、反対方向から進行してきて右折する車両等及び当該交差点又はその直近で道路を横断する歩行者に特に注意し、かつ、できる限り安全な速度と方法で進行しなければならない。
注意義務を果たさない奴にも責任は当然ある。
こんなの自己防衛でもあるし、道交法上の注意義務でもある。
左からすり抜けて交差点に入ること自体が違反ではないけど「交差点の状況に応じて」「反対方向から進行してくる右折車に注意し」「できる限り安全な速度と方法」で突っ込む義務がある。
何も考えずに突っ込めばそりゃ事故るわ。
そういや以前、弁護士立てたと言っていた人がいた気がしますが、一体いつになったら提訴されるんですかね?
楽しみに待っているのに・・・
まさかいい大人が嘘をつくわけもないので、もうそろそろなんですかね?

2011年頃からクロスバイクやロードバイクにはまった男子です。今乗っているのはLOOK765。
ひょんなことから訴訟を経験し(本人訴訟)、法律の勉強をする中で道路交通法にやたら詳しくなりました。なので自転車と関係がない道路交通法の解説もしています。なるべく判例や解説書などの見解を取り上げるようにしてます。
現在はちょっと体調不良につき、自転車はお休み中。本当は輪行が好きなのですが。ロードバイクのみならずツーリングバイクにも興味あり。
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